奏視点
あれからどれくらい経っただろうか。大輝の手術の時間が、非常に長く感じた。実際長かったかもしれないし、本当は一瞬で終わってたのかもしれない。でも大輝の生死が分からないこの状態が、本当にしんどかった。
そして、長い待ち時間の後で、手術室の重い扉が開き、中から執刀した医師と思われる人物が出てきた。
「「先生、大輝はどうだったんですか⁉︎」」
すぐさま大輝のお父さんとお母さんが言葉を投げかける。私も早く結果が知りたかったと同時に、その先の言葉がもし悪いものだったら聞きたくない、という気持ちが同居していた。お願い、どうか生きてて………っ!
「手術は成功しました。」
ひとまず安堵する私。ただ、明らかに何か含みがある言い方だ。手術室の中から大輝の元気な声が聞こえてくるような雰囲気ではない。
「「というと………?」」
「彼の意識は戻っていません。ここから3日が山場だと思います。」
「「そんな………」」
そういうことか。まだ大輝が生き返るかは分からない。むしろここから先が勝負所だと。しかも手術が終わってこれだから………あとは何も手の施しようがない、ともとれる。下手したら詰み………。でも私はやっぱり、大輝が帰ってくる可能性を捨てたくない。大輝が帰ってくることだけを考えていたい。だからか、
「大輝に声をかけていいですか?」
「いいですよ。しばらくしたら病室に彼を移しますので、その時にお願いします。」
「ありがとうございます。」
その数分後、私は出てきた大輝に対して………
「お願い、大輝。帰ってきて!一緒に全国金、獲ろう‼︎」
彼の手を握り、そう言葉を投げかけたのだった。
次の日、私は何人かを連れてお見舞いにきた。
「大輝、みんなを連れてきたよ。」
「大輝君〜、お疲れ〜!部長だよ〜!」
「1年生係だよ〜!」
「求だ。」
「パートリーダーだよ……」
「靖也だぜ。おい大輝、早く起きてナンパするぞ!」
「ナンパはダメ!かなぴ〜がいるでしょ!」
「久石をナンパすればいいのでは?」
「それは違うと思う‼︎///」
「……………」
そうして皆は大輝に対して声をかけるも、返事は無し。まだ目覚めないのかな?お願い、このままずっと目覚めないのだけは………っ!もう話せないなんて、嫌だよ‼︎
次の日も、私たちはまたお見舞いにきた。今度は低音パートの皆+加藤先輩を連れて。
「大輝先輩、来ましたよ‼︎‼︎」
「ほら、サリーの旦那ですよ!」
「いつもみたいに嫉妬しないんですか⁉︎」
「帰ってきてくれると………嬉しいです………」
「久石先輩のシケた面がウザいんで、早く戻ってきてくれません?」
「華子ちゃんもツンデレってますし、お願いします!」
「それはツンデレなの?」
「お〜い、大輝君〜?葉月だぞ〜!」
「……………」
でも、相変わらず返事無し。
「大輝…………」
「ほら、久石が寂しがってるぞ。」
「早く帰ってきてね〜!」
「待ってるから。」
山場と言われる3日間もあと1日。もし明日目覚めなかったら………。日に日に大輝の死という現実が近づいてくる。そして、段々と心電図を見るのが怖くなってきた。
そして、次の日。倒れてから3日目にお見舞いに来た時も………
「大輝……………」
大輝はまだ目覚めていなかった。
大輝視点
なんだろう、この景色は………?これは、俺が通ってた小学校………?走馬灯、みたいなものか………?
「ねえねえ、荒川君ってどんな人なんだろう?」
「さあ?話してるの見たことないよね〜。」
「そうだよね〜。」
そういや俺、小学生の時までは無口な奴だったな。何を喋ったらいいのか分からなくて、話しかけられても戸惑ってしまう。そんなだからか、次第に俺に話しかける人は居なくなったっけ。そんな自分が嫌で、そのせいで余計に自信を無くして喋れなくなる。そんな負のループに陥っていたな。
そして次は………俺の家?学ラン着てるから、中学の時か………?
「あの子、可愛かったな…………」
この時は確か、初めて会った女の子に一目惚れした時だっけ。でも内気な俺は、話しかける勇気も起きなかったんだよな。
「へ〜、誰々〜?」
「い、いや………なんでもないよ、お母さん………」
「これはあれだな。一目惚れ。」
「ちちち、違うし‼︎///」
そして、ボソッと言った事を両親に聞かれてたんだった。
「勇気を持って話しかけたら、意外と上手くいくかもよ?」
「そうね。あなたもそうだったわねぇ。」
「懐かしいな。」
「そ、そう…………///」
表では興味ないフリをしつつも、実際には父親の言う事を聞こうと思い始めていたなぁ。元々こんな自分が嫌で、どこかで変わりたかった。変わるなら、今がチャンスかな?勇気を持って話しかければ、明るい自分になれるかな?そんな事を思いながら、ネットで見たかっこいい男の真似をして告白した。
そしたら、見事に玉砕。しかも相手からバカにされる始末。腹が立った俺は、相手のことも揶揄ったなぁ。そしたらその日から、ソイツと一緒にいることが増えた。無意識のうちに近くにいるように。その影響からか、他の人とも段々と、積極的に話せるようになった。今思えば、ホントいいきっかけだったな。
そして、次は………中2のコンクールの日か。確かこの日、ブチギレたっけ、先輩方に。しかも今までにないくらいの勢いで。懐かしいな。確か、アイツをバカにされたから怒ったんだっけ。アイツ自体ムカつく奴なのにな。ホント意味分からねえ。
それで、次は同じ高校に進学して………同じく吹部で、色んな時間を過ごしたな。お互いが別の3年生の先輩につっかかって、最初のコンクールで全国行けずに先輩方に謝って、2人で福岡行ってラーメン食べて、ソロコンの全国金の演奏を聴かせることが出来て、あがた祭りに一緒に行って、轢かれた時にすぐ病院に駆けつけてくれて、またもや全国金獲れなかった時に一緒にリベンジを誓って、2人で幹部になって、沖縄でソリを吹いて、2人でスカイツリーに行って、2人で色々練習して………
ああ、ここで終わりか………。くそっ、一緒に全国金を獲るって約束したのに………。また俺は全国の舞台に参加できないのか。嫌だ、嫌だなぁ…………こんなところで終わりたくない‼︎全国金獲りたい‼︎もっとアイツと一緒に居たい‼︎こんなところで死にたくないよ、久石‼︎
奏視点
今日も目覚めなかったら、いよいよダメかもしれない。そのあまりに悲しい現実は、とても私には受け入れ難かった。大輝の手を握り、必死に祈る。お願い、頼むから…………っ‼︎
「ひさ………いし………?」
その刹那、大輝の声がした。驚いて顔を見ると、彼の目がかすかに開いているのが見えた。よかった。大輝、帰ってきてくれた……っ‼︎本当に、良かった………っ‼︎
「わぁぁぁぁぁぁあ‼︎」
「ちょっ………あたま………いた………」
「良かった、良かったぁぁぁぁぁぁ‼︎」
私は嬉しさのあまり、涙が止まらなかったのだった。