機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。守りたいものがあるとき、人は、自分の「出番」を選べない。
その人が来たのは、いちばん悲しい日だった。
「ブライト艦長、聞いてくれ。ハマーンが、ダブリンへコロニーを落とす」
ハヤト・コバヤシは、アーガマの艦橋で、はっきりとそう言った。
カラバの人間として、彼は長い間、地球で戦ってきた。その彼が、冷たい汗を額に浮かべている。
「コロニー落とし……!?」
ブライトの声が、かすかに震えた。
「間違いない。住民の避難が、まだ終わっていないんだ」
「どれくらいの時間が」
「半日もない。……頼む、ブライト。力を貸してくれ」
ブライトは、数秒だけ目を閉じ、それから、はっきり頷いた。
「全艦、ダブリンへ向かう!」
艦橋の空気が、凍りつく。
ジュドーは、その場に立っていた。
リィナを失ったと思って、まだ心の整理もついていない。それでも、足は自然と格納庫へ向かっていた。
「俺が行く」
「ジュドー……」
「落ちてくる前に、1人でも多く、助けるんだ」
あたしは、その背中を、ただ見つめていた。
ハヤトが、あたしの方へ、そっと視線を向ける。
「君が、プルか。ジュドーから聞いているよ」
「えっ。ジュドー、あたしのこと、なんて言ってたの」
「手のかかる、でも、放っておけない子だって」
「……ほめてる?」
「もちろんだ」
ハヤトは、穏やかに笑った。その笑顔が、あとになって、何度も胸によみがえることになる。
「ジュドー。あたしも、できることをする」
「プル……お前、まだ怪我が治ってないだろ」
包帯だらけの腕を持ち上げて、あたしは、にっと笑ってみせた。
「出撃はできないけど、艦橋からなら、あたしの感応波で、逃げ遅れた人の場所が分かるかもしれない」
ジュドーは、驚いた顔をして、それから、小さく笑った。
「頼む」
「まかせて。ジュドーの背中は、ここから、あたしが守るから」
「……はは。頼もしいな」
その短い会話が、ほんの少しだけ、怖さをやわらげてくれた。
その一言で、胸の中の何かが、すっと軽くなった。
アーガマは、ハヤトのアウドムラと共に、ダブリンへ急いだ。
地上には、逃げ惑う人々の列。
空の彼方に、小さな点だったコロニーが、少しずつ、大きくなっていく。
地上では、人々が、荷物を抱えて走っていた。泣いている子ども。手をつなぐ老夫婦。
あたしは、その1人ひとりの顔が、はっきり見えてしまう。
『空が、落ちてくる』
誰かの声が、あたしの頭に流れ込んできた。
ひとりじゃない。何千、何万人の、怖いって気持ちが、同時に押し寄せてくる。
「……う、あ……!」
「プル! しっかりしろ!」
「ごめん、ジュドー。大丈夫」
歯を食いしばって、涙を拭う。泣くのは、あとでいい。いまは、ひとりでも多く、助けなきゃ。
涙が、勝手にこぼれる。
それでも、あたしは前を向いた。
「あっち。右の道に、まだ、子どもがいる」
「分かった!」
ZZガンダムが、避難民の頭上を飛んでいく。
けれど。
「そこまでだ、ガンダムのガキども」
ラカン・ダカランのモビルスーツ部隊が、行く手をふさいだ。
「どけよ! 人が死ぬんだぞ!」
『それが、ハマーン様のご意志だ』
ザクIIIの腕が、避難民の列へ向けられる。
ジュドーが、歯を食いしばった。
「やめろおおっ!」
ZZが飛び出す。けれど、ラカンの機体は強い。何度も攻撃をかわされて、ジュドーは追い詰められていく。
『ジュドー! 危ない!』
ハヤトの声が、通信に割り込んだ。
その時、ドダイ改に乗った1機のモビルスーツが、ザクIIIへ、まっすぐ突っ込んでいった。
「ハヤトさん!」
爆発の光が、空を白く染める。
あたしの感応波が、その瞬間を、鮮明に捉えてしまった。
ハヤトの心は、最後まで、静かだった。
『ジュドー。……生きろ』
それだけを残して、光は、消えた。
「あ……あ……」
あたしは、艦橋の隅で、声にならない声をあげた。
あたしの感応波に、あたたかい、最後の光が触れる。
それは、ありがとう、と言っているみたいだった。
ジュドーも、叫んでいた。
でも、間に合わなかった。
空の向こうで、巨大な影が、地平線に触れる。
世界から、音が消えた。
誰も、なにも言えなかった。
あたしの感応波は、人の悲しみを、そのまま拾ってしまう。何千もの小さな声が、ひとつずつ、静かに消えていくのを、はっきりと感じた。
涙が、止まらなかった。
どれくらい、時間が経っただろう。
アーガマの展望窓で、あたしは、ただ、焼けた空を見つめていた。
ジュドーが、隣に座る。何も言わない。
ふたりの影が、窓ガラスの上で、静かに重なった。ただ、あたしの肩に、そっと手を置いてくれた。
その手のあたたかさに、あたしは、また泣いた。
「……みんな、いっぱい、死んじゃった」
「ああ」
「あたし、何もできなかった」
「俺も、だ」
その時だった。
胸の奥で、何かが、ひやりと反応した。
あの冷たい波。11個の光。
そのうちの1つが、試験の時とは比べものにならないほど強く、はっきりと、目を開けた。
「……起きた」
「プル?」
ジュドーが、あたしの顔を覗きこむ。
あたしは、震える唇で、その名前を言った。
「プルツーが。今度は、本当に」
遠い空の向こうで、冷たい紅の瞳が、じっと、こちらを見つめていた。
そして、その唇が、あたしにだけ聞こえる声で、静かに言った。
『ようやく、見つけた』
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