機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 宇宙世紀0088 最強のニュータイプは妹達を救うため、指先一つで宇宙世紀の歴史を貫く 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0088年。
小惑星基地アクシズ、治安維持部隊(ジャッジメント)第7支部。
広報ビデオの騒動から数日。アクシズの地下街には、平穏な表の顔とは裏腹に、どす黒い熱気が渦巻いていた。
あたし、エルピー・プルは、ミリィの作った潜入用プログラムを仕込んだ情報端末を手に、ダウンタウンの路地裏に立っていた。
「プルさん、聞こえますか? 周囲の監視カメラはすべてダミー映像に差し替えました。……でも、気をつけて。そこから先は、正規軍の目も届かない無法地帯です」
ミリィ・チャイルドの緊張した声が、骨伝導レシーバーから伝わってくる。彼女は今、第7支部の管制室で、アクシズ全域の脳波モニターを血眼になって監視しているはずだ。
「わかってるって。……それにしても、ここ、すごく嫌な感じがする」
あたしのバイオ・センサーが、ずっと微弱なノイズを拾っている。それは、誰かが泣いているような、それでいて何かに飢えているような、不快な感応波(プレッシャー)の残響だ。
「お姉様! 私(わたくし)が背後を完璧にガードしておりますわ。不埒な輩が現れたら、このキャラ・スーンが物理的にも精神的にも消し飛ばして差し上げます!」
背後で黒いマントを羽織ったキャラが、鼻息荒く宣言する。彼女のプレッシャーが強すぎて、逆に目立っている気がするけれど、今はその力強さが少しだけ頼もしかった。
あたしたちが辿り着いたのは、廃品回収業者が集まるジャンク・エリアの一角にある、薄暗いバーだった。そこには、軍からあぶれた少年兵や、刺激を求める若者たちが溜まっている。
彼らの瞳は一様に虚ろで、それでいて不気味なほどに爛々と輝いていた。
その理由は、彼らの首筋に貼られた、青白く発光する小さなチップ――レベルアッパーだ。
「……ねえ、これがあれば、あたしも『あっち側』に行けるの?」
一人の少年が、震える手でチップを弄んでいる。その隣に、ニヤニヤと笑いながらチップを売りつける男がいた。
「ああ、行けるとも。これは最新の感応波拡張デバイスだ。これさえあれば、ニュータイプになれない凡人のお前だって、宇宙(そら)の意志を感じ取れるようになるんだぜ」
「嘘ばっかり……!」
あたしは思わず、物陰から飛び出していた。
男が驚いて振り返る。あたしのバイオ・センサーは、男が隠し持っているチップから、どす黒い思念波が漏れ出しているのをはっきりと捉えていた。
「そのチップ、偽物だよ! それは力をくれるんじゃなくて、みんなの心を少しずつ壊して、何か別のものに変えてるだけなんだから!」
「なんだ、このガキ……!? 治安維持部隊か!」
男が懐からスタンガンを取り出そうとした瞬間、あたしのプレッシャーが爆発した。
「やめなさいって言ってるでしょ!」
あたしの放った感応波が、物理的な衝撃となって周囲のグラスを粉砕し、男を壁まで吹き飛ばした。
驚く少年兵たちの間で、レベルアッパーが一斉に共鳴し、キィィィィンという不快な高周波を上げ始める。
「プルさん、下がって! 周囲のレベルアッパー装着者たちの脳波が急激に同期しています。……これ、単なるデバイスじゃない。装着者を媒介にして、巨大なサイコ・フィールドを構築しようとしているんだわ!」
ミリィの悲鳴に近い警告。
その時、バーの奥から、聞き慣れない、けれど圧倒的に冷酷な笑い声が響いた。
「……ほう、検体番号001か。やはり、天然のニュータイプ個体は、この程度の擬似波(ノイズ)には惑わされないというわけだ」
暗闇から現れたのは、白衣を纏った痩身の男――ネオ・ジオンの技術士官、ローレン・ナカモトだった。彼の瞳の奥には、狂気にも似た知的好奇心が宿っている。
「ローレン……ナカモト。あんたが、これを作ったの?」
「これは救済だよ、プル。選ばれた者にしか許されない宇宙の認識を、すべての人間に解放する。……そのためには、多少の犠牲(バグ)は避けられないがね」
ローレンが指先で端末を操作すると、レベルアッパーを付けた若者たちが、操り人形のようにあたしたちを囲み始めた。
「さあ、見せてくれ。純粋なニュータイプが、一万人の凡人の意志(ネットワーク)にどこまで耐えられるのかを」
宇宙世紀0088年。
アクシズの闇に潜んでいた悪意が、ついにその牙を剥いた。
あたし、エルピー・プル。
みんなの心を道具にする奴なんて、あたし、絶対に許さないんだから!