機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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ドッペルゲンガー

先に言っておく。同じ顔が2つ並ぶ光景は、見た目よりずっと、心臓に悪い。

 

あたしは、その日、それを身をもって知った。

 

「ルー。ちょっと、お願いがあるの」

 

セイラ・マスは、静かに紅茶のカップを置いた。

 

月面都市グラナダの、小さな石造りの家。窓の外では、ドームの人工の夕空が、ゆっくりと茜色に染まっていく。

 

あたし、ルー・ルカは、背筋を伸ばして、向かいの椅子に座っていた。

 

「お願い、ですか」

 

「ええ。『インディアン・ポーカー』のことは、もう知っているわね」

 

「……ええ。ちょっと、いろいろあって」

 

先日の露店のことを思い出して、あたしは、そっと目をそらした。

 

「あのカードで見た夢が、悪用されているの。軍の施設や大企業の、内部情報が漏れているのよ」

 

「夢から、ですか」

 

「他人の夢を追体験できる、ということは、夢の持ち主の記憶まで覗けるということ。誰かが、その仕組みを利用している」

 

セイラさんは、一枚の資料を、あたしの前に滑らせた。

 

「開発者は、リョウコ・クリバリ博士。かつて、ネオ・ジオンの研究機関にいた女性よ」

 

「ネオ・ジオンの……」

 

「博士は、いま、別の実験にも関わっているらしいの。……『魂の生成』と呼ばれる、おかしな実験に」

 

その単語に、背筋が、ぞくりとした。

 

「魂の、生成」

 

「ひとつの身体から、ふたりのサイボーグを作り出す。そういう研究だと聞いているわ」

 

「そんなこと……できるんですか」

 

「それを確かめてほしいの」

 

セイラさんは、まっすぐに、あたしを見た。

 

「あなたなら、現場に潜入できる。その代わりに、あなたとジュドーが、ジュピトリスIIに乗れるように、私から口利きをしておくわ」

 

あたしは、数秒、黙りこんだ。

 

木星行きの便は、志願者が多すぎて、なかなか席が取れないと聞いていた。

 

「……分かりました。やります」

 

「ありがとう、ルー」

 

その瞬間だけ、セイラさんの表情が、ふっとやわらいだ。

 

窓際で、リィナが、プリンを皿に盛りつけながら、こちらを覗いている。

 

「ルーさん、頑張ってね。帰ってきたら、新作のデザート、試食してもらうから」

 

「ありがとう、リィナ。楽しみにしてる」

 

その笑顔に、背中を押された気がした。

 

夜の研究所は、不気味なほど静かだった。

 

宇宙港の外れ、古い倉庫を改装した建物。

 

あたしは、裏口の警備をかいくぐって、廊下を進んでいく。

 

「……ここね」

 

突き当たりの扉の隙間から、白い光が漏れている。

 

そっと、覗きこむ。

 

そこには、ガラスの水槽がいくつも並んでいた。

 

水槽の中に、人影が浮かんでいる。

 

人間の形をしている。けれど、その半分は、金属の骨格と、細いコードでできていた。

 

「な……に、これ」

 

思わず、声が漏れた。

 

「見られてしまったわね」

 

背後から、女の声がした。

 

振り向くと、白衣を着た女性が、静かに立っていた。

 

長い髪。穏やかな目。

 

リョウコ・クリバリ博士。

 

「あなたが、依頼人の使い?」

 

「……ええ。ここで何をしているんですか」

 

「簡単な話よ」

 

博士は、にこりと笑った。

 

「あたしの身体を、バラバラにして、欠けた部分を機械で補った。そうして、ひとつの身体から、ふたりのあたしを作ったの」

 

「……ふたりの、あなた」

 

「ええ。オリジナルのあたしと、機械で出来た、もうひとりのあたし」

 

さらりと、恐ろしいことを言う人だった。

 

「どうして、そんなこと」

 

「魂が、どこに宿るのか、知りたかったから」

 

博士は、水槽の中の影を、愛おしそうに見つめた。

 

「でも、困ったことが起きてね。あの子、いま、自分が本物だと信じ始めているの」

 

「あの子」

 

「機械のあたしよ。……あ、ほら」

 

博士が、振り返った、その時だった。

 

ガシャン、と音を立てて、奥の水槽が砕け散った。

 

現れたのは、白衣の女性だった。

 

博士と、まったく同じ顔。

 

けれど、その右腕と、左脚は、ぎらぎらと光る金属でできていた。

 

「……ドッペルゲンガー」

 

あたしの口から、勝手に、その言葉が漏れた。

 

『わたしが、本物』

 

金属の女は、低い声で、そう呟いた。

 

『あなたこそ、偽物。わたしの身体を、壊した、偽物』

 

「違うわ。あなたは、わたしが作った……」

 

『黙れ』

 

金属の腕が、ぶん、と空を切った。

 

博士の身体が、壁際に叩きつけられる。

 

「博士!」

 

あたしは、とっさに駆け寄ろうとした。

 

けれど、その横を、ドッペルゲンガーが、風のようにすり抜けていった。

 

「待ちなさい!」

 

追いかけようとして、足が止まる。

 

博士が、腕を掴んで、弱々しく言った。

 

「やめなさい。あの子は、危険よ」

 

「でも」

 

「いいから、聞いて」

 

博士の目が、真剣だった。

 

「あの子は、わたしの記憶を、全部持ってる。そして、わたしがどこにいるのかを、必ず探しに来る」

 

「……」

 

「いずれ、あなたにも、危険が及ぶわ」

 

その時、研究所の入り口で、激しい爆発音が、轟いた。

 

警報が、けたたましく鳴り響く。

 

『侵入者あり。侵入者あり』

 

あたしは、息を呑んだ。

 

「まさか……」

 

廊下の向こうから、重い足音が、近づいてくる。

 

黒い装備に身を固めた、武装集団。

 

その先頭に立つ男が、冷たい声で言った。

 

「回収に来た。『ドッペルゲンガー』は、どこだ」

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