機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
数字は、人を測るものさしになる。そして時々、人を殺す刃にもなる。
宇宙世紀0088年。医療・研究セクター。調整槽から上がったばかりの身体を拭きながら、あたし、エルピー・プルは検査官が読み上げる無機質な数値を聞いていた。
「検体番号001、エルピー・プル。感応波放射強度、極めて良好。バイオ・センサー同調率、前回比4パーセント向上」
白衣の大人たちが、あたしを兵器として品定めしている。今日はパイロット候補生と年少兵全員に義務付けられた、ニュータイプ適性再検査(システムスキャン)の日だ。
——そして、あたしはここで、確信することになる。
検査室の隣、分厚いガラスで仕切られた区画。そこに、無数の調整槽が並んでいた。淡い緑の培養液の中で、眠っている少女たち。……全員、あたしと、同じ顔。
「……あの子たち、が……プル・シリーズ……」
思わずガラスに手を伸ばしたあたしを、検査官が慌てて遮った。
「検体001、こちらを見るな。あれは機密だ」
「機密って……あの子たちは、モノじゃない!あたしと同じ、生きてる——」
「区画外へ。命令だ」
無理やり引き離されるあたしの背中に、ガラス越しの冷たい波長が、いくつも、いくつも、追いすがってくる。『姉さん』『姉さん』『姉さん』——助けを求めるみたいに。あたしは唇を噛んだ。
廊下を出ると、腕の端末が、可愛い呼び出し音を鳴らした。
『プルさん、キャラさん。検査データ、こちらでも受信しました。……相変わらず、お二人とも異常な感応波数値ですね』
画面越しのミリィ・チャイルドは、頭にちょこんと造花の髪飾りをつけた、うちの支部の通信管制の天才。あたしたちの後方支援役だ。
「ミリィ……あたし、見ちゃった。プル・シリーズの、培養槽。何十体も、あったよ……」
『……っ。プルさん、それは——』
その時、廊下の隅で項垂れる少年——メッチャー・ムチャがいた。
「……またカテゴリーF(非適合)か。ジュドーやプル、あんなガキにさえある力が、なぜ俺には無いんだ」
選民思想を掲げるネオ・ジオンで、ニュータイプ能力の有無は、そのまま人間の階級として扱われる。あたしが声をかけると、彼は気まずそうに顔を背け、足早に去っていった。
——そのとき、彼の胸ポケットから、人の悪意が混じった、いやな磁気反応。
「……ねえミリィ。地下で流行ってるっていう擬似感応波拡張プログラム……レベルアッパー。あの噂、本当なの?」
『……調査中です。非合法プログラムで、非能力者の精神を破壊しかねない代物です。……こういうことには、みんな、すごく積極的なんですよ。力が欲しいって気持ちにつけ込む、いちばん質の悪いやり方です』
その瞬間、居住区モールで爆発的な感応波の乱れが発生した。
『プルさん、緊急事態!第4モールで原因不明のサイコミュ干渉、作業用プチMSが暴走!……発信源は、メッチャーさんの所持デバイスです!』
「ミリィ、誘導お願い!キャラ、行くよ!」
「はいっお姉さまぁっ——ジャッジメントですのぉっ!」
「うん、今回は場面合ってる!えらい!」
駆けつけると、メッチャーが非合法なヘッドセットを装着し、目を見開いて震えていた。力への渇望が、プログラムで増幅され、周囲の機械に悪意となって伝播している。
「その醜い欲望、わたくしが解体して差し上げますわっ!」
キャラが暴走MSを抑える間に、あたしは端子パネルへ手を触れた。
「ミリィ、バックアップして」
『了解。プルさんのバイオ・センサーを、私の管制端末経由でデバイスに直結します。……今です!』
あたしの純粋な感応波が、暴走ネットワークへのノイズ・キャンセラーとして叩き込まれる。電子の奔流の中で、あたしはメッチャーの——「誰かに認められたい」という悲痛な叫びに、触れた。
「……大丈夫。そんなものに頼らなくても、あたしが側にいるから」
デバイスの電源回路を焼き切ると、メッチャーは力なくあたしの腕に崩れ落ちた。
「プルさん、メッチャーさんのバイタル安定しました。……良かった」
でも、あたしの心は晴れなかった。メッチャーのデバイスから最後に読み取った座標——それは、地下街の奥、レベルアッパーの“売人”のアジト。そして、そのさらに奥には、あの培養槽と同じ冷たい波長と、もう1つ——ジュドーの妹と同じ、あたたかい波長が、囚われの気配とともに、記録されていたから。
「……ミリィ。レベルアッパーの根っこには、プル・シリーズも、リィ——じゃなくて、攫われた子たちも、みんないる。あたし、放っておけない」
あたしは、眠るメッチャーの頭をそっと撫でた。妹達を、そしてジュドーの妹を救うため、あたしは、あたしのやり方で、この闇に踏み込む。