機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。人間は、追い詰められると、とんでもないものに手を伸ばす。
あたしにとって、その日が、まさにそれだった。
月面都市グラナダの宇宙港。その一角の露店市場は、朝から人でごった返していた。
あたし、ルー・ルカは、買い出しの途中で、ふと足を止めた。
実は、ここ数日、ずっと、ひそかに気にしていることがあった。
――ジュドーに、「ルーって、年上のわりに、案外、抜けてるよな」って笑われたのだ。
冗談だって、分かってる。分かってるけど。
「……なにこれ」
露店の台に、色とりどりの小さなカードが、ずらりと並んでいる。
「インディアン・ポーカーだよ、お嬢さん」
店主が、にやりと笑った。
「他人の夢を、まるごと追体験できるカードさ。最近は、見ているうちに、役に立つ知識まで身につくって評判でね」
「へえ……夢を、ね」
あたしは、半分聞き流しながら、並んだカードを眺めた。
その中の1枚に、目が吸い寄せられた。
ラベルには、こう書いてある。
『巨乳御手(バストアッパー)』
――とびきりの変人技術者の夢が詰まった、1枚。
「……ほしい」
反射的に、手が動いた。
電光石火。
指先がカードに触れた瞬間、反対側から、もう1本の手が、ぴたりと重なった。
「……っ!」
顔を上げると、同じ年頃の女の子が、あたしの手首を掴んでいた。
ふわふわのショートヘア。眠たそうな目。
リコ・タヴィス。
ネオ・ジオンの非合法工作班、『アイテム』の少女だった。
「……手、離して」
「そっちこそ」
「これは、私が先に見つけた」
「あたしが先に、触ったんだけど」
ばちばち、と火花が散りそうな視線がぶつかる。
数秒の沈黙のあと、リコは、ぽつりと言った。
「……あなた、このカードが欲しい理由は」
「えっ」
「私は、あります。切実な」
その目が、びっくりするほど、真剣だった。
「……うちの班長に、毎日からかわれるんです。『あんたは永遠に子どもっぽいわね』って」
「それは、きついわね」
「でしょう」
あたしも、観念して、小さく息を吐いた。
「……あたしも。ある」
視線が、同時に、お互いの胸元に落ちた。
沈黙。
「……同盟、組む?」
「異議なし」
ふたりは、がっちりと握手を交わした。
その手は、思ったより、あたたかかった。
夢に入る。
カードを胸に当てて、目を閉じる。
意識が、ぐるりと反転した。
気づくと、あたしは、見知らぬ研究室に立っていた。
壁一面に、巨大なモニター。無数のコード。散らかったコーヒーカップ。
「ようこそ、僕の夢へ」
白衣の男が、両手を広げて笑っていた。
「ここでは、すべてが望みどおりになるんだ」
「……ほんとに?」
あたしが目を輝かせたその時、背後から声が飛んだ。
「ちょっと待って」
リコが、眉をひそめて、研究室の隅を指さした。
「あれ、見て」
そこには、見覚えのある顔が、いくつも並んでいた。
赤い彗星のような男。白いモビルスーツに乗った青年。
そして、栗色の髪をなびかせた、凛々しい女性パイロットたち。
「……なんか、あたしたちの知ってる人、混ざってない?」
「夢の主が、好きなキャラを集めただけかも」
「趣味、偏ってるわね……」
研究室の窓の外には、観覧車が、ゆっくり回っていた。
遊園地。
その手前で、同じ顔をした、ふたりの女の子が、手をつないで笑っている。
――あれ、どこかで。
思い出す前に、夢の景色は、ふわりと遠ざかった。
結局、その夢の中では、あたしもリコも、ぜんぜん望みどおりにならなかった。
夢の中でも、現実は厳しいらしい。
「……惨敗ね」
「……惨敗です」
「でも、ちょっと楽しかった」
「……そうですね。誰かと一緒に、こんなことを悩んだのは、初めてかもしれません」
ふたりは、がっくりと肩を落とした。
「ちょっと、そのカード、返して!」
目を覚ますと、露店の店主が、慌てた声を上げていた。
黒いカラス型のペット・ドローンが、ぱたぱたとカードを咥えて、ドームの空へ舞い上がっていく。
「あっ、ちょっと!」
あたしとリコが追いかけたが、ドローンは、あっという間に屋根の向こうへ消えた。
「……取り返せませんでしたね」
「うん。……でも、まあ、いいかな」
あたしは、肩をすくめた。
あんな夢に頼らなくても、あたしはあたしだ。
そう思えた自分が、少し、おかしかった。
「ええっ!?」
その時だった。
向こうの路地から、エルの素っ頓狂な声が響いた。
「な、なんで! さっきまで普通だったのに!」
駆けつけると、エルが、目を丸くして、露店の少女を指さしていた。
ドローンが落としたカードを、拾ったのだろう。
名もない露店の少女が、夢のような「恩恵」を、ぽかんと受けていた。
あたしとリコは、顔を見合わせて、そして、同時に、苦笑いした。
「……世の中、不公平ね」
「……ええ」
エルは、そんな私たちには気づかず、携帯端末のカメラを、ミリィに向けていた。
「ほらほら、見て、ミリィ! わたし、ペン回し、こんなにできるようになったんだよ!」
ペンが、くるくると、鮮やかに回った。
エルは、とても満足そうに笑っていた。
その横で、あたしとリコは、顔を見合わせたまま、肩を落としていた。
お気に入り登録や評価で応援していただけると大変励みになります!