機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
才能と、努力。持って生まれたものと、掴み取るもの。——その違いを、あたしはこの人から教わった。
宇宙世紀0088年。居住区の訓練施設で、あたし、エルピー・プルはバイオ・センサーの感度調整に四苦八苦していた。
「あーもう!このサイコウェーブ視覚化モニター、数字ばっかりで全然おもしろくない!」
モニターを叩こうとした背後から、凛とした声。
「プル、精密機器を乱暴に扱わないの。感応波を一点に集中させる練習でしょう。基礎ができていないパイロットは、戦場ですぐに撃墜されるわよ」
現れたのは、ジャッジメント第7支部のリーダー格で、あたしたちの教育係、イリア・パゾム。ネオ・ジオンの士官でありながら、卓越した戦術眼と、目に見えない殺気をいち早く察知する直感能力を買われて、この支部を任されている大人だ。
「イリアさま!今日もお姉さまへの愛の指導を、ありがとうございます——ジャッジメントですのっ!」
過剰な敬礼で割り込むキャラを、イリアは呆れ顔で受け流す。
「……キャラ。あなた、私に向かってその決め台詞を叫ぶのは、順序がおかしいでしょう。それはあなたたち後輩が、現場で名乗る言葉。私に敬礼する時の台詞じゃない」
「うっ……も、申し訳ございませんイリア先輩!お姉さまの感応波を浴びると、つい……!」
「ほら、やっぱりあたしのせいにされた」あたしは肩をすくめる。
——けれど、あたしの心は、ちっとも軽くなかった。イリアは、鋭い。この人の直感なら、あたしがジュドーを匿っていることに、いつ気づいてもおかしくない。敵の潜入者を隠すあたしと、殺気を誰より早く察するイリア。ばれたら、終わり。
「ミリィ、状況は?」イリアがミリィ・チャイルドの管制パネルへ視線を移した。
「はい。居住区第5ブロックの配給管理センター付近で、異常な電力サージを確認。……これは、レベルアッパーによる脳波同調に似たノイズです」
その言葉が終わる前に、爆発音。配給物資を積んだコンテナ・トラックが、ゲートを突き破って猛スピードで逃走していく。
「ジャッジメント、出動よ。プル、キャラ、行くわよ」
現場へ急行する。逃走犯は、レベルアッパーで擬似的に空間把握能力を高められた非能力者たちだった。無秩序に挙動を変え、追跡する警備プチMSの死角を突いて逃げ回る。
「……見えない場所に逃げたつもりでしょうけど、無駄よ」
イリアが目を細める。彼女のニュータイプとしての天性は、障害物の向こうの熱源や、犯人の焦りから生じる精神の残り香を、正確に捉えていた。
「ミリィ、第3ルートのシャッターを閉鎖。プル、あなたは左のダクトから回り込んで、感応波で車両の姿勢制御系にノイズを送りなさい。……そこよ」
イリアが指したのは、厚いコンクリート壁の向こう側。あたしは彼女を信じて、壁越しにバイオ・センサーを最大出力で解放した。あたしの意志が、目に見えない磁場の網となって壁を透過し、逃走車両の電子基板を直接揺さぶる。
「えいっ」
トラックはスピンして、閉鎖されたシャッターの前で横転した。這い出す犯人が隠し持ったグレネードを取り出す——その手首を、イリアの麻酔弾が正確に撃ち抜く。
「自分の器を超えた力を振るえば、代償は必ず自分に返る。……あなたたちが汚した規律は、私がきっちり正してあげる」
静かな、けれど圧倒的なプレッシャーに、犯人たちは戦意を喪失して崩れ落ちた。
事件解決後。夕闇のベンチで、イリアが差し出してくれた冷たい飲み物を飲みながら、あたしは思い切って聞いてみた。
「ねえイリア。……プル・シリーズって、知ってる?あたしと同じ顔の、妹達のこと」
イリアの横顔が、ほんの少し、強張った。
「……知っているわ。私も、止められなかった。あの子たちは、あなたという“成功作”のバックアップとして量産された。——万が一、あなたが壊れたときの、替えの部品としてね。それに今、その演算を回すために、能力を持たない子どもたちまで攫われている」
替えの部品。攫われた子ども。……その言葉に、あたしはジュドーの妹の顔を——まだ見ぬリィナの顔を、思い浮かべた。
「でもプル。あなたが心配することじゃない、なんて言わない。力を持つ者は、その力を持たない者のために、どう振るうべきか。そして、自分と同じ痛みを持つ者を、どう救うべきか。それを、常に問い続けなさい」
イリアは少しだけ優しく笑い、あたしの頭を撫でた。そして、ふと、真剣な声で付け加えた。
「……プル。1つ、忠告よ。最近、基地に“エゥーゴの潜入者”が紛れ込んでいるという噂がある。もし見つけても——あなたは、余計なことに首を突っ込まないこと。いいわね?」
どきり、とした。あたしは、平静を装って頷く。……ごめん、イリア。あたし、もう、首まで突っ込んじゃってるの。