機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
あの子は、誰かを捜していた。
アクシズの通路で見かけたとき、そう思った。行き先がわからず立ち止まっているのに、目だけは先へ先へと動いている。あたしが近づくと、少年はすぐに振り向いた。
「ねえ、お兄ちゃん。迷ったの?」
「誰がお兄ちゃんだよ」
「だって、そう呼びたくなったんだもん。あたしはプル。あんたは?」
「……ジュドー」
名前を教えてくれたのに、ジュドーはまだ警戒していた。あたしは少し先まで歩いて、振り返る。
「こっち。案内してあげる」
「どこへ?」
「宮殿。ここで人を捜すなら、まず行ってみないと」
ジュドーはすぐには動かなかった。あたしが待っていると、やがて足音が追いついてくる。並んで歩いても、彼は周りから目を離さない。
「何を捜してるか、聞かないのか」
「聞いてほしい?」
「……いや」
「じゃあ、今は聞かない」
それきり、しばらく黙って歩いた。あたしは話すのが好きなのに、このときは無理に言葉を探さなかった。ジュドーが急いでいることだけは、よくわかったから。
宮殿で、ジュドーはハマーンに会った。
二人が向き合った瞬間、あたしには通路の空気が変わったように感じられた。ハマーンはジュドーを見つめる。ジュドーも目をそらさない。何を考えているのか、あたしには全部はわからない。ただ、さっきまで隣を歩いていた少年が、今はずっと遠くにいるみたいだった。
ハマーンは、ジュドーのニュータイプとしての力に目を留めた。
あたしもキュベレイMk-IIに乗る。力を見られることには慣れているつもりだった。でも、ジュドーが見つめられているのを横で見ると、落ち着かない。あの子はまだ、捜している人の名前さえあたしに話していないのに。
「ジュドー」
呼んでも、彼はすぐには振り向かなかった。
やがて宮殿の外が騒がしくなった。人が走り、声が重なる。ジュドーはその隙に宮殿を抜け出す。あたしも後を追った。
「待ってよ、ジュドー!」
振り返った彼の目が、あたしの後ろへ向く。そこにあるキュベレイMk-IIを見て、彼は立ち止まった。
「お前が、あれに乗るのか」
「うん」
「そうか」
たったそれだけの返事だった。怒られると思っていたわけじゃない。それでも、急に何を言えばいいかわからなくなる。あたしはプルで、あの機体のパイロットでもある。どちらか一つだけを知ってほしかったわけじゃないのに。
ジュドーはまた走り出した。追いかけながら、あたしは彼に聞かなかったことを思い出す。捜しているのは誰なのか。どうして一人でここまで来たのか。
次にその名前を聞いたとき、あたしはようやくわかった。
リィナ。ジュドーの妹。
ジュドーはリィナに会うためにアクシズへ来た。自分から捕まるようなことまでして、会いに行こうとしている。閉じ込められたジュドーが抜け出すのを、あたしは手伝った。
「こっちだよ」
「プル、道は合ってるんだろうな」
「合ってる。早く!」
ジュドーが急ぐ理由を、今は知っている。だから手を引いた。彼がリィナに会えたときは、あたしも嬉しいはずだった。
なのに、二人の姿を見た途端、胸の中が苦しくなった。
ジュドーがリィナを呼ぶ。リィナがジュドーを見る。その間にあたしが入る場所はない。そんなふうに思ってしまう自分が嫌で、でも、すぐには離れられなかった。
「プル?」
ジュドーに呼ばれても、素直に返事ができない。
「……あたしがここまで連れてきたのに」
言ってから、違うと思った。手伝ったことと、ジュドーがあたしだけを見ることは別だ。リィナは何も悪くない。それでも、膨らんだ気持ちを止められなかった。
あたしはリィナを連れ、キュベレイMk-IIを動かした。
「プル、リィナを離してくれ!」
ジュドーの声が聞こえる。あたしは返事をしたかった。どうして寂しいのか、自分でもうまく言えないまま、彼にわかってほしかった。
機体を動かせば、ジュドーは追ってくる。そんなことで振り向いてもらって、どうするの。頭のどこかでそう思うのに、操縦桿を握る手が離れない。
「プル!」
もう一度、名前を呼ばれた。
ジュドーはあたしに話しかけ続けた。あたしがキュベレイMk-IIに乗っていることも、リィナを連れていることも知ったうえで、呼んでいる。その声を聞きながら、あたしは自分が何をしているのか、ようやく見ようとした。
アクシズへ来たジュドーには、最初から会いたい人がいた。あたしはそれを知って、一緒に捜す道を選んだはずだった。
やがて、ジュドーを迎えに来た仲間たちの機体が現れた。騒ぎの中、ビーチャとモンドもアクシズを離れる。ジュドーはここから帰っていく。
あたしは、遠ざかるほうを見た。
ハマーンが目を留めたジュドーの力。あたしが乗るキュベレイMk-II。そんなことは互いに知ったのに、あたしはジュドーがどれほどリィナを大切にしているか、わかっていたつもりでわかっていなかった。
「……ジュドー」
今度は、返事を求めずに名前を呼んだ。
また会えたら、まず謝ろう。それから、あたしの話を聞いてくれるか尋ねよう。力のことでも、機体のことでもなく、あたしが言えなかった気持ちを、自分の言葉で。