王国最強パーティを追放されたシーフのリビド。
理由は実力不足――ではなく、救いようのない女好きだったから。
しかし追放された夜、彼は“欲望をセイなる力へ変える”謎の老人と出会う。


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カクヨムでも投稿しているのですが、全く読んでもらえないのです(´;ω;`)。
1人でも多くの方に読んでもらえると嬉しいです(´・ω・`)。
過去作も読んで下さったら嬉しいです(´・ω・`*)。


色欲が強すぎた俺、追放されてから『セイなる力』を手に入れる

 王都の喧騒(けんそう)が染み付いた冒険者酒場『黄金の麦穂亭』。

 その一角、使い古された円卓を囲む五人の冒険者の間には、かつてない重苦しい沈黙が流れていた。

 

 リーダーの剣士アレクが、意を決したように口を開く。

 

「リビド、悪いがパーティを抜けてもらう……追放だ」

 

 その言葉が投げかけられた瞬間、シーフのリビドは飲んでいたエールを吹き出しそうになった。

 

「は? おいおい、冗談だろアレク。 追放? この僕を?」

 

 リビドの声には、困惑と、純然たる自信に基づいた抗議が混じっていた。

 彼は椅子から身を乗り出し、仲間の顔を一人ずつ見渡す。

 

「いいか、思い出せよ。 先月の迷宮探索、あの複雑怪奇な毒矢の罠を数秒で解いたのは誰だ? 昨日の乱戦で、魔物の群れを背後から無力化したのは? 宝箱の開錠率だって、俺が加入してから百パーセントを維持してるはずだ!」

 

 リビドの言葉に、アレクは苦悶(くもん)の表情を浮かべ、深く頷いた。

 

「ああ、認めるよ。 お前の腕は本物だ。 罠解除も索敵も、この国で右に出る奴はいない」

 

 僧侶のセリアも、タンクのガウルも、苦渋に満ちた顔で黙って頷いた。

 能力については、誰も文句の付けようがなかったのだ。

 

「なら、なんでだよ! 仕事は完璧にこなしてる。 分け前だって文句は言ってない……なのに、なんで追放なんて話になるんだ!?」

 

 アレクは一度視線を落とし、それから絞り出すように言った。

 

「……セリアへのセクハラが、もう、救いようのないレベルだからだ」

 

「……は?」

 

「それだけじゃない」

 

 アレクは指を折りながら、絶望的なリストを読み上げ始める。

 

「街を歩けば女を品定めし、ギルドでは受付嬢を凝視し、食堂では給仕を口説く……お前の日頃の行いのせいで、俺たちのパーティはギルドからの信用がガタ落ちしている」 

「そ、それは……」

 

 苦し紛れの言い訳を飲み込んだ男の背筋に、鋭い冷気が突き刺さる。

 

「お前、昨日のセリアへの発言は覚えているか?」

 

 セリアが肩を震わせ、氷のような声で補足した。

 

「『その法衣の裾をあと三センチ短くすれば、機動性が上がって僕の目の保養も(はかど)る』と言いましたね、貴方」

 

「それは……その、理論的な提案というか、美学的な……」

 

 言葉に詰まるリビド。

 しかし、彼はまだ諦めなかった。

 藁をも掴む思いで、円卓の端でずっと黙っていた小柄な格闘家、リンへと視線を向ける。

 

「ま、待て! 確かに僕は女性が好きだが、誰彼構わずってわけじゃない! ほら、見ろよリンを! 僕はリンに対しては、一度だってそんな不謹慎な目で見たり、破廉恥なことを言ったりしたことはないだろ!? リン、お前から言ってやってくれ! 僕はリンには紳士的に接してたよな!?」

 

 期待に満ちたリビドの視線を受け、リンの肩がピクリと跳ねた。

 彼女はゆっくりと顔を上げ――その瞳には、火山の噴火を予感させるような、真っ黒な怒りが宿っていた。

 

「……それが、一番ムカつくのよ!!」

「ほぎゃっ?!」

 

 次の瞬間、リンの拳がリビドの顔面にめり込んだ。

 

「一丁前に選り好みしてんじゃないわよ! 私だけ女扱いしてないってことじゃない! 殺すわよ!!」

 

 凄まじい衝撃波が酒場を駆け抜ける。

 あまりの剣幕と拳の重さに、リビドの体は椅子ごと浮き上がった。

 

「あ、いや、リン、それは誤解で……痛っ、ちょっ、待て!」

 

「待たない! 慈悲もない! 塵になれぇぇ!!」

 

 リンの怒涛(どとう)の連撃がリビドに叩き込まれる。

 その光景を眺めながら、ガウルが深い溜息(といき)をついて酒を(あお)った。

 

「……まあ、そうなるわな。 女扱いされないってのは、あの年頃の娘にしてみりゃ最大級の屈辱(くつじょく)だ」

 

 ガウルの台詞にアレクも同意するように(うなづ)く。

 

「あいつ、罠解除ができる癖に、無自覚に他者の地雷を踏み抜く天才だったな……」

「……リビドの仕事ぶりは信頼していたわ。 でも、その仕事と同じくらい、下劣(げれつ)な視線がパーティと街の秩序(ちつじょ)を乱していたわ」

 

 殴られる度にリビドが上げる悲鳴をBGMに、ガウルは残ったつまみを咀嚼(そしゃく)し、アレクは天井を(あお)ぎ、セリアは冷めた目でリビドの顔面の耐久力を測定していた。

 

「もう顔も見たくない! 二度と私の前に姿を見せるなあああ!!」

「な、なんでこんなことにいいいいい!!?」

 

 リンの、全身全霊を込めた正拳突きがリビドの腹部にめり込んだ。

 衝撃波が酒場の空気を震わせ、リビドの体は文字通り『弾丸』と化した。

 酒場の重厚な観音開きの扉を内側からぶち破り、夜の往来(おうらい)へと水平に射出。

 石畳の上を数回バウンドし、運悪く(あるいは必然的に)通りかかった肥溜め運搬車の荷台へと、見事な放物線を描いて突き刺さった。

 

「はぁ、はぁ……あー、すっきりした」

 肩で息をするリンを横目に、アレクが店の外をちらりと見た。

 

「……ガウル、悪いが扉の修理代を店主に」

「了解だ……あいつ、仕事だけは本当に完璧だったんだがなぁ」

 

 そう呟きながらも、ガウルは新しいつまみを追加し、アレクは二度と外を振り返ることなく『次はまともな奴を探そう』と話を切り替えた。

 優秀なシーフを失う痛手よりも、これ以上地雷を踏み抜かれない平和を選んだ一行の背中は、驚くほど冷淡で、清々しいほどに決然としていた。

 

 夜の静寂に、ドップリという鈍い音と、「くっ、くっせぇぇぇぇぇッ!!」という、悲鳴は彼らの耳には入らなかった。

 

 

 

 月明かりの下、リビドは井戸の冷水を何度も頭から被り、必死に体を洗っていた。

 鼻を突く肥溜めの臭いは、物理的には落ちても、精神的な屈辱までは洗い流してはくれない。

 

「……くそっ、散々だ。 仕事は完璧にこなしてきたはずなのに、なんで僕だけがこんな目に……」

 

 腰袋を逆さに振ってみたが、小気味よい硬貨の音は響かなかった。

 リビドの稼ぎは、そのほとんどが酒場での豪遊や、怪しげな|透視の魔導具(偽物)の購入、そして女性への貢ぎ物に消えていた。

 文字通り、身一つで放り出されたのだ。

 

「とりあえず、今夜の宿代だけでもどうにかしないと……」

 

 シーフの習性か、リビドの目は自然と「金になりそうな場所」を探して夜の路地を彷徨(さまよ)い始めた。

 

 王都の夜は、追放された身にはあまりに冷たかった。

 つい先ほどまで自分がいた『黄金の麦穂亭』の喧騒は遠ざかり、石畳を照らす魔導灯の光だけが、濡れた自分の影を無情に引き伸ばしている。

 閉まりきった商店の重い扉や、静まり返った貴族街の石壁。

 昼間は活気に満ちた街も、今のリビドにとっては自分を拒絶する巨大な檻のようにさえ感じられた。

 

 すると、大通りから一本外れた、家と家の隙間の狭い路地裏に、ぼんやりとしたランプの灯りを見つけた。

 

「(……あんな場所に人か? 闇商人か、それとも盗品売りか)」

 

 リビドのシーフとしての勘が『良くない物』の気配を察知する。

 だが、今の彼にはその『良くない物』こそが現状を打破する宝の山と考えた。

 気配を殺し、足音を立てずに隙間へと滑り込む。

 

 そこにいたのは、今にも消え入りそうなランプの下で、ボロ布の上に怪しげな巻物や紙を並べた、背の曲がった老人だった。

 

「おい、爺さん。 こんな時間にこんな場所で、何をしてんだ?」

 

 鋭く問いかけたリビドだったが、老人は驚く様子もなく、『待っていたぞ』と言わんばかりの笑みを向けてきた。

 

「おぉ……お主、いい眼をしておる。 執念、執着……そして、何にも代えがたい『飢え』が宿っておるわい」

「は? あんた何を言って……っ!」

 

 老人の意味深な台詞に理解が追い付かず、彼の手元に視線を落とした瞬間、リビドの呼吸が止まった。

 そこに並べられていたのは、精密な筆致(ひっち)で描かれた『エルフの女王の入浴シーン』や『踊り子の衣装が弾ける瞬間』といった、芸術的かつ過激な絵画の数々だった。

 

「っ……!? これは……この線の描き込み、そして陰影……! この質感、ただの絵じゃないぞ。 描いた奴は、よほどの変態か天才だ!」

 

 リビドの『色欲』が激しく反応し、全身の血が沸騰(ふっとう)したように熱くなる。

 パーティから追放されたショックなど、一瞬でどこかへ吹き飛んでいた。

 

「ほう。 一目で本質を見抜くか。 小僧、お前には『素質』がある……それも、ワシの跡を継げるほどのな」

 

「……跡を継ぐだと? 俺はシーフ、絵描きになるつもりは――」

 

 老人はリビドの言葉を遮り、ランプの光を自分の顔に当てた。

 その瞳は、底知れない魔力のような光を(たた)えている。

 

「お前さんの人生を邪魔するその『欲』。 今はただ周囲に(うと)まれるだけの泥水のような力だが、磨き、変換し、高次元へと昇華させれば……それは世界を震撼(しんかん)させる『セイなる輝き』に変わる」

 

 老人は一枚の真っ白な紙を差し出した。

 紙を差し出されたリビドが恐る恐る紙に触れようとすると、老人の指先から放たれた微かな熱量が、一枚の紙を通じて、リビドの中の『欲』と共鳴した。

 

「欲を力に変える……お主のその、抑えきれぬ欲望を『セイなる力』へと変換する方法を、学んでみる気はないか?」

 

 リビドは、肥溜めの臭いも忘れ、目の前の老人の提案に震えていた。

 論理的に考えれば怪しさ満点だ。

 だが、自分を拒絶した世界を見返せるのは、拒絶される原因になった『欲』しかないという確信が、彼を突き動かした。

 

「……教えてくれ、爺さん。 その、『セイ』なる力という奴を」

 

 

 

 

 

 

 王都を揺るがすような轟音と共に、怪しき教団の祭壇は崩落しかけていた。

 中心に鎮座するのは、不完全ながらも復活を遂げた魔王の『核』。

 そこから溢れ出す濃密な闇の波動は、かつてリビドが所属していた王国最強と謳われた『白銀の聖翼(せいよく)』を無残に打ちのめしていた。

 

「……くっ、ここまでなのか……」

 

 リーダーのアレクは、ひび割れた剣を杖代わりにどうにか上体を起こす。

 盾を砕かれたガウルは壁際に沈み、魔力が枯渇(こかつ)したセリアは祈りの言葉さえ(つむ)げない。

 そして格闘家のリンは、魔王の放った衝撃波をまともに喰らい、装備の一部が弾け飛んだ痛々しい姿で地面に伏していた。

 

 絶望がその場を支配しようとした、その時だった。

 崩落した天井の隙間から、夜空を切り裂くような『桃色の閃光』が差し込んだ。

 

「――待たせたな、皆……いや、今は『元・仲間たち』と呼ぶべきか」

 

 降り立ったのは、一人の男。

 だが、アレクたちはその姿を凝視しながらも、誰一人として即座にその名を呼ぶことができなかった。

 

 かつての地味な革鎧ではない。

 男が(まと)っているのは、白と金を基調とした、目も眩むような聖騎士風の軽装。

 しかし、そのカッティングは異常なまでに筋肉のラインを強調し、特に胸元と腹筋周辺は露出が激しい。

 

「リ、リビド……なのか? その格好は、いや、その神々しいまでの魔力は一体……?」

 

 アレクの問いに、リビドは答えなかった。

 彼は眩い光の粒子を振り撒きながら、地面に伏すリンの前へとゆっくりと歩み寄った。

 リビドは(ひざまず)いた。

 傷つき、服が裂けた姿で喘《あえ》ぐリンを、慈しむような、それでいて恐ろしく粘り気のある瞳で見つめた。

 

「リン……俺は、救いようのない大馬鹿野郎だった」

「な、なによ、急に……」

 

 リンが痛みに耐えながら、弱々しくリビドを睨む。

 リビドは深く頷き、その熱い視線をリンの全身へと走らせた。

 

「かつての俺は、記号的な美しさばかりを追い求め、君という『真の芸術』を見落としていた。 だが、エロムス師匠との修行を経て、俺の視神経は神の領域へと至った……見てみろ、泥に汚れながらも必死に脈打つその頸動脈(けいどうみゃく)。 苦痛に耐え、己を鼓舞しようと震える太腿の筋肉。そして、怒りと屈辱に濡れたその瞳……!」

 

 リビドの全身から、爆発的な輝きが溢れ出す。

 それはもはや魔力というより、純粋すぎる情熱の奔流(ほんりゅう)だった。

 

「今の君は……どの名画よりも、どの聖女よりも、猛烈に『いいオンナ』だッ!!」

 

 ドバッ、とリビドの鼻から鮮血が噴き出す。

 と同時に、彼が(まと)っていた桃色の光が黄金へと転じ、戦場全体を飲み込んだ。

 

「な、なんだこの熱気は……!? 聖なる力だと!? いや、これは……あまりに、あまりに厚かましいほどの、欲望ではないかッ!!」

 

 復活しかけていた魔王が、初めて恐怖に満ちた声を上げる。

 リビドは立ち上がり、光り輝く右拳を突き出した。

 

「くらえ、魔王! これが僕の、僕だけの――『セイなる力』だッ!!」

 

 放たれたのは、一撃。

 純度百パーセントの色欲を『聖光』へと強引に置換した光の柱が、魔王の核を跡形もなく消し飛ばしていた。

 

 

 

 

 

 

 静寂が訪れる。

 魔王の闇は霧散(むさん)し、崩壊しかけていた祭壇には、ただリビドが放つ残光だけが優しく、そしてどこか生暖かく降り注いでいた。

 

「助かった……のか?」

 

 アレクが呆然と呟く。

 世界を救ったのは、間違いなく目の前に立つ男だ。

 その背中は、伝説の勇者のように神々しい。

 

「……リビド」

 

 リンが、頬を赤らめながら顔を上げた。

 命を懸けて自分を、独特な表現ながらも称賛し、救ってくれた男。

 その強さと、一瞬だけ見せた真剣な眼差しに、彼女の心はわずかに揺れ動いていた。

 

「まあ、その。 助けてくれたのは、ありがと……ちょっとは、カッコよかったわよ」

 

 微かな期待を込めた、リンのデレ。

 しかし、リビドの反応は早かった。

 彼はシュタッと音を立てて跪くと、リンの足を凝視してこう言った。

 

「リン! 今のその、羞恥と困惑が混じり合い、煮え切らない想いが凝縮されたその瞳……最高だ! まるで極上の熟成肉のような深みを感じるぞ! 頼む、その脚で僕の顔を踏み抜いてくれ! 魔王を倒して空っぽになった僕の『セイ』なる器を、君の『やり場のない情念』という名の劇薬で満たして欲しいんだッ!!」

「…………」

 

 リンの拳が、先ほどの魔王を相手にした時よりも、更に速く振り抜かれた。

 

「やっぱり死ねえええええええ!!」

「あががががが……ッ! これは、これでアリ! 『セイ』なる報酬だああああ!!」

 

 『黄金の麦穂亭』での一幕よりも、鮮やかな放物線を描いて天へと打ち上げられたリビド。

 星となって消えていく彼を見送りながら、アレクは静かに剣を鞘に収めた。

 

「アレク、やっぱり彼の追放は正解だったわね」

「あぁ……そうだな」

 

 

 

 こうして、世界には平和が訪れた。

 一人の、あまりに突き抜けた『セイなる勇者』の犠牲()によって。

 

 

 

【終わり】

 

 

 




PS.こちらの作品は、カクヨムに投稿している
「【フリー設定集】創作の種、置いてます【使用OK】」
の中にある、
「【ファンタジー】平凡な僕は、最高位の変態に『後継者(二号)』としてスカウトされました」
の設定を思いつく前に閃いたお話になります。

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