機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
先に言っておく。質量には、質量で対抗するしかない場面が、人生には、たまにある。
あたしは、その日、巨大なものに立ち向かうことになった。
夜空を、金属の巨獣が、塗りつぶしていた。
ドッペルゲンガー。
街灯、作業機械、貨物船、瓦礫。
取りこめるものを、手当たりしだいに取りこんで、ビルほどの高さまで膨れあがっている。
「でかすぎる……!」
ネモのコクピットで、あたしは、思わず息を呑んだ。
『ルー! 聞こえるか!』
通信に、リタの声が入る。
『あの巨体、正面から削るのは無理だ! 弱点を探せ!』
「分かってる!」
あたしは、ネモを旋回させた。
ビームライフルを撃ちこむ。
けれど、金属の塊は、びくともしなかった。
『わたしが、本物』
『この街は、わたしのもの』
巨大な腕が、あたしの機体へ振り下ろされる。
「くっ!」
ぎりぎりで回避した。
その時、リタが、青ざめた声で叫んだ。
『ルー、下を見ろ! 燃料タンクが!』
宇宙港の外れに、巨大な燃料タンクが並んでいる。
ドッペルゲンガーの腕が、その1基を、ごっそりと掴んでいた。
「まさか」
次の瞬間、巨獣は、燃料タンクを、街の中心へ向けて、投げつけた。
「やめて!」
あたしは、全力で機体を急上昇させた。
大型のビーム・ランチャーを構える。
「撃ち抜く!」
光が、闇を貫いた。
空中で、燃料タンクが爆発する。
轟音と閃光。
街の上空が、赤く染まった。
けれど、爆風は、住宅街に届く前に、ぎりぎりで押しとどめられた。
「……間に合った」
肩で息をしながら、あたしは、操縦桿を握りしめた。
でも、その時、気づいた。
ドッペルゲンガーの動きが、止まっている。
巨獣は、爆発の方向を、じっと見つめていた。
『……見つけた』
その声は、どこか、ほっとしているように聞こえた。
『あの光の先に、隠された船が、ある』
「船?」
あたしは、レーダーを確認した。
爆発の閃光の向こう。
偏光欺瞞で、姿を隠していた、巨大な影が、浮かび上がっていた。
ステルス貨物船。
『そうだ。あれが、研究データのバックアップを積んだ、隠し船だ』
リタが、愕然と呟いた。
『あいつ、最初から、これが目的だったのか……!』
あたしとリタたちは、全速力で、貨物船へ向かった。
甲板に降り立つと、そこには、すでに、先客がいた。
白衣の女性。
リョウコ・クリバリ博士が、ひとり、金属の巨獣と向き合って立っていた。
「博士!」
「来てくれたのね、ルー」
博士は、振り向いて、穏やかに微笑んだ。
「あの子と、話をつけに来たの」
巨獣が、ゆっくりと、金属の腕を下ろした。
その身体が、みるみる小さくなって、やがて、人の形を取った。
右腕と左脚が金属の、白衣の女性。
「……オリジナル」
ドッペルゲンガーが、静かに言った。
「あなたは、わたしを、作った」
「ええ」
「そして、わたしを、捨てた」
「違うわ。捨てたんじゃなくて……」
「違わない」
ドッペルゲンガーの声が、震えた。
「わたしは、あなたの、代わりに作られた。あなたの、都合のいいように」
博士は、唇を噛んだ。
「ごめんなさい。あなたの言うとおりよ。あなたを生み出したことで、あなたを苦しめてしまった」
博士は、一歩、前へ歩み出た。
「だから、わたしの命を、あげる」
「え」
あたしが、思わず声を上げた。
「博士、何を言ってるの!」
「あなたの身体が欲しいなら、それでもいい。わたしと入れ替わっても、構わない」
博士は、まっすぐに、ドッペルゲンガーを見つめた。
「あなたに、償いたいの」
数秒の沈黙。
やがて、ドッペルゲンガーは、かすかに笑った。
「……違う」
「え」
「わたしが、欲しかったのは、あなたの身体じゃない」
ドッペルゲンガーは、ゆっくりと、首を横に振った。
「わたしは、ただ、終わりたかった」
その言葉に、あたしは、息を呑んだ。
「こんな風に、生み出されたこと。こんな風に、誰かの代わりであること。……ぜんぶ、終わらせたかった」
「そんな……」
博士の目から、涙が溢れた。
「だから、探していたの。データのバックアップを。それを壊せば、わたしを複製する材料が、なくなるから」
ドッペルゲンガーの金属の身体から、青白い光が、ふわりと立ちのぼった。
「お願い、オリジナル。……わたしを、終わらせて」
次の瞬間。
足元の貨物船が、大きく傾いた。
「うわっ!」
「博士!」
甲板が、斜めに傾く。
博士の身体が、バランスを崩して、滑り落ちていく。
「博士ーっ!」
あたしは、手を伸ばした。
けれど、指先は、わずかに、届かなかった。
博士の姿が、闇の中へ、すっと消えていく。
「うそ……!」
その時だった。
『リーダー! 右舷の下!』
闇の中に、黒い影が、ぱっと飛びこんだ。
屍喰部隊。
リタの合図で、部隊員たちが、一斉に、落下する博士の元へ向かった。
「回収!」
「確保しました!」
セイガが、博士の身体を、しっかりと抱きとめている。
あたしは、ほっと息をついた。
「リタ……あなたたち」
『礼なんて、いらない』
通信の向こうで、リタが、そっぽを向いたような声で言った。
『我々は、任務を遂行しているだけだ』
「素直じゃないわね」
『う、うるさい!』
その声は、ほんの少し、笑っていた。
甲板に、もう一度、視線を戻す。
ドッペルゲンガーが、あたしを、じっと見つめていた。
「ルー・ルカ」
「なに」
「あなたに、お願いがある」
その瞳は、静かで、澄んでいた。
「わたしを、撃ってほしい」
あたしの喉が、きゅっと詰まった。
ネモのコクピットで、ビーム・ランチャーの照準が、彼女へ向いている。
撃てば、全てが終わる。
けれど、撃てば、彼女は、消えてしまう。
あたしは、指を、引き金から、動かせなかった。