機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。あたしが一番ほんとうの意味で「戦った」のは、あたし自身とだった。
その相手は、あたしとまったく同じ顔をしていた。
ダブリンに、黒い雨が降っていた。
アーガマの医務室のベッドで、あたしは天井を見つめていた。身体じゅうが包帯だらけで、起き上がるだけで、肋骨がきしむ。
「プル、動いちゃダメだってば」
エルが、ぷくっと頬をふくらませて、あたしの肩を押さえた。
「だって、お腹すいた」
「そう言うと思って、はい。ルーが、こっそりプリン持ってきたよ」
「ルーが?」
「内緒ね。『食べないと治らないでしょ』だって」
ルーのぶっきらぼうな優しさが、スプーンの先まで甘い。ひと口、ふた口。
ほっとした、その時だった。
背筋を、ひやりとしたものが走った。
――来る。
窓の向こうの、暗い空の底から。あたしと同じ形で、あたしよりずっと冷たい何かが、まっすぐこっちへ近づいてくる。
「……プルツー」
声に出した瞬間、遠い通信の向こうで、誰かの囁きが重なった。
『アーガマを沈めろ。いいね、プルツー』
グレミーの声だった。
あたしは、点滴を引き抜いて、ベッドから降りた。
「プル!」
「ごめん、エル。行かなきゃ」
艦橋まで、壁に手をつきながら歩いた。ブライトさんが、驚いた顔で振り向く。
「プル、寝ていろ!」
「ブライトさん、敵が来ます。……すごく、大きくて、嫌な感じ。サイコ・ガンダムMk-IIです」
ブライトさんは、あたしの目を見て、数秒だけ黙り、それから叫んだ。
「主砲、用意!」
アーガマの主砲が火を噴いた。
まっすぐ、直撃コース。けれど、そのビームは、巨大な影の右の翼を焼いただけだった。
ぎりぎりでかわされた。あの子は、あたしの考えることを、読んでいる。
「……行く。あたしが、止める」
「プル! お前の機体は整備中だ!」
「いいの」
格納庫には、解体の途中だったキュベレイMk-IIが、ぽつんと立っていた。
右腕と、両足が、ない。
それでも、あたしは、そのコクピットに身体を押し込んだ。
空へ上がると、そこに「それ」はいた。
サイコ・ガンダムMk-II。
山みたいに大きな鉄の身体。その内側に、あたしの妹が、静かに座っている。
「外装」と「代脳」。外側の巨大な身体を、ひとつの小さな頭脳が動かす、冷たい化け物。
『……姉さん』
通信越しの声は、前に会った時と変わらない、冷たくて、まっすぐな声だった。
『おとなしく、沈んで』
「やだ」
あたしは、ファンネルを放った。
でも、巨大な機体の周りに、ビームを跳ね返す光の板が展開される。
撃ったビームが、ぜんぶ、こっちに戻ってくる。
「くっ……!」
ファンネルを盾にして、防ぐ。1基、2基、3基と、次々と砕け散っていく。
『その動き、知ってる』
プルツーの声が、冷静に告げた。
『わたしと、同じだから』
ビームサーベルを抜いて、斬りかかる。盾で止められる。巨大な腕に叩かれて、あたしのキュベレイが、紙みたいに弾き飛ばされた。
左腕も、もげた。
ほとんど何も、残っていない。
あたしは、荒い息をつきながら、通信のスイッチを入れた。
「ねえ、プルツー。あんた、あたしの一番激しいところだけを、持った子だよね」
『…………』
「でもね、あたしの中にも、ちゃんと、あるんだよ。誰かを守りたいっていう、激しいところ」
その瞬間。
白い閃光が、サイコ・ガンダムMk-IIを撃ち抜いた。
「プル!」
ZZガンダムが、空を裂いて現れた。
ジュドーだ。
間に合った。あの子が、来てくれた。
けれど、サイコ・ガンダムMk-IIは、ビーム・ライフルの光をものともせず、巨体を人型へ変形させて、ZZに向き直る。
「やっぱり、強い……!」
ジュドーは、プルツーを引きつけるように、コロニーの残骸の方へ飛んだ。
あたしは、動かないキュベレイの中で、息を吸う。
いけない。
あのままじゃ、ジュドーが、やられる。
案の定、大地に落ちたZZが、サイコ・ガンダムMk-IIの有線の腕に絡め取られた。ビーム・サーベルも、エネルギー切れで、光が消える。
「ジュドー!」
あたしは、残った力のすべてを、キュベレイに叩き込んだ。
動かないはずの機体が、ふわりと宙に浮いた。
「……そっか。あたし、まだ飛べるんだ」
ジュドーとプルツーの間に、割って入る。
赤い光が、あたしの機体から溢れ出して、サイコ・ガンダムMk-IIのビームを受け止めた。
『姉さん……どいて!』
「どかない」
涙が、頬を伝う。
ごめんね、ジュドー。ほんとは、もっと一緒に、遊びたかった。お風呂も、プリンも、おしゃべりも、まだまだ、ぜんぶ、やりたかったな。
「プルツー」
あたしは、できるかぎりのやさしい声で呼びかけた。
「あんたは、ひとりじゃないよ。あたしの激しいところも、やさしいところも、ぜんぶ、あげる」
『姉さん、やめ――』
「だから、ちゃんと、生きてね」
光が、爆ぜた。
光の球が、サイコ・ガンダムMk-IIへ、まっすぐ飛び込んでいく。
爆発。
巨大な機体が、ぐらりと傾いた。
ジュドーは、その光景を、ただ見ていた。
「……プル」
唇が、震える。
「プル! プルううううっ!」
その叫びに呼応するように、ZZガンダムの機体が、ピンクの光に包まれた。
エネルギー切れのはずのビーム・サーベルから、黄色の、巨大な刃が伸びる。
「うあああああっ!」
ひと振り。
サイコ・ガンダムMk-IIが、真っ二つに断ち切られた。
頭部だけが、切り離されて逃げ出す。
ジュドーは、それを追いかけ、サーベルを振り下ろした。
装甲が割れて、中の少女の顔が、露わになる。
そこにいたのは、プルと、同じ顔だった。
「……っ」
ジュドーの手が、止まった。
その隙に、頭部は、黒い雨の向こうへと消えていった。
夜。
アーガマの甲板に、クルーが集まっていた。
黒い雨の中、誰も、傘をささなかった。
ブライトが、静かに帽子を脱ぐ。エルが、声を殺して泣いている。ルーが、その肩を、黙って抱いていた。
ジュドーは、そこに、立っていた。
何も言わず、ただ、空を見上げていた。
その頃。
遠い空の下の、切り離された頭部の中で。
プルツーは、震える手で、自分の頭を押さえていた。
「……やめて」
彼女の頭の中で、誰かの声が、静かに響いている。
『だいじょうぶ。あたしは、ここにいるよ』
「やめて。いなくなって」
『やだ。あんたは、あたしの妹だもん』
あたたかくて、やさしくて。
プルツーの紅い瞳から、ぽろり、と、涙がこぼれ落ちた。
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