機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。偶然の出会いは、たいてい、しょうもないきっかけから始まる。
エルとフレンダの場合は、鯖缶だった。
その日、エルは、宇宙港の裏路地を歩いていた。
「お昼、何にしようかなあ」
その時だった。
「あああああっ!」
路地の向こうから、女の子の悲鳴が聞こえた。
見ると、金髪の少女が、地面にしゃがみこんで、頭を抱えている。
足元には、ひっくり返った、鯖缶。
「……あの、大丈夫ですか」
「だ、だめ……だめなのよ……」
少女は、涙目で、エルを見上げた。
「あたし、1日1缶、鯖缶を食べないと、禁断症状が出ちゃうって訳よ……」
「は、はあ」
「それなのに……最後の1缶が……っ」
地面の鯖缶は、完全に、潰れていた。
エルは、数秒ためらって、それから、ポケットから、同じ鯖缶を取り出した。
「……これ、よかったら」
「えっ」
「さっき、露店で買ったの。1つ余ってて」
「あ、あんた……神様?」
「ちがいます」
少女は、がしっと、エルの手を握りしめた。
フレンダ・カイエン。
ネオ・ジオンの非合法工作班『アイテム』の一員だ、と名乗った。
結局、放っておけなくなったエルは、フレンダを、自宅に招いて、昼食をふるまった。
「いやー、助かった訳よ! あんた、いい子すぎない?」
「お人好しって、よく言われます」
「その鯖缶、絶対にまた食べさせて!」
「はいはい」
ふたりは、すっかり、鯖缶の話で盛り上がった。
「あんた、料理うまいわね! この煮込み、最高って訳よ!」
「えへへ。実家の味をちょっとアレンジしたの」
「班長にも食べさせたいけど、あの人、辛いの苦手だから」
「班長さん、辛いのダメなんだ」
「秘密だけどね。バレたら、あたしの命がないって訳よ」
エルは、思わず吹き出した。
窓の外では、ドームの人工の夕空が、あたたかな橙色に染まっていた。
食事のあとには、メッセージ・アプリのIDを交換した。
それからというもの、毎日、フレンダから、メッセージが届くようになった。
『今日の鯖缶ランキング、発表するって訳よ!』
『上司がまた機嫌悪いんだけど、どうしよう……』
『それ、あんまり悪口書いちゃダメだよ。命に関わるかも』
『命に関わる!? まじで!?』
エルは、携帯端末を見ながら、くすくす笑った。
返信を打つ指が、少し弾んでいた。
いつの間にか、毎日のメッセージを、楽しみにしている自分がいた。
――なんだか、不思議な縁だなあ。
その日の夕方。
エルは、買い物の帰り道に、見慣れない黒いワゴンの横を通りかかった。
「あれ……?」
その瞬間、背後から、腕が伸びた。
「む、むぐっ……!」
口を塞がれて、視界が、暗転する。
ワゴンの中に、引きずりこまれた。
「目標、確保」
冷たい声が、頭上から降ってきた。
「例の『インディアン・ポーカー』の件で、この子が目撃者らしい」
スクール。
ネオ・ジオン残党の、非公式部隊だった。
遠く離れた路地で、その光景を、見ていた少女がいた。
「……エル!?」
フレンダだった。
買い物袋を放り投げて、携帯端末を取り出す。
「もしもし! ビーチャ!? 今すぐ来て! エルが、さらわれたって訳よ!」
『はあ!? 誰にだよ!?』
「いいから、急いで! 場所は、宇宙港の南の路地裏!」
『わかった、すぐ行く!』
ビーチャ・オレグの声が、通話の向こうで、慌ただしく響いた。
フレンダは、携帯端末を握りしめたまま、走り出した。
宇宙港の廃倉庫。
黒いワゴンが、乱暴に停まる。
「おとなしくしろ」
エルは、後ろ手に縛られて、床に座らされていた。
「……な、何するのよ」
「それは、こちらの台詞だ」
暗がりの奥から、背の高い男が、ゆっくりと歩み出た。
ウルフ。
スペースウルフ隊の生き残りで、通称「ウルフ」。かつての隊長ラカン・ダカランの遺志を継ぐ、残党の指揮官だった。
「君が、あのカードの夢を見た少女の友人だな」
「見てないわよ! あたしは、ただの目撃者で!」
「真実かどうかは、こちらで判断する」
「そんなの、横暴よ!」
エルは、縛られた手首をばたつかせて、必死に睨み返した。
足は震えている。それでも、目だけは、逸らさなかった。
「ほう。気丈な娘だ」
ウルフの口元が、わずかに緩んだ。
「だが、威勢だけでは、助けは来ないぞ」
「来るわよ。……友達が」
その言葉を口にしてから、エルは、自分でも、少し驚いた。
いつの間に、あんな鯖缶好きを、友達だと思うようになっていたんだろう。
ウルフが、冷たい視線を向けた、その時。
「待ちなさい!」
倉庫の入り口で、金髪の少女が、仁王立ちしていた。
フレンダだった。
「その子に手を出したら、この鯖缶爆弾が、黙ってない訳よ!」
「……鯖缶、爆弾?」
ウルフの眉が、わずかに動く。
「ええ。あたしの鯖缶には、特製の爆薬が詰まってるのよ」
フレンダは、にやりと笑って、スカートの裾を、ひらり、と持ち上げた。
そこから、次々と、小型の爆弾が、ころころと転がり落ちる。
「あんたのポケットは、いったい何次元なの……」
エルが、呆れたように呟いた。
「準備は万端って訳よ」
ウルフが、静かに、ナイフを抜いた。
「面白い。……では、お手並み拝見といこう」
次の瞬間、倉庫の中に、爆発音が、轟いた。
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