ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。   作:一般通過社会人

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はじまりはじまり…ってアレ?

 

〜ギルド 秘密の通路〜

 

「状況を端的に話す。二人とも、聞き逃さないでくれ」

 

「は、はいっ!」

 

「気にせずどうぞ」

 

二人揃って暗い地下道を、フェルズの背中を追って進む。魔石灯を掲げながら、時間を惜しむように説明と並行して歩を進める黒衣の後ろ姿に、二人は緊張した面持ちでついて行く。

 

「情報は錯綜している。何が真実であるのかも今の私達では判断できない。ただ間違いないのは……武装したモンスター、異端児達がリヴィラを襲撃したという事だ」

 

「っ…!」

 

「………」

 

「私達は過程はどうあれ、今回の事件を至急収拾しなければならない」

 

勿論、私達が望む形……異端児達の安全を確保した上で鎮圧したいが。そう言うフェルズは、更に歩を速める。

 

「もう一つ。異端児達はまず18階層から動いていない」

 

「えっ……?」

 

「あ?」

 

妙だな。何故動いてない?イケロス達の情報は全てグロスに伝えた。アイツらも攫われた同胞達が地上に連れ去られている事は知ってる筈。なら、普通は上目指して上がってくるだろ。

 

「リヴィラを陥落させてから、それ以降の進攻を確認できていないからだ。これは中層から帰還した冒険者の証言…信憑性は高い」

 

魔石灯を持つ手とは逆、眼晶を持つ手をフェルズは見下ろす。

 

「恐らく、異端児達を動かすに足る理由がリヴィラにあった」

 

「だろうな」

 

「……それは?」

 

「予想はできるが、現時点では想像の域を出ないだろう。まずは現場に行き、何が起こっているかこの目で確かめる」

 

そう言ってフェルズは足を止め、二人に振り返った。

 

「我々は君達を、ガネーシャファミリアによる先遣隊に組み込むつもりだ」

 

「……!」

 

「げっ」

 

おっと失礼。ガネーシャにはアー…あいつが居るからな。先遣隊に組み込まれてたら…まあバレない事を祈ろう。

 

「…出会って間もない…いや、ロイは違うが、だがどうにか力を貸してほしい」

 

黒で塗り潰されたフードの奥から、フェルズが懇願の意を訴えてくる。肉も皮も瞳すらも腐り落ち、生きる骸骨となっている筈の『愚者(ぐしゃ)』の視線を受けながら、二人は首を縦に振る。

 

「僕からも、お願いします。行かせてください」

 

「5年もツケで飲み食いさせてもらったんだ。返さないとダメだろ?」

 

「…ありがとう。ベル・クラネル、ロイ。」

 

さーて。虎が出るか、竜が出るか…。

 

 

 

〜ヘルメス・ファミリア本拠 広間〜

 

「事が起きちゃったなぁ…」

 

羽根付きの鍔広帽子を手で弄びながら、ヘルメスは嘆息する。

場所はヘルメス・ファミリア本拠、旅人の宿。閉ざされた扉の向こう側から団員達の張り詰めた声が聞こえてくる中、主神の前には団長のアスフィ・アル・アンドロメダが張り詰めた表情で立っていた。

 

「ファルガー達の容体は?」

 

「一先ず一命は取り留めました。しかし、今も気を失っています」

 

リヴィラの住人同様、命からがら18階層から逃げ帰ってきたヘルメスの眷属達もまた重傷を負っていた。中層の監視の為にセーフティポイントに派遣されていた団員達は、「リヴィラにイケロス派の団員達が姿を現し、それからモンスター達が…」という情報だけを言い残し、気を失ったのである。再び嘆息をつき、己の眷属を手厚く看護するように命令するヘルメスは、おもむろにその目を細めた。

 

「しかし、ベル君達を巻き込むと来たか…やってくれたな、ウラノス」

 

フェルズの使い魔から届けられた手紙には、情報共有の為にミッションの詳細と討伐隊の編成が記入されていた。ヘルメスはそれを見て、忌々しそうに笑う。

 

「…意外です。試練だ何だと喜んで、進んでベル・クラネルをけしかけると思っていました」 

 

心底意外そうに、アスフィはヘルメスを見た。

 

「オレは今回の件に関しては、あの二人…とりわけベル君には関わってもらいたくないと思っている」

 

ウラノスとはスタンスが違うのさ、と。訝しげなアスフィを横目に、ヘルメスは独白のように言葉を続けた。

 

「艱難汝を玉にす…だったかな?タケミカヅチが言っていたのは」

 

「……」

 

「苦難を乗り越えてこその英雄…いや、確かにその通りではあるんだが…今回の騒動は、オレの思い描く道程とは大きく異なる」

 

己の神意にそぐわない…と告げるヘルメスは、次は危ぶむかのように声を打った。

 

「一歩間違えれば、破滅だぜ」

 

やがて彼は座っていた椅子から立ち上がり、アスフィに指示を飛ばした。

 

「アスフィは討伐隊とは別行動で18階層に行け。なるべく情報を掻き集めるんだ。戦闘はなるべく避けろ」

 

「ヘルメス様は…?」

 

「オレも確かめなきゃいけない奴が居る」

 

ドアが空き、外に居た犬人(シアンスロープ)の少女に、「オレも働いてくるぜ」と冗談めかしてヘルメスは笑った。

 

「後は頼んだぜ…っと」

 

忘れ事を思い出したかのように、ヘルメスは振り返った。

 

「ベル君が心配だ。アイシャを呼び出せ」

 

 

〜人造迷宮クノッソス〜

 

遠くで起こっている騒乱に共鳴するかのように、檻を揺らす音と鎖の鳴る音が絶え間なく響き渡る。此処は人造迷宮クノッソス。悪意と執念が混じり合う場所だ。

 

「ディックス!」

 

「あぁ?邪魔するんじゃねぇよ、グラン。今から痛めつけてやる所何だからよぉ」

 

石造りの広間で不気味な槍を掲げる男は、後から入って来た大男に苛立ちを顕にする。が、大男はあえて気にせず言葉を遮るように告げる。

 

「ぶ、武装したモンスターにリヴィラが襲撃されたって外は大騒ぎになっていやがる!!」

 

「あぁ?どういう事だ?」

 

ゴーグルの内側で目を光らせるディックス。続けてグランは、武装したモンスターによってリヴィラが攻め込まれ壊滅した事、そしてそれが伝わってオラリオが大騒ぎになっている事を伝えた。

 

「武装したモンスター…オイオイマジかよ。それが本当なら、俺達の獲物が自ら攻め込んで来たって事じゃねぇか」

 

ディックスはそう言って、グランの奥の通路に並べられた大小様々な檻を眺めた。その中には影も形もバラバラな身体が蠢いている。

 

「ブチ切れたって事か?狩りをしている俺達に」

 

「わ、わからねぇが…」

 

「しかし、リヴィラに攻め込んだってのは……ああ、そう言う事か」

 

やってくれたぜ、あの化け物。と、ディックスは小憎たらしそうな笑みを浮かべる。それと同時に、外で何が起きているのかを把握した。

 

「リヴィラはどうなった?」

 

「建物は全て壊滅だ!人は、数人は地上まで逃げたらしいが…。だが少なくとも、ギルドの奴らがミッションを発令するくらいにはやべぇ事になってる」

 

グランは声を低くして報告する。耳をすませば、化け物達の唸り声の他にも狩猟者(ハンター)達の動揺する声が聞こえてきた。

 

「藪蛇だったか?どうやら俺達が思ってるより、やべぇ化け物がわんさか居るみたいだなぁ?」

 

言葉とは裏腹に高揚感を隠せない様子のディックスに、グランも落ち着きと笑みを取り戻す。リヴィラを壊滅させるレベルの大戦力を前にしても、男は笑みを隠せずにいた。

 

「主神様も帰ってこねぇし、さーてどうするかなぁ。」

 

槍の柄で肩を叩きながら、ディックスは生贄のように鎖に繋がれた竜の少女を一瞥した。

 

「…おお、そう言えばグラン。ヘスティア・ファミリアに付いてたって言う例の凄腕冒険者はどうしたよ?何か分かったか?」

 

「ああ、そっちは…すまねぇ。全く情報がねぇんだ。後を付けてもあっという間に撒かれちまう。」

 

「使えねぇなぁ。俺としちゃそっちの方が気になるぜ。」

 

「いつも真っ黒なフードで顔も隠れてるしな…どうする?」

 

「どうするってお前…来たら来たでもてなすしかねぇだろ。」

 

この迷宮都市で活動する冒険者に置いて、全身真っ黒の冒険者と言うのは珍しくは無い。冒険者は言ってしまえばならず者達の集団でもあり(一部を除く)、そこには後ろめたい物を持ちそれを隠す者も少なく無いからだ。古今東西、そう言う物を隠すのは闇か黒の中と決まっている。

 

「同業者…俺達と同じくヴィーヴルを狙ってた奴か、もしくは…。」

 

ディックスは虚空を見つめ、生きている筈もない者の名前を思い浮かべた。

 

 

中央広場(セントラルパーク)

 

 

調教(テイム)!?討伐対象を!?」

 

青空に若々しい女性の声が吸い込まれていく。混乱と一種の興奮が醒めやらぬ中、都市の注目はこの中央広場(セントラルパーク)に集まっていた。冒険者、神々、一般人…多種多様な人々は広場の外周に沿って人だかりを作り、集結している屈強な冒険者達…ガネーシャ・ファミリアを眺めている。そんな中、当の討伐隊の中には突如届いた伝令によってざわめきが広がっていた。

 

「どういう事だ、今は緊急事態ではないのか!?」

 

「それが、ガネーシャ様からギルドの密書を渡されて、ご…極秘に行えとの指示が…。」

 

「何だそれはっ、詳しく説明しろ!ええっと………ナントカ!」

 

「無茶言わないでください、イルタさん!?あと自分はモダーカですっ!?」

 

褐色肌に赤髪を伸ばす女戦士(アマゾネス)に対し、自らの名前はモダーカだと主張する青年団員が泣き喚く。

強制任務(ミッション)出発直前、ガネーシャ・ファミリアの面々は困惑していた。説明するまでも無く、モンスターを屈服させなければならないテイムは討伐よりも遥かに大きな労力がかかる。ましてやそれを冒険者の街を陥落させた凶悪なモンスターにするとなると…。あまりに理不尽と無理難題が過ぎるギルドの指示に、第一級冒険者であるイルタ・ファーナを中心に言い争いが起こっていた。

 

「落ち着いてくれイルタさん!これはアレですっ、ギルドの奴らは武装したモンスターなんて言う貴重(レア)度バリバリ興味津々俄然やる気が湧いてくる亜種を捕まえて怪物祭(モンスターフィリア)の目玉にするつもりなんだッ!そうに決まって(ry」

 

「イブリ黙れ…黙ったなよし。兎に角貴様は地上の居残り組だ!!」

 

「うわああああ(ry」

 

「お願いですから冷静になって下さい!?あとイブリうるせぇ!」

 

『喋る火炎魔法』を自称する派閥屈指のお祭り男が火に爆薬を投げ込む真似をし、イルタの激昂に拍車がかかる。ガネーシャ・ファミリア恒例の光景に、今はそんな場合ではないとモダーカや他団員達は慌てふためいた。周囲を囲む市民達が、若干不安そうな空気を醸し始める。

 

「イルタ、落ち着け。他の者達もだ」

 

「姉者、しかし…!」

 

「シャクティ団長…すいません」

 

取り乱す団員達に、ガネーシャ・ファミリア団長シャクティ・ヴァルマが口を開く。うなじの辺りでばっさり切った藍色の髪に、170Cも優に超える長身も相まって麗人と呼ぶに相応しい。二つ名は『象神の杖(アンクーシャ)』。ヒューマンの中でも屈指の実力者である。

 

「ガネーシャ様は、何と言っていた?」

 

「ギ、ギルドの指示に従えと…」

 

うるさ…賑やかなガネーシャ・ファミリアの中でも常に冷静沈着な女団長は、そうか、と目を瞑る。暫く思案した後、瞳を開いたシャクティは団員達に告げた。

 

「モンスター達にはテイムを施す。殺さずに生け捕りにしろ」

 

「姉者、良いのか!?」

 

「私達の主は『群衆の主(ガネーシャ)』だ。彼を信じ、彼に付いていく。違うか、イルタ」

 

シャクティの曇りの無い眼差しに、イルタは顔を引き締め頷く。揺るがない主神に対しての忠誠と信頼を目の当たりにし、他の団員達も表情を改めた。

 

「街はホームに居る私の妹と、アストレア・ファミリアに任せる!出発するぞ、準備しろ!!」

 

シャクティの号令に鬨の声を上げる団員達。広場を震わせる声に、ベルが思わず声を漏らした。

 

「す、すごっ…」

 

慌てて口を押さえるベル。今の俺達はサポーターの一人を装って討伐隊に潜入していた。モダーカが近づいてくる。

 

「原因解明の力になるって、ガネーシャ様に言いつけられたから仕方ないけど…大人しくしてろよ、『リトル・ルーキー』。気付いた連中には臨時のサポーターって事にしておくから、極力目立たないでくれ。イルタさん辺りにバレると面倒臭い」

 

「わ、分かりました…すいません」

 

「…ロイさん。あの、団長から伝言を預かってます」

 

「え?」

 

俺?何かしただろうか。5年前も犯罪者の引き渡しと遊びに行った時で数回話したくらいだぞ。そんなに気にかけられるような事は…あ、いやもしかして…。

 

「『妹に早く会いに来てやってくれ。』だそうです」

 

「……暇を見て会いに行くって言っといて」

 

「了解です…」

 

げんなりしたガネーシャ・ファミリアの苦労人が離れると、入れ替わるように小声が落とされる。

 

『依頼したテイムの件と言い、神ガネーシャは上手くやってくれたようだ』

 

「フェルズさん…」

 

『討伐隊は君達の存在を黙認してくれている。このまま18階層に向かおう』  

 

虚空から聞こえてくる声に返すベル。声の正体はフェルズである。ハデス・ヘッドと同じく透明になる魔道具(但しこちらはヴェール型)を被って、不可視状態になっている。流石にあの格好は不審者だからな。

 

『私は先に入っている。中で会おう』

 

「はい」

 

「了解」

 

人との接触を避けるためにフェルズがバベルに向かっている気配を感じ取っていると、直後。

 

「ベル君!!」「ベル!」「ベル様!」

 

「!」

 

自らの名前を呼ぶ声に、ベルは振り向く。人混みの中から必死に、ヘスティア・ファミリアの面々がこちらに来ようとしていた。だがそれにベルは視線で返す。行ってきます、行かせてください、と。

それを見たヘスティア・ファミリアの仲間達は何かを言いたげだったが、それは叶わず。最後に主神と無言のやり取りをすると、シャクティの声が響いた。

 

「出るぞ!!」

 

一際歓声を大きくする民衆に後押しされ、俺達は動き出す。ダンジョンの中に、突入した。

 

 

中央広場(セントラルパーク) 広葉樹の影〜

 

「アイシャっ、リオンが来るなんて聞いてませんよっ」

 

「別に良いじゃないか。実力も折り紙付きだ、お固く考えるなって。」

 

「私が予備のハデス・ヘッドを持ってきていなければどうするつもりだったんですか…!」

 

「ロイ…!逃がしませんよ…!」

 

「あ〜もうっ!」

 

セントラルパークの広葉樹の影に、女戦士(アマゾネス)妖精(エルフ)人間(ヒューマン)の乙女達が声を交わしていた。エルフが一人のサポーターを睨みつけ、急かされるようにハデス・ヘッドを装着して歩き出すと、他の二人も続く。彼女達の気配は誰にも気づかれる事のないまま、封鎖網の内側に入った。神意を受けた冒険者、黒きメイジ、招かれざる侵入者達、そして少年達がそれぞれの思惑に突き動かされ、都市を揺るがす動乱は遂に幕を開けた。

 

 

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