奏視点
オーディションの翌日から、私たちコンクールメンバーは最後の追い込みに入っていた。
「トランペット、そこはもっとハリが欲しいです!」
「「「「はい!」」」」
「トロンボーンは縦が微妙にズレてます!」
「「「「はい!」」」」
「荒川大輝君。病み上がりで悪いですが、何か意見は?」
「そうですね。まずホルン、そこ少し和音が乱れてる。直して!」
「「「「はい!」」」」
「それから次は…………」
大輝の体調は日に日に良くなっていた。正確かつ無慈悲に指摘しまくる、鬼のドラムメジャーの復活に、皆の気も更に引き締まった。もちろん美玲がやってた頃も適度な緊張はあったし、
「すいません、ちょっといいですか。」
「どうしました、鈴木さん?」
「バストロ、もうちょっと私たちを聞ける?」
「はい!」
なんなら美玲自身が、第2の大輝になっていた。そうして高められた緊張感の中で、私たちのパフォーマンスが日に日に上がっていくのを感じた。
その日の昼休憩中、私たちは久しぶりに幹部で揃って食べていた。
「大輝君、今日から午後も復帰だっけ〜?」
「そうだな。午後2時までだけど。」
「それじゃあまだ、奏とのラブラブ下校は無いんだね〜。」
「ちょっ⁉︎ラブラブって………っ⁉︎///」
「残念ながら、俺が久石と一緒にナンパするのはしばらく先だな‼︎」
「私を巻き込まないでくれる⁉︎///」
どうやら大輝の下心まで元気になってしまったらしい。そこは治らなくていいのに、とつい思ってしまった。
「奏をナンパする、の間違いじゃなくて〜?」
「それは、その………///」
「5年前にしたぞ。俺の初めてのナンパ相手だったんだ。」
「えっ、そうなの〜⁉︎」
「嘘でしょ⁉︎」
「え〜⁉︎」
そんな事を思ってたら、いきなり大輝のとんでもない事実が発覚。えっ、私が初めてのナンパ相手だったの⁉︎てっきりいつもあんな感じだと思ったのに‼︎
「奏も知らなかったの〜⁉︎」
「そうだよ。だってあの時は変な奴、くらいにしか思わなかったし………」
「自分を変えようと思って、な‼︎」
「変えなくて良かったのに‼︎」
それじゃあ今までは、女の子に頭おかしい口調でナンパする奴じゃなかったってこと⁉︎絶対そっちのが良かったじゃん‼︎なんで変えたし‼︎ホントアホなんだから‼︎
「なるほどね〜。大輝君の初めてを奏が奪ったわけか〜♪」
「その言い方やめて!」
にしても、こうして3人で雑談できるのもあと少しか。そう思うと、なんだか寂しくなってきた。引退したら、大輝は音大の受験のために練習しなきゃいけないし、私と梨々花は勉強しなきゃいけない。更には大学は私が医療系、梨々花が理工系、そして大輝が音大と完全に別。皆東京の大学を志望してるとはいえ、会える時間は間違いなく減るだろう。
「梨々花、大輝。」
「ん〜?何〜?」
「どうした、久石?」
「あと1週間、頑張ろうね。」
「そうだな。」
「うん♪」
そう考えると、残り少ない時間を大切に過ごさなきゃ。そう思った、お昼の時間だった。
それからはあっという間だった。気がついたら前日になり、気がついたら名古屋に着いてて、そして気がついたらコンクール当日を迎えていた。
「「「「大輝君‼︎」」」」
「葉月先輩、久美子先輩、ママ先輩、緑先輩‼︎」
「倒れたって聞いたよ⁉︎」
「大丈夫だった⁉︎」
「はい、なんとか元気になりました!」
「それは良かったです!」
「それと葉月先輩、お見舞いに来てくださって、ありがとうございました!」
「はいよ‼︎」
去年卒業した先輩方に囲まれ、元気に答える大輝。あそこまで回復できただけでも、私としてはとても嬉しいものだ。
「お〜い、荒川君!」
「良かった〜、元気になってくれて〜。」
「お前の姿を見れただけでも安心だ。」
そして、一昨年卒業した先輩方も来てくれ、後藤夫妻の完璧すぎるペアルックを見た大輝が………
「あっ、今元気じゃなくなりました。」
萎えていた。
「ほら、大輝。後藤先輩は心配して来てくれたんでしょ。お礼言いなよ。」
「でもよぉ、久石。俺がリア充嫌いなの、知ってるだろ?」
「あれ?じゃあ荒川君は自分のこと嫌いなの?」
「嘘でしょう⁉︎俺に、彼女が………っ⁉︎どこだどこだ⁉︎」
ちなみに夏紀先輩はトランペットのところにいる吉川先輩とペアルック。これで付き合ってないは正直無理がある。
「それはね………久石ちゃんに聞いてみたら?」
「なんですか、夏紀先輩?ウザいです。」
「あ〜!また久石先輩が夏紀先輩をコケにしてる‼︎許せないんですけど〜‼︎」
「大丈夫だよ、華ちゃん!久石ちゃんは可愛いから〜♪」
「そうですよね、夏紀先輩!」
「ですね!」
「久美子先輩と黒江先輩まで悪ノリしないでください!///」
「先輩方、だいかな恋愛譚の新作です!」
「「「ありがとう!」」」
「渡すな、佳穂‼︎」
それにしても、皆来てくれたんだ。私が1年生の頃からの、お世話になった先輩方。こんなに来てくれたのなら、期待に応えない方が失礼だろう。
「先輩方、聴いてくださいね。私たちの演奏!」
「すげえの見せたりますよ‼︎」
「「「「はいよ‼︎」」」
そして私たちは、先輩方やサポートメンバーと別れ、コンクール会場の中に入ったのだった。
杏奈視点
会場に入る前………
「杏奈先輩‼︎」
私は瑞希と再会した。それと同時に、申し訳ない気持ちが湧いてきた。表向きとはいえ、興味無くなったと言って中学の吹部を辞めたのに、何も言わずに高校で再開したのだから。
「瑞希………その、ごめん。」
だから、すぐに謝った………のだが………
「いいんですよ。私、分かってますから!先輩、私のこと庇ってくれたんですよね?」
彼女は全然気にしてなさそうに、にこっと笑ってくれた。
「えっと………その………」
「それより、先輩の演奏、楽しみにしてます!それと……」
「それと………?」
「来年私北宇治入るんで、よろしくお願いしますね!」
そして、こんな私の演奏を楽しみにしてくれ、更には私と演奏しようとしてくれる。その事実が、とても嬉しかった。
「うん。よろしくね………っ!」
「はい!」
そして私は、瑞希のために頑張ろうと心に決め、彼女に別れを告げて、ホールの中に入ったのだった。
奏視点
会場に入ってから時は経ち、リハーサル………も終わってしまった。最後の練習というものは、こんなにあっという間に終わってしまうのか。これで、課題曲も自由曲も、演奏するのはあと一回。あれだけ苦戦したギルガメッシュとも、次でお別れだ。
「それでは、練習はここまでにしましょう。部長、何か一言、お願いします。」
「任されました〜!」
そして、梨々花が前に立つ。そういや関西の時は私だったな、喋ったの。となると、梨々花の演説は府大会ぶり。さて、何を話すのかな?
「皆〜、今日までついてきてくれてありがとね〜。」
「「「「ありがとうございます!」」」」
「おかげで、楽しい部長生活が送れました〜!これもひとえに、支えてくれた皆のおかげで〜す!皆は梨々花自慢の部員で〜す!だから〜、思いっきり吹いちゃって下さ〜い!そして、全国金、獲っちゃいましょ〜!」
「「「「はい‼︎」」」」
梨々花らしい、なんともゆるふわな挨拶。このいつも通りさが、皆の不要な緊張をほぐしてくれる。そして、梨々花。アンタは私たちにとっても、自慢の部長だよ‼︎
「それではご唱和ください。北宇治ファイト〜、」
「「「「オー‼︎」」」」
そして、私たちはリハーサル室をあとにして、舞台袖へと向かったのだった。
舞台袖では、前の団体が演奏していた。大輝がいるのに、珍しく私たちが最初じゃないという。私たちは2番目。では、最初はどこかというと………
「プログラムナンバー1番。九州代表、清良女子高等学校。」
まさかの黒江先輩の母校だ。あのSNSで聴いたブリュッセルレクイエムは、あの時から更なる進化を遂げていた。その圧巻の演奏に、思わず尻込みをしてしまう。
「大丈夫だ、久石。俺たちだって練習してきたんだ。」
「うん。」
そう思っていると、大輝が小声で話しかけてくれた。そうだ、私たちだってここまでやってきたんだ。あの演奏に負けないくらい、素晴らしい演奏ができる。様々な困難を乗り越えて、その自信を手に入れたんだ。
そして、あっという間に清良女子の演奏は終わり………
「続いては、プログラムナンバー2番。関西代表、北宇治高等学校。」
いよいよ私たちの出番がやってきた。これが北宇治生活最後の演奏。今までの全てを出し切って、全国金、獲るんだ‼︎