機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。わたしは、あの日、生まれて初めて「撃ちたくない」と思った。
撃ったのは、わたしだった。
グワンバンの格納庫は、冷たい空気で満ちていた。
「アクシズは、もう私の手にある」
グレミー・トトは、静かに言った。
ハマーン・カーンに叛旗を翻した、その日のことだ。
「プルツー。君に、約束の機体を与えよう」
格納庫の奥で、巨大な影が、ゆっくりと起き上がる。
山みたいに大きな身体。背中に収められた無数のファンネル。胸の2門の砲口が、獣の口みたいに、鈍く光っていた。
『わあ、でっかい! ZZより大きいんじゃない!?』
プルの声が、頭の中ではしゃぐ。
「……うるさい。静かにして」
『だって、すごいんだもん。あたしの機体より、ずーっと』
『ねえねえ、中にプリン、積んでないの?』
「戦闘機に、積むわけがない」
『えー。じゃあ、帰ったら食べよ。約束ね』
「……約束は、しない」
『しなくても、食べるけどね!』
クィン・マンサ。
わたしのためだけに作られた、ネオ・ジオンの切り札。
その頭部のコクピットに、わたしは身体を滑りこませた。無数のコードが、肌にそっと触れる。
「ネェル・アーガマは、ハマーンの側につく姿勢を見せた。……沈めなさい」
グレミーの声が、通信に重なる。
「はい」
わたしは、短く答えた。
星の海へ、わたしは滑り出した。
遠くでは、キャラの艦隊とグレミーの艦隊が、ビームの光を交わしている。
その奥に、白い船影。
ネェル・アーガマ。
『ねえ、プルツー。ジュドー、いるかな』
プルの声が、そっと聞いた。
「……いない」
わたしは、感応波を、遠くへ伸ばしてみる。
あたたかい光は、ここにはなかった。もっと遠く。もっと、静かな場所。
『コア3にいるよ。あたし、わかる』
「……そう」
不思議なことに、わたしは、ほんの少しだけ、ほっとしていた。
ジュドーがいないなら、あの人に銃口を向けなくて済む。
けれど、そんなわたしの安堵を、グレミーの命令が、容赦なく塗りつぶした。
『撃て、プルツー』
「……了解」
背中のコンテナが開く。30基のファンネルが、星屑のように散らばった。
その時だった。
ネェル・アーガマの前に、1隻の艦が、割りこんだ。
ドック艦、ラビアンローズ。
『ブライト艦長、ここは私が引き受けます』
通信に、女の人の声が飛びこんできた。
エマリー・オンス。ラビアンローズを預かる、艦長代行。
その声は、不思議なほど、澄んでいた。
戦場には似つかわしくない、静かな覚悟の声だった。
『スタッフは、全員退避させました。……ブライト艦長を、お願いします』
「……っ」
わたしの手が、止まった。
あの人は、本気だ。ひとりで、わたしに挑もうとしている。
『やめて』
プルの声が、震えていた。
『お願い、プルツー。あの人、死んじゃう』
「……命令だ」
『それでも、やめて!』
「わたしは、撃つために、生まれたの」
声が、掠れた。
グレミーの声が、再び、耳元で囁く。
『撃て』
わたしは、目を閉じた。
操縦桿を、ゆっくり、引く。
光が、爆ぜた。
30基のファンネルが、一斉に、ラビアンローズへ殺到する。胸の2門の砲が、牙のように開き、巨大な光の奔流が、闇を貫いた。
――竜の顎。
その言葉が、ふっと、頭をよぎる。
ラビアンローズが、炎に包まれる。
通信の向こうで、エマリーの声が、はっきりと響いた。
『ブライトーっ!』
彼女の最後の叫びが、わたしの感応波に、突き刺さった。
愛している人の名前を呼びながら、彼女は、消えていった。
「あ……」
わたしの喉から、声にならない声が漏れた。
胸の奥が、焼けるように痛い。
『プルツー、プルツー! しっかりして!』
「わたしが……撃った」
『あんたが悪いんじゃない!』
「違う。撃ったのは、わたし。わたしの手」
涙が、勝手に溢れた。
どうして、泣くんだ。わたしは、戦士なのに。
戦士は、撃つものなのに。
『プルツー、どうした』
グレミーの声が、通信に入る。
「……気分が、悪くて。一度、戻ります」
『そうか。アクシズに戻れ。……私も、同乗しよう』
「グレミーさまが、ですか」
『君を、安定させなければならないからね』
穏やかな声だった。
けれど、その奥の冷たさを、わたしは、もう、聞き分けられるようになっていた。
あの人は、わたしを心配しているんじゃない。
わたしという「道具」が、壊れてしまうのを、恐れているんだ。
『ねえ、プルツー』
プルの声が、ひどく優しく、わたしの中に響いた。
『だいじょうぶ。あたしが、ここにいるよ』
「……ずっと、いるの」
『うん。ずっと、いる』
わたしは、小さく、うなずいた。
星の海の向こうで、小さな光が、ひとつ、またたいた。
それは、きっと、気のせいだ。
でも、わたしには、わかった。
あたたかい光が、こっちへ、向かってきている。
『ジュドーが、来るよ』
プルの声が、嬉しそうに、弾んだ。
わたしは、操縦桿を握りしめたまま、動けなかった。
来てほしくない。
でも、来てほしい。
そのふたつの気持ちが、胸の中で、ぶつかり合って、わたしを引き裂こうとしていた。
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