自由曲「交響曲第1番『ギルガメッシュ』より第2楽章『巨人たちの戦い』」
の演奏描写があります。曲を聴きながら読むのがオススメです。
奏視点
高校名を呼ばれ、ゆっくりと入場する。拍手で迎えられた私たちは、それぞれの椅子に向けてまっすぐ歩き、必要な譜面台を自分のところに持ってきた。私が今回座るのはユーフォの中でも、チューバ寄りの席。去年久美子先輩が座っていた席だ。一番上手い人が吹く内側の席は、いつしか遥か彼方にいってしまった佳穂の特等席になっている。
そして、今回なんと大輝がめちゃくちゃ近い。チューバは普通一番上手い人が客席手前に来るため、大輝がこんな奥になるのは初めてだ。しかし、彼は病み上がりということもあり、ここの席に。リーダー席は美玲になり、その隣に弥生、そして大輝。その後ろの列は石神井君、月永、さつきだ。
しばらくの静寂の後に、滝先生の指揮棒が下される。それと同時に、私たちが課題曲「マーチ ワンダフル・ヴォヤージュ」を演奏し始めた。最初は低音皆で同じ動き。縦を合わせて、ファンファーレを下から支える。
その次は、クラのメロディー。軽快な旋律が、私たちの素敵な航海を彩っていた。そして、その途中で奏でる、ユーフォとテナーとアルトクラのオブリガート*1。メロディーと対話しながら吹く。大輝に言われた通り、それを徹底した。
そして次は、低音のメロディー。いつもの皆と一緒に堂々と、カッコよく‼︎今までの爽やかな旋律とは対照的に!その後は木管の綺麗な旋律を聴いた後、再びオブリガートを吹いたのだった。
そして、その次はいよいよトリオ。課題曲で一番緊張する中間部だ。ホルンと一緒に奏でる、儚くも美しいメロディー。非常に静かな箇所なので、ワンミスが命取りになる場所だ。でもビビらず焦らず、練習と自信を胸に、なんとか演奏しきった。
その次はしばらく休んだ後、トランペットと同じ伴奏。からのまたもやオブリガート。さっき自分が吹いた旋律を高音楽器が奏でながら、それと対話するように、新たなオブリガートを演奏する。本当にマーチのユーフォというのは、オブリガート専属と言っても過言でないくらいだ。
その後はファンファーレを挟んで、課題曲最後のセクションへ。トリオのメロディーは変わらずだが、オブリガートにトロンボーンが加わり勇ましさを増す。さっきまでの滑らかさとは真逆の、はっきりとしたメロディー。堂々と、航海の最後を彩って、次のギルガメッシュへと繋いだのだった。
これで、課題曲は終了。そしてここから先は、北宇治生活のラスボス曲となった、ギルガメッシュの演奏だ。少しの間の休憩時間で、楽器に溜まった唾を抜き、息を整える。戦いへ向けて。
そして、いよいよ滝先生の指揮棒が振り下ろされた。荒々しい低音から繰り出される八分音符のリズムは、まるで巨大な物同士がぶつかるような衝撃と迫力を演出していた。自由曲冒頭数10秒。低音が命と言われたこの部分で、会場の雰囲気が明らかに変わったのが分かった。
そして、そうして作られた戦場に現れるのは、私たちユーフォとホルンが奏でるギルガメッシュのテーマ。圧倒的な低音で迫力を出し、奏でるというよりは、まるで吠えるように吹いた。ギルガメッシュの暴君っぷりを表すために。
それが終わると、今度は高音楽器によるエンキドゥのテーマが乱入してきた。ギルガメッシュvsエンキドゥ、2人の巨人の戦いを、ユーフォは今度は低音に混ざって伴奏という形で作り上げた。
それが終わると、静寂が訪れる。この休みの間に、クラがソロを吹き、トランペットとフルートが怪しい刻みを吹き、サックスが不協和音を奏でる。それはまるで、嵐の前触れのような、戦いの間の静寂といった感じだった。
そして、戦いは再開。静寂から一気に大音量になり、ど迫力の戦いが繰り広げられる。私たち低音は、巨人の拳や武器がぶつかることから繰り出される衝撃の役割。伴奏でありながら、主役のような、そんな気分だった。
そして一度落ち着き、再度盛り上がった後は………大迫力の低音のメロディー。ギルガメッシュのテーマを低音全員で吠えた。そして、7/8拍子も相まってか、戦いの緊迫感がより増していった。
その低音のメロディーが終わると一気に静かになり、私は休みに。代わりに梨々花の最初のソロだ。フルートの不気味な八分音符の上で、まるで間合いを見計らうかのように、メロディーが奏でられた。その後は一度激しくなり、また静かに。今度は加千須さんのコーラングレのソロからの、えるのファゴットのソロ。ダブルリード大活躍の楽曲だ。
その後は静かに、でも徐々に迫力が増すような箇所に。ユーフォは半音で上がったり下がったりする不安定なメロディーを担当。これから起こる衝撃を予感させるような、彷徨うようなフレーズ。そしてその後は………
弾けろ、フラッターゾーン‼︎金管楽器の巻き舌と木管楽器のトリル、そしてティンパニの八分音符からの、木管楽器とユーフォ&チューバの捲し立てるような連符。戦いのクライマックスへ向けて、最高に盛り上げる‼︎そこからのホルンの吠えるようなメロディー‼︎ギルガメッシュとエンキドゥ、2人の全力がぶつかり合い、その後は全員で同じリズムを叩く‼︎
その最後の締めのタムタムとバスドラムは、戦いの終焉を感じさせるような、そんな音だった。
戦いが終わった後は、穏やかな後半部へ。この辺はユーフォ吹いてないから、皆の音楽を純粋に聴くことができる。
最初にフルートとハープの優しい伴奏が入った後、梨々花が一瞬だけソロを吹き、加千須さんのソロに繋ぐ。加千須さんのコーラングレと、途中からオブリガートで入ってくるさなえのホルンが奏でる愛のメロディーは、ギルガメッシュとエンキドゥ、2人の和解を象徴するようなものだった。
その後、高音木管と中音木管の掛け合いのメロディー。本来は中音木管のパートはチェロがメインなのだが、コンクールでチェロは禁止されている。それをなんと石神井君がコンバスでチェロのパートを弾くという、凄技を披露。緑先輩もきっと客席でびっくりしているだろう。
石神井君の凄技の後は、金管楽器のメロディーに受け継がれる。2人の和解後のお喋りを表すかのような、そんな優しいメロディー。更にそれが徐々に大きくなり、ギルガメッシュとエンキドゥの物語、そして、ひいては北宇治での3年間の物語は、クライマックスへ向け加速していった。
そして、いよいよフィナーレへ。高音楽器が奏でるメロディーと、ユーフォを含む中音楽器が奏でるオブリガート。そして低音などの伴奏たちが一つになり、広大で盛大で、そして感動的なフィナーレを形作っていた。ここを吹いたら私はもう、北宇治で演奏する時間は無くなる。そう思い、私の3年間の全てを吹き込んで、出し切ったのだった。
一瞬の静寂の後に、梨々花の静かなソロが始まる。もう私にできることは何もない。後は3年間戦ってきた親友の音楽を聴くのみ。彼女が奏でる綺麗な音楽は、本当に聴いていて心地が良かった。そしてそのまま、段々と静かになり、北宇治のギルガメッシュは幕を閉じたのだった。
数秒の静寂の後に、滝先生の合図で全員が立ち上がる。するとその刹那、会場全体を拍手が覆った。あぁ、これで私の3年間は終わった。思い返すと、色々あったなぁ。大輝とまた一緒になって、夏紀先輩に喧嘩ふっかけて、全国に行けなくて、大輝のソロコンのサポートをして、黒江先輩に喧嘩ふっかけて、オーディションに落ちて大輝に慰めてもらって、大輝が車に轢かれて心配して、全国金が獲れなくて、リベンジを誓って、幹部になって、2人で沖縄でソリを吹いて、華子に喧嘩をふっかけられて、佳穂に抜かされて、そして大輝が倒れて。本当に、思い出まみれだ。もうここで演奏することはないのだと思うと、思わず涙が溢れてしまいそうだった。
長かった本作も次で最終回です!2人の物語がどういう結末を迎えるのか、お楽しみに!