機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。ひとりで抱えこむ癖がある人間ほど、他人のそれには、よく気がつく。
あたしは、その夜、博士の背中を見て、動けなくなった。
宇宙港の裏手に、冷たい風が吹いていた。
あたしは、広場の隅で、ぼんやりと立ち尽くしていた。
――母がね、もう長くないの。
博士の声が、耳から離れない。
たったひとりで、秘密を抱えて。
たったひとりで、責任を背負って。
その姿が、あの日の自分に、重なった。
ラビアンローズから、コア・ファイターを、ひとりで輸送していた時のこと。
「あたしがやる」と言い張って、誰にも頼らず、ひとりで全部を背負いこもうとした。
あの時、ジュドーに、言われたっけ。
――ひとりで頑張るなって。
「……ほっとけない」
あたしは、小さく呟いた。
「博士を、ほっとけない」
踵を返して、走り出した。
博士のもとへ、戻るために。
広場に戻ると、そこには、すでに、先客がいた。
黒ずくめの4人組。
屍喰部隊。
「……あなたたち」
あたしが睨むと、リーダーのリタは、ぎくっと肩を跳ねさせた。
「ま、待ってくれ! 我々は怪しい者ではない!」
「怪しいに決まってるでしょう!」
「いや、違う! 我々は、ドッペルゲンガーの所有者である研究機関から、正式に依頼を受けた、捕獲チームだ!」
リタは、目をぐるぐると泳がせながら、必死に言い訳を並べ始めた。
「その、さっきの交戦は、手違いというか、お互いの誤解というか……」
「ナイフで襲ってきたのに?」
「あ、あれは、その、ちょっとした挨拶というか……」
「挨拶でナイフ?」
「じゃなくて! えっと、あの!」
リタが、完全にパニックを起こしていた。
後ろの3人が、「リーダー、がんばれ」と小声で応援している。
あたしは、思わず吹き出しそうになって、慌てて口を押さえた。
「……分かった。話だけは、聞く」
「ほ、本当か!?」
リタの目が、ぱっと輝いた。
「ありがとう! 君は、いい人だ!」
握りしめられた手が、ぶんぶんと、勢いよく振られた。
「単純ね、あなた」
「よく言われる!」
リタは、なぜか誇らしげだった。
「胸を張って言うことじゃないわよ」
リタの説明は、こうだった。
ドッペルゲンガーは、身体の損傷を補うために、周囲の物質を、手当たりしだいに取りこむ性質を持っている。
「だから、機械でも、建物でも、乗り物でも、なんでも吸収してしまう」
「それって……」
あたしの背筋が、ぞくりとした。
博士の言葉が、頭をよぎる。
――魂は、周囲のあらゆるものに、乗り移ってしまう。
「博士の恐れていた、『魂の拡散と憑依』が、現実になりかけてる」
「そういうことだ」
リタは、深くうなずいた。
「だから、我々には、君の力が必要だ。……レールガン、いや、ルー・ルカ」
「あたしの、名前を」
「調べはついている。コア・ファイターを運んだ、元エゥーゴのパイロットだな」
リタの目が、ほんの一瞬、鋭く光った。
――この人たち、本気だ。
でも、同時に、不思議なことにも気づいた。
リタは、あたしを利用しようとしている。
その上で、同じ目的のために、手を組もうとしている。
ずる賢いけれど、悪い人ではなさそうだった。
「……分かった。共同戦線、組んであげる」
「恩に着る!」
「ただし、博士には、手を出さないで」
「もちろんだ。それにしても、君は、ずいぶん落ち着いているな。年の割には、しっかりしている」
「年の割に、は余計」
「す、すまない! いや、その、あまりに貫禄があるから、いくつも年上かと……あ、違う!」
「…………」
あたしの額に、ぴき、と青筋が浮かぶ。
「いや、その、いい意味で! 頼もしい、という意味で!」
「ふーん。じゃあ、あなたにも、お仕置きの余地を、あげましょうか」
「ひいっ!」
リタが、目をぐるぐる回して、後ずさった。
「もちろんだ!」
リタが、ぶんぶんと首を縦に振った。
その背後で、3人が、顔を見合わせて、ひそひそ話をしている。
「リーダー、あれ、たぶん、嘘ついてるのバレてるよ」
「しっ、聞こえるぞ」
その時だった。
地響きが、広場を揺らした。
「来たぞ!」
夜空に、巨大な影が、ゆっくりと立ち上がる。
ドッペルゲンガー。
街灯も、ベンチも、作業機械も、そして、ドックに停泊していた貨物船さえも。
すべてを取りこんで、巨大な金属の塊と化していた。
『わたしが、本物』
おぞましい声が、街じゅうに響いた。
『この街も、わたしのもの』
「でかすぎる……」
リタが、青ざめて呟いた。
あたしは、ぎゅっと拳を握った。
「博士は、どこ」
「あの塊の中だ! 取りこまれた!」
「なら、ここで、止める」
あたしは、走り出した。
向かう先は、宇宙港の格納庫。
格納庫の隅に、旧式のネモが、1機だけ眠っている。
除隊の時に、顔なじみの整備士が、こっそり預かってくれていたものだ。
コクピットに飛び乗って、エンジンを始動する。
「ルー、本気か!」
リタが、通信越しに叫んだ。
「ええ。あたしは、いつも、本気よ」
機体が、夜空へ舞い上がる。
眼下に、金属の塊が、うねうねと身体を揺らしていた。
あたしは、操縦桿を握りしめて、ひとつ、深呼吸をした。
「――行くわよ」
ネモの頭部が、まっすぐ、ドッペルゲンガーへ向く。
光が、闇を貫いた。