機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
人工の夜は、今日に限って、凍りつくほど冷たかった。
宇宙世紀0088年。あたし、エルピー・プルは、病院の集中治療室の分厚い強化ガラスに、震える指先を押し当てていた。
「……ねえ、メッチャー。パフェ、あたしが奢ってあげるって言ったじゃない。起きなよ……起きてよ」
ガラスの向こう、無数の生命維持装置に繋がれたメッチャー・ムチャは、ぴくりとも動かない。彼は非合法な擬似サイコミュ・デバイスの代償として感応波の逆流を起こし、意識が戻らない“魂の空白状態”に陥っていた。
彼だけじゃない。アクシズの至る所で、力を求めた非能力者の少年兵たちが、魂を抜かれた抜け殻のように倒れている。
『プルさん、データ解析、完了しました。……これは、あまりにも酷すぎます』
通信機から、ミリィ・チャイルドの震える声。
『レベルアッパーは、装着者全員の脳をバイオ・センサーのネットワークで繋ぎ、巨大な並列演算機として利用するための末端ユニットでした。倒れた人たちは、自分の精神(サイコウェーブ)を計算リソースとして強制的に使い潰されて……そして、その全演算能力は今、たった1人の“管理者”の脳へ集約されています』
「管理者……。そいつが、メッチャーたちの心を盗んだ犯人なんだね」
あたしの怒りに呼応して、周囲の空気がチリチリと音を立てる。バイオ・センサーが過敏に反応し、病室のモニターがノイズで歪んだ。
そのとき、背後の自動ドアが威圧的に開いた。入ってきたのは、ローレン・ナカモト。
「無駄な叫びはやめなさい、検体番号001。今の医学では、彼らの脳波を戻す術はない。彼らは私の理論——擬似感応波拡張ネットワークの完成を証明するための、尊い人柱なのだから」
「あんたが……あんたがメッチャーをこんな目にしたの!」
「これは進化だ。凡人の脳を数千束ねれば、1人の人間が巨大なモビルアーマー並みのサイコ・フィールドを操れる。彼らの脳が焼き切れるのは、その偉大な1歩に必要な、些細なエラーに過ぎない」
「……ふざけないでよ!みんな、あんたの実験道具じゃないんだよ!」
病室の照明が激しく明滅し、火花が散る。あたしの感応波が、物理的な圧力となって部屋を震わせた。
「そして、この演算能力が完成した暁には——眠れるプル・シリーズ全機に、一斉に“起動信号”を送る。1万人分の演算に導かれた、君と同じ波長の兵器の群れ。それこそが、私の最終目的だ。攫った非能力者どもは、その燃料に過ぎん」
「……っ、あの子たちを、道具にするなんて、絶対にさせない!」
そこへ、キャラ・スーンが血相を変えて飛び込んできた。
「お姉さま、大変ですわ!街の各地で昏睡した者たちの脳波が、一斉に逆流を始めました!ネットワークそのものが臨界点に達しようとしていますわ——治安維持局(ジャッジメント)として、見過ごせませんのっ!それと……“あの方”が、単独で施設に突っ込もうとしていますわ!」
“あの方”——ジュドーだ。妹が囚われた施設を見つけて、たった1人で。
「バカ、ジュドー!」あたしは駆け出した。
ローレンが、自分専用のマスター・ユニットを起動する。刹那、病院全体が巨大な磁場に包まれたような重圧に襲われた。数千人分の苦悶と渇望が凝縮されたどす黒い波動が、あたしのバイオ・センサーを焼き切らんばかりに押し寄せる。
「ミリィ、ローレンの逃走経路を逆探知して!それと、ジュドーの居場所も!」
『了解……ローレンは居住区外壁側、第13レーザー通信塔へ。そこの巨大アンテナで、アクシズ全域の放送網を介して、広範囲の脳波を——そしてプル・シリーズへの起動信号を、ジャックした回線で送るつもりです!ジュドーさんは……同じ通信塔の下層に、潜入しています!』
「みんな、同じ場所じゃない……!」
あたしは病院の廊下を駆け抜け、人工の夜の底へと飛び出した。妹達も、リィナも、ジュドーも、メッチャーも——ぜんぶ、あたしが助ける。
「絶対に止めてみせる。みんなの心を、返してもらうんだから」
あたしの咆哮が、アクシズの冷たい壁に反響し、宇宙(そら)の闇へと吸い込まれていく。
——そして、通信塔の頂上で待つローレンは、まだ、たった1つの切り札を隠していた。「1万人の脳による、多才能力(マルチスキル)」。それは、たった1人のニュータイプでは、決して届かない領域のはずだった。