機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。見えてしまう未来は、ちっとも、便利じゃない。
見えたって、何も、変えられないことの方が、ずっと多いから。
医務室の天井が、ゆらゆらと揺れていた。
艦が震えている。遠くで、大きな爆発が、何度も起きている。
わたしは、ベッドの上から、動けなかった。
枕元の空のカップが、かたん、と小さく鳴った。
――あとで、また、あーんしてもらえるかな。
そんな小さな願いが、胸の隅っこで、ひっそり揺れていた。
身体が、言うことをきかない。包帯の下で、傷が、ずきずきと脈を打っている。
けれど、感応波だけは、驚くほど、澄んでいた。
『……きこえる?』
プルの声が、耳のすぐ後ろで囁く。
「うん。……きこえる」
わたしは、目を閉じた。
宇宙の闇の向こうで、たくさんの光が、ぶつかり合っていた。
量産型キュベレイの群れ。
その中心で、巨大な機体が、1機だけ、必死に踊っている。
ゲーマルク。
キャラ・スーン。
『ああ……あの人、すごいね』
プルの声が、小さく震えた。
『あたしの妹たちに、囲まれて。それでも、ぜんぶ、受け止めてる』
「……優しい人」
『うん。キャラは、ずっと、あたしのこと、お姉さまって呼んでくれてたもん』
その時だった。
ゲーマルクの光が、ふっと、薄くなった。
『お姉さま』
誰かの声が、感応波の奥に、かすかに響いた。
『いま……そちらへ』
光が、消えた。
プルが、小さく、息を呑んだ。
『……キャラ』
「ごめんなさい」
わたしは、唇を噛んだ。
「わたしの妹たちが……」
『ううん』
プルは、首を横に振った気がした。
『あの子たちも、悪くないよ。グレミーに、そうされただけだもん』
その声は、泣きながら、笑っているみたいだった。
艦が、大きく揺れた。
ネェル・アーガマが、隕石コロニーを、コア3へ突き飛ばしたのだ。
巨大な岩が、光の艦隊を呑みこんでいく。
ハマーンの艦隊が、ほとんど、消えた。
その向こうで、ひとつだけ、静かな光が、燃えていた。
ジュドーのZZと、白いキュベレイ。
ふたりだけの、戦い。
『ハマーン、すごく強いね』
「うん……でも」
わたしは、その光に、そっと感応波を重ねた。
ハマーン・カーンの心。
冷たくて、まっすぐで、誰にも触れさせなかった、孤独な光。
けれど、その奥に、ほんの少しだけ、あたたかいものが、灯っていた。
『あの人、さみしかったんだね』
「……ずっと」
ふたりの光が、ぶつかる。
白い光が、一瞬だけ、まぶしく膨らんで、そして、静かに、遠ざかっていった。
満ち足りたような、安らかな波だった。
『……ハマーン』
「行ってしまった」
わたしは、そっと目を開けた。
その瞬間、全身に、冷たい震えが走った。
『プルツー! コア3が、崩れる!』
見えた。
崩れていく、巨大な構造物。逃げ場のない、狭い通路。
その中心で、ひとりの少年が、取り残されている。
ジュドー。
「……っ」
『だめ。ジュドーが、ひとりで』
「分かってる」
わたしは、歯を食いしばった。
動かない身体を、無理やり、起こす。
「エル、ルーを呼んで。……艦橋へ、連れていって」
駆けつけたエルが、驚いた顔をした。
「プルツー!? ダメだよ、そんな身体で!」
「お願い」
わたしは、まっすぐ、エルの目を見た。
「あの人を、助けたいの」
エルは、一瞬ためらって、それから、力強くうなずいた。
「……わかった。肩、貸すよ」
艦橋は、騒然としていた。
ブライトの声。イーノの声。警報の音。
「プルツー!?」
ブライトが、驚いて振り向いた。
「艦長。お願いが、あります」
わたしは、シートに、崩れるように座りこんだ。
息が、苦しい。視界が、少しずつ、白くなっていく。
『だいじょうぶ。あたしが、支えてる』
プルの声が、わたしの背中を、そっと押した。
「ハイメガ粒子砲を……撃ってください」
「なんだと」
「コア3の、右舷の隔壁。……そこが、ジュドーの出口です」
「しかし、味方が」
「大丈夫」
わたしは、静かに言った。
「あの人は、そこにいない。……今、そこから、見えます」
艦橋が、しんと静まり返る。
ブライトが、数秒だけ、わたしの目を見つめて、そして、叫んだ。
「イーノ! ハイメガ粒子砲、右舷隔壁に照準!」
「り、了解!」
イーノの声が、震えていた。
「発射!」
白い光が、闇を貫いた。
隔壁が、轟音とともに、砕け散る。
その向こうから、白い機体が、飛び出してきた。
ZZガンダム。
「……ジュドー」
わたしは、その姿を、確かに見た。
生きて、いる。
ほんとうに、よかった。
視界が、ゆっくりと、霞んでいく。
力が、身体から、抜けていく。
『プルツー』
プルの声が、すぐ隣で、優しく響いた。
『よくがんばったね』
「……うん」
『えらいよ。ほんとに、えらい』
「姉さん」
わたしは、はじめて、そう呼んだ。
プルの声が、ぱっと、花が咲くみたいに弾んだ。
『うん、なぁに?』
「いっしょに、行こう」
『うん。いっしょに、行こ』
目の前に、光が、あふれてきた。
観覧車。回転木馬。甘いにおい。
誰かが、手を、差し出している。
その向こうで、あの人が、笑っていた。
「あぁ……お兄ちゃん」
わたしは、小さく、そう呟いた。
その言葉は、星の光みたいに、静かに、とけていった。
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