奏視点
私が歓喜に浸っていると………
「大輝君は目覚めた直後で頭が痛いので、お静かに。」
「す、すいません。大輝もごめん。」
「いい………よ………」
お医者さんに怒られた。ホントごめん、大輝。つい嬉しくてはしゃいじゃった。
「「「「すいません………」」」」
ちなみに大輝の両親や他のみんなも歓喜の声をあげていたので、私と一緒に怒られた。ホントごめんね、大輝。頭痛いのに。
しばらくしたのち、私たちは大輝とは別室に集められて、
「さて、これからのことをお話ししましょう。」
お医者さんから話を聞くことになった。
「大輝君はこれから数日間、耐えがたい頭痛と発熱が続くでしょう。しかし、それも次第に治ります。」
まずは症状がまだ続くこと。
「ですが、後遺症が残る可能性が半分くらいあります。ですので、吹奏楽部に戻れない可能性もあります。当然私たちの方でも最善は尽くしますが、その可能性があることを頭に入れておいて下さい。」
そして、吹奏楽部に戻れないかもしれないこと。下心とはいえ、大輝があれだけ目指していた全国金の舞台に乗れないかもしれない。車に轢かれた時とは違って、まだ完治が間に合う可能性もあるけど………この重傷で残り1ヶ月、しかもオーディションを考えたら2週間だ。正直かなり厳しい。
「最後に、大輝君を応援してくれて、ありがとうございました。」
そしてそんな中で、お医者さんは私たちに感謝してくれた。そんな、私の方が感謝すべきなのに。大輝のことを助けてくれて。
「こちらこそ、ありがとうございました。」
「いえいえ。今後とも、よろしくお願いします。」
今は大輝が帰ってきてくれた嬉しさと、お医者さんへの感謝で胸が溢れていた。
大輝が目覚めた翌日、私と梨々花は滝先生と今後の方針について話していた。
「荒川君の件ですが………オーディションの日をどうしますか?今まで通り、本番の2週間前にします?」
全国大会のオーディション。これに出られなければ、大輝は全国大会の舞台で吹くことは出来ない。彼の実力を見込んでオーディションを後ろにずらしてもいいけど、それだとメンバーが決まらないことにより、演奏の完成度が落ちるかもしれない。そもそも後遺症の影響で、前までみたいに吹けない可能性の方が高い。
「そうですねぇ〜。奏に決めさせます〜?大輝君のことですし〜。」
「それは………いいですね。」
「梨々花、滝先生………」
そんな中で、梨々花は私にパスしてきた。大輝が帰ってくることに賭けて、大輝のために他の人に悪影響を与えるか、それとも…………
いや、大輝なら、そんな事は望まないだろう。なんせあの日、完璧な実力主義なら上手い人が選ばれるべきだと、そう言ったような人だから。だからこそ、オーディションの日程を自分のためだけに変えることはしない。元々あったオーディションの日程に、自分を合わせる。そして、他の人と全く同じ条件で、オーディションに臨むことを望む。だから、私が答えるべきは………
「オーディションの日は変えず、今日から2週間後の土曜、本番の2週間前にしましょう。大輝ならそれを望むので。」
「分かりました。久石さんの言う通り、それでいきましょう。」
「ありがとうございます。」
「分かりました〜!」
当初の予定通り。これだけだ。
また、大輝のドラムメジャーの代わりは美玲がやることになった。元々マーチングでそれに近いポジションをやってたし、大輝が骨折してた間の学生指揮も経験してる。だからか、とても頼りになった。
「お〜!みっちゃんすごいね〜!」
「大輝に比べれば全然、だよ。」
「あれは凄すぎるので〜。ね〜、奏〜?」
「そうだね。」
「奏、心ここにあらず………」
「やっぱ大輝君が居ないからね〜。」
「うん………///」
「「奏が素直に⁉︎」」
「そんなに驚くこと⁉︎」
あと、私は元から素直………じゃなかったかもな。なんだかんだ口では嫌々言ってたし、自分のことをそう思い込むようにしてたし。大輝が生死の境を彷徨うようになって、初めて自分の気持ちに気づいた気がする。
その日の放課後、私は梨々花と一緒に帰っていた。
「この後お見舞い行くの〜?」
「もちろん。」
「流石奏〜♪やっぱり2人のイチャイチャは邪魔できませんな〜♪」
「職場見学も兼ねてるからね。」
「またまたそう言う…………って、えっ?」
大輝の件を通して、私の将来の夢が出来たと思う。今まで全く定まってなかった進路が、ここにきてようやく決まったのだ。それは化学系よりは生物系で、そして今まで全く考えてこなかった進路………
「私、医者になろうと思って。」
それは、医者だ。
「お〜!カッコい〜!」
「大輝の件で思ったんだ。いざという時に人を助けられるし、何よりその姿がカッコいい。もちろん大変なことだらけだけど、なってみたいなと思って。」
「いいじゃんいいじゃ〜ん!なりなよ〜、ドクター奏〜♪」
「病気になったら診てあげるよ。」
「わ〜い、ありがと〜!」
私もああやって、大切な人の命を救える存在になりたい。なんなら万が一の時に、大輝や他のみんなの命を救えるようになりたい。
「よ〜し、それじゃあ勉強会だ〜!」
「そうだね。正直今のままじゃ受からなそうだし!」
ただ、医学部は非常に難しい。現状私は中堅から少し上くらいの大学に行ける学力があるが、それより上はかなり厳しい。そして、医学部はどの大学に入るのも難関。今より偏差値を10くらい上げなきゃいけないため、あと半年じゃキツいだろうけど………絶対にやってやる。だって大輝なら、こういう状況でも諦めないだろうから………
大輝視点
目は覚めることができた。久石とも話すことができた。だが死ぬほど頭が痛い。熱も出る。正直文章を1つ考えるのすら厳しい。だけど、やるしかない。リハビリを。俺は絶対に2週間後のオーディションに間に合わせる。そして、必ず受かってやる。久石と一緒に全国金、この手で掴み取るんだ‼︎
奏視点
その日以降、低音パートの練習は今まで以上に気合いが入っていた。
「だいかな先輩が帰ってきた時のために、頑張るぞ〜!」
「「オー!」」
「いや、私はいるから。」
「久石先輩は毎日看病だけしてて下さ〜い。私と佳穂先輩で演奏するので。」
「いや、演奏するのは私と佳穂だから。華子、ごめんね。」
「はぁ〜⁉︎そう簡単に落ちませんから‼︎」
「あの、私が落ちる可能性は?」
「それは無いですね!なんせ北宇治ユーフォの大エースですから!」
「いや、大エースでも落ちることはあるでしょ。」
「私も………頑張ります………」
「先輩に恥ずかしい演奏を聴かせるわけにはいきませぬからな‼︎‼︎」
「アイツには、自分のことだけに集中してもらおう。」
「病み上がりだしね。」
「なんですか、これ………って言われないようにしないと!」
「それ別の人。」
大輝のために演奏を整えるからなのか、あるいは大輝が居ないから、コンクールに出られるチャンスだと思っているのか。いずれにせよ、演奏の質が上がってくれるなら、大輝的にはオッケーだろう。むしろ大輝的には、この雰囲気を喜んでいたりして。自分を起点に、お互いの演奏を高め合う。
「ちなみに、奏先輩のキスで大輝先輩は目覚めたんですか⁉︎」
「私が北宇治の白雪姫なり〜!」
「ぷっw」
「違うから。」
「手を握ってた感じだよ〜!」
「「ひゅ〜!」」
「さつきは余計なこと言わなくていい。」
まあ今の病み上がりの大輝には、そんな喜ぶ余裕は無いか。とにかく私が出来ることは、自分の演奏を高めつつ、勉強をして、毎日大輝のところに通い応援することだけだ。そう思い、私はオーディションまでの日々を過ごしたのだった。