機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。「あんたは敵」と毎日言われ続けると、本当にそう思えてくる。
それが、いちばん怖い。
ダカールの迎賓館は、シャンデリアの光でまぶしかった。
ネオ・ジオンが占拠した連邦議会の街で、盛大なパーティが開かれている。連邦の偉い人たちと、ネオ・ジオンの士官たち。グラスの触れ合う音が、あちこちで鳴っていた。
あたしは会場の隅っこで、礼装の襟を引っ張っていた。
「……苦しい」
白いパフスリーブの礼装は、可愛いけど動きにくい。
でも、テーブルには色とりどりのケーキが並んでいる。
「……あれ、食べていいのかな」
「ええ、お姉さま。わたくしが毒見をいたしますわ。ジャッジメントですのっ」
「毒見って言って、全部食べるつもりでしょ、キャラ」
「そ、そんなことは……もぐ」
「もう食べてる!」
隣のキャラが、頬をふくらませたまま目をそらす。この人は、いつもこうだ。
キャラは、こっそりマカロンをひとつ、あたしの手のひらに滑りこませてくる。
「お姉さまの分ですわ。……内緒ですのよ」
「ありがと」
さくっ。いちごの味が、口の中でほどけた。
そんな、いつも通りのやり取りが、少しだけ、ほっとした。
「楽しそうだね、プル」
穏やかな声に、背筋が伸びる。
グレミー・トト。ネオ・ジオンの若い指揮官で、あたしの上官。整った顔で、やわらかく笑う人。
その隣に、見覚えのない小さな女の子がいた。
「紹介するよ。リィナ・アーシタだ。しばらく、私が預かっている」
「……よ、よろしくお願いします。プル、ちゃん」
リィナは、ぺこりと頭を下げた。緊張で、指先がきゅっと丸まっている。
「……よろしく」
「あ、あの。お兄ちゃんのこと、知ってるって、聞きました」
「……うん。知ってる」
それだけ答えるのが、精いっぱいだった。
グレミーは、そのやり取りを、満足そうに眺めている。
リィナ。
ジュドーの、妹。
胸の奥が、ちくんとした。
あたしは、まだ、あの子に何も言えていない。アクシズでのことも、大気圏でのことも。
その妹が、いま、目の前で、不安そうにドレスの裾を握っている。
どうして、こんなに、気持ちがぐちゃぐちゃになるんだろう。
「疲れが顔に出ているよ、プル」
グレミーの手が、あたしの肩にそっと触れた。
優しい手。あったかい声。
その声が、感応波に乗って、頭の中へ染みこんでくる。
『ガンダムは、敵』
あたしの声で。あたしの言い方で。
『ジュドーは、敵』
「……ジュドーは、敵」
勝手に、唇が動いた。
「いい子だ」
グレミーが微笑む。
その笑顔は、とても綺麗で、とても、遠かった。
この人は、あたしを「見て」いるんじゃない。あたしの形をした、なにかを、見ている。
おかしい。ぜんぜん、嫌じゃない。むしろ、ふわふわして、気持ちいい。
あの子の名前を呼ぶたび、胸がきゅっと痛むのに。その痛みが、ゆっくり、遠くなっていく。
「お姉さま? お顔の色が……」
キャラの声が、水の中みたいに聞こえた。
『ジュドーは、敵』
――違う。
アクシズで、手を引いてあげたのは、あたし。無理に話さなくていいって、隣に黙っていてくれたのは、あの子。
『ジュドーは、敵』
「……っ、うるさい」
指先で、青白い火花が、ぱち、と弾けた。
グレミーが、わずかに目を細める。
「興味深いね。私の声に、まだ逆らえるのか」
声は優しいままなのに、その奥に、冷たい光があった。
あたしの感応波が、ぞくりと粟立つ。この人は、あたしの頭の中を、自分の部屋みたいに片づけようとしている。
「逆らってない。あたしは、ただ」
声が、震えた。
その瞬間。
どおん、と窓の外で爆発が起きた。
悲鳴。割れるグラス。
すべての照明が、一斉に落ちる。
暗闇の中で、あたしは息を吸った。
さっきまで頭に響いていた声が、ぷつりと途切れている。電気が止まったから? ううん、違う。
あたしの感応波が、自分で、声の通り道をふさいだんだ。
「お姉さま! ご無事ですの!?」
暗闇の中、キャラの手が、あたしの袖をぎゅっと掴んだ。
「無事。……ちょっと、頭がぐらぐらしただけ」
「まあ、だからケーキの食べすぎはいけないと」
「食べたのはキャラだよ」
小さく笑ったら、涙が、ほろりとこぼれた。
「あたしは、あたし」
小さく呟く。
「あたしは、エルピー・プル。ジュドーの敵じゃ、ない」
その時、人混みの向こうから、聞き慣れた声が飛んできた。
「リィナ!」
暗闇の中を、まっすぐ駆けてくる影。
ジュドーだ。
「お兄ちゃん!」
リィナが、その胸に飛び込む。2人の姿が、非常灯の赤に浮かび上がった。
ほっとした。ほんとうに、嬉しかった。
なのに、胸のどこかが、またちくんと痛んだ。
「プル……!?」
ジュドーが、あたしに気づく。
あたしは、何か言おうとした。ごめん、とか、会いたかった、とか。
ずっと探していた言葉が、やっと、喉まで上がってきていた。
その口が、動くより早く。
乾いた銃声が、迎賓館に響き渡った。
リィナの身体が、ジュドーの腕の中で、ゆっくりと崩れ落ちる。
「――リィナ!」
ジュドーの叫びが、あたしの電撃より鋭く、暗闇を裂いた。
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