機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。ここから先は、あたしの知らない場所の話になる。
でも、あたしの「声」は、ちゃんと、そこまで届いていた。
地球降下中の、巡洋艦サンドラ。
その最下層に、乗組員のほとんどが立ち入れない一室があった。
「ここだ」
グレミー・トトは、重い扉の前で足を止めた。
後ろに続く副官は、緊張した面持ちで、周囲を見回している。歴戦の軍人でも、この静けさには背筋が伸びるらしい。
「閣下。ハマーン様にも秘密にしている部屋とは、いったい」
「見れば、分かる」
扉が、ゆっくりと開いた。
ひんやりした空気が、頬を撫でる。消毒液と、かすかな潮の匂いがした。
淡い緑の光が、広い部屋を満たしていた。
円形に並んだコールドスリープの槽。冷たい液体の中で、少女たちが静かに眠っている。
同じ顔。同じ髪。
小さな胸が、ゆっくり、上下している。ひとつひとつの槽に、小さな札がかかっていた。
数字だけの、名前のない札。
副官の喉が、ごくりと鳴った。
「これは……」
「エルピー・プルを素体に作った、ニュータイプの複製体だ。プルツーから、プルトゥエルブまで。11体いる」
グレミーの声は、いつもと同じように穏やかだった。
「皆、コールドスリープ中だ。プルツーだけは試験のたびに起こしているが、本格的に目覚めるのは、まだ先になる。……私の、ニュータイプ部隊としてね」
「しかし、閣下。このことを、ハマーン様は」
「ご存じない。だから、君に見せた」
「閣下は、いつから、これを」
「ずっと前からだよ。アクシズで、誰にも知られないように、少しずつね」
副官は、静かに息を呑んだ。
グレミーは、ゆっくり振り返った。
「ハマーン様の足元は、いつか崩れる。その時、私に力を貸してくれる者が必要だ。……君は、どちらにつく」
沈黙。
槽の泡が、こぽ、と静かに上がる音だけが響く。
やがて、副官は、深く頭を下げた。
「このお方に、お仕えいたします」
その声は、迷いのない、軍人の声だった。
グレミーは、満足そうに頷く。
「ありがとう。……さあ、見てくれ。彼女たちを」
眠っている少女たちの寝顔は、驚くほど、あどけなかった。
副官は、思わず、小さく呟いた。
「……こんな子どもたちを、戦わせるのですな」
「そうだ。それが、彼女たちの、生まれた意味だからね」
その答えが、ひどく静かで、ひどく、冷たかった。
副官は、それ以上、何も言えなかった。
ただ、眠る少女たちの寝顔だけが、いつまでも目に焼きついて離れなかった。
グレミーは、1番手前の槽に、そっと指先を触れた。
眠る少女の頬に、うっすらと光が揺れている。
「この子は、特別でね。起きたら、きっと、プルよりずっと激しい」
「プル、とは」
「いまは、私の手を離れてしまった、もう1人の姉さ」
その頃、アーガマの展望窓で、あたしは膝を抱えていた。
窓の外には、星が静かに瞬いている。
ジュドーは、リィナを失ったと思って、ずっとコクピットに閉じこもったままだ。あたしは、その外側で、ただ、立ち尽くすことしかできなかった。
「……ごめんね、ジュドー」
呟いた、その時。
ふいに、背中を、冷たい風が撫でた気がした。
違う。風じゃない。
感応波だ。
あたしと、まったく同じ形の。けれど、あたしよりずっと冷たくて、静かで、深い。
1つ、2つ、3つ……ううん。
もっと。10、11。
遠い遠い、どこかの地下で、規則正しく息をしている。
寝息の1つ1つが、あたしの心臓の音と、少しずつ重なっていく。
「……あたしたち、だ」
勝手に、そう分かった。
プルツーのほかの子たちは、名前も、顔も、知らない。でも、確かに、あたしと同じ場所から生まれた、あたしの――
「妹」
その言葉が、自然に口からこぼれた。
胸が、じんと熱くなる。
会いたい。抱きしめてあげたい。
あたしは、自分の掌をじっと見つめた。
プルシリーズ、っていう名前は、まだ知らない。でも、あたしの中の何かが、もう、その言葉を呼んでいた。
あたしと同じ顔で、同じ声で、同じ寂しさを抱えた子たち。
どうか、悲しい夢を見ていませんように。ひとりぼっちで眠っているなら、あたしが、そばにいてあげたい。
そう思った、ほんの少し後。
別の声が、あたしの中で、そっと囁いた。
『でも、あの子たちは、あなたを知らない』
『あなたも、あの子たちを、何も知らない』
あたしは、膝を抱えた腕に、ぎゅっと力をこめた。
「……知りたい」
声が、震えた。
怖い。でも、知らないふりを続ける方が、もっと、怖い。
「あたしが何者なのか。あの子たちが、何のために、生まれたのか」
窓の向こうで、星がひとつ、流れた。
星の光は、何も答えてくれない。それでも、あたしは、そこにいる誰かへ、そっと呼びかけた。
――おやすみ。もうすぐ、会いにいくからね。
そんな約束をしても、返事なんて、返ってくるはずがないのに。
でも、確かに、誰かが聞いている気がした。
その向こう、遠い遠い地下で。
11個の冷たい光のうちの1つが、ほんの少しだけ、強く瞬いた気がした。
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