押し入れの向こうは異世界でした   作:Brooks

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第104話 病の入口

 

 歓声は、湿地の水面を揺らすほど大きかった。

 

 薬草宿場の者たちは、浅瀬の方を見たまま、泣き笑いのような声を上げていた。水路そのものが動いた、と言われていた親玉は、もうそこにはいない。ラージアリゲーターの巨体は、泥と血と水を連れたまま収納の中へ収められている。

 

 それでも、湿地には跡が残っていた。

 

 折れた葦が水面に倒れ込み、餌場として使った場所の周りでは、血の色が泥に混じって鈍く沈んでいた。浅瀬の縁は大きくえぐれ、そこへ馬小屋の方から流れてきた細い汚水が、何事もなかったように入り込んでいる。

 

 ライナーは水辺から少し離れた場所で、腰が抜けたように座り込んでいた。番頭として旅人の前に立つ時の顔ではない。宿場が潰れずに済んだ者の顔だった。

 

 薬草採りの若い男が、両手で顔を覆っている。馬小屋の方では、馬の鼻息に混じって、人の安堵の声がした。

 

 エレナは、まだ息を整えきれていなかった。目は湿地の浅瀬へ向いている。さっきまで、そこには十メートル級の顎があった。澪が撃ち、真壁が誘導し、宿場を脅かしていた牙は消えた。

 

 澪の手には、まだレールガンの熱が残っているようだった。

 

 だが、真壁だけは違う場所を見ていた。

 

 浅瀬そのものではない。そこへ流れ込む水だった。

 

 馬小屋の方から細く続く泥水、旅人が手を洗う桶、薬草を洗った後の緑がかった水、飲み水を汲む場所へ向かう人の足跡。泥足で宿へ戻ろうとする薬草採りの裾には、湿地の泥が跳ねている。吊るされた薬草の下にも、同じ泥が点々と飛んでいた。

 

 真壁の視線は、ラージアリゲーターのいなくなった水面を越えて、宿場の中へ入っていく。

 

 エレナがその視線に気づいた。

 

「魔物は倒した。これで宿場は助かったのではないのか」

 

 真壁は、湿った土を杖の先で押した。泥の中から泡が一つ浮き、すぐに潰れる。

 

「牙は退けました、姫君。ですが、病の入口はまだ閉じておりません」

 

「病の入口?」

 

「水です。泥です。寝具です。馬小屋です。剣で斬れぬものほど、領を静かに痩せさせます」

 

 エレナは黙った。

 

 澪は、レールガンの固定具から離した自分の手を見てから、真壁の視線を追った。魔物がいた浅瀬ではなく、宿場の水場。そこに、これから見るべきものがある。

 

「魔物より、水場を見るんですね」

 

「魔物は見える。汚れた水は、見ようとしなければ見えぬ」

 

 ライナーが、座り込んだまま顔を上げた。

 

「水場、ですか」

 

「ええ」

 

 真壁は宿場の方へ歩き始めた。泥の中へ無造作には入らない。足を置く前に杖で硬さを見て、沈む場所を避ける。濡れた草の縁を踏み、浅い泥では体重を踵へ残さず、抜きやすい角度で足を置く。

 

 オスカーがその足元を一度見た。

 

「姫様、足元です」

 

「まだ動いていない」

 

「動く顔でした」

 

「今日は顔で何度止められるのだ」

 

「湿地ですので」

 

 エレナは不満そうにしながらも、オスカーの制止に従った。昨日までなら突っ込んでいたかもしれない足元を、今日は一度見た。

 

 真壁はそれを確認してから、宿場の水場へ向かった。

 

 

 

 

 

 薬草宿場の水場は、便利な場所にあった。

 

 宿の裏からも近い。馬小屋からも近い。薬草干し場からも近い。旅人が手を洗うにも、薬草採りが泥を落とすにも、桶を洗うにも、馬に水を飲ませるにも、そこへ行けば済む。

 

 便利だった。

 

 だから、すべてが集まっていた。

 

 水面には細かな草の切れ端が浮いていた。桶の縁には泥がこびりついている。馬小屋の方から細い流れができて、浅い溝のように水場の下へ向かっていた。薬草を洗った後の緑がかった水も、同じ場所へ流れている。

 

 ライナーは額の汗を袖で拭った。

 

「水場は昔からあそこです。旅人も、馬も、薬草採りも使います」

 

 真壁は責めるようには言わなかった。

 

「それが便利であることは分かります。だが、便利な場所に汚れも集まる」

 

 澪は水面を見た。鑑定10を重ねる。飲み水として使える水と、馬の泥が混じった水と、薬草を洗った水と、手を洗った水が、薄く違って見える。匂いも違う。濁り方も違う。

 

「飲み水と、洗う水と、馬の水が近いです」

 

 ライナーは困ったように眉を寄せた。

 

「分けるほど余裕がありませんで」

 

「余裕がないからこそ、病が入ると宿場が止まる」

 

 真壁の声は静かだったが、濁った水よりも重く落ちた。

 

 エレナが水場を見た。水はただの水に見える。けれど、よく見ると、旅人が手を洗った桶を、次に薬草採りが使おうとしている。馬小屋から来た少年が、同じ柄杓を取ろうとしている。宿の女が、濡れた布を絞ろうとしている。

 

「水を分けるだけで変わるのか」

 

 真壁はエレナへ向き直った。

 

「姫君。水を分けるとは、人の動きを分けることです。汚れた手、泥の足、馬の汚れ、薬草を洗う桶。それらが同じ場所で混じれば、薬草宿場が病の宿場になります」

 

 エレナは水場から視線を外し、宿の壁際に積まれた寝具を見た。

 

 澪もそちらへ行く。布は乾いているようで、端が湿っていた。人の汗と湿気と泥の匂いが重なっている。旅人が交代で使う寝床なら、これが何人分もの身体を通っていく。

 

 馬小屋の奥には食料袋が積まれていた。その下に、小さなかじり跡と黒い粒がある。鼠の跡だ。宿場の女衆は気づいているが、忙しさに押されて後回しになっているらしい。

 

 薬草干し場の下には、薬草が落とした細かな葉と、泥の跳ねが混ざっている。乾かすための場所なのに、湿りが近い。

 

 エレナの顔が少し変わった。

 

「……見えぬ敵か」

 

「見ようとしなければ、見えませぬ」

 

 オスカーがエレナの足元を見る。

 

「姫様、足元です」

 

「今日は本当に足元ばかりだな」

 

「湿地ですので」

 

 澪は、手元のノートを開いた。大学のゼミで書いていた「商品情報の見える化」という言葉が、頭の奥で揺れる。

 

 これは商品ではない。

 

 けれど、同じだ。

 

 誰が見ても分かるようにする。

 

 迷わないようにする。

 

 入ってはいけない汚れの道を、見えるようにする。

 

「水場を分けます。飲む水、手を洗う水、馬の水、薬草を洗う水。札も分けます」

 

 ライナーが目を瞬かせた。

 

「水に札、ですか」

 

「はい。誰が見ても間違えないようにします」

 

 真壁が、少しだけ口元を緩めた。

 

「悪くない。水にも荷札を付けるわけだ」

 

「荷札というより、使い方の札です」

 

「同じことだね。迷わせぬ札は、商いにも衛生にも効く」

 

 澪は収納10を開いた。頭の中で区画が分かれる。食品ではない。薬品ではない。衛生用品。洗濯用品。注意札。虫用。鼠用。植物用。桶。紐。洗濯ばさみ。布。手袋。

 

 それから、木札の束と筆記具をまとめて収納内へ入れた。

 

 現実の手は一つしかない。ここで一枚ずつ書いていけば、その間にも誰かが泥のついた桶を水場へ戻してしまう。澪は息を整え、収納10の内側に木札の小さな作業区画を作った。

 

 収納の中で、木札は用途ごとに分かれて並ぶ。上流側へ置く札には飲み水の文字を入れる。宿の入口近くに掛ける札には手洗いと書く。馬小屋へ回す札には馬用と入れ、薬草洗いの札には、手洗いとは別にする注意も添える。泥落とし場の札は、宿へ入る前に目に入るよう、少し大きい木札を選んだ。

 

 並行思考2は、考えを増やすというより、散らばりそうなものを収納内の札へ戻してくれた。

 

 水の流れ、宿場の人の動き、薬品の注意、桶の置き場、鼠用駆除用品の危険。別々のことを考えても、札の位置がそれぞれの考えを受け止める。澪は収納内で木札へ文字を入れ、書き終えたものから一つずつ取り出した。

 

 水場の前に、木札が順に並ぶ。

 

 ライナーが目を丸くした。

 

「もう、書けたのですか」

 

 澪は少しだけ照れた。

 

「収納の中で、先に分けました。書く場所を分けると、間違えにくいので」

 

 真壁は木札を一枚手に取り、文字と置き場所を確かめた。

 

「悪くない。並行思考が、道具として働いている」

 

「頭の中だけで考えるより、収納の中に札を置いた方が分かりやすいです」

 

「その見方でよい。考えを札にし、札を場所に置く。そうすれば、人の動きが変わる」

 

 澪は最初の札をライナーに渡した。

 

「これは飲み水です。泥が入りにくい上流側へ置いてください」

 

 ライナーは札を受け取り、すぐに上流側の桶へ目を向けた。

 

「宿の裏ではなく、あちらですね」

 

「はい。泥が入りにくい方へ」

 

 次の札は、宿の入口近くに置く。

 

「これは手洗いです。旅人が中に入る前に使える場所へお願いします」

 

 三枚目を見たオスカーが、馬小屋側の低い水場へ視線を向けた。

 

「馬用は下流側ですな」

 

「はい。飲み水とは分けます」

 

 四枚目の札を受け取った薬草採りの女が、濁った桶を抱え直した。

 

「これも、手洗いとは別ですか」

 

「別です。薬草を洗った水を、人の手洗いに戻さないようにします」

 

 最後に、澪は泥落とし用の札を持ち上げた。宿の入口から少し離れた、固い草の根が残る場所へ視線を向ける。

 

「ここで泥を落としてから、宿へ入る形にしたいです」

 

 エレナがその場所へ足を向けかけた。

 

「泥落とし場を見る」

 

 オスカーが半歩で前に出る。

 

「姫様、そこは泥を落とす場所です。泥を付けに行く場所ではありません」

 

「まだ付けていない」

 

「付ける顔でした」

 

 澪は笑いそうになりながら、木札を一枚ずつ渡していった。

 

 札が人の手に渡るたび、水場の使い方が少しずつ変わっていく。収納の中で分けたものが、現実の宿場の動きになっていく。

 

 真壁はそれを見て、満足そうに杖を引いた。

 

「水にも荷札を付けたわけだ」

 

「荷札というより、使い方の札です」

 

「同じことだね。迷わせぬ札は、商いにも衛生にも効く」

 

 

 

 

 

 薬草干し場の裏には、小さな畑があった。

 

 畑と呼ぶには湿りすぎている。湿地の縁を少し高く盛り、採ってきた薬草を植え替えて増やす場所らしい。細い葉を持つ株、丸い葉を広げた株、赤い茎の株が、低い木枠の中に分けられていた。

 

 ただ、勢いは弱い。

 

 葉の先が黄色い株がある。虫に食われた穴がある。水を吸いすぎたように、根元が黒ずんでいるものもある。逆に端の方では乾き、葉が丸まっていた。

 

 薬草採りの女が、申し訳なさそうに言った。

 

「今年は、どうにも勢いが弱くて。湿地の薬草は強いはずなんですが」

 

 澪はしゃがんだ。泥に膝をつかないよう、足場を選ぶ。移動加速2は、速く走るというより、滑らない場所を先に選ばせる。水場の石、固い草の根、沈みにくい土。足を置く位置が見えた。

 

 鑑定10を重ねる。

 

 葉の色だけではない。根の苦しさ。水が抜けない土。虫に弱った部分。乾きすぎた端の株。薬効成分は残っているが、株そのものが疲れている。

 

「病気というより、根が苦しそうです。水が多すぎる株と、虫に弱っている株があります。あと、こっちは乾きすぎです」

 

 ライナーが目を丸くした。

 

「草にも、そんな違いが見えるのですか」

 

「見えるようになりました」

 

 澪は自分で言ってから、少し不思議な気持ちになった。狼の群、大ムカデ、見えない敵、ラージアリゲーター。そういうものを見るために伸びたはずの鑑定が、今は弱った薬草の根を見ている。

 

 エレナが黄色い葉を見つめた。

 

「薬草にも薬が要るのか」

 

 真壁はエレナの隣に立ち、畑を見下ろした。

 

「姫君。人を治す薬ではありません。薬になる草を守る薬です」

 

 澪は収納から小さな容器を取り出した。現代側で仕入れていた、植物用の活力剤だ。ラベルはそのままでは読まれて困るので、澪が別の札をつける。

 

 植物用の薬であり、人に使うものではないこと。薄めて使うこと。使いすぎないこと。水はけを直してから使うこと。澪はそれらを、先ほどと同じように収納内で小さな紙片へ整理し、木札へ書いてから取り出した。

 

「これ、植物用です。人間に使う薬じゃありません」

 

 エレナは興味深そうに容器を覗き込もうとした。

 

 オスカーが止める。

 

「姫様、顔が近いです」

 

「匂いを見るだけだ」

 

「薬は匂いで判断しないでください」

 

 真壁は苦笑せず、畑の水路へ視線を移した。

 

「これだけで済ませてはなりません。水を逃がし、虫を減らし、土を整え、弱った株へ薄く使う。順番を誤れば、薬も毒になります」

 

 澪は小さな桶に水を取り、活力剤を薄く混ぜた。鑑定で濃さを見る。強すぎない。弱すぎない。傷んだ株の根元に少しずつ流す。

 

「使う量の札を作ります」

 

「よい判断だ」

 

 薬草採りたちは半信半疑で見ていた。

 

 当然だ。水をかけた瞬間に葉が伸びるわけではない。黄色い葉が緑へ戻るわけでもない。奇跡のように、畑全体が生き返るわけでもない。

 

 ただ、澪の鑑定には、弱りが止まる方向の反応が薄く返った。根が水に負けている株は、まず排水が必要だ。虫に食われた株は虫を減らす必要がある。土が詰まった場所は、ほぐさなければならない。活力剤は、その後で効く。

 

「今すぐ元通りじゃないです。でも、弱り方が止まる方向です」

 

 真壁は頷いた。

 

「それで十分だ。領の薬草は、奇跡ではなく、管理で守る」

 

 エレナは、弱った葉を見たまま言った。

 

「薬になる草を守れねば、人を治す薬も途切れるのだな」

 

「おっしゃる通りです、姫君」

 

 エレナは少しだけ唇を結んだ。

 

 魔物を倒した時より、分かりにくい。

 

 だが、この草が枯れれば、薬湯も、乾燥薬草も、旅人が頼る小さな薬も減る。宿場は、少しずつ弱る。

 

 見えない敵は、水だけではなかった。

 

 

 

 

 

 薬草畑のさらに奥へ進むと、湿地の匂いが濃くなった。

 

 赤い樹皮の木が低く並び、その根元には黒っぽい土が盛り上がっている。草の根が絡まり、踏めばぐずりと沈む。泥とも土とも言い切れない。澪の地図7には、その場所が薄く反応していた。

 

 澪は足元を確かめながら近づいた。真壁は先に杖を入れ、沈み方を見てから足を置く。泥の浅い場所へ足を入れた時、膝を曲げすぎず、体重を逃がして、沈む前に抜く。見ていると簡単そうだが、実際にやれば足を取られる動きだ。

 

 オスカーがそれを見て、低く言った。

 

「真壁殿、湿地の足運びに慣れておられますな」

 

「慣れているのではない。沈まぬ場所を選んでいるだけです」

 

「それを慣れていると言います」

 

 エレナが進もうとした瞬間、真壁は自然に半歩ずれた。進路を塞いだというより、そこに立っていたという自然さだった。

 

「姫君、その先は柔らかい」

 

 オスカーも同時に言う。

 

「姫様、足元です」

 

「二人で言うな」

 

「湿地ですので」

 

 澪はその動きを見ていた。移動加速とは違う。速く動いているわけではない。けれど、身体が崩れない。泥が抜ける前に、重心が逃げている。エレナを止める位置へ、無理なく立っている。

 

「移動加速とは違いますね」

 

 真壁は足元の泥を杖で押しながら答えた。

 

「ええ。これは速さではない。姿勢を崩さぬための身体の使い方だ」

 

 澪は頷いた。自分の移動加速は、撃つための体勢へ入る時にも働いた。だが、真壁が今していることは、速度ではない。泥に負けない身体の扱い方だ。

 

 その先に、黒っぽい土があった。

 

「これが燃える土か」

 

 エレナの声には、ほんの少し期待が混じっていた。

 

 昨日の白皿丘で、水晶玉を見た。砂が光る大玉になった。ならば、ここでも何か綺麗なものが出るのではないか。そう思っている顔だった。

 

 澪は鑑定をかける。普通の土とは違う。植物が腐りきらず、層のように積もっている。湿っていて重い。今のままでは燃えない。だが、乾かせば燃料候補になる反応があった。

 

 真壁は黒い土を少し掬い、手袋越しに崩した。

 

「土そのものではありません、姫君。草や木が腐りきらず、長い時間をかけて土のように積もったものです」

 

 澪は小瓶を出す。

 

「濡れてますけど、燃えるんですか」

 

「このままでは燃えぬ。乾かして初めて荷になる」

 

 真壁は小さく湿った塊を布の上へ置いた。

 

「泥炭、と呼べばよいでしょう。乾かせば、長く燃える燃料になる可能性がある」

 

「白皿丘の窯燃料につながりますか」

 

「可能性はある。主燃料にはまだ早い。だが、補助燃料として試す価値はある」

 

 エレナは黒い土を見つめていた。

 

 水晶ではない。

 

 宝石でもない。

 

 黒い、湿った、地味な土だ。

 

 澪が小瓶を並べ始めると、エレナはさらに覗き込んだ。黒っぽい泥炭候補。赤茶色の沈殿。湿った薬草地の土。水の入った小瓶。灰色がかった、扱い注意の札が付いた土。

 

 どれも、綺麗ではない。

 

「……水晶ではないのか」

 

 澪は少し困ったように手を止めた。

 

「今回は、たぶん違います」

 

 エレナが赤茶色の小瓶に手を伸ばしかける。

 

「姫様、触る前に確認を」

 

「見るだけだ」

 

 オスカーは、エレナの横顔を見てから、淡々と言った。

 

「姫様、肩が少し下がりました」

 

「下がっていない」

 

「水晶を期待していた時の肩です」

 

「その肩を覚えるな」

 

 澪は笑いそうになったが、少しだけ堪えた。

 

 白皿丘では、水晶玉ができた。あれは分かりやすく綺麗だった。領主館に置きたいとエレナが言うのも分かる。

 

 けれど、ここで見つかるものは違う。

 

 湿った土や赤い泥や濁った水が、瓶の中に少しずつ収まっていく。乾かさなければ燃えない泥炭候補も、濡れた今の姿はただ重そうな黒い土にしか見えない。

 

 澪は水路脇の赤茶色い沈殿を指した。

 

「こっち、赤く光ります。金属……というより、鉄分です」

 

 真壁が頷く。

 

「湿地の水が運んだ鉄分だろう。鉱山ではない。だが、顔料や釉薬、土の状態を見るには使える」

 

 エレナの目が少し戻った。

 

「鉄が採れるのか」

 

「姫君。ここで剣を作るほどの鉄を期待してはなりません。これは湿地が何を含むかを見る札です」

 

 エレナの目がまた少し下がった。

 

「剣にはならぬのか」

 

「なりません」

 

「水晶にもならぬ」

 

「なりません」

 

 澪は赤茶色の沈殿を小瓶に採った。さらに赤土、薬草畑の土、水質を少量ずつ分ける。飲み水。薬草洗い水。馬用水。湿地水路。混ぜない。ラベルを貼る。収納10の湿地素材区画が、少しずつ埋まっていく。

 

「薬草畑の土も、場所によって違います。水が多いところ、根が苦しそうなところ、虫が出やすいところで反応が違います」

 

「薬草は草だけ見ても足りぬ。土と水も見る」

 

「水質サンプルも分けます。飲み水、薬草洗い、馬用水、湿地水路」

 

「よい。病の入口を見るなら、水の札も要る」

 

 馬小屋の近くで、澪の鑑定に別の反応がかかった。湿った土。堆積した古い草。馬の汚れ。肥料に近い反応だが、扱いを誤れば危ない気配がある。

 

「ここ、別の反応があります。肥料っぽい……でも、扱い注意みたいです」

 

「硝酸塩の候補だね。肥料や土の話にはなるが、扱いを誤ると品がない。今回は採取だけに留める」

 

「危険物区画ですか」

 

「そうだ。売る荷ではない。記録する荷だ」

 

 澪は灰色がかった土を、ごく少量だけ採取した。危険物候補として札をつける。売らない。広げない。記録する。

 

 エレナは、並んだ小瓶を順に見ていた。

 

 宝石ではない。

 

 水晶でもない。

 

 それでも、真壁は小瓶を一つずつ、まるで高価な品のように扱っている。

 

 真壁は赤茶色の小瓶を指で軽く叩いた。

 

「姫君。これは宝石ではありません。ですが、白皿丘の焼き物に必要なものです」

 

 エレナが顔を上げる。

 

「焼き物に?」

 

「ええ。こちらは鉄分を含む湿地沈殿。顔料や釉薬の試験に回せます。赤土も同じく、色や焼き上がりを見る材料になる。泥炭候補は、乾かせば窯の補助燃料になる可能性があります」

 

 澪も小瓶を一つずつ並べ直した。

 

「これは白皿丘の皿を焼く火。これは色。これは薬草畑の土。これは水場の管理用です」

 

 エレナは、黒い土と赤い沈殿と濁った水を見る。

 

「宝石ではない」

 

 真壁は頷いた。

 

「宝石ではありません」

 

「だが、皿を焼くのに要る」

 

「おっしゃる通りです」

 

「薬草を育てるのにも要る」

 

「ええ」

 

 エレナは少し黙った。

 

 昨日なら、綺麗でないものに顔をしかめて終わっていたかもしれない。だが、白皿丘の皿も、宿場の薬草も、道も、水も、ひとつだけでは形にならない。

 

 エレナは息を吸った。

 

「分かった」

 

 そして、少し背を伸ばした。

 

「それを祝おう」

 

 澪が目を丸くする。

 

「祝うんですか」

 

「水晶玉だけ祝うのは、品がない」

 

 真壁が、ほんの少しだけ目を細めた。

 

「良いお言葉です、姫君」

 

 オスカーが真顔で頷く。

 

「姫様、土を掲げるのはお控えください」

 

「なぜだ」

 

「落とす顔でした」

 

「今日はよく顔を読まれる」

 

「湿地ですので」

 

 澪は笑いながら、小瓶の札を整えた。

 

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サンプル管理

番号:A-P01

採取地:赤樺湿地と薬草宿場

採取物:泥炭候補

状態:湿潤/植物根混在/黒褐色

鑑定反応:有機質多め/乾燥後燃料候補

用途候補:窯補助燃料/宿場燃料/乾燥試験対象

収納区画:湿地素材/泥炭候補/A-P01

扱い:燃料候補/白皿丘接続確認

備考:濡れたままでは燃料不可

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サンプル管理

番号:A-M01

採取地:赤樺湿地と薬草宿場

採取物:鉄分沈殿候補

状態:赤茶色沈殿/水路脇

鑑定反応:鉄分多め/湿地沈殿物

用途候補:顔料/釉薬試験/土壌状態確認

収納区画:湿地素材/鉄分沈殿/A-M01

扱い:素材候補/大量採取対象外

備考:鉱床確定ではない

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サンプル管理

番号:A-S01

採取地:赤樺湿地と薬草宿場

採取物:薬草地土壌

状態:湿潤/根混在/薬草畑周辺

鑑定反応:薬草生育関連反応あり/水分過多地点あり

用途候補:薬草畑管理/土壌改良確認/植物活力剤試験

収納区画:湿地素材/薬草地土壌/A-S01

扱い:栽培管理資料

備考:薬草株の弱り確認と連動

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サンプル管理

番号:A-W01

採取地:赤樺湿地と薬草宿場

採取物:水質サンプル

状態:飲み水/薬草洗い水/馬用水/湿地水路を分別

鑑定反応:混入差あり/用途分離必要

用途候補:水場用途分離/衛生管理/薬草洗浄確認

収納区画:湿地素材/水質サンプル/A-W01

扱い:宿場衛生確認

備考:飲み水と洗い水を混同しない

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サンプル管理

番号:A-N01

採取地:赤樺湿地と薬草宿場

採取物:硝酸塩候補土

状態:湿潤土/馬小屋・堆積場周辺

鑑定反応:硝酸塩候補/肥料関連反応

用途候補:土壌管理/肥料候補/要注意管理

収納区画:危険物候補/硝酸塩候補/A-N01

扱い:記録保留

備考:販売不可/取扱注意札必須

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 表示を確認した澪は、収納10の中で区画を閉じた。水晶玉のような派手さはない。けれど、湿地の土と水が、白皿丘の窯と薬草畑へ線を伸ばしている。

 

 それもまた、荷だった。

 

 

 

 

 

 宿場中央へ戻る頃には、ライナーの顔つきが変わっていた。

 

 助かった者の顔から、これから直す者の顔へ変わっている。

 

 澪は収納から商品を出す。石鹸やタオル、シーツや洗濯用品を、宿場の者が受け取りやすい位置へ置く。虫用と鼠用の駆除用品は、食料や子供から離すために、最初から別の布の上に置いた。植物活力剤は薬草畑用の札と一緒にし、寝具干し用の紐と洗濯ばさみは宿屋の女衆へ渡す。

 

 全部を一つの山にはしない。

 

 宿場の入口で使うもの、馬小屋で使うもの、薬草畑で使うもの、旅人の寝床に使うもの、食料庫の周りで使うもの。澪は収納内で作った区画を、そのまま地面の上へ写すように品を並べた。

 

 並行思考が、区画を崩させない。札を書く手と、商品を分ける手順と、ライナーへの説明と、エレナの質問への返答が同時に並ぶ。

 

「宿場用、馬小屋用、薬草畑用、寝具用で分けます」

 

 ライナーは並んだ品を見て、少し圧倒されていた。

 

「そんなに分けるのですか」

 

「混ぜると、たぶん使い間違えます」

 

 真壁が鼠用駆除用品の箱を一つ取り、置き場所を示した。

 

「分けるのは手間ではない。事故を減らす道だ」

 

 エレナは、並んだ品と札を見ていた。

 

「商品も、水場も、寝具も、土も、水も、分けるのだな」

 

「おっしゃる通りです。分ければ、汚れの道が見えます」

 

 ライナーは、石鹸を手に取って匂いを嗅ぎかけたが、澪が慌てて止めた。

 

「あ、それは手洗い用です。食べ物じゃありません」

 

「食べませんよ」

 

 オスカーがエレナを見た。

 

「姫様も食べないでください」

 

「食べる顔ではない」

 

「珍しい物を見る顔でした」

 

「見るだけだ」

 

 真壁は、宿場用の品をいくつか前へ出した。

 

「初回分は試用でよいでしょう。ただし、継続分は宿場と領で負担を決めてください。無償は、続かぬ」

 

 ライナーが品から顔を上げる。

 

「続けるための値、ですか」

 

「ええ。暮らしを守る品ほど、続く値を付けねばなりません」

 

「高すぎれば、旅人宿では使えません」

 

「だから分ける。毎日使う石鹸と、交換頻度の低いシーツと、扱いに注意する駆除用品では、値も配る量も違う」

 

 真壁は、売りつける顔ではなかった。続けるために、どこへ負担を置くかを見ている顔だった。宿場、領主家、旅人からの宿代、薬草の売り上げ。すべてが、値段の中へ入っていく。

 

 澪は隣で、使い方札を渡していった。石鹸は手洗い場へ置く。タオルは濡れたまま積まない。シーツは干す日を決める。鼠用は食料から離す。虫用は薬草干し場の周辺だけ。植物活力剤は薄める。子供と家畜を近づけない。

 

 書いた札が、ただの札で終わらず、人の手へ渡っていく。

 

 水場には札が立った。飲み水は上流側へ移された。手洗いは宿の入口近くに置く。馬用は下流側へ。薬草洗いの桶は別にする。泥落とし場は宿へ入る前に作る。

 

 エレナが泥落とし場へ近づこうとする。

 

「泥落とし場を見る」

 

 オスカーが止めた。

 

「姫様、そこは泥を落とす場所です。泥を付けに行く場所ではありません」

 

「まだ付けていない」

 

「付ける顔でした」

 

「今日も顔で止められている」

 

「湿地ですので」

 

 真壁は馬小屋の排水溝に仮の線を引いた。杖で泥を浅く切り、水が流れる方向を変える。ほんの少しの溝でも、水は低い方へ流れる。澪は地図7へその線を記録した。

 

 寝具干し場には紐が張られた。湿った寝具が広げられる。乾ききっていない布の匂いが、風に薄く流れた。食料袋は床から上げられ、棚へ置かれた。鼠用の品は、食料から離し、子供と家畜が触れない位置に置く。虫用の品は薬草干し場の周辺に限定する。

 

 真壁は何度も湿地の端を歩いた。

 

 泥の浅い場所へ足を入れ、沈む前に抜く。滑る石へ体重を乗せない。エレナが危ない位置へ出そうになると、先にそこへ立つ。澪が水場から薬草畑へ戻る時には、杖で右の草根を指した。

 

「そこは右から回りたまえ」

 

「はい」

 

 その動きは速くない。だが、崩れない。

 

 オスカーは、また真壁の足元を見た。

 

「真壁殿、やはり湿地の足運びに慣れておられますな」

 

「慣れているのではない。沈まぬ場所を選んでいるだけです」

 

「それを慣れていると言います」

 

 真壁は軽く肩をすくめた。

 

 エレナが二人を見比べる。

 

「足元ばかり言う二人がいる」

 

「姫様、湿地ですので」

 

「聞いた」

 

 それでも、エレナの足は止まっていた。見たいものへ飛びつく前に、足元を見る。その一拍が、昨日より増えている。

 

 

 

 

 

 夕方が近づくと、宿場の空気は朝より少しだけ軽くなっていた。

 

 ラージアリゲーターが消えたからだけではない。

 

 水場に札が立っている。寝具が干されている。薬草畑の弱った株には、細い支えが立っている。泥炭候補の小片は、湿ったままのもの、水切りしたもの、乾燥試験用の薄片に分けられている。鉄分沈殿、薬草地土壌、水質サンプルは、収納の中で区画管理された。硝酸塩候補土は危険物候補として別に置かれている。

 

 馬小屋の排水には仮の溝が引かれ、食料庫の袋は棚へ上がった。虫鼠対策用品は、子供や家畜から離した場所に置かれている。

 

 エレナは、ラージアリゲーターのいた水路ではなく、手洗い札を見ていた。

 

「魔物は一度倒せば終わる。だが、これは毎日見るものなのだな」

 

 真壁は静かに頷いた。

 

「おっしゃる通りです、姫君。領を守るとは、剣を振るうことだけではありません」

 

「薬草を守る薬、水を分ける札、寝具を干す縄、皿を焼くための土……地味だ」

 

 オスカーが横から言った。

 

「大切です」

 

「分かっている。地味だが、大切なのだ」

 

 澪はその言葉を聞いて、少しだけ驚いた。

 

 水晶玉ではないものを祝う。

 

 派手な魔物退治ではないものを見る。

 

 エレナの目が、少しずつ領の細部へ向いている。

 

 その時、澪と真壁の視界に、薄い枠が開いた。

 

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神託達成報告

赤樺湿地と薬草宿場 巡見行商・病の入口

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現在の信託達成

水場用途分離

飲み水・手洗い・馬用水の区分

薬草洗い桶の分離

馬小屋排水確認

旅人寝具の衛生確認

寝具干し場設置

薬草干し場の泥対策確認

虫・鼠対策用品の行商

石鹸・タオル・シーツの行商

手洗い札・水場札の作成

食料庫の鼠跡確認

薬草畑の弱り確認

植物活力剤の試用

植物用薬品の使用札作成

泥炭候補採取

泥炭乾燥試験開始

鉄分沈殿候補採取

赤土・薬草地土壌確認

水質サンプル分別

硝酸塩候補土の記録保留

白皿丘窯燃料候補との接続確認

エレナの領内視察

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取得

行商人経験

行商人系スキル経験

スキル成長

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 澪は表示を見て、少しだけ肩の力を抜いた。

 

「レベルアップは、ありませんね」

 

「今日は倒す日ではない。整える日だ」

 

「でも、経験は入ってます」

 

「当然だ。行商は、売って終わりではない。使える形を残して初めて道になる」

 

 エレナが二人を見る。

 

「また見えないのか」

 

「はい。でも、今回は見えない結果より、見える札の方が多いです」

 

「それは少し悔しいな」

 

 オスカーが、手洗い札を指した。

 

「姫様、見える札を見ればよろしいかと」

 

「そうする」

 

 エレナは本当に札を見た。

 

 澪の視界に、次の表示が重なる。

 

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篠原 澪

現在ジョブ:行商人 Lv9

状態:赤樺湿地宿場衛生整理/水場用途分離/薬草畑確認/植物活力剤試用/湿地素材確認/行商札作成

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基礎能力値

変化なし

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スキル成長

並行思考:2 → 3

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維持

地図:7

移動加速:2

鑑定:10

収納:10

防衛用収納展開:2

錬金:5

雷:8

火:1

収納内時間停止:芽あり

技能:彫金

技能:手仕事

統率個体識別:1

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取得スキルポイント

なし

----------------------------------

SP割振

割振:なし

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現在反映

行商人Lv9

保有SP:31

地図:7

移動加速:2

鑑定:10

収納:10

防衛用収納展開:2

並行思考:3

錬金:5

----------------------------------

成長

水場用途分離:1

宿場導線記録:1

衛生区画管理:1

水場札作成:1

薬草畑鑑定:1

植物用薬品説明:1

衛生用品説明:1

泥炭候補管理:1

湿地素材確認:1

水質分別:1

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 澪は小さく息を止めた。

 

「並行思考、三です」

 

 真壁は驚かない。むしろ当然のように、澪が作った札の束を見た。

 

「今日は、同時に分けるものが多かった。水、札、薬草、土、商品。伸びる理由はありますな」

 

「移動加速は変わってません」

 

「今日は走る日ではない。分ける日だ」

 

 その言い方で、澪は少し笑った。

 

 真壁の表示も開く。

 

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真壁 久忠

現在ジョブ:行商人 Lv9

状態:宿場衛生導線設計/水場区分指示/馬小屋排水確認/泥炭燃料判断/湿地素材判断/植物用薬品運用判断/湿地踏査

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基礎能力値

変化なし

----------------------------------

スキル成長

体術:4 → 5

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維持

地図:7

移動加速:6

収納:10

鑑定:9

商才:5

交渉:8

指揮:9

軍略:8

錬金:7

威圧:5

異界適応:4

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取得スキルポイント

なし

----------------------------------

SP割振

割振:なし

----------------------------------

現在反映

行商人Lv9

保有SP:12

地図:7

移動加速:6

収納:10

鑑定:9

商才:5

交渉:8

指揮:9

軍略:8

錬金:7

体術:5

----------------------------------

成長

宿場衛生導線設計:1

水場区分指示:1

馬小屋排水判断:1

危険区域分離:1

衛生用品価格設計:1

宿場導入交渉:1

泥炭燃料判断:1

植物用薬品運用判断:1

湿地素材判断:1

硝酸塩候補保留判断:1

湿地足場制御:1

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 澪は表示を見て、真壁の足元を思い出した。

 

「真壁さんは、体術が五に」

 

「湿地は足元が悪い。姿勢を崩さず見るのも、仕事のうちだ」

 

 オスカーが、珍しくすぐに頷いた。

 

「それは、私も同意します」

 

 エレナが二人を見た。

 

「足元ばかり言う二人が増えた」

 

「姫様、湿地ですので」

 

「それも聞いた」

 

 風が吹き、寝具干し場の布が揺れた。薬草畑では、支えを立てた弱い株が、少しだけ葉を持ち上げている。泥炭候補の薄片は、まだ湿っている。乾くには時間がかかる。水場の札は、まだ真新しい。

 

 エレナはラージアリゲーターが沈んでいた水路ではなく、手洗い札を見ていた。

 

「魔物を倒すより、こちらの方が面倒だ」

 

 真壁は穏やかに答えた。

 

「ええ。ですが、こちらの方が長く効きます」

 

 澪は地図7を見た。

 

 赤い線はない。

 

 水場、干し場、薬草畑、泥炭候補、馬小屋、食料庫。小さな印が増えている。派手ではない。けれど、宿場が生きるための印だった。

 

「病の入口、少し見えた気がします」

 

「見えたなら、塞ぐ道も作れる」

 

 赤樺湿地の夕方は、朝より少しだけ静かだった。

 

 牙の跡は水の底へ沈み、宿場には札と縄と乾き始めた寝具が残った。

 

 澪の地図7には、赤い線ではなく、水場、干し場、薬草畑、泥炭候補の小さな印が並んでいる。

 

 病の入口は、まだ完全には塞がっていない。

 

 けれど、入口の場所は、もう見えていた。

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