ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。   作:一般通過社会人

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もうちょっと続くよ邪悪胎動

誤字報告ありがとうございます。修正しました。


邪悪胎動 参

〜アストレア・ファミリア視点〜

 

ヴィトーは口端を吊り上げ、迎え撃った。 

 

「ははははははははははははははは!!」 

 

男の嗤いとともに巻き起こる、凄烈な舞踏会。おびただしい刃と刃の応酬、火花の量産、酷い衝突音。刀が先陣を切り、剣が後に続き、飛去来刀や手投げ弾が宙を舞う。それぞれが目まぐるしい連携を、禍々しい獣の牙のごとき短剣が弾いては刺し、まるで大荒れの大海のような戦場を形どった。

 

「ヴィトー様!」と声を上げて参戦するのは闇派閥の兵。 

 

「くっっ!」 

 

兵が居るとはいえ、三人がかりでもアリーゼ達(Lv.3)が押しきれない。ヴィトーは輝夜の殺意を心地良さそうに受け止め、アリーゼとライラの敵意も歓迎しながら苛烈に斬り結んだ。すぐ側で兵が倒れていくのも委細構わず、剣戟の音を奏で続けた。

 

「ロイは…!」

 

「あっちは気にすんな!あの姉妹の相手はアイツは慣れてる!スキルの効果を考えれば一人でやらせた方が良い!」

 

「……分かっている!!」

 

「正義」と「悪」の陣営が交差し、素早く身を引く。苛烈な舞踏会は更けていった。

 

「なるほど・・・・・・お強い。噂に違わぬ腕前です。これが【アストレア・ファミリア】!」

 

ヴィトーは賞賛した。 

 

これまで交わる事が無かった正義の戦乙女(アストライアーズ)を素直に褒めた。

 

「よく言うぜ。アタシはともかく、アリーゼや輝夜とやり合ってる時点で、そっちも下っ端なんかじゃねえだろ」 

 

ライラは眉を顰めた。

 

飛去来刀や爆薬を投擲しつつ、後衛の位置から冷静に戦場を眺め、まるで共通点など無いように見える敵の絶妙な駆け引きを分析する。

 

「もしかして、闇派閥の幹部? でも貴方みたいな人、情報も二つ名も聞いたことがないわ!」 

 

その戦闘能力に、アリーゼは疑念を顕にして推察した。 

 

敵はおおよそ、使われるだけの下っ端ではないと。

 

「悲しいことに、私は覚えにくい顔をしているようでして。特徴がないのか仲間内でも『顔無し』などと呼ばれている有様で…」 

 

ヴィトーは大げさに肩をすくめて、嘆いてみせた。 

確かに彼の容姿は血のような濃赤色の髪を除けば、印象に残るものがない。常に細まった瞳と笑みを宿す唇は仮面のようですらある。街中ですれ違う人込みを誰もが記憶に留めないように、道端の小石を誰もが意識しないように、明日になってしまえば思い出すのも難しいような、顔の見えない影のような人物。 

ソレを持って男は言い得て妙な『顔無し」という渾名を口にする。

 

「あとは、そう……関わらせて頂いた方は、ほぼほぼ始末してきましたので」 

 

「「「ッ………!」」」 

 

残酷な笑みにアリーゼ達が眼差しを鋭くする。 

 

血の香りが強過ぎる目の前の戮殺者(サイコパス)の危険性を改めて、はね上げると――遠方より声が響いた。 

 

「アリーゼ!ライラ、輝夜!」 

 

リオンの声。 

 

ヴィトーの他にも冒険者を襲う闇派閥を無力化した彼女は、獣人のネーゼや他のアストレア・ファミリアとともに駆け付けようとしていた。 

 

「……お仲間ですか。貴方達に加え、別の上級冒険者も相手取るとなると流石に分が悪い」 

 

視界の奥から参戦しようとする援軍の姿を認識しても、ヴィトーは冷静だった。 

 

アリーゼ達の力も加味した上で、あっさりと戦意を解く。

 

「ヴィトー様、ここは撤退を。我らの『目的』は……」 

 

「分かっています。―――それでは、正義の名に踊らされるお嬢さん方、ごきげんよう」 

 

「待ちなさい!」 

 

兵の一人に耳打ちされ、ヴィトーは背を向ける。 

 

階層東部に広がる大森林、その奥へ姿を消す闇の手勢にアリーゼが声を飛ばす。が、

 

「……待て、団長。誘っている。狡い策を張り巡らしているのだろう。深追いは禁物だ」 

 

輝夜が憎々しげに進言した。 

 

『追いかければ追いつける』程度の速度で森に逃げ込むヴィトー達の後ろ姿から罠の香りを感じ取り、追撃を断念する。アリーゼも、ライラも異論を挟まなかった。 

 

『暗黒期』と呼ばれるこの長い戦いの中で、闇派閥の悪辣さを嫌というほど知っているからこそ、彼女達は何が最善で、どこが引き際なのかを感じ取れてしまう。【アストレア・ファミリア】として、闇派閥と戦い続けてきたからこその経験。 

 

「大丈夫ですか?三人とも」 

 

間もなく、覆面をしたリューが到着する。 

 

ヴィトーの姿までは視認できなかったのか様子を窺ってくる彼女に、ライラはうんざりしたように首を鳴らした。 

 

「傷一つもらってねえ。が、せっかくの幹部を逃がしちまった。……そっちは?」 

 

「逃げてきた冒険者は、全員無事。今は宿場街に避難させてる。……ただ、最初に襲われた冒険者達は、もう…」 

 

ライラの視線に、ネーゼがやりきれないように答える。 

 

彼女が見回す周囲にもまた、こと切れた無残な冒険者達の骸が転がっている。 

 

決して乾くことのない血の海に浸りながら。 

 

「く………!あと少しでも早く、駆け付けていれさえすれば……!」

 

苦渋と憤怒にリューが身を震わせる。

 

と、 

 

「つけ上がるな、間抜け。英雄でも気取っているのか? 未熟な今の私達が、全てを救えるわけないだろうに」 

 

潔癖なエルフを唾棄するかのように、輝夜が酷く醒めた口振りで罵った。 

 

「っ……! 訂正しろ、輝夜!たとえ至らない身であっても、最初から救えないと決めつけて実践する正義など、間違っている!」 

 

「おい、リオン、やめとけって」 

 

そして、その言葉はリューにとって看過できない事柄だった。 

 

アストレア・ファミリア…正義の派閥でありながら最初から見限った言い草をする輝夜に詰め寄ろうとして、割って入るネーゼに制止される。 

 

「あーあーうるせぇうるせえ。仲が良いのはわかったから、こんなところで言い合うなよ、お前等。……おい、団長、何とかしろよ。まだ終わって無いんだぞ?」 

 

そちらを見向きもせず、白けた表情を浮かべるのはライラだ。まだ戦いは終わっていない、と辺りを見渡している。 

 

「そうよ二人とも。争ってる場合じゃないわ、今は。まだディース姉妹が居る。」

 

「………っち。おい青二才、今は後回しだ」

 

「…分かりました、それで、ロイは何処に…」

 

「………ん?待てリオン、お前リヴィラの街からロイの事見えなかったのか?」

 

「……?はい。私が見た時には姿は見えませんでしたが…」

 

「おかしいな。あんだけ派手にやってたんだ、目に入らない筈が……」

 

仮にもLv.5二人との戦闘だ、派手にならない筈が無い。嫌な予感がする、と、その場に居る全員が感じた。

 

「…兎に角、探すわよ。私と輝夜は森の方、リオンとライラはもう一回街……を!?」

 

その時、その場に轟音が響く。

 

「っ…!!!森だ、森の方だ!」

 

ネーゼが叫ぶ。森の東には、大きな黒煙が挙がっていた。

 

 

 

〜ロイ視点〜

 

「素敵よ!ロイ!」

 

「でももっとよ!ロイ!」

 

「言われなくとも殺るわ!クソ妖精(エルフ)共!!」

 

戦鎚(メイス)と騎士を救う安楽剣(スティレット)が衝突し、火花を散らす。死と愛の応酬が渦を巻き、周りの木々を薙ぎ倒して嵐を形成していた。

 

「【喰らえ、始門(しもん)。あらゆる希望を絶望に塗り替え】ディアルヴ・オチュア!」

 

「ぐああああっ!?」

 

聞こえた悲鳴はロイではなく、周りに展開していた闇派閥の兵の物。ロイを球状に覆う結界は、まるで生物の体内のように蠢き、形を変えていた。その結界によって降り注いだ闇色の火球はあらゆる方向に弾かれ、周りに散り、木々に潜んでいる兵達を的確に焼いて行く。

 

「相変わらず凄い結界!惚れ惚れしちゃうわ!」

 

「手加減はしてるけど、やっぱり凄いわ!」

 

「そりゃどうも…さっさと死ね!」

 

ロイの腕のクロスボウが妖しく煌めく。市販の小人族専用装備(リトル・バリスタ)では無い、ゴブニュ・ファミリア謹製の特注品。ロイの為に作られたその漆黒の弩は、姉妹の眉間を正確に穿ち抜く為、矢を吐き出す。

 

「なら、コレはどう?【――――開け、第五の園。響け、第九の歌】ディアルヴ・ディース!」

 

「!」

 

避けられた矢を余所目に、目の前に魔法円(マジック・サークル)を認識する。詠唱文は未確認。どんな魔法だ?いや、こういうタイプはデカい一撃と相場が決まっている。Lvが2離れている以上、受けるのは愚策。ならば。

 

「避ける」

 

「そう来ると思ってた!【黒き沼、赤き咎。咬み千切り交ざり合う、汚泥のごとき我等が臓物】!」

 

アレは確認済み。ステイタスの交換を行う呪詛(カース)。姉のディナが騎士を救う安楽剣(スティレット)を持ち、空気を裂いて突貫してくる。

 

「愛してるわ(死んで)!ロイっ!」

 

「俺もだ。愛してるぜ(死ね)ドブ妖精(エルフ)!」

 

「アっ…♡」

 

だが残念。コッチはカウンター前提で動きを作っている。自ら飛び込んで来る金髪に、結界の魔力を意図的に暴走させる。

 

「死ね」

 

全てを呑み込む魔力の本流が、目の前の妖精(エルフ)を焼き尽くした。

 

 

〜アストレア・ファミリア視点〜

 

森の中を進む。闇派閥はもとより、モンスターの気配にも注意を払いながら、ディース姉妹との戦闘から数十分、結局闇派閥を取り逃がしてしまい、苛立ち混じりにアリーゼ達に合流したロイは18階層東部の大森林を進んでいた。 

 

聞こえてくるのは美しい小川のせせらぎ。 

 

横切るリュー達の顔をうっすらと反射するのは、此処18階層ではありふれた、しかし綺麗な蒼と白の水晶。 

 

ちょこちょこと道を間違える団長(アリーゼ)を団員達(ネーゼ達)が軌道修正しながら、目当ての場所へと辿り着く。 

 

「ん〜! ここは変わらずキレイね!」 

 

そこは大森林の中でも開けた一角だった。 

幻想的な水晶と緑に囲まれている一方、頭上を覆う森の枝葉は消え、太陽代わりの暖かな光を放つ菊型の水晶が見える。 

 

(木々の木漏れ日が差し込む水晶の森。18階層を探索していた時、アリーゼ達と見つけ、足を運ぶようになった場所……) 

 

記憶の光景と何ら変わらない辺りを見回し、リオンは回想する。 

 

たまたま発見したここは、【アストレア・ファミリア】お気に入りの場所だった。 

 

最近は闇派閥の対応にかかりっきりで、久しく足を運んでなかったことも手伝ってか、ネーゼ達は感動もひとしおだと言わんばかりの顔で、嬉しそうだ。 

 

「さぁ、リオン、輝夜、ロイ! 空気を胸いっぱいに吸って! そうすれば、少しは気持ちが穏やかになるわ!」

 

リオン達をこの場に連れてきた張本人がそんなことをのたまう。両腕を広げてスーハースーハーと何故か自信満々に深呼吸を繰り返し、自ら実践してみせる彼女は、不意に目もとを優しく和らげた。 

 

「現実を見つめるのも、志を持つのも、悪を滅するのも、みんな間違いじゃない。だからもう少しだけ、肩から力を抜きましょう」 

 

「「「…………」」」

 

その呼びかけに、リューと輝夜は互いの顔を見つめ合い、ロイは肩の力を抜いた。 既に二人の眼差しからは侮蔑も熱も、主に一人の眼差しからは身を焦がす殺意も、失われていた。輝夜とリオンが視線を交わす。

 

「……団長とこの景色に免じて、手打ちにしてやる」 

 

「なんですか、その言い草はっ……まったく」 

 

憎まれ口を叩く輝夜に、リューは唇を尖らせるように言い返す。 

 

だが二人はもう言い争う真似はしなかった。尖っていた彼女達の心を丸めた18階層の景色に、ネーゼ達が笑い、ライラもやれやれと目を瞑る。 

 

森は穏やかだった。 

 

思わず、ここがダンジョンであることを忘れてしまうほどに。 

水晶のきらめきは神秘的で、胸の奥を透明にさせる。地上とはまた異なる木漏れ日が戦い続けて摩耗している体を温もりで満たし、癒してくれる。 

 

「しっかし無茶するよな〜?ウチの弟分は」 

 

「…すいません」 

 

「いや、責めてねぇよ?と言うか寧ろよく無傷で終わったよなお前……」 

 

「結界魔法の技量だけはべらぼうに高いですからねぇ。……だが感情に任せて罠だらけの森の中にまんまと誘導されたのは大幅に減点だ。帰ったら覚悟しろよ?」 

 

「……はい」  

 

ロイが目に見えて肩を落とす。この男、殺意を滲ませてディース姉妹に殴りかかったは良いものの、その後は周りをよく見ないまま戦闘を繰り広げていたらしい。結界があったから良かったが、普通の冒険者ならばまずしてはいけない愚行である。 

 

「はいはい其処まで!ロイも、次は気をつけてね?……私も、堪忍袋の緒ってやつがあるから」 

 

「……っす」 

 

アリーゼの鋭く、しかし優しさも滲む圧にロイは再び肩を落とす。しかし、それに反して辺りは穏やかだった。鳥の囀りの代わりに聞こえてくるのはモンスターの鳴き声だが、それすらも平和に聞こえた。 

 

「厄介事しかねえダンジョンでも、この18階層だけはいいな。モンスターさえいなけりゃ、家を建てて住んでもいいぜ、アタシは」 

 

「あ、私もそれは賛成!」 

 

頭の後ろに両手を組んで、よじ登った木の枝の上に腰かけるライラの言葉に、ヒューマンのノインが手を上げる。リューより年上の十六歳の少女は焦げ茶色の短髪を揺らし、朗らかに笑った。 

 

彼女に相槌を打つのは三編みを左右に垂らした、同じヒューマン。アストレア・ファミリアの年長組の魔導士、リャーナだ。 

 

「いいわよね、本当に楽園みたいで。・・・・・・ねぇ、私が死んだら、誰かここに埋めてくれない?」 

 

「なっ……」 

 

悲壮感などなく、何てことのないように告げられたリャーナの軽口――けれど決して冗談でもないその願いに、声を失ったのはリオンだ。 

 

動きを止める彼女を他所に、他の団員達は次々に賛同の声を上げた。 

 

「家じゃなくて墓か。そりゃいいな。くたばった後ならモンスターなんか関係ねえ。アタシも乗った」 

 

「私も〜」  

 

「お洒落な墓にしてよね!」 

 

「皆さんとならいいですね」 

 

ライラを皮切りに、おっとりとした年長組のマリューが、アマゾネスのイスカが、エルフのセルティが口々に言う。 

 

リューは慌てて、声を荒げていた。 

 

「ライラ、ノイン、リャーナ、マリュー達も何を言っているのですか!」 

 

「真に受けるなよ、リオン。冗談だって。……半分はな」 

 

それに答えるのは、ライラ。 

 

枝の上から飛び降り、肩を竦めてみせる。 

 

「私達、冒険者だしね。いつ命を失うかもわからないし……」 

 

「それは、そうですが……!」 

 

苦笑するリャーナに、リオンはなおも食い下がろうとする。   

 

リオンは堪らなく嫌だったのだ。 

 

ライラ達が、仲間が、そんな話をするのは。 

 

「青二才のエルフめ。お前は死ぬ覚悟ができていないのか?」 

 

「そ、そんなことはない!そんなことは、ないがそうだとしても……!」 

 

「もしものためだよ、リオン。たとえダンジョンや闇派閥が関係なくたって、いつかは死ぬんだ」 

 

「そーそー。ならその時は、好きな場所で眠りたいって話。リオンったら真面目過ぎ」 

 

輝夜が挑発じみた言葉を投げかけてくるが、何時もキレがある筈のリオンの反論の声は弱い。 

 

それを見かねてかネーゼが口を挟んだ。イスカもそれに続く。 

 

そんな二人を前にしても、リューの心に刺さった棘は抜けてくれなかった。 今が『暗黒期』だからなのか。 

 

つい 『いつか命が潰えること」を前提にしている仲間が――『平和な未来の先で生き続けること』を考えていない輝夜達がとても認められなかった。 

 

「………それでも、不謹慎だ……」 

 

だから、そう、嫌だったのだ。 

 

この光景を失いたくない。 

 

それがリューの心からの望みだった。 

 

「私は、そんな日は来てほしくない。いや、そんな日が訪れないように……私はこの時を守り続けたい」 

 

弱々しかった声音は、強い意志に変わっていた。 

 

「………ロイはどう思いますか?」

 

「………ま、お前の言う通り、生きる事、生かす事は諦めちゃいけないって思うよ。でも…」

 

「でも…?」

 

リオンの顔が不安に歪む。

 

「好きなように生き、理不尽に死ぬ。それが人間だろ」

 

「そう……ですか……」

 

ファミリア最年少、六歳らしからぬ達観した発言に場が凍る。いや、これは最早諦観に近いのかもしれない。

 

「……あ〜、やめだやめ。この手の話はシケっぽくなる」

 

*1「……大丈夫だよ、ロイ。君は、私達が死なせないから!」

 

「なら格闘訓練(スパークリング)もうちょっと加減してくださいよ…」

 

「それはムリかな!」

 

ライラが無理矢理話をきり上げ、イスカが宣言する。何とかその場の空気は持ち直した。

 

仲間の視線が再びリューのもとに集まる中、アリーゼが顔を綻ばせる。 

 

「……ふふっ。でも、それがリオンの願いなんでしょ?」 

 

「ええ。かけがえのない友と、ともに在りたい。……おかしいですか?」

 

リューがはっきりと言うと、アリーゼは微笑ましそうに見つめてきた。 

 

そして彼女が答える前に、周りがニヤニヤと笑い始める。特にライラ。 

 

「……ライラ、何ですか、その笑みは?」 

 

「べっつにー?くっせーこと言ってんなぁ、このエルフ、な〜んて思ってないぜ?」 

 

「エルフの中でも、お前のように面倒で意固地な者はいまい。その化石のごとき頭、もはや治らんなぁ。嗚呼、嘆かわしい」 

 

「どういうことだ、輝夜!馬鹿にしているのか!いや、馬鹿にしているのですね!!」 

 

少々イラッとするリューにライラがやはりにやけて、とどめとばかりに輝夜が大げさに嘆いてみせる。リューはとうとう憤怒するが、言葉とは裏腹に輝夜の声が優しげであることに気が付かない。 

 

その様子に、ネーゼ達も堪らず笑い声を上げた。 

 

「ライラも輝夜も褒めてるのよ!リオンのそれは、とても素敵な『正義』だって!」  

 

「まったくそんな風には見えませんが………」 

 

満面の笑みを弾けさせるアリーゼに、リューは珍しく不貞腐れかける。 その姿にもう一度笑みを落として、アリーゼは星の輝きを眺めるように、目を細めた。 

 

「リオン………あんたは、あんたのままでいなきゃダメよ」 

 

「………アリーゼ?」 

 

透明で、優しい少女の声。 

 

普段とは異なって聞こえた言葉にリューが振り向くと、アリーゼは既にいつも通りだった。 

 

太陽のように、あるいは鮮やかな紅の花のように笑顔を咲かせる。 

 

「何でもないわ……さ、気分転換は終わり!地上に戻りましょう!少しでもよりよい明日にするために!」 

 

アリーゼの声のもと、【アストレア・ファミリア】はその場を後にした。 

 

少女達の中で今も生き続けている、『呪い(きぼう)』を残して。

 

 

〜ロイ視点〜

 

ダンジョンから帰還した後、アストレア様と輝夜さんにこってり絞られた。めっちゃ怖かった。まあ、キレすぎて周り見てなかった俺が悪いんだけど。

 

「……腹減った」

 

今は帰り道。辺りは既に真っ暗になっている。夕飯はどうしようか。もういっそ食べなくても……………あ。

 

「…豊穣の女主人」

 

シルさんに朝言われた事を忘れていた。色々あったとは言え、歳かな?遅い時間だが、彼処は一応酒場だ。やっているだろう。

 

「行くかぁ…」

 

疲れた。死ぬ程疲れた。さっさと食べて寝よう。

 

 

〜豊穣の女主人〜

 

扉を開ける。中は暗黒期だと言うのに冒険者でテーブル席は埋まっていた。相変わらずの繁盛っぷりである。

 

「いらっしゃいませ〜……あ、ロイさん!もう、遅いじゃないですか!」

 

「あはは…すみません」

 

「……また主神様に絞られたんですね?そういう時は、思いっきり食べて忘れちゃいましょう!どうぞこちらへ!」

 

シルさんにカウンター席の一番奥に誘導される。一直線のテーブルの、少し曲がった角の奥。すぐ後ろには壁があり、最奥の席なので隣に人が座る事はない。すっかり定位置である。

 

「また来たかい、坊主。相っ変わらずちっこいねぇ。こんなのがLv.3だってんだから、世も末だよ」

 

「本当ですね…。もう毎日疲れちゃいますよ」

 

「其処は否定する所だろ…ま、無理もないね、この暗黒期じゃ」

 

ミアさんが話しかけてくる。改めて他のテーブルに目をやると、見た所客は入っているものの、料理は全て出揃っているらしい。酒の減りも遅い。そろそろお開きになりそうなテーブルがちらほらあるし、暇なのだろう。

 

「注文はどうするんだい?」

 

「えーっと…日替わりパスタで」

 

無難な所を選ぶ。ステーキとかも美味しいけど、今日は炭水化物の気分だ。

 

「はいよ、お待ち」

 

「……早くないッスか?」

 

「シルの馬鹿娘がそろそろ来るって騒ぎ立てるからって予め作っておいたのさ」

 

「あの人本当に恩恵もらってないんですよね?」

 

「もらってないよ。アンタ限定の野生の勘って奴かねぇ…」

 

作っておいたと言ってもまだホカホカじゃん。丁度食べやすい温度だ。タイミングまでバッチリだし、本当に何者だあの人……??

 

「……ま、まあ良いや。いただきます…」

 

考えるのも怖い。さっさと食って退店しよ。

 

〜数分後〜

 

「モッキュモッキュ」

 

うん、おいしい。流石豊穣の女主人。一食の値段は高めだが、それを考慮しても納得の味だ。

 

「楽しんでますかー……楽しんでるみたいですね!」

 

「うわっ」

 

「うわって何ですかうわって!酷いですロイさん!」

 

話しかけられる前に退店したかったのに…。さっきの変態エピソードを聞くと余計に怖くなる。

 

「怖がられてるんだよ馬鹿娘!少しは自重しな!」

 

「嫌でーす♡」

 

「もうヤダこの人…」

 

シルさんが隣に座る。そしてじーっと見つめてきた。

 

「………何か?」

 

「おいしそうに食べるなぁ〜って」

 

「……美味しいですし」

 

再び沈黙。フォークを口に突っこむ。おいしい。

 

「……よしよし、ちゃんと着けてくれてますね」

 

「……あ。あの…」

 

「何ですか?」

 

「…このペンダント、どんな効果かって聞いてますか?」

 

「いいえ?でも、お守りみたいなものって聞いてますよ?」

 

………駄目だ全く表情が読めない。嘘をついてるのか、本当に何も知らないのかも分からない。

 

「………もう良いや。あの、シルさんも気をつけてくださいね?」

 

「あら、心配してくれてるんですか?」

 

「それもありますけど、貴女もやり過ぎちゃ駄目ですよ?」

 

「もーっ!私の事何だと思ってるんですかーっ!?」

 

「普段は可愛いウエイトレスだけど裏で大量に舎弟従えて街を支配してそうな怖い酒場のお姉さん」

 

「!?えっちょっと待ってくださいそんなふうに思われてたんですか?」

 

だってしてそうなんだもん。普段は何気なく働く町娘だけど、実は裏社会の重鎮で……とかありそうなんだもん。

 

「もうっ!本当にもうっ!!ロイさんなんて知りませんっ」

 

「ごめんなさいシルさん。何でもするので許して下さい…」

 

「!?!?今何でもするって言いましたよね!?言いましたよね!?」

 

「アッ…み、みかじめ料だけは勘弁を…」

 

「本当に私の事何だと思ってるんですかーっ!?」

 

「うるさいよ馬鹿ども!」

 

「「すいません…」」

 

二人揃って怒られる。だいたいシルさんのせいだ。

 

「……じゃあ、今度デートして下さい!」

 

「え〜…」

 

「何でもするって言いましたよね?」

 

「……はい」

 

どうやら逃れられないらしい。仕方ないので観念しよう。

 

「言質確保です♡楽しみですね〜」

 

「……はぁ」

 

パスタの残りを口に入れ、噛みしめる。トマトの酸味と共に、明日を憂う苦い気持ちが広がった。

 

 

『大抗争』まで、あと八日。 

 

 

*1:
言質頂きました!




ロイ・ヴァレンシュタイン(ろくさい)
年齢の割に色々と擦り切れているだいぶお労しい奴。でもファミリア最年少なのは変わらないのでメタメタに可愛がられる。ちなみに擦り切れたのは姉のせいもあるが大部分は闇派閥のせい。アストレア・ファミリアに入り、年齢一ケタの子供が見るべきではないモノを沢山見てしまった。かわいそう。

シル・フローヴァ
変態1。普段は可愛いウエイトレスだけど裏で大量に舎弟従えて街を支配してそうな怖い酒場のお姉さん(もしくは姐御)。アニメか原作を最新まで見ている読者の方なら分かると思うが、だいたいあっている。今後ロイ君は正体を知ったら腰を抜かすだろう。

ディース姉妹
変態2。流石に大抗争(おおしごと)前に無茶はしない。今回のは軽くじゃれただけ。良い感じに一撃喰らってしまったので撤退した。でも告られて軽くイッた。

ミア・グランド
シルの未来予知じみた先読みに軽く引いている。たぶんシルのヤバさを身近で最も見ている人。

ロイ君の実力(結界魔法)
全盛期。手加減されているとは言えLv.5の魔法を弾いているから相当やばい。ちなみにスキル内容的に自動で角度調整とかは無いので『ディース姉妹(Lv.5✕2)を警戒しながら』『頭上から迫りくる無数の火球群に対して』『闇派閥の兵に当たる角度を瞬時に導き出して』『結界の魔力を絶やす事無く形を変える』を全部人力でやっている。精霊の血が少ないながらも入っている為できている事だが、それでも頭おかしい。


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