あなたにとって、幸せは毒ですか?

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幸せになるのが怖かった。

報われるのが怖かった。

地を這う蟻。砂糖をかける。見えなくなる。

水槽を泳ぐ魚。自由にする。食べられる。

檻の中の小鳥。空に放す。連れ去られる。

身に余る幸福。

幸せになるのが怖かった。

鏡を見る。目の前にはバツががついている男がいた。


曰く、お前は救われない。
曰く、救いを願ってはいけない
曰く、曰く。

皮膚を掻きむしる。血が出る。
1日が始まる。


蟻と檻と幸せと。

 

 嫌になるほど暑い夏の日。毎年うざったい蚊は動きを止め、うるさい蝉もころころ落ちてくる。この景色が、いかに今年の夏が殺人的かを思い知らせる。

 

「大葉せんぱーい!こっちこっち!!」

 

明るい声が聞こえる。自分のお弁当をもって手をこちらに振る少女。

 

「ああ。少し待ってくれ。」

 

風も吹かない中庭は、誰一人ともいなかった。

 

「先輩…。もう少し愛想よくできませんかぁ…??せっかく誘ったのに…。初めてなんですよ!?先輩が乗ってくれたの!」 

 

感情表現が豊かだ。それが彼女の明るさを表現している。

 

「はい。早く食べましょう!先輩!」

 

「ああ。ゆっくり食べろよ、唯華。」

 

この子は1個下の佐藤唯華。ものすごく明るい子で、自分の頭までその明るさが入り込む。

 

彼女とは、部活が一緒でよくお昼に誘われる。いつもは断るが…今日は断る理由がなかった。

 

「先輩…もっと美味しそうに食べてくださいよ!!もう!」

 

「悪かったな。安い総菜パンで。」

 

こんなに暑い日だというのに、夏休みは遠い。

暑いと力が失われるはずなのに、こいつは違う。

…半袖のこいつが羨ましかった。

 

 

 

「…い!先輩!!聞いてますか!!!?」

 

「……悪い。何の話だ。」

 

「だから...!今週のテスト!ヤバいんですよ!」

 

「ああ…」

 

気が滅入る理由は、なにも暑さだけではない。夏休み前の定期テストが目前に迫ってきていた。

 

「うう...!前は先輩に少し教えてもらったから良かったですけど…無理です!多すぎて細かく聞けませんよぉ!!!」

 

「別に…解くだけだろ。」

 

強く睨まれる。

 

「先輩には分からないですよね!!馬鹿って言われる屈辱が...!苛立ちが!!」

 

そこまでいうか、と俺は思ったが…そうか。すると、唯華が聞いてきた。

 

「…先輩。放課後時間はあります…?勉強付きっきりで教えてください。」

 

唯華はよく俺にお願いをしてくる。やれ、ケーキ屋さんに行こうだの、映画を見に行こうだの。

…俺には似合わない場所ばかりだ。だが…勉強か。それならいいだろう、そう判断を下した。

 

「…わかった。いいぞ。」

 

唯華の顔が赤くなる。目をぱちくり大きくして驚いている。

 

「え…!?先輩が!?え…?私のお願いを…!?…先輩…悪いものでも食べましたか…?」

 

「別に、何でもかんでも断るわけないだろ。困ってる人がいるから助けるだけだ。」

 

「何でもかんでも断るじゃないですか!!もう!!放課後!教室まで迎えに行きますから!!」

 

「…わかった。」

 

そう言い、いつもの雑談に戻る。安い総菜パンは、いつもよりかは美味しく感じた。食事を終えるのはいつもよりは遅かった。

 

 

 

帰りのHRが始まる頃。教室の蒸し暑さは限界を超えていた。

 

「晶〜。最近どうなんだ〜?」

 

「…翔。別にどうともないよ。」

 

ええ〜とつまんなそうに言う。長身でスラッとしているイケメン。1年生の時からクラスが一緒のやつだ。

 

「…別に。あの子が、俺に合わせてるだけだよ。たまたまだよ、たまたま。」

 

「そうかぁ…?俺にはお前のことが気になって気になってしょうがないように見えるけどなぁ…?」

 

にやにやとあり得ないことをいう。

 

「別に…そうじゃないだろう。」

 

「素直じゃねぇな〜。」

 

教室に担任の先生が入ってくる。

思えば、こんな感じの暑い日だった。あいつと出会った日だ。

 

 

 

蒸し暑い夏の日。下駄箱から困惑する女子の声が聞こえた。

 

「…あれぇ…?どこぉ…?」

 

探し物をする時に、独り言が出てしまうほど、限界だったのだろう。

俺は様子をみることにした。

 

「靴がないと…帰れないよ…。もう!探しても全然見つからないし!」

 

……見てられないな。

 

「なぁ…。大丈夫か?」

 

「これが大丈夫に見えます!!か……?」

 

みるみる顔が赤くなっていく。な、な…と壊れた機械の様に。

 

「大丈夫に見えないから…声をかけたんだが…。何か探してるなら手伝うぞ…?」

 

「あ、えっと…大丈夫ですよ…。」

目が泳いでいる。言葉と表情が一致してない。

 

「いいから。手伝って欲しくないなら、独り言ぐらい抑えろよな。」

 

「あ…ありがとうございます…。」

 

そうして彼女の靴を探すのを手伝ったのがきっかけ

…だったか。

 

今思えば、誰でもよかったんだろう。

 

 

 

「起立。」

 

思わず立ち上がる。いつの間に時間が経っていたのかと驚く。

 

…約束があったのを思い出す。それと同時に

 

「せんぱーい!!!迎え!来ましたよ!!」

 

息切れをしながら走ってくる唯華。

 

ニヤニヤと見てくる翔。

 

「急ぎすぎだ。転ぶぞ。」

 

「いいえ!初めて誘いを断らなかったので!気合入れてます!」

 

そういって、私、気合い入れてます!!。

と全身で表現する。

 

…背中に汗が垂れる。

 

「行くか。図書室は涼しいからな。」

 

「はい!」

 




彼女は明るい。

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