朝の教会は、石の床から冷えが上がっていた。
高い窓から入る光はまだ薄く、礼拝堂の端に長い影を落としている。孤児院側では、木の器が重なる音と、水桶を運ぶ小さな足音が交じっていた。シスターの声が短く響き、子どもたちの返事がぱらぱらと続く。薬草と石鹸と、干した布の匂いがする。
クララは管理室の机の前で、竜卵を見ていた。
白灰色の殻には、まだ灰色の筋が残っている。昨夜より荒さが薄くなったように見えるが、見えるだけで済ませるわけにはいかない。クララは記録板へ、殻の温度、色、魔力の揺れ、昨日の供給後の変化を書き込んだ。
最後に、自分の疲労の欄へ筆を置く。
少し迷った。
疲れた、と書くのは簡単だった。けれど、どこがどう重いのかを書かなければ、次に同じことをした時に比べられない。指先なのか、腕なのか、胸の奥なのか。子どもたちの咳を見ていた時も、熱だけでなく、眠れたか、食べられたか、汗が出たかを分けていた。
クララは、筆先を直した。
指先の熱。腕の重さ。呼吸は乱れなし。
書き終えたところで、扉の外に足音が増えた。
「クララ君。行く」
真壁が入ってきた。
その後ろに、若い騎士が2人立っている。1人は背が高く、槍を持ったまま肩に力が入っていた。もう1人は細身で、小盾の留め具を気にしながら、部屋の中を素早く見回している。
クララは筆を置いた。
「どちらへ、でしょうか」
「赤樺湿地」
朝の冷えが、少し深くなった気がした。
クララは竜卵へ目を戻す。昨日、火山の魔力だまりから遠ざけたばかりの卵だ。殻の灰色の筋はまだ消えていない。置いていくのか、連れていくのか。そのどちらも、普通の答えではない。
「竜卵は」
「保護区画で運ぶ。君も行く」
真壁は、答えながらもう収納を開いていた。
竜卵の下に敷かれていた布の端が浮き、卵が保護区画へ移る。温度を落とさず、衝撃を受けず、魔力を断ちすぎないための空間。真壁は昨日から何度もそれを扱っているような手つきで、卵をしまった。
槍の騎士が、少し遅れて背筋を伸ばした。
「我々は、護衛でしょうか」
「護衛兼訓練」
「訓練、ですか」
小盾の騎士が、言葉を繰り返す。訓練と聞いて来たはずなのに、教会の管理室で竜卵を見るとは思っていなかった顔だった。
「レオンハルト君から借りた」
真壁は2人を見る。
「ルッツ・ヘンケ。ニコ・バルツァー。以前、へばっていたな」
槍の騎士、ルッツの顔がこわばった。真面目な顔のまま、返事だけが大きくなる。
「本日は最後まで立っています」
ニコは盾の縁に触れ、短く息を入れた。
「私も、遅れません」
「結構」
真壁の返事は短かった。
クララは、2人の靴に目を留める。磨かれているが、細かな傷がある。訓練場の土と木剣の跡が残っているようだった。彼らも、昨日までの自分と同じように、何かの役目の前に立たされている。
「私は、何をするのでしょう」
「撃つ」
クララは、記録板を持つ指を止めた。
「……撃つ、ですか」
竜卵の温度欄の下に、今日書くべき言葉が増えた音がした。
教会の裏手には、朝露のついたエアカーが置かれていた。
石畳は湿っていて、箒で掃かれた跡が細く残っている。遠くからパンを焼く匂いが流れ、孤児院の窓の内側で、子どもたちの声が小さく跳ねた。そんな朝の生活の隅に、馬車ではない乗り物が低く沈んでいる。
クララは、足を止めた。
「これは、馬車ではありませんね」
「馬は使わん」
真壁は当然のように言い、車体の側面を開いた。
ルッツは一歩前へ出て、どこから乗るのか分からずに止まる。ニコは盾を外側へ向けるべきか、内側へ抱えるべきかを見比べていた。クララには、その違いがまだ分からない。ただ、2人とも真面目に困っていることだけは分かった。
「飛ぶのでしょうか」
ルッツの声は、やはり大きい。
「少し浮く」
「少し、の基準を伺っても」
ニコが言うと、真壁は固定帯を手に取った。
「落ちなければよい」
クララは、記録板の入った布袋を胸元へ寄せた。
「記録項目が増えます」
「後で書け」
真壁はクララを中央に座らせ、固定帯をかけた。ルッツは自分で留めようとして、帯の向きを逆にしたまま固まる。真壁が無言で直す。ニコは自分の剣と小盾を落ちない角度へ納め、真壁に短く見られた。
「結構」
ニコの肩が、わずかに下がった。褒められたのか、単に邪魔にならないと判定されたのか、判断に迷った顔だった。
エアカーが低く浮く。
石畳が足の下から離れた瞬間、ルッツとニコの呼吸が揃って乱れた。クララも布袋を押さえたが、声は出さなかった。竜卵の保護区画が真壁の収納内にあり、自分はその世話のために運ばれている。それを考えれば、地面から少し浮いたことくらい、記録欄の下の方に回すしかない。
エアカーは教会の裏手を離れ、朝の領都の屋根を低くかすめるように進んだ。
赤樺湿地は、朝霧の中にあった。
赤みを帯びた木々の幹は濡れて黒く、葦の先から水滴が落ちている。水面の近くには白い霧が薄く残り、泥と水と薬草の青い匂いが混じっていた。遠くに薬草宿場の屋根が見えるが、真壁がエアカーを下ろした土手は、そこから離れている。
クララは地面に足を置いた。
石床とは違う。土は柔らかく、湿っていて、靴の裏へ吸いつく。外套の裾がすぐ水気を吸い、朝の冷たさが足元から上がってきた。
ルッツは勢いよく降り、靴を泥に沈ませた。
「……」
抜こうとして、さらに沈みかける。
「踏むな。置け」
真壁が短く言った。
ルッツは返事をしようとして、まず足を戻した。ニコはその様子を見てから、少し横の固そうな草の根元へ足を置く。
湿地は、ただ立つだけでも騎士の癖を試してくる。
「ここで以前、大物を退けた」
真壁は水面を見る。泡が出ている場所、葦の倒れ方、土手の高さを一度に拾っているようだった。
「では、安全になったのでは」
ルッツが言った。
「数か月あれば、次が育つ」
ニコは湿地の奥を見た。水の下に何がいるか、クララには分からない。だが、ニコの顔が硬くなったので、ただの浅瀬ではないことは分かる。
「群れの中で、大きいものが上がるのですか」
「そう見てよい」
クララは、水面から目を上げた。
「今日は、その新しい大きいものを」
「退ける」
「訓練で、ですか」
ルッツの声に、今度は少しだけ本音が混じった。
「訓練でなければ遅い」
真壁はもう地図を見ていた。
クララには、その地図がない。澪のように、敵の位置や射程を読むことはできない。クララが使えるのは、ヒールと浄化と鑑定。子どもの熱を探り、卵の殻の変化を見て、荒い魔力を薄めようとする力だった。
それで、この湿地の何をするのか。
クララが考えている間に、真壁はハイエースを出した。
湿った土手の上に銀色の箱が現れ、その上へ固定台が組まれていく。金属が朝の光を鈍く返し、泥の匂いの中に油と鉄の匂いが混じった。
ルッツが口を開けたまま固まった。
ニコは、車体ではなく射線の先を見た。そこが宿場へ向いていないことに気づいたのか、盾の位置を少しずらす。
「私は、狙えません」
クララは、正直に言った。
固定台の上に据えられたものは、彼女の道具ではない。薬草を測る匙でも、記録板でも、祈りの灯でもない。
「狙わなくてよい」
「澪さんのような地図スキルはありません」
「要らん」
「要らないのですか」
「君は聖職者だ。地図ではなく、ヒールと浄化と鑑定を使う」
真壁は、クララの立つ足元に滑りにくい板を置いた。さらに、発射ボタンの前へ位置を示す。ルッツとニコは、射線の外へ下げられた。
「では、クララ殿は何を」
ルッツが尋ねる。
「押す」
「押す、ですか」
ニコの声に、湿地の水音が重なる。
「ただし、思うものを間違えるな」
真壁は、クララの手元を見た。
「卵へヒールを与える時を思え」
「卵へ」
クララの頭に、白灰色の殻が浮かぶ。灰色の筋。自分の魔力で、ほんの少しだけ穏やかになった熱。
「子どもたちへヒールを与える時もだ」
「はい」
熱を出した子の額。眠れない子の浅い呼吸。泣き疲れた手の小ささ。クララは、その感触を指先へ寄せた。
「魔力だまりを浄化する時を思え」
「浄化」
濁った水を布で何度もすすぐように、荒いものを薄める感覚。
「子どもの病を見つけるため、鑑定する時を思え」
クララは、発射ボタンを見下ろした。
「……見るための魔力ですね」
「そうだ。そのまま押したまえ」
「敵を撃つのではなく」
「危険を退ける」
湿地の奥で、葦が揺れた。
温水が浅瀬へ入ると、水面の揺れ方が変わった。
餌の匂いが湿った空気に混じり、黒い背中が少しずつ寄ってくる。小型のアリゲーターが水面近くを滑り、中型が葦の影を低く割った。泥の中で泡が割れ、湿地全体がゆっくり目を覚ますように動き始める。
ルッツが槍を構えた。
「小型が出ています」
「まだだ」
「今なら槍が届きます」
「届くから駄目だ。散る」
ルッツは槍を引いた。返事はしなかった。返事をすれば、また力が前へ出ると分かっているようだった。
ニコは水面を見ている。小型の波紋と、奥から押してくる長い波の違いを見分けようとしていた。
「親玉を待つのですね」
「そうだ」
クララは、発射ボタンへ指を置いたまま、湿地の奥を見すぎないようにした。
牙を考えると手が固まる。泥水の音を聞きすぎると、呼吸が浅くなる。だから、卵を思う。子どもたちを思う。浄化と鑑定を思う。
「私は、いつ」
「まだ押すな。卵を思え」
「はい」
奥の水路で、泥が盛り上がった。
葦が斜めに倒れる。小型が一斉に向きを変えた。水面の長い影が、ゆっくり浅瀬へ向かってくる。
真壁が固定台の角度をわずかに変えた。
クララの指先に、金属の冷たさがある。掌の奥には、昨日より少し太い魔力の感触がある。
水面が割れた。
ラージアリゲーターの頭部が出る。泥と藻をまとった鱗が黒く濡れ、目だけが硬い光を持っていた。以前の個体をクララは知らない。それでも、これが湿地の中で上に立つものだと分かる。小型と中型が散り、泥水が重く跳ねた。
「頭が出る」
「はい」
「卵を思え」
「ヒールを、与える時の」
「子どもたちもだ」
「はい」
「浄化と鑑定も忘れるな」
クララは息を吸った。
卵。子ども。魔力だまり。病の兆し。
見落とさない。濁らせない。荒くしない。危険を近づけない。
「見落としません」
「今だ」
クララは、ボタンを押した。
「守ります」
音が湿地を裂いた。
固定台がハイエースを押さえ、空気がひとつ遅れて震える。泥水が高く上がり、ラージアリゲーターの巨体が水面で跳ねた。黒い鱗の頭から首筋へ衝撃が抜け、巨大な影が浅瀬へ崩れる。
小型と中型が一斉に散った。
クララの手に、熱い疲れが残る。
敵を倒した感触ではない。ヒールを強く遠くへ通しすぎた時の、腕の奥が空くような疲れだった。ただ、目の前の水面には倒れた巨体がある。
クララは自分の指を見た。
指は震えていた。けれど、押したことを取り消したい震えではなかった。
泥水が落ち着く前に、真壁が一歩前へ出た。
「残敵掃討!」
ルッツとニコの背筋が伸びる。
クララは安全な位置へ下がった。真壁の声で、戦いが終わったのではなく、別の段階へ入ったのだと分かった。水面の遠くには逃げる小型の細い波紋がある。近くの葦の影には、重い泡が残っている。
「2時方向、死に損ないのアリゲーター2匹。ニコ、討伐せよ」
「はい!」
ニコが盾を前へ出した。
「尾の内側へ入るな」
「承知しました」
ニコは泥の硬いところを選び、半歩ずつ進む。1匹目の尾が泥水を叩いた。盾で受けようとして、途中でやめる。受けるのではなく、外す。ニコは体をずらし、首元へ剣を入れた。
2匹目が泥の中で暴れる。
「足場を作る」
真壁が泥の一部を収納すると、濁った水の下から硬い土が現れた。ニコの靴がそこへ乗る。彼は息を詰め、剣を入れ直した。
「終わりました」
「収納」
処理済みの個体が消えた。
ルッツの喉が鳴る。自分の番を待つ顔だった。
「11時方向、死に損ない1匹。ルッツ」
「はっ!」
「踏み込むな。槍を置け」
「はい!」
ルッツは槍を突き出した。力が入りすぎ、靴が泥に取られる。
「足を抜くな。腰を落とせ」
「はい!」
ルッツは歯を食いしばり、腰を落とした。槍を押し込むのではなく、距離を保ったまま突く。アリゲーターの尾が泥を叩いたが、届かない。
止めが入った。
「収納」
真壁は次に、泡ではなく葦を見た。
「3時。隠れている。注意せよ」
ニコが水面を探す。
「見えません」
「泡を見るな。葦の倒れ方だ」
ニコの視線が水面から葦へ移る。倒れている葦の中で、1本だけ向きが違う。水の動きと合っていない。
「……います」
「ニコ、盾。ルッツ、槍」
「はい」
「はい!」
「押すな。刺して抜け」
隠れていたアリゲーターが跳ねた。ニコが盾で尾の向きを外し、ルッツが槍を置くように突く。今度は足を抜こうとしない。刺して、引く。もう1度、角度を変えて入れる。
泥が跳ね、湿った音が止まった。
「収納」
死に損ないだった個体が消える。
クララは記録板を開きかけて、手が震えていることに気づいた。
大きな1撃の後にも、人が動く。残った危険を見つけ、消し、残さない。守るという言葉は、思っていたより泥に近かった。
ルッツは息を荒くしながらも立っていた。ニコは盾についた泥を見て、尾を受けなかったことを確かめている。
真壁は、2人を順に見た。
「前よりよい」
「前より、ですか」
ルッツの声は、疲れていても大きい。
「へばるまでが伸びた」
ニコが、泥だらけの顔でわずかに目を細めた。
「褒められているのでしょうか」
「そうだ」
2人は、返事をする前に息を整えた。
ラージアリゲーターの巨体は、浅瀬の水を塞ぐように横たわっていた。
濡れた鱗が黒く光り、泥水が腹の下でゆっくり濁っている。血と泥と湿った草の匂いが混じり、さっきまで鳴かなかった鳥が、遠くでようやく短く鳴いた。倒れた葦は、水面へ戻りかけている。
真壁は巨体を見下ろした。
「収納」
黒い塊が消えた。
ルッツが息を呑む。
「大物も、入るのですね」
「入る」
ニコは、消えた後の水路と泥の跡を見た。
「通常個体も回収しますか」
「残す理由がない」
真壁が浅瀬へ視線を動かすたび、死に損ないだった通常アリゲーターの死骸が消えていく。泥と水だけが残り、湿地の匂いが少し変わった。
「逃げたものは追わん。水路は後で騎士団へ報告」
「逃走方向、数、残った跡ですね」
ニコが言う。
「そうだ」
ルッツが槍を握り直した。
「我々が報告します」
「結構」
真壁はハイエースの固定を外した。
「では撤収!」
「ハイエースで戻るのですか」
ニコが尋ねる。
「違う」
真壁がハイエースを収納した。
土手の上から、銀色の車体と固定レールガンがまとめて消える。泥のついたタイヤ跡だけが残った。
ルッツは、声を出すまでに少し時間がかかった。
「……消えました」
「出す」
今度はエアカーが現れた。
クララは、記録板を胸に抱え、消えたハイエースと現れたエアカーを順番に見た。
「乗り物が変わりました」
「湿地を離れる」
真壁は全員の位置を示す。
ニコは泥のついた盾を抱え直し、小さく息を吐いた。
「訓練場へ戻るだけでも、普通ではないのですね」
「乗れ」
エアカーが低く浮いた。
赤樺湿地の水面には、倒れた葦と、逃げた小型の遠い波紋だけが残った。クララの手の中には、竜卵へ戻すための魔力の疲れが、まだ温かく残っていた。
教会へ戻った時、クララの外套には湿地の匂いが残っていた。
泥、水、草、生き物の重い匂い。礼拝堂脇の管理室へ入る前に、クララは外套を脱いだ。卵のそばへ湿地の匂いを持ち込みたくなかった。手を洗い、布で指の間まで拭いてから、記録板を机へ置く。
竜卵は保護台の上に戻されていた。
白灰色の殻は、朝より少し穏やかに見える。もちろん、見えるだけでは足りない。クララは殻へ手をかざす前に、発射前、発射時、発射後、撤収時の魔力の残り方を記録板へ書き足した。
指先の熱。腕の奥の空き。胸の疲れ。呼吸は安定。恐怖あり。魔力の通りは昨日より太い。
最後の1文を書いて、クララは自分の手を見た。
真壁が横から短く言う。
「手を見ろ」
「……魔力の残り方が、昨日と違います」
「結構」
ルッツとニコは、管理室の外で泥を落としきれずに立っていた。ルッツはまだ息が荒いが、膝はついていない。ニコは盾についた泥と尾の跡を見ながら、報告の順番を口の中で繰り返している。
真壁は2人も見た。
「立って戻ったな」
「立っております」
「なんとか」
「前よりよい」
ルッツの顔に、疲れと誇りが同時に浮いた。ニコは、褒め言葉として処理してよいのか迷ったあと、素直に息を吐いた。
クララは竜卵へ手をかざした。
赤樺湿地の水音が、まだ耳の奥に残っている。だが、ここは教会だった。石床は冷たく、布は清潔で、遠くから子どもたちの小さな声が聞こえる。
卵へヒールを与える時を思う。
子どもたちへヒールを与える時を思う。
魔力だまりを浄化する時を思う。
病を見落とさないために鑑定する時を思う。
クララは、短く、細く、けれど昨日よりまっすぐに魔力を通した。
竜卵の灰色の筋が、ほんの少しだけ薄くなる。殻の奥の熱が、荒く揺れるのではなく、ゆっくり返ってきた。
クララはすぐ手を引いた。
「短くしました」
「よい」
真壁は、もう次の手順へ目を移している。
ルッツとニコは、レオンハルトへ報告する内容を復唱し始めた。ボス個体討伐。通常個体処理。逃走方向。水路の状態。回収済み。湿地の継続見回り。
クララは、記録板に新しい欄を増やした。
赤樺湿地訓練後。
その下に、竜卵の反応と、自分の疲れを書き込む。
卵を育てるために、自分も育つ。
その事実はまだ大きすぎたが、記録板の上では、ひとつの欄に収まっていた。クララは筆を置き、白灰色の卵から返ってくる小さな熱を、指先に残った疲れと一緒に見つめた。