機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。夢の中の方が、ほんとうの自分に近いことがある。
わたしは、あの日、はじめて、そう思った。
白い天井。
消毒液のにおい。
規則正しい、機械の音。
ネェル・アーガマの医務室のベッドで、わたしは目を覚ました。
身体じゅうが、重い。包帯が、胸も腕も、ぐるぐるに巻かれている。
「……ここ、は」
「気がついたか、プルツー」
枕元に、ジュドー・アーシタが座っていた。
疲れた顔をしていた。目の下に、薄いくまがある。きっと、ずっと、ここにいてくれたんだ。
「……どうして、わたしを」
「どうして、ってなんだよ。助けたかったから、助けたんだ」
「わたしは、あなたの敵だった」
「今は、違うだろ」
ジュドーは、少しだけ笑った。
その笑顔が、プルの笑顔に、よく似ていた。
『ほらね。言ったでしょ?』
頭の中で、プルの声が、くすくす笑う。
『ジュドー、すっごく優しいんだから』
「……うるさい」
「ん? 何か言ったか」
「いえ。……ひとりごとです」
ジュドーは、不思議そうに首をかしげて、それから、トレイの上のカップを手に取った。
「ほら、これ。エルが、こっそり作ってくれたんだ」
合成プリン。
甘い匂いが、ふわっと鼻をくすぐる。
「食えるか?」
「……はい」
スプーンを持とうとして、腕が、うまく上がらなかった。
ジュドーは、何も言わず、スプーンを取って、わたしの口元へ差し出す。
「ほら、あーん」
『きゃー! あーんだ、あーん!』
プルの声が、うれしそうに悲鳴を上げた。
「……自分で、食べられます」
「無理すんなって」
わたしは、観念して、口を開いた。
もぐ。
甘い。
涙が、ぽろり、と落ちた。
「お、おい。苦かったか?」
「……違います」
わたしは、首を横に振った。
「ただ、あまくて」
ジュドーは、困ったように笑って、ハンカチで、わたしの頬を拭いてくれた。
眠気が、波みたいに押し寄せてきた。
「少し、寝ろ。俺は、いるから」
ジュドーの声が、遠のいていく。
わたしは、まぶたを閉じた。
気づくと、わたしは、光の中に立っていた。
見たこともない、広い広い場所。きらきらした乗り物が、くるくる回っている。
遊園地。
「プルツー!」
名前を呼ばれて、振り向く。
そこに、あの子が、立っていた。
わたしと同じ顔。少しだけ短い、後ろ髪。
「……プル」
「やっほー! はじめまして、じゃないよね。えへへ」
プルは、ぱたぱたと走ってきて、わたしの手を握った。
あたたかい。
夢のはずなのに、ちゃんと、あたたかい。
「ここね、あたしの好きな場所なの。ジュドーと一緒に、よく来たんだよ」
「……あなたは、もう、死んでいるのに」
「うん。でも、夢の中なら、会えるでしょ?」
プルは、あっけらかんと言った。
その笑顔に、胸がちくりと痛んだ。
「ごめんなさい」
わたしの口から、言葉が、こぼれた。
「わたしは、あなたを殺した」
「あはは、知ってるよ」
プルは、わたしの手を、ぎゅっと握り直した。
「でもね、あたし、ぜんぜん怒ってないよ。だって、あんたは、あたしの妹だもん」
「……妹」
「うん。たったひとりの、妹」
その言葉が、胸の奥に、すっと染みこんだ。
「ねえ、プルツー。観覧車、乗ろ!」
「かんらんしゃ」
「うん、あのおっきい丸いやつ!」
プルは、わたしの手を引いて、走り出した。
ふたり並んで、ゴンドラに乗る。
ゆっくり、ゆっくり、空へ昇っていく。
遠くの景色が、小さくなる。
「きれい……」
「でしょ? ここから見ると、ぜんぶ、ちっちゃいんだよ。悲しいことも、苦しいことも、ちっちゃく見えるの」
プルは、窓の外を見つめながら、小さく笑った。
けれど、その横顔が、少しだけ、寂しそうだった。
「……どうしたの」
「ううん。ただ、ね」
プルは、ゆっくりと、わたしの方を向いた。
「あんたの妹たちが、泣いてるよ」
世界が、ぱりん、と割れた。
夢の景色が、白い光に塗りつぶされていく。
『……こわい』
『グレミーさまが、いない』
『どうして』
『だれか、たすけて』
無数の声が、頭の中に、一斉に押し寄せた。
――妹たちだ。
グレミーの死を知った、プルシリーズの少女たち。
マスターを失って、心の支えを失って、泣きじゃくっている。
『行かなきゃ』
わたしは、起き上がろうとした。
でも、身体が、動かない。
『だめだよ、プルツー。あんた、いま動いたら、死んじゃう』
プルの声が、必死に引き止める。
『あの子たちのことは、あたしが、ちゃんと見てる。だから、あんたは、ここにいて』
「でも!」
『ごめんね。……あたしも、全部は、助けられないの』
プルの声が、苦しそうに震えた。
遠くで、爆発の光が、いくつも、瞬いた。
誰かの悲鳴が、ひとつ、またひとつ、消えていく。
その中で、たったひとつだけ、必死に遠くへ逃げていく、小さな光があった。
――逃げて。
わたしは、心の中で、祈った。
――どうか、生き延びて。
その光は、闇の向こうへ、すうっと消えていった。
「プルツー、プルツー!」
目を開けると、ジュドーの顔が、すぐそばにあった。
「うなされてたぞ。大丈夫か」
「……はい」
わたしは、息を整えて、静かに言った。
「ジュドー。お願いが、あります」
「なんだ」
「ハマーンのところへ、行くんでしょう」
ジュドーの目が、わずかに見開かれた。
「……どうして、それを」
「わかるんです。……あなたが、これから、戦いに行くことが」
プルが、そっと、わたしに囁いた。
『ねえ、プルツー。ジュドーを、ひとりにしないでね』
わたしは、頷いた。
そして、ゆっくり、ジュドーの手を握った。
「……生きて、帰ってきてください」
ジュドーは、驚いた顔をして、それから、力強く笑った。
「ああ。約束する」
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