魔女(CEO)の宅配便。〜弊社、従業員は猫なもので〜   作:カズあっと

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前後編の後半です。


14話 株式取得。

 

 なんやかんやで、無事十三階へと辿り着いたモモ達一行である。本日の目的は株式の取得、しかも国外企業のものだ。

 

「おー。なんか立派ー」

 

 このフロアでは主に、四十八ヶ国が加盟する連盟外の株式を取り扱っている。急のつく黒猫の宅配業も、有名なアニメスタジオも、連盟外の企業であった。

 

「そうよ。ここは、世界への港みたいなものなんだから」

 

 ヘンリエッタが、メイにドヤ顔をしている。様にしか、モモには見えなかった。

 

「大袈裟よ、ヘッティ。単なる窓口じゃない」

 

 悔しい訳ではないのだと、モモは主張したい。

 メイがとても感心した顔付きをしているからだ。

 猫達と似た様に、ヘンリエッタをボス猫だと思っている顔だった。

 負けた気がしたモモは、取り敢えず鼻を鳴らした。

 

「ここは、所詮は僻地の企業に施しをしてあげる場所なのよ。ブリテン淑女としての、優しさね」

 

 魔女による、とんでもないヘイトスピーチでしかない。そもそも魔女は、ブリテン淑女ではなかった。

 

「半分は、やさしさで出来ている」

「私のね」

 

 メイはうるさい。バッファフローになって死ね。モモは、心からそう祈る。

 

「モモ、ゴールもゴムにも関係なく、黒い太陽に正義はないわ」

「一文字、一号、正義」

 

 ヘンリエッタの無駄な特撮知識に、乗ってゆく魔女一号であった。隼人は二号である。猛が一号は、揺るがない。「、」が増えても、川口の探検隊は素敵なものだった。

 

「一行は、密林に向かった。あーまー!」

「それ以上はいけない」

 

 これは、ゾンビでありますか? いいえ、世界的大手プラットフォームです。

 期待しても、ワクワクしても、このザマだよ。というのが、モモの感想である。

 

「私、ヤマカタもイトゥも、嫌いなのよね」

「あーいうのが調子こいたから、変な軍閥が出来たのよ」

 

 ヘンリエッタは厳しい。モモもまた、遠慮はない。

 萩とかの長い州の汚職には、二人とも色々と想う所があった。月は関係ないのだが、せめて木編に土土がいれば、などと思わずにはいられない。

 

「面白き、こともなき世を面白く」

 

 呟くヘンリエッタ。

 だが下の句を、謳う必要はなかった。モモはアイツはまともな世の中に、無用の長物だと思っている。

 

「住みなすものの、心なりけり」

 

 メイが何を見ているのかもわからない。だが、流しておく。捜索は素敵な趣味であっても、捏造は感心出来ない話であった。

 モモは話題を切り替える。

 

胎生幇間(たいせいほうかん)は、面白くなかったわ。エドゥーを火の海にしなかったから、モストGOは氾濫したのよ」

 

 皇の命に統治権を返上することで、内乱を抑える。

 勝と南州による芝居の話だ。

 モモはチェストが嫌いでないので、どちらかと言えば、贔屓はソチラ派閥であった。

 戦が、し足りない。そう言った愛犬家の逞しさは嫌いではないし、卵を産むよりも、戦争の方が簡単なのが歴史でもあった。

 

「エックスとかスカイは、イマイチ話題にならないのよね……」

「正直、見た事ないから……」

 

 わかる淑女は二人しかいないので、正義を語るのだ。スピリッツというものと、関係はない。

 

「おやっさん……」

 

 メイは相変わらず、うるさかった。何故、お前がおやっさんを知っている。素敵な喫茶店は今はなくなってしまっている。

 美味しくないフィッシュ&チップスを出す飲み屋だけしか、ルンディニウムにはなかった。

 

「あいきゅーは、にひゃく」

 

 まだうるさかった。ガキに、SHOW、WAの何がわかるのだ。諸々の君に、届けたい気持ちがあった。知らない天丼である。

 

 しかし、僻地と言おうが、何と言おうが、企業価値は担保されたもの。零細であるモモにとっては言うに事欠き僻地でも、彼等は世界の中心だった。

 

「何よ、あのロゴ。子猫なんて咥えちゃって。こっちが咥えているのは、トマトなのよ! 苺よりも糖度は上なのよ!」

 

 ロゴでは勝っている。ここ十数年間モモの楽しむスイーツの中で、一番糖度の高い果物は少し青くなったトマトであった。スイーツ。

 

「トマト苦いから嫌いー」

 

 それは、美味しくないヤツである。子供舌を笑ってやったモモは、ローキックを喰らった。

 

 

 

「あのー」

 

 だがしかし、不審者三名は見咎められる。穏やかな声を発したのは、所謂受付嬢であった。

 顔を上げれば、綺麗な若者が見える。モモは二十七歳、アラサーだ。二十二、三の女の子は、妹みたいなものだった。

 

「オホホ? 貧乏していても、心は錦鯉?」

 

 つい、反応してしまうモモである。お胸のサイズで負けぬ様、寄せてあげる姿勢を取った。とっても、海賊であった。

 

「だっちゅーの!」

 

 やはりメイは、とてもうるさかった。HEY! 正方形な、ハイになる。禿げかけた茶髪の方が、その瞳で君は嘘をついていた。薬、ダメ、絶対。

 

「遊んでおられるなら、お引き取り願いたいのですけれど……」

 

 受付嬢は可愛らしいお顔をして、とても毒舌である。が、モモは前へ、ズンズンと進む。

 

「申し訳、ございませんでしたー!」

 

 そして、流れる様にして、額を柔らかな床へと擦り付けた。土下座は、得意科目である。同性愛者な魔法学園の爺様校長にも、気に入られた姿であった。

 

「謝るくらいなら、出て行って貰いたいのですが」

 

 現実は非情である。モモの鼻筋は、ピクピクと血管が浮き出ている。間抜けは見つかった。

 だが、モモは挫けない。ヒーローは、挫けないものである。宇宙でも、刑事は危ない気分であった。

 だからこそ、問い掛ける。

 

「若さって何?」

「未熟さかと?」

 

 まだまだ青い小娘を、鼻で笑ったモモだ。

 澄まし顔をする受付嬢に、指を差す。失礼なので、真似してはいけない仕草であった。

 

「振り向かないことよ」

 

 言い切ったモモは、自分は若いと思っている。だからこそ、振り向かない。常に前を向いている。

 

「それで、ご用件は? ないのなら、お引き取り願いたいのですけれど」

 

 物腰こそ丁重であるが、それだけだった。

 

「私は客よ。神、即ちゴッド。そんな態度で良いのかしら? 苦情を入れるわよ」

「お客様は、神様ではございませんので」

 

 カスみたいな主張は、にべもなく斬られる。

 

「ヘッティ! 助けて! アイツ、塩い!」

「そんなに、塩じゃないわ。ソルトよ。振り返ってはダメよ。ロトもそう言われているわ」

 

 塩の柱となりけり。そして、伝説へは続かない。

 普通の、善良な人であるからだ。

 四つの都市に嫌気がさしても、娘達が更に罪を重ねても、ロトは善良であることにされた。

 数字あわせによる一攫千金は、賭け事でしかないのに。

 

「それで、ご用件は? なければ、本当にお引き取り願いたいのですが」

 

 あくまでも冷静な受付嬢へ、モモはドヤ顔を晒す。

 

「私は、えむあんどえむを、しにきたのよ」

「はぁ」

 

 懐中から取り出したチョコレート菓子を見せる。

 お手上げの姿勢を取った受付嬢の手のひらに乗せれば、彼女は殊勝にお礼を言った。

 

「つまり、株式売買ね。案内を頼むわ」

「左様でございますか」

 

 溶けにくく、手につきにくい大人気お菓子にメイが瞳を輝かす。だが、糞餓鬼はヘンリエッタに抱えられている。

 

「ちょこび! 美味しいよ!」

 

 そんなものは存在しないが、黒猫達に食べさせようとするからだ。使い魔なので平気であるが、殺猫案件である。ちゃんと、教育してやらねばならない。

 

「猫にチョコレートは毒なのよ」

「ええっ!?」

 

 常識であった。それを八歳児に教えてやるのも大人の務めとされている。

 

「お騒がせして、ごめんなさいね」

「私に、良い考えがある」

 

 ギーコ、ギーコと車椅子を漕いだヘンリエッタが、受付嬢へと頭を下げた。コソボーイ司令は、碌でもない考えを思いついたようだった。

 

「いえ、お気になさらず。それで、M&Aをお考えということですが……」

 

 モモは、思わず固まった。

 

「まずは、少数株主ってヤツね。そんなに、信用してないもの。貴女達には、こういった少額投資の山が、大切ではなくって?」

 

 だが、彼女は挫けない。あばよ涙、よろしく勇気だと、古から語られているのだから。

 

「そういったご相談につきましては、担当がおりますので」

「それもそうね。お尻の青い子猫ちゃんには、レベルの高いお話だったかしら」

 

 ここで、マウントを取るのがモモだ。投資をするのは資産家の生態で、資本主義の勝者への道だった。

 彼女はつまらないと言い、資本論を焚書している。

 

「確かに、レベルは高うございますね。桃尻女神様ほど、お尻に自信もありませんし」

 

 再びモモは、固まることとなる。

 

「暫し、お待ち下さいね」

 

 ピンポンと音が鳴り、整理券が発券された。ようやく、案内が始まるようだった。

 

「お世話になります」

「はーい」

 

 ヘンリエッタが軽く礼を言い、メイも素直に頷いている。モモはお尻を抑える。

 

「食べちゃダメー!」

「大丈夫よ。モモの使い魔だし、猫じゃないから」

 

 連れて来ていたジジ達五匹の黒猫は、粒状のカラフルなチョコレートを貪り食っていた。

 

 

 

「それで、M&Aをご検討と伺っておりますが」

 

 七対三に黒髪をポマードで撫で付けた青年が、丁寧に頭を下げた。

 

「えぇ。エムズではないわ」

 

 ピンク髪の魔女も、頭を下げた。強要されないお辞儀に抵抗はない。ハンカチを広げ、カラフルなお菓子を乗せた。

 

「これはご、丁寧にどうも。ですが、顧客からの贈り物は、社則により禁じられておりますれば」

 

 丁寧なお断りをされたので、チョコはメイのお口へ突っ込んでおくことにする。糞餓鬼は、甘味に幸せそうなお顔をしていた。

 

「それほど、大掛かりな案件ではないのよ。ごめんなさいね」

「いえいえ、金は天下の回りもの。それが小規模であろうと、ご立派な心掛けにございますよ」

 

 青年は、如才なく頷く。

 歳の頃は、そう変わらない。だからこそ、モモは少しだけ緊張していた。

 あまり同年代の異性とは、お喋りをしたことがないので。

 

「……」

 

 ここは金融証券取引場十三階、国際連盟外株式を取り扱う窓口の、応接室である。

 モモは口を開けない。紙コップで出されたお茶を、口にしているからだ。

 そうでなくとも、何をお喋りすれざ良いのかわからなかった。

 

「それで、お客様。株式投資をご検討というお話ですが、どういった企業へのものを、お考えで?」

 

 彼は中々のやり手であるようで、上手く話を向けてくる。

 

「投資をしたい企業は、決まっているの」

「それは、それは。どちらをお考えですか?」

 

 名前を出してしまっても、良いのか? などと考えたモモであるが、出さぬことには始まらない。

 

「黒猫印の宅配業と、猫の恩返しなスタジオね。急の字を頂きたいのよ」

 

 若干、考えた素振りを見せる担当であったが、分厚い企業名鑑を開いて指す。

 彼はその名を口にはしない。かなり、話のわかる担当であった。

 

「こちらは問題ございませんが、君達はどう生きるかを問うスタジオとなると、少々難しいところです」

 

 難しい顔をしている。

 

「崖の上にあるから?」

「いえ、非上場企業でございますので」

 

 そんな話は、聞いていなかった。魔女は少々狼狽える。

 

「なんですって? 詳しく、説明を求めるわ」

 

 あの数多の名作を送り出したスタジオが、モモの魔女の宅配便同様、非上場であるとは夢にも思っていなかった。

 映画はロケットを打ち上げるくらいに、勇気が必要なのである。それが、資金繰りに便利な上場を行ってないとなると。

 

「出銭や罠兄弟などの五大メジャーは、上場済みよ」

 

 エンタメには、お金がかかるものなのだ。モモとてそれくらいは知っている。だからこそ、腑に落ちないものである。

 

「それらに比べると、たぬき合戦ボンボコは、小規模なスタジオでしてね。こちらの企業の、関連子会社となっております」

 

 またもや名鑑を開く担当者。彼の指差す企業名は、ヤボン放送ホールディングス。

 

「こちらの子会社となります。そして、少々厳しい事を申し上げますと……」

 

 親会社の株式を取得したからとして、子会社に直接物言うことは出来ないのだと、説明される。

 肩を落としてゆくモモ。

 

「知っていたの? ヘッティ」

「ええ。監督や経営陣の高齢化も問題視されていて、有名な話だし」

 

 ヘンリエッタは、優雅に紅茶を嗜む。コソボーイ司令が淹れたものだ。彼は中々の執事振りであった。

 

「モモ君、発想を逆転したまえ。君の本命は、どちらだね?」

 

 消えかけていたモモの野心に、光が灯る。

 

「流石、良い考えね司令官。分轄投資より、本線に注力した方が、効率的よね」

 

 実の所、本命は黒猫のほうなのだ。

 モモは知っている。そちらが協賛となることで、パヤオの映画は憚りなく急を使えたのだと。

 

「隣の森は青いけど、私は迷わない」

「左様でございますか」

 

 意外と立ち直りの早い女であった。名鑑を手にし、黒猫マークの頁を開く。

 

「担当さん。こちらの株式を毎月、購入しようと思っているの。——これで」

 

 虚空から、札束が二つ。紙幣百枚毎に、帯で包まれていた。ローゼンタールから受け取った、先月の報酬だった。猫缶とちゅ〜る、一月分を超える大金だ。

 

「ほほう。これは、豪儀ですな」

 

 感心する担当者。金融市場において、昨今ではあまり現金での取引は行われていない。

 日頃より大金を扱う彼等とて、あまり目にするものではないのだろう。

 

「私は魔女なので、現金しか使えなくってね」

 

 魔女には口座も作れない。金融情報など、好きに弄り放題であるからだ。対して、国家の信用そのものである貨幣を複製する事は出来なかった。

 

「難儀して、おりますのでしょうな」

「もう、慣れっこよ」

 

 国家を、歴史や文化を、そして信用を複製することなど、魔女であっても出来ないものである。

 通信を前提とした取引も、魔女には許されない。

 利便性や信頼性を追求してのシステムに、参加すら出来ないのが魔女の社会での立場であった。

 

「逞しいことでして」

 

 だからこそ、魔女は現金商売なのである。

 さして分厚くもない札束に二つに、担当者の視線も釘付けとなっている。現物とは、意外に重みがあるものだった。

 

「毎月、少しずつ投資していこうと考えているの」

「良い心掛けにございます」

 

 敵は大企業である。モモの得た泡銭では、アリみたいなものだろう。アリさんマークでさえ、黒猫には及ばなかった。

 

「私も、馬鹿ではないわ。けれど、一歩ずつ積み立てていくのよ。そして、いつか、きっと……」

 

 物言う株主となって、急を使わせて貰うのだ。奴らは同業他社であり、謂わば商売敵のようなもの。

 遠慮はいらない。

 

「これを、そっくりそのままお使いになられますのでしょうか?」

「勿論よ。何株、買えるのかしら?」

 

 ドヤ顔を晒すモモである。

 所詮は泡銭なのだ。現金収入が増えようと、使い魔への還元はない。猫に小判は必要がなく、ブラック経営者の独り占めとなっている。

 

「売買は、単元単位で行われるものでして。また、別途手数料などもかかりますれば……」

 

 ちょっと長い説明は、右から左へ抜けてゆく。馬の耳に念仏というものだった。モモは投資家になりたいのでなく、黒猫を乗っ取ってやりたいだけなのだ。

 

「抜かりはないわ。為替相場の変動も込みで、十単元くらいは買えると思っているけどね」

 

 自信に溢れた顔で、言い切る。

 事前に下調べもしているし、パヤオにベットする資金をそのまま乗せれば、そのくらいにはなった。

 

「よく、お勉強されてますな」

「当然よ」

 

 またもや、長ったらしい説明がされてゆく。モモは聞き流していた。

 色々と面倒な取り決めがあろうとも、魔女にはどうとでもなった。だからこそ、市場から締め出されているのだが。

 

「気の遠くなる話よね」

 

 遠い目をするモモ。まだ担当は何かを喋っていた。

 

「あそこの発行株式は数億株だから、百万分の一くらいね。50万ヶ月も繰り返せば、大株主になれるわ」

「四万年かぁ……」

 

 夢のないヘンリエッタを置いておき、モモはウキウキしている。株式投資という信用社会に飛び出すのだから、空を夢見たあの日以来、胸が踊っていた。

 

「それで、モモ。本気で、全額投資に注ぎ込むの?」

「一点豪華主義貧乏!」

 

 メイはうるさかったが、ヘンリエッタには頷いた。

 ヤレヤレと、頭を振るブリテン淑女の姿が見える。

 

「ねぇ、ヘッティ。何か、問題があるの?」

 

 恐る恐る尋ねれば、大きく息を吐き出す親友、もとい大家でもある魔女の宅配便、常務取締役。

 

「おおありよ」

「オオアリクイが現れた!」

 

 お手伝いの賑やかしは無視して、モモは考える。

 割と常識的なヘンリエッタの言う事だ。考えて損はない。そんな信頼があった。

 

「十単元のお取引きでよろしければ、こちらに署名を頂きたいものですが」

 

 満面の笑みを浮かべ、契約書を差し出す担当にモモは首を振る。

 

「少し、待ちなさい」

「ええ、お待ちいたします」

 

 しつこい営業はなかった。モモは考え続ける。

 ローゼンタールからの報酬を、全額投資に注ぎ込むことで、起こり得る事態を。

 

「毎月の、固定収入と考えて良いのよね?」

 

 正確には労働報酬であるのだが、そう簡単に打ち切られるものではない。そうなれば、薔薇園も煤塵と帰すこととなろう。

 

「そうね。安定した所得になるかもね」

 

 それに、働くのは猫達なのだ。経費も上乗せされないし、まる貰いの現金だった。

 

「家賃は毎月、払えてるよね?」

「そうね。毎月頂いているわ」

 

 水道光熱費かや修繕積立費まで込み込みだ。親友特権により、モモは甘やかされている。

 

「ちゅ〜ると猫缶、増やした方が良いのかしら?」

「太るわよ」

 

 猫達のオヤツにも不自由していない。

 毎日お腹いっぱい食べさせてもいた。

 良い飼い主だとモモは自画自賛する。

 使い魔なので、食事も必要ないのだが。

 

「スーツは経費で落ちるわよね? 必要な出費だし」

「ドレスとか、私服も多分経費になるわよ。必要な備品だから」

 

 ドレスは別にいらないが、奮発して、スーツも二着仕立てていた。

 

「やり繰りは、出来ているし? ……うーん?」

 

 頭を抱えるモモである。ヘンリエッタは何も言わないし、担当もまた何も言わないでいる。

 メイだけが、薄いお胸を叩いていた。

 

「朕は国家なり」

 

 唐突に、とんでもない事を言い出す糞餓鬼。

 しかし、モモには電流走る。

 

「……」

 

 それを言葉にするには、あまりにも悍ましい。

 毎年、悩まされるもの。

 

「売上が倍になるんだけど、その場合の税率は?」

「制限いっぱいよ」

 

 所得税、事業所税、住民税など諸々。売上の半分近くが飛んでゆく。

 要するに、国への所場代だ。

 蛮族だろうが、国は国。納税は国民の義務であるのだから、ブリテンで生活する以上、逃れようがない。

 

「そうすると、私の可処分所得って?」

 

 ヘンリエッタは机に置かれたままの札束の一つに手を伸ばし、モモへと渡した。

 

「まず、これは納税資金ね。使っちゃダメよ」

 

 そして、手はもう一つの札束へと伸びる。

 

「こっちは、各種保険料なんかの上乗せ分とかでも消えるわね。富める者には、義務があるのよ」

 

 帯を割り、半分程を抜き取って、紙幣を再びモモへと手渡した。

 机の上に残るのは、当初の見積もりからすれば、四分の一程の現金。

 

「これだけ……?」

 

 三単元には足が出て、二単元なら幾らか余るだけの現金が残った。

 

「無駄遣いは禁物だけど、自由に使えるのはそれくらいかしら。あと、今月から家賃も上がるわよ」

 

 無慈悲な通達と共に、二枚の紙幣を抜き取る女。

 

「えっ」

 

 モモが情けない声を出す。鳩が豆鉄砲とは、正にこのことだった。

 

「収入が増えたのだから、当然でしょ? メンテナンスも必要だし、変形したから修繕も大変なのよ」

 

 ロケット打ち上げ程ではなくとも、ミサイル発射も維持費がかかる。その理屈はわかる。わかるのだが、モモは——。

 

「それって、ヘッティのカタパルトのせいじゃ……」

 

 砲弾となったのは、ヘンリエッタの意思である。モモの意思では、決してない。

 

「お尻の肖像権、そのためなのよ」

「モモ姉、愛されておりますなー」

 

 男性の前で、お尻の話は止めて欲しかった。モモとて、人並の羞恥心くらいはあるものなのだから。

 あと、メイはうるさかった。

 

「それでは、毎月二単元の投資ということで、よろしいでしょうか?」

 

 プロフェッショナルな担当者は、少額投資にも優しくしてくれる。

 

「ええ、問題ないわ。いいわね? モモ」

 

 だが、何故その質問に答えるのがヘンリエッタなのか、モモにはわからない。

 

「やったね! モモ姉! 夢の株主だよ!」

 

 メイがお祝いしてくれる。

 そうなのだ。まだ一歩目でしかないのだ。二十万年も投資を続ければ、大株主だって夢じゃない。

 

「まってなさい黒猫!」

 

 そう切り替えた前向きな魔女は、契約書に署名捺印をする。

 こうして、晴れて魔女の宅配便CEOモモは黒猫印の株主となり、毎月届けられる株主向けの会報に、ニヤニヤとする事になった。

 

 少しずつ増えてゆく数字に急の文字を夢見ながら。

 

 




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