機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。わたしの頭の中には、もう1人いる。
その子は、わたしの「姉」の形をしていて、びっくりするほど、おしゃべりだ。
目を開けると、白い天井だった。
切り離された頭部から、グレミー配下の回収班に救い出されて、わたしは巡洋艦サンドラの医務室に寝かされていた。
身体のどこも、痛くない。
それなのに、胸の奥だけが、ずっと、ずきずきしている。
『ねえねえ、起きた?』
「……っ」
『おはよう、プルツー! あたしね、おなかすいた!』
「……うるさい」
『えー、ひどい。ひとりぼっちの妹に話しかけてあげてるのに』
「わたしは、妹じゃない。それに、あなたは、もう」
そこで、言葉が詰まった。
あなたは、もう、死んでいる。
わたしが、殺した。
『うん。知ってるよ』
その声は、びっくりするほど、あっけらかんとしていた。
『でも、いいの。だって、あたしの激しいところも、やさしいところも、ぜんぶ、あんたにあげたんだもん』
わたしは、唇を噛んだ。
その時、枕元のトレイに、ちいさなカップが載っていることに気づいた。
合成プリン。
誰が置いたのかは、知らない。
けれど、気づいた時には、わたしは、スプーンを口に運んでいた。
「……あまい」
『でしょー! それ、あたしのお気に入りなの!』
わたしの目から、ぽろり、と涙がこぼれた。
――どうして、泣くんだ。わたしは、戦士なのに。
『えへへ。ね、おいしいでしょ? もうひと口、あーん、ってしてあげようか』
「……自分で食べる」
『それ、前にも言った気がする!』
「気分はどうだい、プルツー」
扉が開いて、グレミー・トトが入ってきた。
穏やかな微笑み。やわらかい声。
その声が耳に届くたび、頭の奥の「命令」の部分が、きゅっと締まる。
「グレミーさま。申し訳ありません。ガンダムを、仕留められませんでした」
「いいんだ。君が無事で、よかった」
グレミーの手が、わたしの肩に、そっと置かれた。
『あ、この人、あんたのこと「道具」って思ってる』
プルの声が、ぽつりと言った。
『あったかい声なのに、目の奥が、ぜんぜん笑ってないよ』
「……やめて」
『ごめん。でも、そう感じたの』
グレミーは、少しも気づかない。
「さあ、見せたいものがある。ついておいで」
案内されたのは、艦の最下層だった。
淡い緑の光が満ちる、冷たい部屋。円形に並んだ、眠る少女たちの槽。
わたしと同じ顔の子たちが、静かに、息をしている。
「君の姉妹だ」
グレミーは、愛おしそうに槽を見渡した。
「いつか、みんなを目覚めさせる。そして、君を隊長に、私のニュータイプ部隊を作るんだ」
「……はい」
「そのために、君専用の機体も、アクシズで完成を待っている。30基のファンネルと、胸の2門のハイメガ・キャノン。ガンダリウムの装甲で固めた、ネオ・ジオンの切り札だよ」
わたしは、胸の奥が、ほんの少し熱くなるのを感じた。
専用機。
わたしのためだけの、機体。
『それ、うれしい?』
プルの声が、そっと聞く。
「……わからない」
『あたしは、ちょっとだけ、さみしいな』
「どうして」
『だって、それに乗ったら、あんた、もっと遠くへ行っちゃいそうなんだもん』
グレミーが、遠くを見るような目で、続けた。
「人は、迷うから争う。選ばせるから、傷つく。だったら、ひとつの強い意志が、すべてを導けばいい」
静かな声だった。
「独裁こそが、平和への道だ。……神ならぬ身で、天上の意志に辿り着く。それが、私の望みだよ」
――天上の、意志。
その言葉に、背筋が、ぞくりとした。
『ねえ、プルツー』
プルの声が、いつになく、真剣だった。
『それって、みんなから、「選ぶ」自由を取っちゃうことだよね』
「……」
『弱い子が、強い子の言うことだけ聞く世界。それ、あたしの嫌いな世界だよ』
「……あなたは、黙っていて」
『やだ。だって、あたし、あんたの姉だもん』
わたしは、拳を握りしめた。
姉。
その言葉が、胸の奥で、くすぐったく響く。
でも、わたしは、グレミーさまの子だ。
目覚めさせてもらって、役目をもらって、命令をもらった。
逆らうなんて、できない。
「……わかりました」
「いい子だ」
グレミーは、満足そうに笑った。
医務室に戻る廊下で、わたしは、ふと足を止めた。
窓の外に、黒い雨のあとの空が広がっている。
その向こうの、どこかに。
あの人がいる。
ジュドー・アーシタ。
プルを守れなかった人。プルが、命をかけて守った人。
『ジュドー! ジュドーだ! わあ、近い!』
プルの声が、はしゃいだように跳ねた。
「やめて。いま、集中してるの」
『だって、会いたいんだもん!』
「……会っては、いけない」
『どうして?』
「わたしは、あの人の、敵だから」
その時、プルが、静かに言った。
『ねえ、プルツー。あんたが、本当に撃ちたいのは、あの人じゃないでしょ?』
「……わからない」
『ううん、わかってるよ。だって、あたしと同じだもん』
その言葉が、深く、胸に刺さった。
廊下の向こうで、グレミーが誰かと話している声が、かすかに聞こえた。
『ハマーンとの決着は、近い。サンドラを、ハマーンの元へ向かわせろ』
わたしは、立ち尽くしたまま、ぎゅっと自分の胸を押さえた。
止まらなきゃいけない。
でも、止まれない。
3つの声が、ひとつの身体の中で、静かに、交わろうとしていた。
お気に入り登録や評価で応援していただけると大変励みになります!