機動戦士ガンダム とあるアクシズの超電磁砲 〜あたしはニュータイプ、指先ひとつで宇宙世紀を撃ち抜く電撃使い〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
1対1。——ただし、相手の“1”の中には、1万人が入っている。
宇宙世紀0088年。第13レーザー通信塔・最上階。吹き荒れる電磁波の嵐の中、あたし、エルピー・プルは、ローレン・ナカモトと対峙していた。
「無駄だと言ったはずだ、プル。私の脳は今、ネットワークに繋がれた1万人の脳と並列化されている。君1人の感応波で、この巨大な意志の奔流に抗えると思うのか」
彼の指先が動くだけで、通信塔の防衛用ビットや、本来なら大規模なサイコミュ・システムが要る遠隔誘導端末が、彼の手足のように精密に、同時に駆動を始める。
「……1万人分なんて関係ない!あんたがやってるのは、みんなの心を盗んで作った、偽物の力だもん!」
あたしはバイオ・センサーを最大出力で解放した。背後の空間が、怒りに呼応して青白く発光する。
「ならば見るがいい。これが多才能力(マルチスキル)——ネットワーク演算が導く、サイコミュ制御の究極の最適解だ」
ローレンが手を振ると、同時に3つの事象が発生した。1つ、不可視のサイコ・フィールドがあたしの機動を封じる。2つ、床の電磁ロックが解除され、破片が弾丸となって襲う。3つ、レーザー送信機がオーバーロードし、退路を焼き払う。
「な……同時に、別々のシステムをハッキングしてるの!?」
「その通り。私の脳は、君が1つを考える間に、1万通りの攻撃をシミュレートし、実行している。勝ち目はない」
飛来する破片を必死に躱しながら、あたしは通信機を叩いた。
「ミリィ!奴の多才能力、並列演算が速すぎて、あたしの干渉が追いつかないよ!」
『プルさん、落ち着いて!彼の多才能力を支えているのは、ネットワーク化された脳波の“周波数の一致”です。1万人の脳が同じリズムで刻むことで、1つの巨大な回路として機能している。……そのリズムを、わずかでも乱せれば!』
その時。通信塔の下層から、あたしと同じ回線に、荒っぽい声が割り込んできた。
『プル!こっちの演算ユニットの1つ、俺が物理的にぶっ壊した!妹を——リィナを、見つけたぞ!ちゃんと息してる!』
ジュドーだ。潜入した彼が、ネットワークの末端を、力ずくで叩き切ってくれたんだ。
「ジュドー、ナイス!ローレンのリズムに、穴が空いた!」
あたしは目を閉じ、深く、深く意識を沈めた。ローレンが操る冷たい計算の波。その隙間に、あたしはメッチャーや、倒れていったみんなの——不揃いで、あたたかい「生きたい」という心の形を探す。培養槽で眠る妹達の寝息も。囚われたリィナの、震える鼓動も。
「……みんな、あたしに力を貸して!妹達も——姉さんに、力を貸して!」
あたしの感応波が、空間そのものを震わせる巨大な波動となって放たれた。それは攻撃じゃない。ネットワークに囚われたみんなの魂へ向けた、純粋な呼びかけ。
刹那、ローレンの背後のビットが一斉に機能を停止して落下した。
「な……私の演算ネットワークに、ノイズが混入しているだと!?1万人の脳波同調を、たった1人の意志で乱しただと!」
「……1人の意志じゃないよ。これは、みんなの本当の気持ちだもん」
あたしは一気に距離を詰め、彼の手からマスター・ユニットを叩き落とした。ネットワークの核を失ったサイコ・フィールドが霧散し、通信塔を包んでいた嵐が止む。
『プルさん、やりましたね!昏睡状態だった人たちのバイタルが、正常値に回復し始めています。メッチャーさんも、リィナさんも、無事です!』
「……終わりだよ、ローレン・ナカモト。あんたの偽物のネットワークは、もう、どこにもない」
崩れ落ちるローレンを見下ろし、あたしは深く息を吐いた。……これで、終わり。そう、思っていた。
でも。ネットワークが強制切断されたその瞬間——ローレンのマスター・ユニットから、意図しない“信号”が、たった1つだけ、漏れ出していた。行き場を失った1万人分の演算能力が、最後の力で、居住区の地下深く、プル・シリーズの培養槽へと——「起動信号」の、断片を。
あたしは、まだ、気づいていなかった。眠っていた妹達の、その1体が。ゆっくりと、瞼を開けようとしていることに。