機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。人の心の中には、自分でも会いたくない「もう1人」がいる。
あたしの中にいたそれは、とても冷たい声で、笑っていた。
気づいたら、走っていた。
迎賓館の裏の、荒れた岩場。落ちてきたコア・ファイターが、煙を上げて斜めに傾いている。
その機体のそばに、ジュドーの姿があった。腕の中に、ぐったりしたリィナを抱えている。
「プル!」
「ジュドー……」
「頼む、リィナを見ててくれ。みんなが、まだ戦ってるんだ。俺、行かなきゃいけない」
その目が、あたしを、まっすぐ見ていた。
昨日まで「敵」だったはずなのに。あたしは、思わず頷いていた。
「うん。任せて」
「……ありがとう」
ジュドーは、あたしの頭に、ぽん、と手を置いた。
それだけで、胸があったかくなる。
ジュドーは、小さな岩小屋にリィナを寝かせると、振り返らずに駆けていった。
あたしと、リィナだけが、残された。
遠くで、戦いの音が聞こえる。ビームの閃光が、夜の空を、何度も白く染めていた。
岩小屋の中は、ひんやり冷たい。あたしは、自分の上着を脱いで、リィナの肩にかけた。
「……あったかい」
「でしょ。あたしの、お気に入りなんだよ」
薄暗い小屋の中。
壁の隙間から、細い星明かりが差している。
リィナは、浅い息をしている。ほほに土の汚れ。小さな手が、かすかに震えていた。
「……プル、ちゃん」
「しゃべらないで。傷にさわる」
「ごめんね。……迷惑、かけて」
その言い方が、ほんとうに、ジュドーにそっくりだった。
胸の奥が、きゅうっとなる。
――その時。
『この子さえいなければ』
頭の奥で、冷たい声がした。
あたしの声じゃない。でも、あたしにそっくりな声。
『ジュドーは、この子ばっかり見てる』
「やめて」
『あんたのことなんか、見てない』
「やめてってば!」
指先に、バチバチと火花が集まる。
この子。この、小さな子。たったひとつ指を向ければ――
あたしの全部が、ひとりぼっちになる気がして、手が、勝手に上がっていた。
こんなこと、したくない。したくないのに。
心の中のいちばん暗いところに、鍵をかけていたはずの扉が、ぎい、と開く音がした。
声は、笑っている。
『ほら、やっちゃえ』
あたしの一番激しいところだけを持った誰かが、遠い夜の底から、あたしを見ていた。
「……プルちゃん」
リィナが、目を開けた。
怯えてなんか、いなかった。ただ、まっすぐ、あたしを見ていた。
「ジュドーお兄ちゃんのこと、ずっと見ててくれたの、知ってる」
「……え」
「アクシズで、お兄ちゃんを助けてくれたの、プルちゃんだよね。だから、ありがとう、って言いたかったの」
その言葉に、あたしの手が、止まった。
火花が、すうっと消える。
膝から力が抜けて、あたしは、その場にぺたんと座りこんだ。
「……ごめん」
声が、ぐしゃぐしゃになった。
「ごめん、リィナ。あたし、いま、すごく、ひどいこと」
「いいよ。……だって、プルちゃん、泣いてる」
「泣いてない」
「泣いてるよ」
「……泣いてる、かも」
リィナは、くすっと笑った。この子は、ジュドーに似て、笑うと、ほんとうに、光が灯る。
リィナは、震える手で、あたしの涙をそっと拭ってくれた。
その手が、あったかくて。
あたしは、声をあげて泣いた。
しばらくして、あたしはポケットから、ひとつぶのチョコを取り出した。
「……はんぶんこ、しよ」
「いいの?」
「うん。仲直りのしるし」
ふたりで、ちいさなチョコを分け合う。あまくて、ちょっと溶けかけていた。
「ねえ、プルちゃん。お兄ちゃんのこと、好き?」
「ふえっ!?」
「やっぱり」
「ち、違うもん! そんなんじゃ……あ、あるけど……」
顔が、ぼっと熱くなる。リィナは、楽しそうに肩を揺らして笑った。
こんな時なのに、こんなに、あったかかった。
リィナが、ふふっと笑う。
「プルちゃんと、お友達になれて、よかった」
「……あたしも」
その言葉が、すとんと、心に落ちた。
冷たい声は、もう、聞こえない。
あの声も、きっと、あたしの一部だったんだ。
怖くて、寂しくて、誰にも言えなかった、あたしの本音。
そう思った、次の瞬間。
空が、真っ赤に燃えた。
さっきまで笑っていた小屋の壁が、まるで紙みたいに、あっけなく裂けていく。
轟音。熱風。
小屋の天井が、ばらばらに砕け散る。
「リィナ!」
手を伸ばした。でも、爆風が、あたしの身体を外へ弾き飛ばした。
地面に叩きつけられて、目を開ける。
さっきまでふたりでいた小屋の上に、燃えるモビルスーツが、墜ちていた。
「……うそ」
炎が、すべてを呑みこんでいく。
熱くて、まぶしくて、目を開けていられない。
助けたかった。守りたかった。やっと、友達になれたのに。
リィナの姿は、どこにもない。
遠くで、ジュドーが、あたしたちの名前を呼ぶ声が聞こえた。
あたしは、燃える小屋に向かって、這うように手を伸ばす。
指先が、熱くて、痛くて、それでも、止められなかった。
その声に、重なるように。
夜の底で、冷たい誰かが、そっと笑った気がした。
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