ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。   作:一般通過社会人

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これはひどい

 

〜ダンジョン 18階層 リヴィラの街〜

 

廃墟と化したリヴィラに怪物の声が響く。辺りには砂塵が舞い、血液が飛び散り、武器だった物の亡骸が散乱している。

 

「同胞を何処に連れ去った!言え!人間!」

 

「はぁ…はぁ…な、何言ってんだよぉ…!?意味が…!」

 

宿場街の残骸の中にガーゴイルと男が居た。男は逃げ遅れた冒険者の一人。両足は潰され、全身は激痛を発し、その苦痛によって呼吸困難になりかけていた。だが、それでも男は悪態をつく。

 

「シラバックレルナ!!貴様からは匂う!人蜘蛛(ラーニェ)の毒の香りが!」

 

「っ…!?」

 

「同胞が示したその意思が、貴様を薄汚い畜生だと言っている!」

 

グロスの言葉に男の顔が引き攣る。男は逃げ遅れたのではない。異端児達が逃さなかったのだ。男の正体は『イケロス・ファミリア』の団員。ラーニェを襲ったハンター達の一人である。彼等はラーニェ達を狩った後、厄介な毒の手当ての為にこのリヴィラに立ち寄っていたのだ。

 

「質問に答えろ!同胞は…ラーニェ達は何処だ!!」

 

グロスの叫喚に続き、男を取り囲んでいた他の異端児達からも威嚇が放たれる。百獣に吠えられるような大音量に、男の恐怖は膨らみ続けた。地面に目をやる。

 

「っひ…!」

 

地面には、男の仲間が赤い肉の塊となって転がっていた。男は悟る。答えなければ、次は自分だと。

 

「はっ…はははっ…!言ったって、お前達にはたどり着けねぇよ…!」

 

男は必死に虚勢を張り、嘲笑する。が、次の瞬間にはグロスが振り下ろした爪によって、悲鳴に変わった。男の肩から鮮血が飛び散る。

 

「言えっ!言え!!」

 

苦痛に耐えかねた男は、まだ潰されていない右手で方向を指し示す。男が指差した所は、階層東部の大森林。

 

「森だと…!?森の何処だ!何があるっ!!」

 

「と、東端…そこに、扉がぁ…!!」

 

グロスは怪訝な表情を浮かべた。それもその筈、隠れ里…セーフティポイントを転々とする異端児達は、未だ冒険者に発見されていない隠し通路や未開拓領域を多く網羅している。だが、その異端児達でさえも18階層の扉など聞いたこともなかった。グロスは吠え立て、更なる情報を引き出そうとするが…。

 

「だからっ…『持ってない』お前達じゃ行けないんだよぉぉ!?」

 

「何を言っている!!」

 

「無理なんだよぉぉ…!諦めろよぉぉ…!?」

 

男は答えが決まっているように、無意味な問答を繰り返す。それを見てこれ以上は無駄だと悟ったグロスは、早々に男に手を下した。地面に投げ出される手には目もくれず、背後の異端児達に指示を飛ばす。

 

「森だ!森の東端に同胞達が…人間共のアジトがある!!探せ!!」

 

号令に応えるように咆哮をあげ、異端児達が移動を始める。有翼モンスターは翼を広げ、そうでないものは崖を降りる。回り道などせずに、真っ直ぐに。

 

「グロス!」

 

自らも飛び立とうとしていたグロスを、異端児の一人が呼びとめる。同胞が示し、ガーゴイルが振り向いたその先には……階層南部、17階層に繋がる洞穴。

 

「アレは…!」

 

冒険者の集団がなだれ込んで来た。

 

 

〜ロイ視点〜

 

ガネーシャファミリアに混じり走って進軍。あっという間に18階層だ。やっぱり大手は違うな〜…あ、今はアストレア・ファミリア(ウチ)も大手なのか?

 

「リヴィラが…!」

 

「これはひどい」

 

ありゃもう全部建て直しだな。ボールスさんが気の毒だ。ま、これも全部イケロス・ファミリアってやつのせいなんだ。

 

「団長、ここからは…!」

 

「いや、待て…姉者、アレを!」

 

モダーカの声を遮り、イルタが頭上を指差す。水晶の天井付近で、有翼のモンスター群が飛行していた。

 

「有翼のモンスター…武装している」

 

凝らされたシャクティさんの目が遙か先に居る影の正体を捉える。鎧や防具を装備したモンスター。リド達だ。リヴィラを襲った後、何らかの理由で彼処に移動した。兎に角此処じゃ空しか見えない。洞穴前から移動、大草原に出る。

 

「…!他のモンスターも大草原を…!」

 

「あの方角は…大森林か?どうしてあんな所に…?」

 

……大森林か。戦う事が目的にしても逃げるにしても、同胞(なかま)想いのリド達があんな視界が悪い場所を選ぶ訳がない。簡単に分断されるし、飛んでいる異端児達との連携もとれなくなる。と、なると…見つけたらしいな。アジト。

 

「姉者、どうする?」

 

「…部隊を二手に分ける。モモンガ、少数でリヴィラに向かえ。生存者の確認と救出だ。」

 

「はい!あと自分はモダーカです!」

 

「残りの者は私に続け!モンスター達を追う!」

 

モダーカが数人を引き連れてリヴィラに向かっていく。俺らは…。

 

「森だな。リド達を追うぞ。」

 

『ああ。恐らくリヴィラはもぬけの殻だ。森に向かった一団の中に、リドが居た。』

 

「はい!」

 

空に居るモンスター群の中にレイやグロスの姿を確認できた。そして地上にはリドやトロル、ラウラやユーノまで。恐らく全軍でアジトに向かっている。ただ、その中にウィーネが居なかった事を考えると…確定だな。攫われた。

 

「ウィーネが攫われたな。」

 

「!?」

 

『…やはりか。あの中に彼女が居なかった。』

 

「たぶんラーニェも居ない。あのデカい下半身で見逃すとは考えにくい。」

 

「そんな…。」

 

「で、それを探しにリド達はリヴィラを襲った。良くも悪くも彼処は人が集まる。人を隠すなら人の中…狩猟者、イケロス・ファミリアの構成員も潜伏しているだろう。何らかの方法で構成員を見つけ、ソイツらから情報を聞き出してアジトの場所を突き止めた。今は全軍で進軍中って所か?」

 

『異論は無い。あの軍団には異端児達の主戦力となる面々が確認できた。アジトの手がかりすら見つけられていないなら、彼等を中心に軍を分けてもっと分散して探す筈だ。』

 

誰も攫われてないなら襲撃する必要が無い。攫われてないが傷つけられたならグロス辺りが騒ぎ出しそうだが、それを諌められないリドじゃない。そもそも慣れはしてる筈だ、冒険者に襲われるのは。そして、諌める事が出来ずにああなってるって事は…ウィーネの他に何人かやられてるな。

 

「もうちょっとで交戦だ。そしたら俺達はガネーシャファミリアとは一旦距離を取って異端児達と接触、真実を確かめる。」

 

「はい…」

 

ベルの元気が無い。だが、此処で潰れられては困る。

 

「不安だろうが耐えろ。まだ死んだと決まった訳じゃない。悩んでる間に、ウィーネは辛い目にあってる」

 

「…分かりました!」

 

よし。さて、出来ればリド達と接触したいが…。

 

「なっ…!」

 

「こいつは…!」

 

「モンスター同士で…争ってやがる…!」

 

人間にも、同族にも排斥される異端児達が襲いかかってきたモンスター達を迎撃している。俺やベル、フェルズは事情を知っているのでそうでもないが、知らない者達から見れば衝撃的な光景なのだろう。っと。

 

「『ッッ!?』」

 

「……」

 

「戦士達よ!迎え撃て!」

 

異端児の一人が吠え、討伐隊に向かって突進してくる。シャクティさんが号令を出すと、ガネーシャ・ファミリアもまた吠え、突進する。直後、一斉に剣と剣がぶつかり合う金属音がかき鳴らされた。

 

「姉者!こいつら全部テイムするのか!?」

 

「テイムするのは亜種だけだ!武装していないモンスターは斬り捨てろ!」

 

見境無くこちらに襲いかかってくる、それまで争っていた筈のモンスター達。とはいえ見分けは簡単だ。武装した個体は簡単に見分けられるし、何より…。

 

「っ!」

 

「強い…!」

 

ガネーシャ・ファミリアの団員が呟く。そう、強い。これに限る。剣を交えれば分かる、圧倒的な身体能力と練度の差。他のモンスターとは比べものにならないオーラ。魔石を摂取し続け、自衛の為に研鑽を続けてきた異端児達の強さは本物だ。

 

「フェルズさん――」

 

オオオオオーッ!!

 

「――くっ!?」

 

「ん。」

 

っと。考えてる場合じゃないな。素早く外套を裏返し、黒にする。スキルが発動、結界魔法が自動展開され、異端児達の攻撃を受け止めた。

 

 

〜後方 斜面の上〜

 

「ガネーシャ・ファミリアの連中、存外押されているようじゃないか」

 

灌木の中に、三人の女性が隠れていた。ベル達を追い、後を付けてきたアイシャ、リオン、アスフィである。

 

「あの武装したモンスター…、強い。個体差はありますが、戦い慣れています」

 

「非常に興奮しているようですし、ああいった状態のモンスターはテイムしづらいでしょう。流石に象神の杖(アンクーシャ)辺りは遅れを取っていないようですが……」

 

まぁ、そもそもテイムできるかが怪しいところですね。と、アイシャがリオンの隣で小さく零す。ガネーシャ・ファミリアは規模だけで言えば都市トップ。Lv.6以上は居ないものの、Lv.5が12人。深層域での活動でも安定して戦果を上げられる、優秀なファミリアだ。

が、異端児達…特にあのリザードマン、セイレーン、ガーゴイルが強い上にテイムと言う高難易度のミッション…流石に苦戦は隠せない。

 

「アイシャ、リオン、余計な介入はしないで下さい。我々はあくまで情報収集とベル・クラネル、ロイの―――」

 

アスフィの発言の最中でリオンが立ち上がる。

 

「助太刀します。」

 

「なっ…!?」

 

苦戦するガネーシャ・ファミリアの旗色を見て、エルフの戦士は持ち前の正義感を発揮してしまう。

 

「それに、ロイもクラネルさんも見失ってしまった。戦いながら探します」

 

「ロイは仕方ないが、ベル・クラネルに対しては過保護だねぇ。あの坊やもやる時はやるよ?」

 

「お守りと言って連れてきたのはそちらでしょうに…それに、貴女は行かないのですか?」

 

「行くに決まってるだろ」

 

口をあんぐりと開けるアスフィを置いて、血の騒ぎに従いアイシャも大朴刀を抜いた。

 

「せ、せめて兜を被って動きなさい!?そっちの方が隠密に向いていますし、便利で…!」

 

「姿を消しながら斬りかかるのは抵抗がある。卑劣な真似はどうにも性に合わない」

 

「アタシも止めておくよ。兜や鎧は肩が凝ってしょうがないね」

 

無造作に投げられるハデス・ヘッド。二人はバトルクロスを翻し、戦場に突入した。

 

「あぁ…もうっ!?」

 

放り捨てられた兜を回収するアスフィは――己の存在意義を軽く否定された魔道具製作者(アイテム・メイカー)は――意地でも自分の透明状態(インビジビリティ)を解除しなかった。

 

 

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