魔女(CEO)の宅配便。〜弊社、従業員は猫なもので〜 作:カズあっと
なんやかんやで、無事十三階へと辿り着いたモモ達一行である。本日の目的は株式の取得、しかも国外企業のものだ。
「おー。なんか立派ー」
このフロアでは主に、四十八ヶ国が加盟する連盟外の株式を取り扱っている。急のつく黒猫の宅配業も、有名なアニメスタジオも、連盟外の企業であった。
「そうよ。ここは、世界への港みたいなものなんだから」
ヘンリエッタが、メイにドヤ顔をしている。様にしか、モモには見えなかった。
「大袈裟よ、ヘッティ。単なる窓口じゃない」
悔しい訳ではないのだと、モモは主張したい。
メイがとても感心した顔付きをしているからだ。
猫達と似た様に、ヘンリエッタをボス猫だと思っている顔だった。
負けた気がしたモモは、取り敢えず鼻を鳴らした。
「ここは、所詮は僻地の企業に施しをしてあげる場所なのよ。ブリテン淑女としての、優しさね」
魔女による、とんでもないヘイトスピーチでしかない。そもそも魔女は、ブリテン淑女ではなかった。
「半分は、やさしさで出来ている」
「私のね」
メイはうるさい。バッファフローになって死ね。モモは、心からそう祈る。
「モモ、ゴールもゴムにも関係なく、黒い太陽に正義はないわ」
「一文字、一号、正義」
ヘンリエッタの無駄な特撮知識に、乗ってゆく魔女一号であった。隼人は二号である。猛が一号は、揺るがない。「、」が増えても、川口の探検隊は素敵なものだった。
「一行は、密林に向かった。あーまー!」
「それ以上はいけない」
これは、ゾンビでありますか? いいえ、世界的大手プラットフォームです。
期待しても、ワクワクしても、このザマだよ。というのが、モモの感想である。
「私、ヤマカタもイトゥも、嫌いなのよね」
「あーいうのが調子こいたから、変な軍閥が出来たのよ」
ヘンリエッタは厳しい。モモもまた、遠慮はない。
萩とかの長い州の汚職には、二人とも色々と想う所があった。月は関係ないのだが、せめて木編に土土がいれば、などと思わずにはいられない。
「面白き、こともなき世を面白く」
呟くヘンリエッタ。
だが下の句を、謳う必要はなかった。モモはアイツはまともな世の中に、無用の長物だと思っている。
「住みなすものの、心なりけり」
メイが何を見ているのかもわからない。だが、流しておく。捜索は素敵な趣味であっても、捏造は感心出来ない話であった。
モモは話題を切り替える。
「
皇の命に統治権を返上することで、内乱を抑える。
勝と南州による芝居の話だ。
モモはチェストが嫌いでないので、どちらかと言えば、贔屓はソチラ派閥であった。
戦が、し足りない。そう言った愛犬家の逞しさは嫌いではないし、卵を産むよりも、戦争の方が簡単なのが歴史でもあった。
「エックスとかスカイは、イマイチ話題にならないのよね……」
「正直、見た事ないから……」
わかる淑女は二人しかいないので、正義を語るのだ。スピリッツというものと、関係はない。
「おやっさん……」
メイは相変わらず、うるさかった。何故、お前がおやっさんを知っている。素敵な喫茶店は今はなくなってしまっている。
美味しくないフィッシュ&チップスを出す飲み屋だけしか、ルンディニウムにはなかった。
「あいきゅーは、にひゃく」
まだうるさかった。ガキに、SHOW、WAの何がわかるのだ。諸々の君に、届けたい気持ちがあった。知らない天丼である。
しかし、僻地と言おうが、何と言おうが、企業価値は担保されたもの。零細であるモモにとっては言うに事欠き僻地でも、彼等は世界の中心だった。
「何よ、あのロゴ。子猫なんて咥えちゃって。こっちが咥えているのは、トマトなのよ! 苺よりも糖度は上なのよ!」
ロゴでは勝っている。ここ十数年間モモの楽しむスイーツの中で、一番糖度の高い果物は少し青くなったトマトであった。スイーツ。
「トマト苦いから嫌いー」
それは、美味しくないヤツである。子供舌を笑ってやったモモは、ローキックを喰らった。
「あのー」
だがしかし、不審者三名は見咎められる。穏やかな声を発したのは、所謂受付嬢であった。
顔を上げれば、綺麗な若者が見える。モモは二十七歳、アラサーだ。二十二、三の女の子は、妹みたいなものだった。
「オホホ? 貧乏していても、心は錦鯉?」
つい、反応してしまうモモである。お胸のサイズで負けぬ様、寄せてあげる姿勢を取った。とっても、海賊であった。
「だっちゅーの!」
やはりメイは、とてもうるさかった。HEY! 正方形な、ハイになる。禿げかけた茶髪の方が、その瞳で君は嘘をついていた。薬、ダメ、絶対。
「遊んでおられるなら、お引き取り願いたいのですけれど……」
受付嬢は可愛らしいお顔をして、とても毒舌である。が、モモは前へ、ズンズンと進む。
「申し訳、ございませんでしたー!」
そして、流れる様にして、額を柔らかな床へと擦り付けた。土下座は、得意科目である。同性愛者な魔法学園の爺様校長にも、気に入られた姿であった。
「謝るくらいなら、出て行って貰いたいのですが」
現実は非情である。モモの鼻筋は、ピクピクと血管が浮き出ている。間抜けは見つかった。
だが、モモは挫けない。ヒーローは、挫けないものである。宇宙でも、刑事は危ない気分であった。
だからこそ、問い掛ける。
「若さって何?」
「未熟さかと?」
まだまだ青い小娘を、鼻で笑ったモモだ。
澄まし顔をする受付嬢に、指を差す。失礼なので、真似してはいけない仕草であった。
「振り向かないことよ」
言い切ったモモは、自分は若いと思っている。だからこそ、振り向かない。常に前を向いている。
「それで、ご用件は? ないのなら、お引き取り願いたいのですけれど」
物腰こそ丁重であるが、それだけだった。
「私は客よ。神、即ちゴッド。そんな態度で良いのかしら? 苦情を入れるわよ」
「お客様は、神様ではございませんので」
カスみたいな主張は、にべもなく斬られる。
「ヘッティ! 助けて! アイツ、塩い!」
「そんなに、塩じゃないわ。ソルトよ。振り返ってはダメよ。ロトもそう言われているわ」
塩の柱となりけり。そして、伝説へは続かない。
普通の、善良な人であるからだ。
四つの都市に嫌気がさしても、娘達が更に罪を重ねても、ロトは善良であることにされた。
数字あわせによる一攫千金は、賭け事でしかないのに。
「それで、ご用件は? なければ、本当にお引き取り願いたいのですが」
あくまでも冷静な受付嬢へ、モモはドヤ顔を晒す。
「私は、えむあんどえむを、しにきたのよ」
「はぁ」
懐中から取り出したチョコレート菓子を見せる。
お手上げの姿勢を取った受付嬢の手のひらに乗せれば、彼女は殊勝にお礼を言った。
「つまり、株式売買ね。案内を頼むわ」
「左様でございますか」
溶けにくく、手につきにくい大人気お菓子にメイが瞳を輝かす。だが、糞餓鬼はヘンリエッタに抱えられている。
「ちょこび! 美味しいよ!」
そんなものは存在しないが、黒猫達に食べさせようとするからだ。使い魔なので平気であるが、殺猫案件である。ちゃんと、教育してやらねばならない。
「猫にチョコレートは毒なのよ」
「ええっ!?」
常識であった。それを八歳児に教えてやるのも大人の務めとされている。
「お騒がせして、ごめんなさいね」
「私に、良い考えがある」
ギーコ、ギーコと車椅子を漕いだヘンリエッタが、受付嬢へと頭を下げた。コソボーイ司令は、碌でもない考えを思いついたようだった。
「いえ、お気になさらず。それで、M&Aをお考えということですが……」
モモは、思わず固まった。
「まずは、少数株主ってヤツね。そんなに、信用してないもの。貴女達には、こういった少額投資の山が、大切ではなくって?」
だが、彼女は挫けない。あばよ涙、よろしく勇気だと、古から語られているのだから。
「そういったご相談につきましては、担当がおりますので」
「それもそうね。お尻の青い子猫ちゃんには、レベルの高いお話だったかしら」
ここで、マウントを取るのがモモだ。投資をするのは資産家の生態で、資本主義の勝者への道だった。
彼女はつまらないと言い、資本論を焚書している。
「確かに、レベルは高うございますね。桃尻女神様ほど、お尻に自信もありませんし」
再びモモは、固まることとなる。
「暫し、お待ち下さいね」
ピンポンと音が鳴り、整理券が発券された。ようやく、案内が始まるようだった。
「お世話になります」
「はーい」
ヘンリエッタが軽く礼を言い、メイも素直に頷いている。モモはお尻を抑える。
「食べちゃダメー!」
「大丈夫よ。モモの使い魔だし、猫じゃないから」
連れて来ていたジジ達五匹の黒猫は、粒状のカラフルなチョコレートを貪り食っていた。
「それで、M&Aをご検討と伺っておりますが」
七対三に黒髪をポマードで撫で付けた青年が、丁寧に頭を下げた。
「えぇ。エムズではないわ」
ピンク髪の魔女も、頭を下げた。強要されないお辞儀に抵抗はない。ハンカチを広げ、カラフルなお菓子を乗せた。
「これはご、丁寧にどうも。ですが、顧客からの贈り物は、社則により禁じられておりますれば」
丁寧なお断りをされたので、チョコはメイのお口へ突っ込んでおくことにする。糞餓鬼は、甘味に幸せそうなお顔をしていた。
「それほど、大掛かりな案件ではないのよ。ごめんなさいね」
「いえいえ、金は天下の回りもの。それが小規模であろうと、ご立派な心掛けにございますよ」
青年は、如才なく頷く。
歳の頃は、そう変わらない。だからこそ、モモは少しだけ緊張していた。
あまり同年代の異性とは、お喋りをしたことがないので。
「……」
ここは金融証券取引場十三階、国際連盟外株式を取り扱う窓口の、応接室である。
モモは口を開けない。紙コップで出されたお茶を、口にしているからだ。
そうでなくとも、何をお喋りすれざ良いのかわからなかった。
「それで、お客様。株式投資をご検討というお話ですが、どういった企業へのものを、お考えで?」
彼は中々のやり手であるようで、上手く話を向けてくる。
「投資をしたい企業は、決まっているの」
「それは、それは。どちらをお考えですか?」
名前を出してしまっても、良いのか? などと考えたモモであるが、出さぬことには始まらない。
「黒猫印の宅配業と、猫の恩返しなスタジオね。急の字を頂きたいのよ」
若干、考えた素振りを見せる担当であったが、分厚い企業名鑑を開いて指す。
彼はその名を口にはしない。かなり、話のわかる担当であった。
「こちらは問題ございませんが、君達はどう生きるかを問うスタジオとなると、少々難しいところです」
難しい顔をしている。
「崖の上にあるから?」
「いえ、非上場企業でございますので」
そんな話は、聞いていなかった。魔女は少々狼狽える。
「なんですって? 詳しく、説明を求めるわ」
あの数多の名作を送り出したスタジオが、モモの魔女の宅配便同様、非上場であるとは夢にも思っていなかった。
映画はロケットを打ち上げるくらいに、勇気が必要なのである。それが、資金繰りに便利な上場を行ってないとなると。
「出銭や罠兄弟などの五大メジャーは、上場済みよ」
エンタメには、お金がかかるものなのだ。モモとてそれくらいは知っている。だからこそ、腑に落ちないものである。
「それらに比べると、たぬき合戦ボンボコは、小規模なスタジオでしてね。こちらの企業の、関連子会社となっております」
またもや名鑑を開く担当者。彼の指差す企業名は、ヤボン放送ホールディングス。
「こちらの子会社となります。そして、少々厳しい事を申し上げますと……」
親会社の株式を取得したからとして、子会社に直接物言うことは出来ないのだと、説明される。
肩を落としてゆくモモ。
「知っていたの? ヘッティ」
「ええ。監督や経営陣の高齢化も問題視されていて、有名な話だし」
ヘンリエッタは、優雅に紅茶を嗜む。コソボーイ司令が淹れたものだ。彼は中々の執事振りであった。
「モモ君、発想を逆転したまえ。君の本命は、どちらだね?」
消えかけていたモモの野心に、光が灯る。
「流石、良い考えね司令官。分轄投資より、本線に注力した方が、効率的よね」
実の所、本命は黒猫のほうなのだ。
モモは知っている。そちらが協賛となることで、パヤオの映画は憚りなく急を使えたのだと。
「隣の森は青いけど、私は迷わない」
「左様でございますか」
意外と立ち直りの早い女であった。名鑑を手にし、黒猫マークの頁を開く。
「担当さん。こちらの株式を毎月、購入しようと思っているの。——これで」
虚空から、札束が二つ。紙幣百枚毎に、帯で包まれていた。ローゼンタールから受け取った、先月の報酬だった。猫缶とちゅ〜る、一月分を超える大金だ。
「ほほう。これは、豪儀ですな」
感心する担当者。金融市場において、昨今ではあまり現金での取引は行われていない。
日頃より大金を扱う彼等とて、あまり目にするものではないのだろう。
「私は魔女なので、現金しか使えなくってね」
魔女には口座も作れない。金融情報など、好きに弄り放題であるからだ。対して、国家の信用そのものである貨幣を複製する事は出来なかった。
「難儀して、おりますのでしょうな」
「もう、慣れっこよ」
国家を、歴史や文化を、そして信用を複製することなど、魔女であっても出来ないものである。
通信を前提とした取引も、魔女には許されない。
利便性や信頼性を追求してのシステムに、参加すら出来ないのが魔女の社会での立場であった。
「逞しいことでして」
だからこそ、魔女は現金商売なのである。
さして分厚くもない札束に二つに、担当者の視線も釘付けとなっている。現物とは、意外に重みがあるものだった。
「毎月、少しずつ投資していこうと考えているの」
「良い心掛けにございます」
敵は大企業である。モモの得た泡銭では、アリみたいなものだろう。アリさんマークでさえ、黒猫には及ばなかった。
「私も、馬鹿ではないわ。けれど、一歩ずつ積み立てていくのよ。そして、いつか、きっと……」
物言う株主となって、急を使わせて貰うのだ。奴らは同業他社であり、謂わば商売敵のようなもの。
遠慮はいらない。
「これを、そっくりそのままお使いになられますのでしょうか?」
「勿論よ。何株、買えるのかしら?」
ドヤ顔を晒すモモである。
所詮は泡銭なのだ。現金収入が増えようと、使い魔への還元はない。猫に小判は必要がなく、ブラック経営者の独り占めとなっている。
「売買は、単元単位で行われるものでして。また、別途手数料などもかかりますれば……」
ちょっと長い説明は、右から左へ抜けてゆく。馬の耳に念仏というものだった。モモは投資家になりたいのでなく、黒猫を乗っ取ってやりたいだけなのだ。
「抜かりはないわ。為替相場の変動も込みで、十単元くらいは買えると思っているけどね」
自信に溢れた顔で、言い切る。
事前に下調べもしているし、パヤオにベットする資金をそのまま乗せれば、そのくらいにはなった。
「よく、お勉強されてますな」
「当然よ」
またもや、長ったらしい説明がされてゆく。モモは聞き流していた。
色々と面倒な取り決めがあろうとも、魔女にはどうとでもなった。だからこそ、市場から締め出されているのだが。
「気の遠くなる話よね」
遠い目をするモモ。まだ担当は何かを喋っていた。
「あそこの発行株式は数億株だから、百万分の一くらいね。50万ヶ月も繰り返せば、大株主になれるわ」
「四万年かぁ……」
夢のないヘンリエッタを置いておき、モモはウキウキしている。株式投資という信用社会に飛び出すのだから、空を夢見たあの日以来、胸が踊っていた。
「それで、モモ。本気で、全額投資に注ぎ込むの?」
「一点豪華主義貧乏!」
メイはうるさかったが、ヘンリエッタには頷いた。
ヤレヤレと、頭を振るブリテン淑女の姿が見える。
「ねぇ、ヘッティ。何か、問題があるの?」
恐る恐る尋ねれば、大きく息を吐き出す親友、もとい大家でもある魔女の宅配便、常務取締役。
「おおありよ」
「オオアリクイが現れた!」
お手伝いの賑やかしは無視して、モモは考える。
割と常識的なヘンリエッタの言う事だ。考えて損はない。そんな信頼があった。
「十単元のお取引きでよろしければ、こちらに署名を頂きたいものですが」
満面の笑みを浮かべ、契約書を差し出す担当にモモは首を振る。
「少し、待ちなさい」
「ええ、お待ちいたします」
しつこい営業はなかった。モモは考え続ける。
ローゼンタールからの報酬を、全額投資に注ぎ込むことで、起こり得る事態を。
「毎月の、固定収入と考えて良いのよね?」
正確には労働報酬であるのだが、そう簡単に打ち切られるものではない。そうなれば、薔薇園も煤塵と帰すこととなろう。
「そうね。安定した所得になるかもね」
それに、働くのは猫達なのだ。経費も上乗せされないし、まる貰いの現金だった。
「家賃は毎月、払えてるよね?」
「そうね。毎月頂いているわ」
水道光熱費かや修繕積立費まで込み込みだ。親友特権により、モモは甘やかされている。
「ちゅ〜ると猫缶、増やした方が良いのかしら?」
「太るわよ」
猫達のオヤツにも不自由していない。
毎日お腹いっぱい食べさせてもいた。
良い飼い主だとモモは自画自賛する。
使い魔なので、食事も必要ないのだが。
「スーツは経費で落ちるわよね? 必要な出費だし」
「ドレスとか、私服も多分経費になるわよ。必要な備品だから」
ドレスは別にいらないが、奮発して、スーツも二着仕立てていた。
「やり繰りは、出来ているし? ……うーん?」
頭を抱えるモモである。ヘンリエッタは何も言わないし、担当もまた何も言わないでいる。
メイだけが、薄いお胸を叩いていた。
「朕は国家なり」
唐突に、とんでもない事を言い出す糞餓鬼。
しかし、モモには電流走る。
「……」
それを言葉にするには、あまりにも悍ましい。
毎年、悩まされるもの。
「売上が倍になるんだけど、その場合の税率は?」
「制限いっぱいよ」
所得税、事業所税、住民税など諸々。売上の半分近くが飛んでゆく。
要するに、国への所場代だ。
蛮族だろうが、国は国。納税は国民の義務であるのだから、ブリテンで生活する以上、逃れようがない。
「そうすると、私の可処分所得って?」
ヘンリエッタは机に置かれたままの札束の一つに手を伸ばし、モモへと渡した。
「まず、これは納税資金ね。使っちゃダメよ」
そして、手はもう一つの札束へと伸びる。
「こっちは、各種保険料なんかの上乗せ分とかでも消えるわね。富める者には、義務があるのよ」
帯を割り、半分程を抜き取って、紙幣を再びモモへと手渡した。
机の上に残るのは、当初の見積もりからすれば、四分の一程の現金。
「これだけ……?」
三単元には足が出て、二単元なら幾らか余るだけの現金が残った。
「無駄遣いは禁物だけど、自由に使えるのはそれくらいかしら。あと、今月から家賃も上がるわよ」
無慈悲な通達と共に、二枚の紙幣を抜き取る女。
「えっ」
モモが情けない声を出す。鳩が豆鉄砲とは、正にこのことだった。
「収入が増えたのだから、当然でしょ? メンテナンスも必要だし、変形したから修繕も大変なのよ」
ロケット打ち上げ程ではなくとも、ミサイル発射も維持費がかかる。その理屈はわかる。わかるのだが、モモは——。
「それって、ヘッティのカタパルトのせいじゃ……」
砲弾となったのは、ヘンリエッタの意思である。モモの意思では、決してない。
「お尻の肖像権、そのためなのよ」
「モモ姉、愛されておりますなー」
男性の前で、お尻の話は止めて欲しかった。モモとて、人並の羞恥心くらいはあるものなのだから。
あと、メイはうるさかった。
「それでは、毎月二単元の投資ということで、よろしいでしょうか?」
プロフェッショナルな担当者は、少額投資にも優しくしてくれる。
「ええ、問題ないわ。いいわね? モモ」
だが、何故その質問に答えるのがヘンリエッタなのか、モモにはわからない。
「やったね! モモ姉! 夢の株主だよ!」
メイがお祝いしてくれる。
そうなのだ。まだ一歩目でしかないのだ。二十万年も投資を続ければ、大株主だって夢じゃない。
「まってなさい黒猫!」
そう切り替えた前向きな魔女は、契約書に署名捺印をする。
こうして、晴れて魔女の宅配便CEOモモは黒猫印の株主となり、毎月届けられる株主向けの会報に、ニヤニヤとする事になった。
少しずつ増えてゆく数字に急の文字を夢見ながら。
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