【祝・原作漫画完結&アニメ4期連動待機中】機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。あたしが一番怖いのは、撃たれることじゃない。
「あたし」が、少しずつ「あたし」じゃなくなっていくことだ。
目を開けると、白い天井だった。
地球の重力が、まだ身体に重い。大気圏で焼けたキュベレイMk-IIの感触だけが、指先に残っている。
「……ここ、どこ」
「お目覚めですのね、お姉さま」
聞き慣れた声に、胸がほどけた。ベッドの脇に、キャラが座っている。
「キャラ! 無事だったんだ。ねえ、ここって」
「ネオ・ジオンの地上拠点ですわ。ハマーンさまのお膝元です」
「そっか。……お腹、すいた」
「まあ! 合成プリンをご用意しておりますの。あーん、して差し上げましょうか」
「自分で食べるってば!」
スプーンを奪って、ひと口。甘い。ちゃんと、あたしの好きな味だ。
頬が、ゆるむ。
ほっとしたのは、そこまでだった。
キャラは笑っている。あたしに抱きつく直前の、いつもの顔で。
でも、目だけが動かない。ガラス玉みたいに、何も映していない。
「……キャラ?」
「どうなさいましたの、お姉さま」
「いつもなら、そこで『ジャッジメントですのっ』って叫ぶじゃん」
「……ジャッジメント、ですの」
棒読みだった。
背中を冷たい指でなぞられたみたいに、ぞわっとした。
――この人、いま、誰かに「言わされて」る。
「勘がいいのね、プル」
扉が開いて、ハマーン・カーンが入ってきた。ネオ・ジオンを束ねる、アクシズの女王。
「キャラには少し協力してもらっているだけよ。再調整を受けた子は、とても素直だから」
「……やめて。その人は、ちゃんと自分の言葉でしゃべれる」
「あら。あなたはどう?」
ハマーンの瞳が、まっすぐあたしを捉えた。
その瞬間、ハマーンの感応波が、あたしの感応波に重なって、頭の中に「声」が滑り込んできた。
『ジュドーは、敵』
あたしの声で。あたしの言い方で。
――違う。
あたしは、ジュドーの手を引いて宮殿まで歩いた。急いでるのに、無理に話さなくていいって、黙って隣にいてくれた、あの子と。
『ジュドーは、敵』
「……っ、勝手に触らないでよ!」
バチッ。
指先から、青白い火花が跳ねた。
「いい反応ね。ニュータイプ同士が触れ合えば、心は混ざるもの。ならば、より強く響いた者が導けばいい」
ハマーンは、少しも慌てない。
「あなたが私の声を『自分の考え』だと思うなら、それはもう、あなたの考えよ」
ハマーンは、あたしの目の高さまで、ゆっくり身をかがめた。
「アクシズの兵は皆、私に従うわ。命令したからではないの。私の声が、いちばん心地いいと感じるからよ」
背筋が寒くなる。強い力で押さえつけられるより、ずっと怖い。
「そんなの、ずるい」
「ずるくて結構。女王とは、そういうものでしょう」
悔しい。
悔しいのに、頭の奥が、ふわりと白くなっていく。
あの子の名前が、遠くなる。
「お姉さま、失礼いたしますの」
キャラの手が、あたしの手首を掴んだ。
力が強い。いつもの「ぎゅー」じゃない。命令を実行するだけの、機械みたいな握り方だった。
「……キャラ、痛い」
「申し訳ありません、お姉さま。ですが、これが命令ですの」
その口が動くたび、キャラの瞳の奥で、何かが泣いている。
あたしには、聞こえた。
『お姉さま、たすけて』
声にならない、ちっちゃな悲鳴。
撃てない。キャラは撃てない。あたしの電撃は、人を傷つけるためのものじゃないから。
だったら。
「ねえ、キャラ。ちょっとだけ、我慢してね」
あたしは、掴まれた手を握り返した。
電気じゃない。感応波を、あたしの全部を、まっすぐ流し込む。
「あたしの声、聞こえる? アクシズで、迷子のあたしを見つけてくれたの、キャラだよね」
「……お、ねえ、さま……」
「毎日お風呂に連れ込もうとして、あたしの写真集を勝手に作って、でも、いつも真っ先に走ってきてくれた」
「……そんな、こと、言わ、ないで」
「だから、戻ってきて」
ぱちん、と音がした。
ハマーンの感応波が、ぷつりと途切れた。あたしの感応波が、磁力みたいに声の通り道を断ち切ったんだ。
キャラの身体から、力が抜ける。
「……お姉、さま……?」
「おかえり、キャラ」
「お姉さまぁぁぁっ! わたくし、変なこと言っておりませんでしたか!? 恥ずかしいことは!?」
「だいじょうぶ。『ジャッジメント』の言い方が、ちょっと下手だったくらい」
「それは一大事ですわ! ジャッジメントですのぉぉっ!」
「それあたしの台詞だってば!」
――よかった。いつもの、キャラだ。
泣きそうになった、その時。
「見事ね」
ハマーンは、わずかに乱れた息を、静かに整えた。
怒っていない。むしろ、楽しそうだった。
「あなたの電磁の力は、私の声さえ切り裂く。……でもね、プル。1人の声を断ち切っても、それで終わりとは限らないのよ」
「どういう、意味」
「あなたの中には、まだ聞こえていない声がある。眠っていた、もう1人のあなたの声が」
ぞわり、と背筋が凍る。
アクシズの研究区。調整槽に眠る、あたしと同じ顔。夜の底で囁いた、あの冷たい声。
『……姉さん』
あの声が、いま、壁の向こうから、はっきり近づいてくる。
規則正しい足音。あたしと、まったく同じ波長。
扉が、ゆっくり開いた。
そこに立っていたのは、あたしと同じ顔をした少女――プルツーだった。
でも、その瞳だけが、決定的に違う。
あたしの瞳が映すのは、誰かの笑顔。
あの子の瞳が映していたのは、冷たい紅と、あたしだけ。
ハマーンの傍らに進み出て、彼女は静かに唇を動かした。
『見つけたよ、姉さん』
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