バラル・ドライブ:神が壊した言葉の街から   作:つきみなも

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第2話 生きるために、行くために

走り出した大通りはまさに阿鼻叫喚(あびきょうかん)で、僕とロムナははぐれないように必死に手をつないだ。

 

「どこかで路地裏に入るよ!大通りにいたら死んでしまう!!」

「ニャ!!」

 

僕たちは言葉を交わさずともその路地裏に転がり込んだ。

砂を払いながら立ち上がると、外套に血がついていることに気づく。

どこもケガをしていないようだから僕やロムナの血じゃない。

 

血なら何度も見てきたけど、これは流石に少し血の気が引いた。

 

「……弾が、もっと要るかもしれない。」

「この道に一度弾を買った機械工房があったはずニャ。でも乗り物がないとこれ以上の弾を運ぶのには苦労するニャ。」

「ひとまず、機械工房にいくか……。」

 

機械工房は銃や弾薬、車両を扱う。

つまりは普通に考えれば真っ先に襲撃される場所だが、ほかにアテがあるわけでもない。

 

機械工房にたどり着くと、店の中から何やら声が聞こえた。

喧嘩をしているような声。これはまずいかもしれない。

僕はホルスターに手をかける。

 

ダン ズダンッ!!

 

ショットガンの重く響く2発の銃声とともに、店の窓ガラスが割れ、血を宙に飛ばしながら男が吹っ飛ばされてきた。

よく見ると、手にはリヴォルバーが握られていた。

 

「クドゥラ……スーカダルーチェ……!」

 

そう言って男は息絶えた。

「この人襲撃者ニャ。ここの店主はもっと老けたおっちゃんニャ。」

「ロムナはちゃんと態度良くしてたのかい?僕はあの男みたいに"イサカ"に撃たれたくないよ?」

「……ライフルを見せたら『超珍しい』とか言って大興奮してたから、多分大丈夫ニャ。」

 

店の中はがらんどうとしていた。

銃も弾薬も、ショーケースにはなかった。

 

「ここの店はすごいニャ。超珍しい私のライフルの7.92ミリ弾をたくさん売ってたニャ。」

「39型対甲猟銃の?」

「ニャ。逆にリウの9ミリがない……かも……ニャ?」

 

店の奥に続く、引きずったような血の跡をたどると、そこには今にも気を失いそうな店主がいた。

まず僕を人を殺す目で見てショットガンに手を伸ばし、ロムナのライフルのシルエットで目をつぶった。

その姿は「もう助けなくていい」というのを言わずとも伝えてきた。

 

「おっちゃん!!!!」

「Panzerbüchse39……デカく……いい……銃。」

「パンツ……?おっちゃん言葉が変だニャ……!」

「弾が……か……?そこに……。」

 

機械工房の店主は大型ライフル用7.92x94ミリと書かれた弾薬箱と、けん銃用9x19ミリと書かれた弾薬箱をゆっくりと指さす。

確かにすごい量だ。それぞれ軽く300発はありそうだった。

しかしこれ全てを持っていくにしても、一部を持っていくにしても重すぎる。どうしたものか。

 

「つい……ついでに……俺のLeichter Kettenpanzer(ライフター・ケッテン・テンパンツァー)……も……。」

「らい……パンツ?おっちゃん!!」

「パンツ……じゃ……ねえよ――。」

 

言い終えると機械工房の店主はその目を閉じた。

僕はショットガンを拾い、抱かせるようにして遺体を寝かせる。そして弾を一発咥えさせる。

昔出会った住む場所を転々とする狩猟民族の"銃を握るもの(シャ・ロガイ)"の弔い方だ。

今はこれぐらいしかできないのが少し悔やまれるが、弔えるだけ御の字なのかもしれない。

 

「……リウ、これ使わせてもらおうニャ。おっちゃんがパンツって呼んでたやつニャ。」

 

ロムナが指さす先には長さ約5メートル程度の小型の装軌式(キャタピラー式)の装甲車が薄暗く鎮座していた。

他ではなかなか見ないような形で、屋根のないオープントップにエンジンを車体の真ん中に配置したミドルシップの設計。

運転席は一人専用らしく、そして全体は堅牢な装甲で守られていた。

 

「パンツじゃないよロムナ。『らいひたー、けってんぱんつぁー』とか呼んでいたはずだよ。」

「難しいニャ。」

「らいひたー……けってん……。」

「『ケテ車』でいいニャ!」

「そんなことより早く弾薬積み込まないと、ここは危険だよ。」

 

僕たちは腰を壊す勢いで全ての弾薬と、使えそうな工具、食料を詰め込んだ。

弾薬はすべてで700発近くあり、その重量は2つに分けて運んでもゆうに40kgはあった。

本当に骨が折れる作業だ。

 

「ハンドルを握る手が……残っていればいいけどっ。」

「ロムナが運転すれば――」

「絶対やめて。」

 

ガレージの鍵を探していると、あの装甲車の設計図と仕様書を見つけた。

あとでしっかり読んでおいた方がいいだろう。適当に扱って壊してしまっては店主に下げる頭がない。

 

「このおっちゃん変態さんニャ。ケテ車のエンジンキーがガレージの鍵と同じニャ。」

「なんでだよ……?!」

 

重々しく響く装甲車らしいエンジン音と、開くガレージのドアから差し込む砂漠の陽に僕は一瞬目をくらます。

遠くからひどい喧騒の雄たけびが聞こえる。

遠くから銃声が響き続ける。

僕はギアを一気に上げ、アクセルを踏んだ。

 

「ロムナ!後ろと上に気を付けて!!!」

「合点承知の助ニャ!」

「あと39型は鈍器じゃないからね!!」

「それは私の勝手ニャ!!!」

 

砂埃とともにキャタピラーがきしむ音を鳴らす。

正面窓から見える景色は、狭くても十分に地獄絵図だった。

僕はアクセルを目いっぱい踏む。

が、街はそう簡単に逃げ出させてくれるつもりはないらしく、荷台の方に衝撃を感じた。

 

「Espèce de salaud!! Moi aussi, je veux survivre !!!!」

「交渉なら分かるように話してちょうだいニャ!」

 

ガ ゥ ンッ!!!

 

背後から激しい轟音が響き渡る。

 

「撃ったの?!!」

「撃ったニャ!!!ハチェットで襲い掛かってくる方が悪いニャ!!!」

「分かってたけどやっぱり過剰すぎるよ!!!」

 

ロムナの銃は本来固い装甲や車に対して使うような、圧倒的な威力を持つ1.6メートルほどの巨大なライフルだ。

それこそ、人に撃てば真っ二つになるような。

本来なら僕が後部座席に乗って拳銃で払うのが役目なのはわかっているが、ロムナの運転で吹っ飛ばされるよりかは、こうしたほうがまだましだ。

 

そんなことを考えていると、路地裏から全身べっとりと重くへばりついた返り血でまみれた男がロケットランチャーを構えて飛び出してきた。

いくら装甲車とはいえ、小型のものだ。

一発でも食らえば木っ端微塵になってしまう。

 

「Suka Blyat!!!」

「なんでお前はロケットランチャーなんか持ってるんだッ!!」

「縺翫l縺ォ繧ゅ◎繧後r繧医%縺帙d!!!!」

「私はコンニャロの相手してるからッ!相手できないッ……ニャ!!!」

 

僕はアクセルにブーツを噛ませ、身を乗り出す。

13発と1発あるとはいえ、一発でも外せば奴は撃ってくる。

そうなれば、僕たちの旅はここで終わりだ。

 

「Р П Г ! !」

 

僕は揺れるケテ車をしっかりと掴み、片手を突きだして構える。

流れる風、それに乗ってくる血の匂いと殺気。

これは当たる。当てる。

 

ガタンッ!!

 

ケテ車が跳ねる一瞬に、男の頭に血しぶきが見え、間一髪で放たれたロケット弾が宙を舞った。

僕は素早く振り返り、ライフルのリロードが出来ていないロムナをマチェーテで襲う女を撃ち殺す。

 

「伏せて!!!」

 

国の外へと出る木製のゲートを粉々にして突き進む。

さっきまで確かに明るかったはずなのに、その一瞬、世界がより晴れて見えた。

振り返ると、あの栄えた街は何処へやら、砂埃の彼方へと消えたようにぼやけていた。

 

「……。」

「これからどこに向かうニャ?」

「……。」

「――私はちょっと寝るニャ。」

 

いつもなら大して煩くない心臓が、やけに騒がしくしている。

少し落ち着くまで走ろう。

夜になるまで走ろう。

 

夜になったら止めて、火を起こす。

火を起こしたら、干し肉と薬草、香料を入れてスープを作る。

それからロムナを起こして硬いパンと一緒にスープを食べる。

それから寝る。

どこまでも続く星空を眺めながら寝る。

それから、

 

それから――

 




リウの夢「山盛りの武器」

「リウ、あっしは圧死しそうニャ……。」
「我慢して、ロムナ。それがなきゃ生きていけないんだから。」

ケテ車の荷台には、ありとあらゆる武器が山積みにされていた。
機関銃からロケットランチャー、狙撃銃に突撃銃(アサルトライフル)、携行型の迫撃砲まであった。
そのなかでロムナは半分埋もれるかたちで乗っていた。

ケテ車が跳ねるたびにものすごい音が鳴り、いろいろなものが軋む音が聞こえる。

「ロムナ、略奪者だよ!!」
「どれ使えばいいニャ?!?!」
「そんなの決まってるよ。」

「――全部だよ。」

一人の略奪者、もとい男が砂漠に半自動式の狙撃銃を構え、カモフラージュしながら待ち伏せをしていた。
1台の軽装甲車を狙っていたのだ。
しかしその軽装甲車は、途中で止まり、何かを降ろし始めた。

次の瞬間、ありとあらゆる物がとんでくる。

12.7ミリの大口径弾、106ミリの無反動砲弾、普通のライフル銃弾、迫撃砲。
いろいろな弾が、いろいろな弾道で男の周りを襲う。
鳴り続ける轟音で全ての音が消し飛ばされ、爆発で舞った砂が全てを覆い隠す。
男は死ぬ気で後ろに退き、頭を抱えた。

しかし幸運だったのか、男には一発も当たらなかった。
しばらくして射撃の手が止んだところ、男はもう一度顔を出す。
一瞬だけ見えた軽装甲者の荷台から、何かが光ったのが見えた。
男は狙いを定め――

次に見た光景は、どこまでも蒼い空だった。


「こんなに武器は要らないのニャ。さっきみたいに私の39型一発で済むのニャ!」
「でも、砂丘の向こう側に略奪者がいたら?」
「リウがガンでズドンニャ。」
「2km先に狙撃手が潜んでたら?」
「私が39型でズドンニャ。」
「……たしかに、ならいらないかもね。」

リウたちが立ち去った数百年語、そこは大きな戦争があったであろうとして、戦争記念公園建てられていた。
リウたちが残した、山のような武器とともに。
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