機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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私の、大切な友達

先に言っておく。「友達」という言葉は、守れなかった時に、いちばん重くなる。

 

あたしは、その言葉を、あの夜、はじめて、ちゃんと口にした。

 

貨物船の甲板で、あたしは、ネモのビーム・ランチャーを構えていた。

 

照準の先に、白衣の女性が、静かに立っている。

 

右腕と左脚が金属の、ドッペルゲンガー。

 

『撃て、ルー!』

 

通信から、リタの声が響いた。

 

『今なら、射線は通る! 撃て!』

 

「……分かってる」

 

指が、引き金にかかる。

 

その瞬間、リタが、慌てた声を上げた。

 

『待て! 射線上に、人影が!』

 

あたしは、息を止めた。

 

照準の先。

 

ドッペルゲンガーの背後に、小さな救命艇が、かすかに動いている。

 

「……っ!」

 

ぎりぎりで、狙いをそらした。

 

光の束が、夜空へ抜けていく。

 

あたしは、ネモを降りて、ゆっくりと、ドッペルゲンガーの前へ歩み出た。

 

「どうして、撃たなかったの」

 

ドッペルゲンガーが、静かに聞いた。

 

「あの船に、人がいたから」

 

「そう。……優しいのね」

 

「あなた、わざと、死ぬつもりだったでしょう」

 

あたしの言葉に、彼女は、小さく笑った。

 

「……気づいていたのね」

 

夜風が、甲板を吹き抜けていく。

 

「ねえ、ドッペルゲンガー。あたし、分かったの」

 

あたしは、まっすぐに、彼女を見つめた。

 

「あなたが、人や物に乗り移れたのは、魂が憑依していたからじゃない」

 

「……」

 

「周りの機械を取りこんで、遠隔で動かしていただけ。あなたの本体は、最初から、機械だった」

 

ドッペルゲンガーの肩が、ぴくりと揺れた。

 

「魂は、乗り移ってなんかいなかった。……最初から、なかったのよ」

 

その言葉は、あたしの胸に、鋭く突き刺さった。

 

残酷なことを言っている。

 

分かっていた。

 

でも、本当のことを知らないまま、消えていくのは、もっと残酷だと思った。

 

ドッペルゲンガーは、しばらく、黙っていた。

 

やがて、小さく、息を吐いた。

 

「……そっか」

 

「ごめんなさい」

 

「謝らないで。薄々、気づいてたの」

 

ドッペルゲンガーの瞳が、遠くを見つめた。

 

「わたしは、機械の方だった。……あの人の、心の模倣品」

 

「そんなこと……」

 

「だって、そうでしょう? 魂がなくて、感情もなくて、ただ、あの人の記憶を、トレースしているだけ」

 

その声には、もう、怒りも、恨みもなかった。

 

あるのは、静かな、静かな諦めだけだった。

 

「だから、ルー・ルカ。お願い」

 

彼女は、あたしに向かって、微笑んだ。

 

「わたしを、壊して。家電の廃棄と同じよ。あなたが、気に病む必要は、ない」

 

「……できない」

 

「できるわ。あなたなら」

 

彼女は、そっと、あたしの手を取った。

 

その手は、冷たかった。

 

でも、確かに、震えていた。

 

「ねえ、ルー」

 

「……なに」

 

「あなたは、わたしを、友達だと思ってくれる?」

 

あたしは、目を見開いた。

 

「友達……?」

 

「ええ。ほんの、数日の付き合いだけど」

 

胸が、じんと熱くなった。

 

あたしは、迷わず、頷いた。

 

「……思うわよ」

 

涙が、こぼれた。

 

「あなたは、あたしの、大切な友達」

 

ドッペルゲンガーの顔が、ぱっと、花が咲くみたいにほころんだ。

 

「……ありがとう」

 

あたしは、ネモのコクピットに戻った。

 

ビーム・ランチャーを構える。

 

照準の先で、彼女が、静かに目を閉じた。

 

「さようなら」

 

光が、夜空を貫いた。

 

甲板に、静寂が戻った。

 

金属の残骸が、ゆっくりと、粒子になって消えていく。

 

あたしは、膝をついて、拳を握りしめた。

 

その時、背後から、複数の足音が近づいてきた。

 

「ドッペルゲンガーは、どこだ!」

 

白衣の男が、ピストルを構えて、駆けこんでくる。

 

研究所の所長だった。

 

その後ろから、リョウコ・クリバリ博士が、必死に追いかけてくる。

 

「所長、やめてください! あの子は、もう」

 

「うるさい! 研究成果は、回収する! 直せば、まだ使える!」

 

「できません! こんな実験、続けられません!」

 

「何だと」

 

所長の顔が、怒りで歪んだ。

 

「貴様、逆らうのか!」

 

ピストルが、博士の方へ向いた。

 

「博士!」

 

あたしは、とっさに飛び出した。

 

乾いた銃声が、夜空に響いた。

 

「……っ」

 

博士の身体が、ぐらりと傾く。

 

「博士!」

 

あたしが抱きとめた時、博士の肩から、赤いものが滲んでいた。

 

「だ、大丈夫……かすっただけ、よ……」

 

「そんなわけないでしょう!」

 

所長は、呆然と、自分の手を見つめていた。

 

「ち、違う……撃つつもりは……」

 

その瞬間、黒い影が、所長に飛びかかった。

 

屍喰部隊だ。

 

「確保!」

 

リタの声が、響く。

 

ピストルが、からん、と甲板に落ちた。

 

あたしは、博士を抱いたまま、リタを見上げた。

 

「ありがとう、リタ」

 

「礼を言われる筋合いはない! 任務だ!」

 

リタは、また、目をぐるぐる回して、そっぽを向いた。

 

その様子が、おかしくて、あたしは、思わず、泣き笑いになった。

 

数日後。

 

グラナダの病院で、あたしは、ベッドの横に座っていた。

 

「だいぶ、顔色がよくなりましたね」

 

「ええ。お陰さまで」

 

博士は、穏やかに笑った。

 

「ねえ、ルー。聞いてくれる?」

 

「なんですか」

 

「夢の中でね、あの子が、出てくるの」

 

博士は、少し、照れくさそうに、目を伏せた。

 

「正座させられて、延々と説教されるのよ。『もっと自分を大事にしなさい』って」

 

「ふふ、あの子らしい」

 

「魂なんて、なかったはずなのにね」

 

博士は、窓の外のドームの空を見つめた。

 

「でも、あの子は、確かに、わたしの中に、いる気がするの」

 

あたしは、何も言わず、そっと、博士の手を握った。

 

それが、あたしなりの答えだった。

 

出航の朝が来た。

 

宇宙港のロビーには、懐かしい顔が、揃っていた。

 

エル。ビーチャ。モンド。イーノ。ブライト。

 

そして、リィナと、セイラさん。

 

「ルー、ジュドー。忘れ物、ない?」

 

エルが、少し目を赤くしながら、笑った。

 

「あるわけないだろ」

 

ジュドーが、肩のバッグを揺らして見せる。

 

リィナが、頬をふくらませて、プリン・ア・ラ・モードの入った紙袋を差し出した。

 

「約束、守ってね。ちゃんと、食べて」

 

「ああ。絶対、食べる」

 

セイラさんが、静かに歩み出た。

 

「ルー。あなたたちの席は、確かに、確保したわ」

 

「ありがとうございます、セイラさん」

 

「あなたの、友達を思う気持ちに、私は、応えただけ」

 

その言葉に、あたしは、目を細めた。

 

エルが、あたしの手に、小さな鯖缶を、そっと握らせた。

 

「これ、餞別。……フレンダの分も、ね」

 

「エル……」

 

「どこかで、また、会えるといいな」

 

エルは、笑った。

 

その笑顔が、ほんの少し、寂しそうだった。

 

搭乗口の扉が、ゆっくりと閉まっていく。

 

窓の外で、みんなが、大きく手を振っていた。

 

ジュピトリスIIが、宇宙港を、静かに離れていく。

 

小さくなっていくグラナダの光を、あたしは、じっと見つめていた。

 

その時、隣のジュドーが、ふいに、顔を上げた。

 

「……ルー」

 

「なに」

 

「聞こえるか」

 

あたしは、耳を澄ませた。

 

何も、聞こえない。

 

でも、ジュドーの目には、確かに、見えているようだった。

 

遠い宇宙の彼方から、細い、細い声が、届いている。

 

『……お兄ちゃん』

 

冷たくて、頼りなくて、けれど、確かに、生きている声。

 

「また、あの子か」

 

「ああ」

 

ジュドーは、窓に額を押しつけて、星の海を見つめた。

 

「この先、きっと、まだ、何かが待ってる」

 

あたしは、そっと、彼の手を握った。

 

「大丈夫よ。ひとりじゃ、ないでしょう」

 

ジュドーが、ふっと笑った。

 

「……ああ。そうだな」

 

ジュピトリスIIは、星の海へ、静かに、滑り出していった。

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