7個目の人工魔石が、深い紫色へ染まった。
透明だった石の内部を細い光が走り、枝を伸ばすように広がっていく。最後に中心まで色が満ちると、ヴァルトが境界式を切り替えた。
「充填完了です」
真壁は満杯になった人工魔石を収納し、同じ寸法に整えた空の石を亀裂の上へ置いた。
紫色の魔力が、待ち構えていたように流れ込む。
8個目も、9個目も、ほとんど同じ速さで満ちていった。
魔力の供給量は落ちていない。
降り続く雪は、魔力だまりの外縁へ白く積もっていた。冷却された地面は霜に覆われ、その内側だけが地下から上がる熱によって濡れた黒色を残している。
真壁は人工魔石を交換しながら、亀裂へ鑑定を向けた。
地表へ湧き出した分を人工魔石へ移しても、地下から押し上がってくる量は変わらない。
むしろ出口が狭まった分だけ、亀裂の奥で圧力が高まっている。
「出口で待ち受けるだけでは、いささか効率が悪いですな」
真壁が言うと、ヴァルトは地中へ伸ばしていた境界をさらに深く沈めた。
「西側へ続く流路は、途中で3本に分かれています。それぞれの先に蓄積層があります」
「地表の分を抜き終えてから追うのでは遅いな」
「流路ごと処理しますか」
「うむ」
真壁は、黒い泥が脈打つ中心部を見渡した。
「湧いてくるなら、湧かなくなるまで収納すればよろしい」
「承知しました。西側は私が担当します」
返事が早かった。
真壁が顔を向けた時には、ヴァルトはすでに境界を西側の岩盤へ伸ばし、収納範囲を区切り始めていた。
真壁も人工魔石の交換を止める。
交換が不要になったわけではない。
収納内で同じ規格の人工魔石を作り、境界式を介して魔力流路へ接続する。満杯になれば完成品区画へ送り、次の空石を接続すればよい。
手作業だった工程を、収納内の連続処理へ切り替えただけである。
「中央から東側を取る。ヴァルト君、境界を重ねぬよう西端を示し給え」
「境界線を固定しました。ここから西を収納します」
「では、始めよう」
2人が同時に収納を発動した。
黒い地表が消えた。
泥が沈んだのでも、雪に覆われたのでもない。
魔力だまりを満たしていた黒い泥、濁った地下水、砕けた岩、巨人の残した組織、取り込まれていた骨や殻が、広い範囲から一度に失われた。
あとには数m下の岩盤が露出した。
濡れた岩肌から湯気が立ち、冷気に触れて白く広がる。中心部を覆っていた黒い面積は、一度の収納で半分以下になっていた。
真壁は収納内へ送った物質を未処理区画へ流す。
ヴァルトも自分の収納内で、水分、泥、岩石、魔物組織を分け始めた。
「こちらは、およそ2,800tです」
「私は3,400tほどだ」
真壁が答えた直後、露出した岩盤の亀裂が鳴った。
腹の底へ響くような低い音とともに、紫色の光が膨らむ。
続いて黒い泥と地下水が押し上がり、消えた魔力だまりを埋め戻すように岩盤の上へ広がり始めた。
ヴァルトがそちらを見る。
「再び流入しています」
「結構。まだ残っていましたか」
「先ほどより圧力が上がっています」
「では、先ほどより広く収納し給え」
「承知しました」
2回目の収納が発動した。
せっかく押し上がった黒い泥は、地表へ広がり切る前に消えた。
泥を運んできた亀裂の縁も、その周囲へ張りついていた吸収根も、下にあった脆い岩盤も一緒に収納される。
さらに深い層が露出した。
そこからまた紫色の光が上がる。
真壁とヴァルトは、ほとんど同時に次の収納範囲を指定した。
収納したものを、ただ積み上げる理由はなかった。
真壁の収納内では、大量の泥から水分が抜かれ、沈殿物と鉱物粒子が分けられていく。岩石は成分別に崩され、魔物由来の骨、殻、肉片、吸収根は隔離区画へ送られた。
魔素汚染の強い物質は専用区画へ。
使える鉱物は精製区画へ。
正体の分からないものは未確認区画へ。
最初に大きく増えたのは鉄だった。
磁鉄鉱、赤鉄鉱、それに鉄とチタンを含む重い鉱物が、収納内の分類表示へ次々に積み上がっていく。
「真壁さん」
西側の岩盤を収納しながら、ヴァルトが声をかけた。
「こちらの岩石に、鉄とチタンが相当量含まれています」
「分離して保管し給え。構造材には困らなくなる」
「ニッケルとクロムもあります。コバルトも少量」
「専用区画を追加しよう」
真壁はそう言いながら、収納内に金属別の区画を増やした。
さらに一層を収納すると、表示される成分が増えた。
銅、錫、亜鉛。
その下にはバナジウム、タングステン、モリブデンなどの希少金属が並んでいる。
量は少ないが、希土類を含む鉱物も混じっていた。
ヴァルトは表示を見つめたあと、岩盤へもう一度鑑定を向けた。
「こちらには、ネオジムとイットリウムを含む鉱物があります。ほかにも複数の希土類反応が出ています」
真壁は亀裂から噴き上がりかけた泥を収納した。
「実にけしからん魔力だまりですな」
声は平静だった。
だが、口元がわずかに緩んでいる。
ヴァルトはそれを指摘しなかった。
自身も、西側に見つけた新しい鉱物層へ、先ほどより大きな収納範囲を設定していたからである。
「では、こちらも残さず処理します」
「うむ。汚染物を残すわけにはいかん」
2人とも、たいへん正しい顔で収納した。
岩盤がもう一段消えた。
その下から、透明、白、紫、緑、赤褐色の結晶が混じった層が現れる。
真壁の鑑定が、石英、方解石、蛍石、柘榴石、緑柱石、電気石、鋼玉、長石、雲母、ジルコンを拾い上げた。
名称のつかない異世界固有の結晶も複数ある。
方解石、紫水晶、ジルコンは、すでに人工魔石として使い方を確認している。
だからといって、ほかの結晶を捨てる理由にはならなかった。
「保持量の高い結晶が3種類あります」
ヴァルトが鑑定結果を読む。
「こちらは魔力の流入が速い。もう一つは、熱を加えても結晶構造が崩れにくいようです」
「試作品へ回そう。既存規格と混ぜず、番号を分け給え」
「すでに分けました」
「結構」
真壁が言い終えるより先に、ヴァルトの収納内で最初の試作人工魔石が固形化された。
真壁も精製した結晶を溶解する。
不純物を除き、割れと粒界の少ない形へ固め、同じ大きさへ揃える。
セルマへ分析させるのは、そのあとでよい。
少なくとも真壁とヴァルトは、セルマの確認だけで未知素材の性質が決まるとは、まだ考えていなかった。
まず自分たちの鑑定で性質を調べる。
収納内で試作する。
少量の魔力を流す。
問題がなければ充填量を増やす。
その結果を揃えたうえで、セルマにも見せればよい。
空の人工魔石が増えていく。
地下から湧き上がる魔力を境界式で導き、片端から満たす。
満杯になれば収納内の完成品区画へ送る。
次の空石を接続する。
それを、地表の収納作業と並行して続けた。
「人工魔石の製造数が、充填速度を上回りました」
ヴァルトが報告する。
「余剰分も作り続け給え。次の蓄積層で使える」
「機動兵器を複数回動かせる量を越えています」
「予備は多いほどよろしい」
「そうですね」
ヴァルトの返事には、一切のためらいがなかった。
先ほどまで最大の問題だった魔石消費量は、すでに問題ではなくなりつつある。
収納すれば人工魔石の材料が出る。
材料で人工魔石を作れば、取り出した魔力を保管できる。
さらに下を収納すれば、新しい鉱物と魔力が現れる。
処理を続けるほど、処理に必要なものと報酬が同時に増えていく。
ヴァルトが、紫色に満ちた人工魔石の列を見た。
「これは、ボーナスステージではありませんか」
2000年の正月まで会社へ泊まり込んでいた男の口から出た言葉としては、妙に楽しそうだった。
真壁は足元の岩盤へ鑑定を向ける。
「否定する材料はないな」
亀裂から黒い泥が噴き上がった。
真壁が収納した。
「確かに、ボーナスステージだ」
2人の間で認識が一致した。
そこから先の作業速度は、明らかに変わった。
「こちらは、泥と岩盤を合わせて8,200tです」
ヴァルトが言った。
「私は9,600tほどだ」
「西側に、もう一層あります」
「では、そちらは君に任せよう。私は中央の下へ進む」
「承知しました」
返事と同時に、西側の地面が消えた。
真壁も中央へ円柱状の収納範囲を伸ばす。
岩盤を丸ごと抜くのではなく、崩落しにくい段差を残しながら、汚染された部分と魔力を含む層を選んで収納していく。
露出面から紫色の光が漏れれば、人工魔石へ流す。
その下に黒い泥があれば収納する。
吸収根が網のように張りついていれば、根元から消す。
根の間に詰まった魔物の骨や殻も残さない。
さらに下の岩盤から金属反応が出れば、当然のように収納範囲へ加えた。
ヴァルトも西側で同じことをしている。
はじめは作業範囲が重ならないよう、互いに境界を確かめていた。
やがて、どちらが先に次の蓄積層へ届くかを、言葉にせず競うようになった。
真壁が広い面を一度で取る。
ヴァルトは細い流路を境界で正確に切り分け、奥の層までまとめて抜く。
真壁の収納量が増える。
ヴァルトが別の流路を見つける。
「中央下、約4,000tを追加した」
「こちらは流路を含めて4,300tです」
「ほう」
「真壁さん。さらに奥に吸収根の束があります」
「残しては再発する。収納し給え」
「承知しました」
言いながら、ヴァルトはすでに収納していた。
黒いローブの裾が、吹き上がる冷たい風に揺れている。
真壁は次の範囲を指定しながら、ヴァルトの処理量表示を一度だけ見た。
すぐに自分の範囲を拡張した。
やがて2人は、処理量を報告する時間すら惜しくなった。
「中央下、追加で6,100t」
「西側は6,400tです」
「次は」
「すでに区切っています」
「よろしい」
報告はそれだけで終わり、直後にはまた地面が消えた。
収納量の差は、数百t単位で入れ替わった。
真壁が広い岩盤を取れば真壁が上回る。
ヴァルトが枝分かれした流路をまとめて抜けば、ヴァルトが上回る。
どちらも競争とは口にしないまま、相手の数字だけは正確に覚えていた。
2人とも笑ってはいない。
声を上げてもいない。
ただし判断は異様に速く、報告は短くなり、収納範囲だけが着実に大きくなっていた。
そして、休憩を提案する者はどちらにもいなかった。
澪がいれば、少なくとも一度は、
「2人とも止まって確認してください」
と言っただろう。
セルマがいれば、未知の結晶を勝手に溶かすなと怒ったかもしれない。
だが、ここにいるのは真壁とヴァルトだけだった。
止める者は、白い機動兵器にもいない。
外縁に待機した白い機動兵器は、頭部視覚器を右へ、次に左へ動かした。
映像の中では、先ほどまで巨人が立っていた戦場が、巨大な採掘現場へ変わっている。
制御卓に誰かが残っていれば、途中で作業範囲の再確認を求めたかもしれない。
だが、制御卓を使っていたヴァルト本人が、今は最も熱心に岩盤を収納していた。
機動兵器は外縁で両足を開き、ただ静かに、地形が消えていく様子を頭部視覚器へ映していた。
主要な黒い泥を収納し終えた時、魔力だまりは逃げた。
少なくとも、2人にはそう見えた。
中央からの湧出量が急に減り、西側の離れた場所で小さな赤い反応が生まれかける。
ヴァルトが境界解析を広げた。
「真壁さん。西へ流れています」
「新しい出口を作るつもりか」
「地下水と魔力が、別の亀裂へ移動しています。その先に小規模な蓄積層があります」
「進路を塞ぎ給え」
「境界を固定します」
ヴァルトが流路の先へ境界を置く。
魔力と地下水が行き場を失い、岩盤の間で膨らんだ。
「固定しました」
「では、収納しよう」
真壁が上から、ヴァルトが横から収納範囲を重ねた。
魔力は人工魔石へ移す。
地下水は水分区画へ送る。
泥と岩は未処理区画へ収める。
伸びかけていた吸収根は隔離区画へ切り離した。
小規模な魔力だまりは、地表へ姿を現す前に消えた。
だが、さらに奥で別の流れが動いた。
「北西へ分岐しました」
「先ほどの層へつながっているな」
「そのようです」
「取ろう」
「はい」
また消えた。
今度は南寄りで魔力が膨らんだ。
「こちらです」
「見えている」
2人が同時に収納する。
もし魔力だまりに意思と口があったなら、このあたりで、
「もうやめて、あたしのライフはもうゼロよ」
と訴えていたかもしれない。
しかし、真壁は次の亀裂へ鑑定を向けていた。
「ヴァルト君。まだ下にある」
「ええ。今の蓄積層は、さらに深い層とつながっています」
「まだありましたか」
「おそらく、これまでで最も大きいものです」
2人の口元が、同時にわずかに緩んだ。
「では、続行だ」
「承知しました」
魔力だまりのライフが本当にゼロだったかどうかは、もはや誰にも気にされていなかった。
地下の大きな蓄積層は、魔力だけでできていたわけではなかった。
熱を持った地下水。
細かく砕けた岩。
鉱物を多く含む泥。
魔物の死骸。
それらを束ねる吸収根。
紫色の魔力が隙間を満たし、全体をゆっくりと循環していた。
ヴァルトが境界で範囲を分割する。
「上層、中層、下層の3つに分けます。一度に抜けば、周囲の岩盤が崩れる可能性があります」
「上から順に取ろう。私は中央を広く取る。君は側面の流路と吸収根を頼む」
「分かりました」
上層が消えた。
真壁の収納内へ、鉄とチタンを多く含む岩石が大量に入る。
中層が消えた。
ヴァルトの収納内へ、銅、ニッケル、コバルトと、多種の結晶鉱物が入る。
下層へ達すると、鑑定表示に見慣れない項目が並んだ。
「未知金属が4種類」
「こちらは未知結晶が7種類です」
「性質は」
「1種類は、魔力を流すと周囲の熱を奪います。もう1種類は、境界式を近づけると内部の配列が揃うようです」
「少量を試験区画へ回し給え」
「すでに分けています」
ヴァルトは未知結晶の一部を溶解し、小さな人工魔石へ固形化した。
低出力の魔力を流す。
亀裂は入らない。
発熱もない。
次に流入量を増やす。
結晶内部へ紫色の筋が均等に広がった。
「安定しています」
「では、充填しよう。セルマ君には結果と現物を見せればよい」
「ええ。確認だけを待つ必要はありません」
未知結晶から作られた人工魔石も、完成品区画へ並び始めた。
上層、中層、下層を処理しても終わらない。
さらに下。
西側の分岐。
北西の小規模層。
離れた岩盤裏の細い溜まり。
2人は一つずつ魔力を人工魔石へ移し、残った構成物を収納していった。
地図上の赤い反応は、生まれかけては消える。
泥が魔物の形を取るより、2人の収納の方が早い。
やがて中央部には、巨大な段状の窪地ができていた。
外縁に立つ白い機動兵器が、先ほどよりずっと高い場所にいるように見える。
真壁は窪地の底から見上げた。
「かなり進んだな」
「総収納量を確認しますか」
「処理が終わってからでよい」
「そうですね」
2人とも、そこで止まるという選択肢を思いつかなかった。
最後の一つは、主流路から外れた岩盤の裏に隠れていた。
ヴァルトが境界解析を最大まで広げ、ようやく見つけた小さな反応である。
「真壁さん」
「何かありましたか」
「南西側、岩盤の裏に小規模な蓄積があります。現在の魔素濃度なら、すぐに巨人を形成する規模ではありません」
真壁はそちらへ鑑定を向けた。
厚い岩の向こうに、泥と地下水を含んだ小さな紫色の溜まりがある。
主流路との接続は細く、今はほとんど流れていない。
「放置した場合は」
「時間をかければ再び吸収根が伸びます。数年後か、数十年後かは分かりません」
「すべて処理する方針だったはずだ」
「そのとおりです」
「では、終わらせよう」
「はい」
ヴァルトが岩盤の周囲へ境界を置く。
真壁が上部の岩を収納し、内部を露出させる。
紫色の魔力が、突然開いた空間へ漏れようとした。
ヴァルトが人工魔石への経路をつなぐ。
魔力が吸い込まれる。
真壁が泥と地下水を収納する。
ヴァルトが吸収根を根元から収納する。
最後に、汚染された亀裂周辺を2人で左右から取った。
紫色の光が消えた。
ヴァルトはその場に立ったまま、境界解析を周辺一帯へ3度広げ直した。
真壁も同じ範囲へ鑑定を重ね、魔素濃度を追った。
「ありません」
ヴァルトが言った。
「地下の蓄積層、供給流路、高濃度魔素反応。すべて消えています」
真壁は地図を確認した。
赤い反応はない。
雪の下にも、岩盤の奥にも、魔物を作り始める兆候はなかった。
「結構。処理完了だ」
そこで初めて、2人は周囲を見た。
魔力だまりがあった土地は、巨大な段状の窪地になっている。
元は黒い泥に覆われた平地だった。
今そこにあるのは、岩盤を何層も削り取った大規模な廃坑跡だった。
中央は深く落ち込み、東西には真壁とヴァルトが追いかけた魔力流路の跡が、枝分かれした採掘坑のように延びている。
白い機動兵器が立つ外縁は、すでに遠い崖の上に見えた。
ヴァルトが、しばらく窪地を見上げる。
「真壁さん」
「何か」
「少々、収納しすぎたでしょうか」
真壁は露出した岩盤を見渡した。
崩落のおそれがある部分は、ヴァルトが境界で区切っている。
魔力も魔物も残っていない。
巨大な廃坑跡ではあるが、処理対象は完全に消えていた。
「魔力だまりを残すよりはよろしいでしょう」
「それは、そうですね」
ヴァルトは素直に納得した。
2人とも、埋め戻そうとは言わなかった。
有用な岩石を、わざわざ穴へ戻す理由がなかったからである。
真壁は収納内の一覧を開く。
鉄。
チタン。
銅、ニッケル、クロム、コバルト。
希少金属を含む鉱物。
希土類を含む鉱物。
人工魔石へ加工できる多種多様な結晶。
性質の分からない未知金属と未知結晶。
その奥には、紫色の魔力を満たした人工魔石が、規格ごとに分けられて並んでいた。
方解石、アメジスト、ジルコンだけではない。
真壁とヴァルトが現地で試作した新しい人工魔石も、それぞれの試験区画へ収められている。
保持量の高いもの。
魔力の流入が速いもの。
熱を加えても構造が崩れにくいもの。
境界式へ近づけると内部の配列が揃うもの。
「総量は」
真壁が尋ねた。
「岩盤、泥、地下水、吸収根、魔物組織を合わせ、10万tを越えています」
「鉱物資源は」
「まだ集計中です。鉄とチタンだけでも、当面使い切れない量があります。充填済み人工魔石については、機動兵器の運用計画を作り直す必要がありますね」
「悪くない」
「ええ」
ヴァルトは大量の人工魔石が並ぶ収納内を見た。
先ほどまで巨人を動かしていた災害の源が、今ではすべて2人の所有物になっている。
魔力も、鉱物も、希少金属も、未知素材も、一つ残らず収納されていた。
真壁は降り続く雪へ顔を上げた。
白い雪片が、巨大な廃坑跡の底へ静かに落ちている。
「ちょっと早いクリスマスプレゼントですな。」
ヴァルトは一瞬だけ目を細めた。
「26年ぶりですよ。」
「それは、随分と待たされましたな」
「ええ。ですが、今回の中身には満足しています」
「同感だ」
2人は巨大な廃坑跡と、収納内へ積み上がった戦利品を見比べた。
魔力だまりは完全に消えていた。
黒い泥も、吸収根も、地下の蓄積層も、逃げようとした流路も残っていない。
鉄も、チタンも、希少金属も、希土類も、人工魔石の材料も、現地には残されていなかった。
真壁とヴァルトが、すべて収納してしまったからである。
反省する者はいなかった。
ただ、雪が降っていた。