エアカーは、黒い岩陰に沈むように止まっていた。
車体の表面には灰が薄く積もり、遠目には岩の影とほとんど区別がつかない。以前、ヴァルトが手を入れた機体は、低く、静かに、風の切れ目を選ぶようにゼグルド火山の裾野まで入っていた。人里の目は届かず、空を回る魔物の影もない。
真壁は車外へ降り、靴底で灰を押した。
細かな火山灰が、乾いた音もなく崩れる。風が吹くと、灰は足元から薄く浮き、すぐに赤茶けた岩の割れ目へ流れた。空は白く濁り、火口の方角には細い煙が立っている。冬の空気は冷たいはずなのに、地面の裂け目から上がる熱が、コートの裾を下から撫でた。
「到達済み」
真壁は短く言い、岩陰の位置を地図へ落とした。
魔物反応は薄い。敵性反応もない。人の気配は、さらにない。
地図スキルの中で、ゼグルド火山の裾野は色の濃淡を変えて広がっていた。灰色の斜面、黒い軽石の帯、赤い粘土層、白い石灰質の筋。その中で、白い反応がもっとも厚く重なる地域が、火口から外れた斜面の下にある。
真壁は収納の中に、すでに作っておいた空きの区画を開いた。
「ヴァルト君の改造は結構」
エアカーの車体を一度見てから、真壁は歩き出した。
ゼグルド火山は、道というものをあまり持っていない。灰が積もった斜面に、古い水の跡や、転がった軽石が勝手に筋を作っているだけだ。靴底が沈む場所もあれば、白い硬化層が薄く張って滑りそうな場所もある。
真壁は、歩きながら地面を見る。
表層の細かな灰は、風雨で角が落ちていた。黒い軽石は、見た目より軽く、踏むと乾いた音を返す。白い石の筋は、岩の割れ目に沿って伸び、ところどころ粉を吹いたように崩れている。赤茶けた粘土は、灰の下で湿り気を保っていた。
「石灰質、濃いな」
真壁は足元を鑑定し、収納した。
表層の灰が薄く消え、その下の白い層が露出する。そこも収納する。次に赤粘土を分け、軽石を粒の粗さごとに抜く。砂混じりの灰は別にし、温泉水が流れた跡の沈殿物も剥がす。
地面が削れていく。
しかし、雑に消えるのではない。真壁の収納内では、採った順に区分けされ、深さ、色、硬さ、粒の粗さが分かるように収まっていく。共同商館の地下壁、食品街の床、酒蔵の防湿、排煙塔の耐熱、結合材試験。用途の名が増えるたび、灰色の斜面はただの荒地ではなく、まだ存在しない建物の部材に変わっていった。
「層がよい」
真壁は、白い石灰質の筋をさらに追う。
灰が舞う。コートの袖に粉がつく。火口側から低い風音が届く。
普通なら、ここで風向きや熱に警戒して足を止める。真壁も止まる。だが、止まるのは退くためではない。地図の表示を重ね、採取の幅を広げるためだった。
「混ぜずに採る」
斜面の一角で、真壁は手袋の指先で地面を崩した。灰、白い粉、赤粘土、細砂が、層になって出てくる。そこを広めに収納する。隣の硬い部分は、塊として抜いた。軽石の帯は、断熱材候補として別に送る。
このあたりの土壌から灰まで、すべて採る。
ただし、すべてを同じ箱へ放り込むことはしない。暴走には、暴走なりの秩序がある。採る量は大きく、分け方は細かい。
「地下壁、床、排煙塔」
真壁は地図の端へ、採取済みの範囲を重ねた。
白い反応は、まだ奥へ続いている。
石灰質の反応が最も濃い地域へ入ると、火山の色が変わった。
灰色の斜面に、白い粉が多く混じる。黒い岩の割れ目には赤茶けた粘土が詰まり、ところどころ白い硬化層が薄く張っている。風は弱くなったが、その代わり、地面から上がる温かい空気が増えた。
真壁は、採取を続けながら足を止めた。
地図スキルの端に、見慣れない反応が出ている。
魔物反応ではない。敵性でもない。だが、反応は大きい。点というより、熱を持った塊のように映っている。周囲の石灰質反応と、火山性の魔力だまりが、そこだけ重なっていた。
真壁は、採取していた灰の収納区画を閉じた。
「敵性なし」
風が灰を動かす。
「魔物反応、薄い」
白い硬化層の上で、靴底が小さく鳴った。
「未知」
真壁は、未知反応の方へ歩き出した。
低い岩が囲む窪地だった。外からは見えにくい。火口から外れているが、地面の熱は周囲より強い。温泉の湯気ほどは立っていない。それでも、灰の下から温かい空気がゆるく漏れていた。
真壁は岩陰を回り込む。灰は足元で薄く崩れ、白い硬化層が露出する。窪地の中央だけ、周囲より少し盛り上がっていた。
そこに、大きな卵があった。
小さな樽ほどの白灰色の楕円が、灰に半分埋もれている。殻の表面には、赤茶けた細い筋と、火山灰が焼きついたような黒い筋が何層にも走っていた。陶器に似た鈍い光がある。近くに立つと、殻の奥からかすかな熱の波が返ってきた。
「卵だな」
真壁は近づき、触れる前に足元を鑑定した。
卵の下の地面は、ほかの場所より硬く締まっている。石灰質、火山灰、赤粘土、軽石の粉が混ざり、熱と魔力で固まったような層を作っていた。白い窪地そのものが、長い時間をかけた小さな炉の跡のようにも見える。
真壁は、卵の表面に触れず、殻に付いた灰、周囲の硬化層、地面から上がる魔力の流れを順に見た。
「大きい」
それから、卵本体を鑑定する。
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竜卵
状態:未孵化
生命反応:あり
外殻:石灰質、火山灰付着
内部魔力:増加中
環境影響:火山性魔力だまりによる偏りあり
傾向:放置継続で狂暴化進行
推奨:安定魔力環境への移送、温度保持、衝撃回避
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真壁は表示を見た。
殻の奥で、赤く荒い魔力がゆっくり動いている。卵の下の地面から火山性の魔力が上がり続け、それが内部に偏りを作っている。敵意はない。まだ生まれていない。だが、このまま置けば、孵化前から荒い性質が育つ。
「竜卵」
真壁は卵の周囲を見回した。
親の反応はない。魔物の反応も遠い。敵性反応もない。
壊すには惜しい。
放置すれば危険になる。
「持ち帰る」
結論は短かった。
真壁は収納内に、素材用とは別の空間を作った。卵の形に合わせて支えを組み、温度を落としすぎないようにする。衝撃を避け、魔力を完全に断たず、火山性の荒い流れだけを弱く切る。
「衝撃不可」
収納札を作る。
「温度保持」
さらに札を差す。
「魔力遮断、弱」
卵を収納する前に、真壁は窪地の形を地図へ写した。卵が置かれていた位置、白い硬化層、赤粘土の筋、灰の厚み、魔力だまりの中心。卵だけ持ち帰れば済む話ではない。ここには工程が残っている。
竜卵を収納した。
白い窪地から、熱の中心だけが消える。灰が少し崩れ、卵の形に残っていたくぼみに火山の風が入った。
真壁は、その周囲の石灰質土壌をさらに収納した。硬化層、火山灰、赤粘土、軽石、魔力だまりの土壌。卵が作っていた環境も、建材試験の材料になる。
「工程は残る」
真壁は収納内の保護区画を一度見た。
竜卵は、そこで白灰色の殻を静かに熱くしている。
「説明が要るな」
真壁はエアカーへ戻った。
ゼグルド火山から持ち帰るものは、石灰だけではなくなっていた。
領都の採石場秘密基地の机の上に、大きな卵が置かれていた。
澪は、それを見つめていた。
小さな樽ほどの白灰色の殻が、魔灯の光を鈍く返している。表面には灰色の筋と赤茶けた筋が走り、ところどころ黒い火山灰が焼きついたように残っていた。保護布の上に置かれているのに、机の木目から少し離れたところまで、かすかな熱が伝わっている。
机の周囲には、火山灰、白い石、軽石、赤粘土、試料瓶、鑑定用台が並んでいた。
澪は、まず火山の材料が採れていることを見た。
次に、卵を見た。
最後に、真壁を見た。
「真壁さん」
「はい」
「机の上に、大きな卵があります」
「ある」
澪は息を置いた。怒鳴っても、卵は消えない。机も広くならない。まず、何の卵かを聞かなければならない。
聞かなければならないが、聞きたくはない。
「種類を聞いてもいいですか」
「竜卵だ」
澪は、聞いたことを後悔した。
「聞かなければよかった種類でした」
隣のヴァルトは、卵から目を離していなかった。顔色が変わっている。ゼグルド火山、火竜、火山性魔力、卵。その言葉が、彼の中で勝手につながっていくのが、澪にも分かった。
「ゼグルド火山で、ですか」
「石灰質最大地点の近くにあった」
「石灰を採りに行ったんですよね」
澪は、なるべく声を平らにした。
「採った」
「卵も」
「採ったのではない。回収した」
「言葉を変えても机の上にあります」
真壁は悪びれない。横では、火山灰の試料を粒の粗さで分け直している。竜卵が机の中央にあるのに、材料整理が止まっていない。
澪は、そこに真壁らしさを見た。
そして、少し頭が痛くなった。
ヴァルトが卵へ手をかざした。直接触れない。指先は、殻から少し離れたところで止まっている。魔灯の光が、彼の手の影を卵の上に落とした。
「鑑定します」
「済ませた」
「私も見ます」
「結構」
ヴァルトは答えず、卵の反応を読んだ。
彼の目つきが変わる。驚きだけではない。専門家として、目の前のものを扱う顔になる。澪は、その変化を見て少しだけ呼吸を整えた。ヴァルトが驚いたままではなく、確認へ移った。それだけでも違う。
「……竜卵で間違いありません。未孵化。生命反応あり。火山性魔力の偏りがあります」
ヴァルトの声は低い。
「放置すると」
「狂暴化が進む」
真壁が言った。
ヴァルトは、悔しそうに眉を動かしたが、否定しなかった。
「魔力だまりから離した判断は、正しいです」
澪は、そこで一瞬だけ肩の力を抜きかけた。
だが、ヴァルトの表情は軽くならない。
「よかった、で終わりではない顔ですね」
「はい。完全に魔力を絶つと弱ります。孵化までは、定期的な魔力供給が必要です」
「魔力を、与える」
澪は卵を見る。
物ではない。生きている。生きているなら、必要なものを絶てば弱る。病人や子どもと同じだと頭では分かる。だが、相手は竜卵で、置かれているのは秘密基地の机の上だった。
生活感のある責任ではない。
規模がおかしい責任だ。
「どの魔力でもいいんですか」
「そこが問題です。与える魔力によって、性質が変わります。場合によっては進化方向も」
澪の視線が、殻の灰色の筋で止まった。
火山に置かれたままだと荒くなる。では、違う魔力なら違う育ち方をする。魔力を与える相手を決めることは、ただの世話ではない。竜の将来を決めることになる。
澪は、報告先、責任者、保管場所、供給者を頭の中で分け始めた。
「火山性は駄目だな」
真壁が言う。
「荒くなります。狂暴化傾向が戻る可能性があります」
「境界魔力は」
「守護や領域認識に寄る可能性はあります。ただ、私の魔力を初期供給に使うのは重すぎます」
「収納魔力は」
真壁が自分で言った。
ヴァルトは、少しだけ言葉を選んだ。
「未知です。初期には避けたいです」
澪は即座に頷いた。
「それは避けましょう」
収納魔力で育つ竜。
想像したくない。
真壁は卵を見て、次に澪を見て、また卵へ視線を戻した。
「クララ君だ」
「教会ですか」
「記録も取れる」
澪は、言葉を返す前に考えた。
商会で抱えるには大きすぎる。領主家へ直行すれば、竜卵は政治や軍事の案件になりすぎる。教会なら、生命を素材として扱わない。クララは孤児院の記録を続け、浄化加湿循環器の変化も見ている。穏やかな魔力という点でも、火山性よりはずっとよい。
真壁の持ち込み方はおかしい。
だが、選んだ先は間違いとは言い切れない。
ヴァルトも、卵から目を離さずに言った。
「……浄化寄りの魔力なら、確かに火山性より安定する可能性があります」
「ヴァルトさんが納得し始めました」
澪は小さく言った。
「納得したいわけではありません。ただ、条件が合っています」
「条件が合うと、止まりませんね」
「止まりません」
真壁は、すでに竜卵用保護区画を開いていた。
澪は、その動きで理解する。
もう教会へ行く流れだ。
教会の石床は冷たかった。
礼拝堂の灯りは落とされ、蝋燭と魔灯の柔らかい光だけが残っている。孤児院側から、子どもたちの小さな生活音が遠くに聞こえた。誰かが桶を置く音。布を畳む音。寝る前の短い声。そこに、清潔な布と石鹸、乾いた薬草の匂いが混ざっている。
クララは、管理室の机で記録板を見ていた。
室温。湿度。子どもたちの咳。浄化加湿循環器の水量。風の強さ。細かな文字が、几帳面に並んでいる。
そこへ真壁が、竜卵を持ってきた。
厚い布の上に白灰色の卵が置かれると、クララの手が記録板の上で止まった。
「……これは、何でしょうか」
「竜卵だ」
「竜」
クララの視線が卵に固定される。
澪は、少しだけ身を乗り出した。
「私も、同じところで止まりました」
クララはまだ卵を見ている。白灰色の殻、灰色の筋、赤茶けた模様。教会の柔らかい光の下に置かれると、火山のものだった卵が、急に生き物らしく見えた。
ヴァルトが説明を補う。
「ゼグルド火山の魔力だまりに置かれていました。放置すると狂暴化が進むため、移送されています」
「移送、ですか」
「持ち帰った」
真壁の言葉に、澪は横から付け加えた。
「言い方の差です」
クララは、しばらく黙っていた。
澪は、その沈黙を待った。押しつけてはいけない。ここは教会で、クララにはクララの生活と役目がある。竜卵は面白いから持ってきてよいものではない。必要だから、理由を分けて、受けられるかを確かめなければならない。
だが、クララの目は、少しずつ変わっていった。
最初に竜という言葉で止まった視線が、卵の殻の色へ移る。次に、表面の灰色の筋へ。熱の揺れへ。魔灯の明かりで見え方が変わる部分へ。最後に、自分の記録板へ戻る。
「記録は、必要ですね」
澪は思わずクララを見た。
「そこへ行くんですね」
「置かれた以上、見ます」
クララは真面目に答えた。
真壁が短く言う。
「結構」
クララは卵へ近づいた。直接は触れない。手をかざすだけにする。指先から、穏やかな魔力が薄く流れた。
卵の殻に走る灰色の筋が、魔灯の下でほんの少し薄く見えた。
ヴァルトの視線が鋭くなる。
「反応しています。荒い揺れが弱まりました」
澪は卵を見た。
さっきまで秘密基地の机の上にあった時より、卵の熱が柔らかくなったように見える。見えるだけかもしれない。けれど、クララの魔力に対して、卵は確かに応えている。
クララは記録板を取り、空いている欄を探した。
孤児院の室温と湿度の下に、新しい行が増える。
殻の温度。
色。
魔力の揺れ。
供給後の変化。
クララ自身の疲労。
澪は、その最後の項目で視線を止めた。
クララは、自分の疲れまで記録するつもりだ。
その姿勢はありがたい。けれど、ありがたいからこそ、負担を見落としてはいけない。
「クララさん、無理はしないでください」
「はい。ですから、書きます」
クララは静かに言った。
澪は、言い返せなかった。
書く人は、無理を隠しにくい。少なくとも、隠さない仕組みを作れる。
真壁が卵の横へ簡易の保護台を出した。厚い布、温度を落としすぎない台、魔力を一気に吸わせないための薄い緩衝材。説明しながらではない。手が先に動いている。
ヴァルトは卵とクララの反応を見比べた。
「魔力の質は合っています」
クララの肩が、ほんのわずかに下がった。安心したのではなく、供給した分だけ身体が重くなったような動きだった。記録板を持つ指の文字が、そこだけわずかに乱れる。
澪は、それを見逃さなかった。
「でも、量が足りないんですね」
ヴァルトは、少し間を置いた。
「はい。疲労耐久力は上がっていますが、竜卵へ定期的に与えるには、魔力量と制御が足りません」
クララは、自分の手を見た。
「私が、足りないのですね」
その声に落ち込みはある。けれど、逃げる響きはなかった。足りないなら、どこが足りないかを記録する。クララの目は、すでにそう考えている。
真壁は、卵の保護台の位置を直した。
「レベルを上げる」
クララが顔を上げる。
「私の、ですか」
「君だ」
「私は記録係のつもりでした」
「記録できる者は育成できる」
澪は、思わず額に手を当てかけて、途中で止めた。
「また職務範囲が増えました」
ヴァルトは卵から目を離さないまま、低く答える。
「しかし、方向としては正しいです」
「ヴァルトさんが正しいと言うと、もう止まりませんね」
「止まりません」
クララは、記録板に新しい欄を作った。
供給時間。
卵反応。
供給者疲労。
次回までの回復。
澪は、その文字が増えていくのを見た。孤児院の室温や湿度と同じ板に、竜卵の反応が並んでいる。どうして同じ板に並んでいるのか、考えると頭が追いつかない。
だが、並んでしまった以上、読むしかない。
真壁は、クララの記録板の横に、簡単な訓練用の魔力灯を置いた。灯りは弱く、卵へ直接向けない位置にある。クララが少量の魔力を流し、反応を見て、休むためのものだ。
「短時間からだ」
真壁が言う。
「長くはしません」
クララは、すぐに書き込んだ。
「教会内の浄化作業と、浄化加湿循環器の管理も合わせます。卵だけではなく、普段の仕事の中で増やせるなら、その方が続きます」
澪は、クララを見直した。
竜卵を前にしても、クララは教会の生活を忘れていない。孤児院の子どもたち、室内の空気、加湿器の水、毎日の記録。その延長に、竜卵を置こうとしている。
真壁の暴走が持ち込んだものを、クララは教会の仕事へつなぎ直そうとしている。
それなら、まだ扱える。
「クララさんの負担を見ながら、ですね」
「はい」
「領主家への報告も必要です」
澪が言うと、真壁は頷いた。
「後で行く」
「後で、ではなく、手順を決めてからです」
「手順を作る」
真壁は卵を見た。
白灰色の殻は、教会の灯りの中で静かに熱を返している。灰色の筋はまだ残っているが、火山にあった時の荒さは薄れていた。
クララは、記録板を抱え直した。
「まず、次の供給までの時間を測ります」
真壁は短く答えた。
「結構」
澪は、記録板の新しい欄を見た。
竜卵。
その横に、クララの疲労と回復を書く小さな枠がある。
卵を育てるために、クララを育てる。
クララを育てるために、教会の仕事がまた少し変わる。
白灰色の卵が、布の上でかすかな熱を返した。礼拝堂の奥から聞こえる子どもたちの寝息のような生活音に、その熱だけが新しく混ざっていた。