1943年。
太平洋の戦局が静かに、しかし確実に傾き始める中、
戦場の裏側ではもう一つの「戦争」が起きていた。

昭南島(シンガポール)で、主流派の犬として
軍内部の横領と腐敗を狩る特務将校・越智広重。

計算尺一つで兵站の矛盾を追求する
ロジスティック将校・真鍋勲。

そして、帝都・東京で防諜の網を冷徹に操る
情報将校・辻村要。

1944年1月。
満洲のハルビン特務機関が傍受した一通の暗号電文が、
帝国の運命を狂わせる。

示されていたのは、
『テヘラン会談におけるソ連対日参戦の密約』を
匂わせる内容だった。

中央から東部軍に出向していた辻村は、
それが極めて精巧に作られた偽物だと見抜く。

誰が、なんの目的で偽造したのか。

だが、参謀本部の専門家や暗号班は、
致命的な失点と責任を恐れるあまり、
「一定の蓋然性が認められる」とし、
誰一人としてそれを「偽物だ」と断言しなかった。

「誰も責任を取らない」という官僚組織の病理。

エリートたちの曖昧な忖度と保身が積み重なり、
いつしか「嘘」は既成事実へと変わり、
組織内の政治的空気は少しずつ変化していく。

やがて設定された「絶対国防圏」すらも、
マリアナ沖での大敗によって崩壊。

その責任を問われた東條内閣はついに退陣し、
後を継いだのは小磯ではなく「米内単独内閣」だった。

ソ連仲介を唱える者たちの勢いは弱まり、
水面下で米英との早期講和へ舵を切り始める。

国体が売り渡されると悟った陸軍の徹底抗戦派は、
ついに帝都・東京で一斉蜂起。

霞が関や皇居周辺を舞台にした、
血で血を洗う「内戦」が勃発する。

だが、憂国に駆られたその叛乱は、
事前に冷徹に敷かれた無慈悲な
「殺戮地帯(キルゾーン)」によって、
短時間で殲滅された。

急転直下の激動。

官僚たちが自らの責任から逃れるために転がした鉛筆が、
国家をアメリカの資本へ売り渡す
白紙委任状へのサインに変わる。

無傷のインフラを残したまま、
日本はヤルタ会談前の「早期降伏」を受け入れた。

列島における弾丸の戦争は終わり、
泥沼化する大陸内戦の兵站基地として、
資本と法が支配する狂乱の時代が幕を開ける。

のちに日本が、
米国大統領選の行方すら左右する
「八つのスイングステート(州)」へと分割される――

そのすべての発端を描く第一部
「偽造暗号編」。

発端は些細なものだ。
誰かが見たいものを見てしまったに過ぎない。

……だが、一度上がった情報は、
欲している者の手で『証拠』に変わる。

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