機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

71 / 74
屍喰部隊(スカベンジャー)

先に言っておく。悪者になる人の理由が、必ずしも悪いとは限らない。

 

あたしは、その日、そのことを思い知らされた。

 

宇宙港の裏手の、人気のない広場。

 

ドームの人工の夜風が、冷たかった。

 

「……あなたが、依頼人の使い、ね」

 

リョウコ・クリバリ博士は、ベンチに腰かけて、静かに微笑んだ。

 

あの研究所の騒ぎのあとで、あたしの方から連絡を取った。

 

彼女は、少しも逃げようとしなかった。

 

「あのコピー、どうなってるんですか」

 

「ドッペルゲンガー、のこと?」

 

博士は、膝の上で、そっと指を組んだ。

 

「あの子はね、もともと、あたしの『魂』の複製なの。身体は機械だけど、中身は、あたしと同じ」

 

「魂って……そんなもの、本当にコピーできるんですか」

 

「理屈の上では、ね。でも、問題が起きた」

 

博士は、静かに目を伏せた。

 

「複製された魂は、身体を持たない時間が長いと、周囲のあらゆるものに、乗り移ってしまうの」

 

「乗り移る……」

 

「機械でも、道具でも、乗り物でも。……放っておけば、いずれ、この街ぜんぶを呑みこんでしまう」

 

ぞっとした。

 

「だから、『インディアン・ポーカー』を作ったの。魂が迷子にならないように、夢の中に、居場所を用意するために」

 

「居場所を、夢の中に」

 

「ええ。……少なくとも、あたしは、そう信じてた」

 

博士の声が、かすかに震えた。

 

どこか釈然としない。

 

でも、その瞳は、嘘をついているようには見えなかった。

 

「どうして、そんな実験を」

 

あたしが、そう聞くと。

 

博士は、ふっと笑った。

 

「母がね、もう長くないの」

 

「え」

 

「ずっと、あたしを育ててくれた人。……その人を、どうしても、助けたくて」

 

あたしは、言葉を失った。

 

「ごめんなさいね。変な話を聞かせて。……もう、行くわ」

 

博士は、立ち上がって、ゆっくりと歩き出した。

 

その背中が、ひどく小さく見えた。

 

あたしは、声をかけようとして、出来なかった。

 

暗がりの中を、博士は、ひとりで歩いていた。

 

その前に、すっと、人影が立ちはだかった。

 

白衣の女性。

 

けれど、右腕と左脚は、ぎらぎらと光る金属で出来ている。

 

ドッペルゲンガー。

 

「……やっと、見つけた」

 

金属の唇が、にたりと笑った。

 

「わたしが、本物。あなたは、偽物」

 

「やめなさい。あなたは、わたしが作った……」

 

その瞬間だった。

 

闇の中から、黒い影が、次々と飛び出してきた。

 

「目標、確認」

 

「回収する」

 

武装した、4つの人影。

 

あの時、研究所に踏みこんできた集団だ。

 

屍喰部隊。

 

ネオ・ジオンの残党の中でも、とりわけ汚れ仕事を請け負う、非公式の回収部隊。

 

「捕獲しろ」

 

リーダー格の女が、冷たく命じた。

 

リタ。

 

その部隊の指揮官だ。

 

4人が、一斉に、ドッペルゲンガーへ飛びかかる。

 

けれど。

 

『触らないで』

 

ドッペルゲンガーが、手をかざした、その瞬間。

 

屍喰部隊の持つ銃が、ひとりでに、彼女たち自身へ向いた。

 

「な……っ!?」

 

「武器が、乗っ取られた!?」

 

悲鳴が、夜の広場に響いた。

 

あたしが駆けつけた時には、すでに、地獄絵図だった。

 

地面に倒れた隊員たち。

 

その中心で、ドッペルゲンガーは、辺りの金属を、ぐにゃりと自分の身体に取りこんでいた。

 

街灯。ベンチ。放置された、小型の作業用機械。

 

それらが、彼女の身体に、じゅるじゅると溶けこんでいく。

 

「うそ……」

 

『もっと』

 

おぞましい声が、広場に響いた。

 

『もっと、わたしに、ちょうだい』

 

「やめて!」

 

あたしは、ドッペルゲンガーの前に、割って入った。

 

「博士を、返して!」

 

『博士?』

 

金属の女が、首をかしげた。

 

『わたしが、博士。あの女が、偽物』

 

「違う!」

 

あたしは、叫んだ。

 

「あなたは、博士じゃない。あなたは、博士が、お母さんを助けたくて、作った、もうひとりの命でしょう!」

 

ドッペルゲンガーの動きが、止まった。

 

その隙に、あたしは、倒れていた博士を抱き起こした。

 

「……ありがとう」

 

博士は、かすれた声で言った。

 

「あの子に、そんな風に言ってくれたの、あなたが、初めてよ」

 

その時、背後から、ばきばきと嫌な音がした。

 

振り向くと、部隊のひとり、セイガが、よろよろと立ち上がっていた。

 

「……邪魔をするな。その女は、わたしたちの獲物だ」

 

「獲物なんて言わないで」

 

あたしは、ゆっくり、セイガに向き直った。

 

「この人は、あなたたちの道具じゃない」

 

「ふん。子どもに、何が分かる」

 

セイガの手が、腰のナイフに伸びる。

 

あたしは、身構えた。

 

彼女の足元に、すっと、小さなものが転がった。

 

丸い身体に、ぱたぱた動く耳。

 

ハロ。

 

『ハロ、ハロ。ゴ注意ヲ』

 

次の瞬間、ハロが、ぱっと眩しい光を放った。

 

「うわっ!?」

 

セイガが、目をつむる。

 

その隙に、あたしは、彼女の腕を取って、地面に組み伏せた。

 

「お仕置き、って、言ったでしょう」

 

セイガが、悔しそうに呻いた。

 

「くっ……!」

 

息を整えて、あたしは、顔を上げた。

 

その視線の先で。

 

ドッペルゲンガーが、ゆっくりと、身体を膨らませていた。

 

街灯も、ベンチも、作業機械も、すべてを呑みこんで。

 

巨大な、金属の塊が、夜空に向かって、そびえ立つ。

 

『わたしが、本物』

 

その声は、もう、人間のものではなかった。

 

『この街も、わたしのもの』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。