機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……これ、なに」
ミーが、施設の廊下で拾い上げた小さな球体を、あたしに見せた。手のひらサイズの、丸っこいロボットだ。目のように光る二つのセンサーが、ぱちぱちと瞬いている。
「うわ、可愛い。……誰かの忘れ物かな」
「……わからない。動いてる」
球体は、ミーの手の中で、くるんと一回転すると、ぴょこんと飛び跳ねた。
「わっ……喋った……?」
『……ふぇぶり、ふぇぶり』
舌足らずな電子音声が、球体から響く。
「フェブリ……? それが名前なの」
『ふぇぶり、なかま、さがしてる』
「仲間……?」
あたしとミーは、顔を見合わせた。ミリィに解析を頼むと、思いがけない答えが返ってきた。
『これ、旧式の観測支援ユニットみたいです。……でも、内部構造がかなり特殊で。感応波の記録を、蓄積するための機能が備わっています』
「感応波の記録……? 誰が作ったの」
『製造記号を辿ると……ローレン・ナカモトの研究拠点の一つに行き着きました。……おそらく、レディオノイズ計画の副産物として作られた、試作機の一つかと』
その名前を聞いて、あたしは身構えた。
「……まだ、ローレンの残したものが、あちこちに残ってるんだ」
『はい。ただ、このフェブリ自体に、悪意のあるプログラムは見当たりません。……むしろ、迷子になった小動物みたいな、単純な行動パターンです』
『ふぇぶり、こわくない、なかよし』
フェブリが、ミーの手のひらの上で、嬉しそうに跳ねた。ミーの表情が、わずかに緩む。
「……可愛い」
「ミー、気に入ったの?」
「……うん。世話、したい」
こうして、フェブリは施設の新しいマスコットとして、子どもたちに可愛がられることになった。ナナをはじめ、他の子たちも、フェブリの周りに集まっては、賑やかに世話を焼いた。
「フェブリ、こっちおいで」
「わたしが先に見つけたの!」
「けんかしないで、順番こだよ」
小さな諍いを、コンスタンス博士が微笑ましそうに見守っていた。
「賑やかになったわね、この施設も」
「はい。……フェブリのおかげで、また少し、みんなの笑顔が増えました」
だが、数日後。フェブリの様子が、急におかしくなった。
『……ふぇぶり、けいしょく、はっけん』
夜、フェブリが突然、警告音のような音を発し始めた。
「……ケイショク? なにそれ」
『プルさん、フェブリの通信ログを解析したところ……何者かが、フェブリを通じて、施設の内部情報を外部に送信しようとした形跡があります』
ミリィの緊張した声が響く。
「……誰が」
『発信元を辿っています……テレスティーナ・ライフラインの残党組織と、思われる痕跡が』
あたしは、フェブリを抱きかかえるミーの表情を見た。まだ幼い彼女は、不安げに瞳を揺らしている。
「……大丈夫。フェブリのせいじゃない。誰かに、利用されそうになっただけ」
「……うん。……でも、フェブリ、悪くない、よね」
「もちろん。フェブリは、あたしたちの味方だよ」
あたしは、ミリィに頼み、フェブリの内部から、不正な通信機能だけを取り除いてもらった。処置が終わると、フェブリは、いつもの元気な様子に戻った。
『……ふぇぶり、げんき、もどった』
「よかった……!」
ミーが、嬉しそうにフェブリを抱きしめる。周りに集まっていた子どもたちも、一斉に歓声を上げた。
「フェブリ、元気になった!」
「もう安心だね!」
だが、あたしの中には、小さな不安が残っていた。
――テレスティーナの残党が、まだこの都市のどこかで、暗躍している。
その事実が、この平和な日常の裏に、静かに影を落としていた。あたしは、フェブリの頭を、そっと撫でながら、心の中で、静かに警戒を新たにしていた。
その夜、あたしはミリィと共に、フェブリの内部構造を、もう少し詳しく調べることにした。
「……見てください、プルさん。この記録領域、まだ解析しきれていない部分があります」
「……何か、隠されてるってこと?」
「かもしれません。ちょっと時間をください」
ミリィが端末を操作し続けると、やがて、古い映像記録が浮かび上がった。粗い解像度の中に、幼い子どもたちが、実験装置に繋がれている様子が映っている。
「……これ」
「レディオノイズ計画の、初期段階の記録みたいです。……フェブリは、この頃から、密かにデータを蓄積し続けていたのかもしれません」
あたしは、画面を見つめながら、拳を握りしめた。
「……この子たちも、助けないと」
「はい。……この記録、イリアさまにも報告しましょう」
翌朝、施設に顔を出すと、ミーが、フェブリを抱えて、あたしを出迎えてくれた。
「姉さん、おはよう。フェブリ、もうすっかり元気」
『ふぇぶり、げんき!』
「うん、よかった。……ミー、フェブリのこと、これからもよろしくね」
「……うん。任せて」
小さな球体が、嬉しそうに跳ね回る。その無邪気な姿を見ていると、昨夜見た重苦しい記録の記憶が、少しだけ和らいだ気がした。