ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。 作:一般通過社会人
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〜翌日 星屑の庭 団欒室〜
リオンとのデートの翌日。アストレア・ファミリアにはとある情報が入っていた。それは…。
「で?何が起きてるんだよ輝夜?」
「分かりません。分かっていることは、武装したモンスター達によってリヴィラの街が壊滅したと言う事だけです」
「はぁ?」
……フェルズの奴何してんだ?十中八九リド達だろ。大鐘楼が響いた時は何事かと思ったわ。
「皆落ち着いて!とにかく、ギルドからの要請が無い以上私達は動けない!今は静観よ!」
「とは言いましてもなぁ。団長さん、流石に何もしないのは無理がありますよ?」
「まあ、そうなんだがなぁ。動きようが無いだろ。リオンはバイトだし、ギルドはダンマリだし」
「そうなのよね…。普段こういう時は真っ先に私達かガネーシャ・ファミリアに要請が来るのに、変な話だわ」
現状、アストレアファミリアは巡回組(イスカさんにマリューさん)とリオン以外は全員星屑の庭の団欒室に居る。…っと。
「ん?ロイ、何処に行く?」
「部屋です。動けないなら良いでしょ?俺もやる事ありますし」
「本当に部屋だろうな?」
「部屋ですよ」
……輝夜さん鋭いなぁ。窓から行くのは危険か?いや、行くしかないか。
〜自室〜
自室で昨日買ったアイテムで製作した道具達をベルトのホルスターに装着し、ポーション類の予備をバックパックに詰め込み、鎧を着る。外套は…新しいのにするか。
「で、フェルズ。どうなってる?」
『情報が錯綜している…と言うのが現状だ。リド達が何故街を襲撃したのか、全く分からない』
「アイツらにも
『反応が途絶えた』
フェルズと
『準備できたか?』
「ああ。オッケーだ。集合場所は?」
『ギルドだ。窓口でハーフエルフの職員に話しかけてくれ』
「了解」
両開きの窓を開け、周囲を見渡す。……誰も居ないな。
「いってきます…っと」
バレないように呟き、窓から飛び出した。
〜数十分前 ギルド 祈祷の間〜
「神ウラノス!何故あのようなご指示を…!?」
ギルド長のロイマン・マルディールが、自らの主に大声で直訴する。しかしその直訴に対し、当の主は淡々と返した。
「落ち着け、ロイマン」
「ですがっ、一大事なのですぞ!?このままモンスターの侵攻が止まらなければ地上に進出を許し、ひいては我々ギルドの権威がっ、しっ、しっ、失墜を…!?」
管理機関の転覆はもとより、自らの権力の剥奪を恐れる肥満体型のエルフは声を荒げる。だが、目の前の老神は悠然と返す。
「これが本当に地上進出を目指す大移動ならば、モンスターはリヴィラの住人達を追って今頃バベルを突破している筈だ」
「そ、それは…確かに」
「
一旦冷静さを取り戻すエルフを一瞥し、ウラノスは決め手となる言葉を言い放つ。
「何より、私の『祈祷』は破られていない」
「おおっ…!」
その宣言に、ロイマンは顔を輝かせた。ウラノスはこの都市の創設神。その神威をもって長年、迷宮の活性化やモンスターの大移動を食い止めてきた。そのウラノスの口から直接語られる神の威光は、千の理屈を唱えるよりも遥かに大きな説得力をもたらす。
「複数のファミリアによる任務遂行は余計な混乱をもたらす。討伐隊はガネーシャファミリアに一任させろ。まだダンジョンに残っている冒険者達、とりわけ中層以下で探索を続ける者達を救出する役割もある。伝達を急げ」
「かしこまりました!」
「他の指示も追って出す。行け」
「ははあっ!」
ロイマンは一階へと続く階段を駆け上がって行った。それと入れ替わるように…。
「参ったな…!」
「ああ」
気配を絶っていたフェルズが薄闇の奥から進み出る。姿を現すなり焦燥を顕にする
「我々が情報を聞きつけるより早く、ロイマン達が動いてしまった」
「事を荒立てる前に事態を解明し、収束させるのが理想だったのだが…!」
『亜種』と思われる武装したモンスター達による、18階層進攻。これを地上進出の前触れではギルド上層部は早まり、ロイマンの元緊急警報を出してしまった。もっとも、事情を知らない者達から見ればそう思うのも無理は無い。異端児達の中には本来なら上層や中層だけでなく、下層や深層に生息するモンスター達の種族も含まれている。
「情報を信じるなら間違いなく異端児達だ。理由は定かでは無いが、彼等がリヴィラを襲った…!」
信じたくないと言う意思を滲ませながら、フェルズはその身を震わせる。『愚者』を名乗る魔術師は今も動揺と戦っていた。
「何が起きたと思う。フェルズ」
「リドとの連絡が途絶えた一件と、無関係ではないだろう。推測にすぎないが…例の
己への自問であるかのように、ウラノスはフェルズに問う。
「
祭壇に居座るウラノスは静かに瞑目した。
「……指示を出す。使い魔を用意しろ」
「それでは」
「ああ。ロイマンに告げたように18階層にはガネーシャファミリアを向かわせる。都市の守備隊、検問役も全て変更だ。
ガネーシャファミリアに出撃させる建前は、精鋭でモンスター達を迅速に討伐する為。この建前もアストレアファミリアが居るので苦しくはあるが…通らない事は無い。真意は、異端児達を殺させない為。あるいは、冒険者達の返り討ち…異端児達による殺戮を防ぐ為。ギルドとして…都市の管理をする組織としての体裁を保ちつつ、異端児達の存在を明るみにせずに事を収めるため、協力神であるガネーシャに事態の収拾を任せる。
「ヘルメスファミリアはどうする?」
「イケロス達の捜索に当たらせる。それぞれの勢力に密使を送った後、フェルズ、お前もガネーシャファミリアに同行しろ。」
ロイマンには自分が指示する、と言う主の命を、フェルズは承諾した。そして出て行こうとする直前、ウラノスは神妙な面持ちで口を開く。
「フェルズ……ベル・クラネル、ロイの両名をミッションに組み込め」
「…ウラノス、それは」
「此処で見極める。あの少年達を…異端児達の手を取ったと言う、たった二人の冒険者を」
異端児達の隠れ里であった出来事を持ち出し、ウラノスは双眸を細めた。
「状況に流されるだけの子供か、神に踊らされる人形か。あるいは…」
篝火に照らされるフェルズは、ややあって頷いた。
「分かった。貴方の神意に従おう」
〜ロキ・ファミリア本拠 黄昏の館〜
「待機ってのはどういう事だっての!?」
通路に面した一室に、
「俺達が行って仕留めてきた方が速えだろう!!ガネーシャの連中に任せる必要が何処にある!?」
「ベートうるさーい!……でも、本当に何で待ってなきゃいけないんだろう?流れた警報も何だか戸惑ってたし」
館の応接間に、都市最大派閥の主要構成員達が集まっていた。ギルド本部から戻ったアイズの姿もある。ソファに座り、何だか落ち着かない様子で顔を顰めて膝を揺する
「そもそもさぁ。リヴィラが壊滅したの、これまでにも何回かあったじゃん。どうしてこんなに騒ぎになってるの?」
「確かに、少し大事になり過ぎてるわね…都市を巻き込む程のミッションまで発令されて。武装したモンスター、そんなにヤバいのかしら?」
「………」
アマゾネス姉妹のティオナとティオネの傍で黙り込むアイズ。こちらも落ち着かない様子だ。代わりに口を開いたのは…。
「…天然武器ではなく、冒険者から奪った武器を装備しているという情報もある。特異なモンスターであるのは然るべきだろう。『強化種』の可能性も高い。それも集団規模の、な」
ハイエルフのリヴェリアだ。こちらも何処か落ち着かない様子ではあるものの、冷静に意見を述べている。
「なら尚更俺達が行ったほうが良いだろうがッ!」
「少しは落ち着かんか、ベート。まともな、という言い方もおかしいが、単なるイレギュラーでは無さそうじゃ…じゃが、ああ、やはりきな臭い」
苛立つベートを諌めるガレスだったが、彼自身も目元に皺を寄せている。未だに情報を制限しているギルドの不可解な動向に、ロキ・ファミリアは懐疑の念を抱きつつあった。
「まぁ、何にせよ」
ティオネ達の討論を瀬切るように、声が投じられる。振り向いた彼女達の視線を浴びながら、ロキ・ファミリア団長である
「このまま終わる事はないよ、きっと。……勘だけどね」
親指の腹を舐めながら、彼は半ば確信しているように告げる。そして最後に、眷属達は主神の神意を仰いだ。
「…………おいッ!ロキっ!何とか言いやがれ!」
「……ん、おお、すまんすまん。ん〜、蚊帳の外に置かれてるのがちょっと気に食わんけど……ウチもフィンに賛成や」
ロキはその細目を僅かに開け、口端を僅かに吊り上げる。
「続くやろ、これ。オラリオ中を振り回して、な」
…ロキの様子に違和感を感じたフィンが、確かめるべく聞く。
「ところで、ロキ。リヴェリアやアイズ同様、何処か落ち着かない様子だけど…どうしたんだい?」
「いや、何かなぁ…数日前から、ざわつくねん。胸の奥がな」
「え、ロキも…?私も…」
「私もだ。何故私達だけ…」
「あぁ?ババァは遂に老化かぁ?」
「そんな物ではない。だが…」
あまり見ない様子のリヴェリアに、ベートが噛みつく。が、直ぐにまた考え込んでしまう。その様子を見てベートも肩透かしを喰らったかのように眉を顰めた。
「なんじゃリヴェリア。お前らしくもない。大木の心はどうした?」
「分からん。いくら心を静めようとしても、いつの間にかざわめきが湧いてくる」
「困ったもんじゃのぅ…。あやつの命日も近いじゃろう。そんな顔で花を手向ける気か?」
「……」
「ロイ……」
リヴェリアがガレスの指摘に黙り込み、アイズはこの場に居るはずもない少年の名を呟く。
「…そうやな、そろそろや。ロイの命日」
「ねーねー。そのロイって子、何なの?どんな関係だったの?」
「ん〜…まあな、色々あったんや。あいつとは」
「色々じゃわかんなーい」
リヴェリアが、アイズが暗く俯き、ロキでさえも言葉を濁す。その様子を見たティオナが何かを察し、これ以上の追求は野暮だと気付いた。
「……まー良いや。今はモンスターだね」
「あぁそうだ!取り敢えず、何時でも動けるようにはしとくべきだろ!」
「ベートの言う通りだね。皆、何が起こっても良いように、出撃準備だけはしておいてくれ」
フィンの言葉を受け、それぞれが行動し始めた。