12月中旬の朝、採石場跡には薄く霜が降りていた。
吐く息が白い。岩壁の前に立つ真壁、澪、ヴァルト、リュシアの頭には、揃ってゲンダイ側の工事用ヘルメットが載っている。
リュシアは黄色い帽体を指先で叩いた。乾いた音がした。
「これ、本当に要るのかい」
「安全第一だ」
真壁は即答した。
4人の背後にあるのは、秘密基地の入口ではない。昨日まで古い採石場の岩山として見ていた、巨大な岩壁だった。侯爵家から開発の了承を得たことで、その岩壁は飛行船を受け入れる場所へ変わろうとしている。
リュシアが今日ここへ来た目的は、収納内工程を教わることだった。
「収納の中で加工する方法を教えてくれる、という話だったね」
「そうだ。リュシア殿、現在の収納はLvいくつかね」
「Lv5だよ」
「Lv7まで上げ給え」
迷いのない指示だった。
リュシアは真壁の顔を見た後、未使用SPへ意識を向けた。必要な技能へ資金を投じる時と同じ顔になる。表示を確かめ、収納へSPを割り振った。
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【ステータス表示】
収納 Lv5
↓
収納 Lv6
↓
収納 Lv7
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最後の表示が切り替わると、その下へ新しい文字が続いた。
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【収納Lv7・追加機能】
成分別分離
溶解
固形化
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「……増えたね」
リュシアは3つの機能を順に読んだ。
「そこから先は、澪君に教わり給え」
真壁に促され、リュシアが澪を見る。
「先生、頼むよ」
「先生というほどではありませんけど……私も前にやっていますから」
澪は自分のヘルメットの位置を直した。
白金を収納内で分離し、溶解してから固形化した経験がある。現在の澪は収納Lv10、鑑定Lv10だ。4人の中でも、収納内で大量物を扱う能力は高い。
もっとも、初めて教える相手へ、その経験をどう説明すればよいかは別問題だった。
澪は岩壁の足元を見回し、両手で抱えられるほどの岩を一つ選んだ。
「最初に大事なのは、混ぜないことです」
「分ける前からかい?」
「はい。最初から全部を細かく分けようとすると、自分でも何をしているのか分からなくなります。まず大きく分けて、必要なところだけ細かくします」
リュシアは頷き、澪が示した岩へ手を向けた。
岩が消える。
リュシアは収納内部へ意識を向け、そのまま鑑定した。
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【収納物・鑑定結果】
硬質岩
石英
長石
雲母
磁鉄鉱
イルメナイト
土砂
水分
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「え?」
リュシアが岩のあった地面を見た。
一個の岩を入れただけだった。しかし収納内では、一塊の岩ではなく、そこに含まれる複数の素材として認識されている。
表示へ戻り、見慣れない名前で目を止めた。
「イルメナイトと出ているけど、これはどちらへ分けるんだい」
澪もリュシアの表示を確認した。
「鉱物だとは思いますけど……真壁さん」
「鑑定すればわかるが。鉱石側へ分け給え」
「何の鉱石なんだい」
「チタンの原料になる」
用途を聞いた途端、リュシアの目がわずかに細くなった。
「売れるのかい」
「まず分け給え」
「はいはい。値打ちは逃げないからね」
名称を知れば、次に考えるのは価値、量、用途、扱いである。リュシアはイルメナイトを鉱物側へ寄せた。
澪は自分でも同じ種類の岩を収納し、手順を見せる。
「最初は、岩石、鉱物、土砂、水分です」
収納の中で4つの区画を作る。硬質岩を岩石へ、石英、長石、雲母、磁鉄鉱、イルメナイトを鉱物へ移し、土砂と水分を別にした。
「ここで、鉱物側だけ成分別分離を使います」
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石英
長石
雲母。
磁鉄鉱
イルメナイ。
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混じっていた鉱物が、指定した成分ごとに分かれていく。
「必要な物だけを溶かします。全部に使う必要はありません。溶けたら形を指定して、最後に固形化です」
澪は分離した少量の磁鉄鉱を溶解し、扱いやすい小さな塊へ固形化した。表面の揃った黒い塊を手の上へ出す。
リュシアも同じ手順を試した。
だが、分離、溶解、固形化まで一度に進めようとしたため、出てきた固形物は片側が崩れていた。
「一つずつでいいですよ。まず分けて、それから溶かして、最後に形を決めます」
「急ぐと、形を決める前に固まるんだね」
「はい。工程を飛ばさなければ大丈夫です」
リュシアは崩れた塊をもう一度収納した。今度は分離の完了を確認してから溶かし、寸法を意識して固形化する。
掌へ出てきた塊には角があり、表面も揃っていた。
「出来たよ」
「はい。今の順番です」
「では、本番だ」
背後から真壁の声がした。
リュシアが振り返る。
「何がだい?」
真壁が収納から大型ディスプレイを出した。
岩壁へ重ねるように、5つの巨大な馬蹄形断面が表示される。大きさを示す線は岩壁の上方まで伸び、人の姿など目盛りの点にしか見えない。
【通常ドック 4本】
奥行230m
最大幅70m
最大高62m
馬蹄形断面
【大型製造・大整備ドック 1本】
奥行250m
最大幅80m
最大高70m
馬蹄形断面
リュシアは黙った。
小さな岩で覚えたばかりの成分別分離と、画面の中に並ぶ巨大な横穴を見比べる。
「……これかい?」
「これだ」
「私は収納の練習をするんだよね」
「実物で覚える方が早い」
真壁の声は、先ほどの岩をもう一個渡す時と変わらなかった。
澪も画面を見上げる。一本だけでも大きい。それが通常ドック4本と、大型製造・大整備ドック1本である。
しかも、ここへ入れる飛行船は、まだ最終設計を終えていない。
「飛行船の大きさがまだ決まっていないから、先に余裕を取るんですよね」
「そうだ」
ゲンダイ側で開発されている大型貨物飛行船は、設計思想と規模を考えるための参考でしかない。その機体をここでそのまま造るわけではなく、実際の機体は真壁がこれから独自に設計する。
格納だけではない。製造、点検、大整備、気嚢関係の作業、推進装置と魔道具の着脱、大型貨物を扱う荷役設備まで置く。機体を中で分解し、両側から作業出来る空間が必要になる。
「飛行船より先に、穴の方を大きくしておくんだね」
「後から岩盤を広げる方が面倒だからな」
リュシアは小さな固形物を見た後、それを収納へ戻した。
ヴァルトは画面の大きさではなく、実際の岩壁を見ていた。入口予定位置まで歩き、露出した岩肌へ手を当てる。鑑定表示だけで判断せず、細い割れ目を目で追い、その両側を確かめた。
「ここは、少し密にした方がよいでしょうな」
ヴァルトが指した先には、岩の色に紛れるほど細い亀裂が走っている。
「補強を詰めますか?」
「ええ。この亀裂の周囲だけで足ります。その先の岩質は安定しています」
「では、ここは5m間隔にしよう」
真壁が画面上の補強位置を書き換えた。
通常部の鉄骨主リブは約10m間隔。亀裂や弱部では約5m間隔まで詰める。問題が見つかったから止めるのではなく、安全に進めるための施工条件へ変える。
真壁が収納から鋼材を出した。
一本の完成品ではない。馬蹄形の鉄骨主リブを構成する部材が、組み立てる順に並んでいく。それでも一つ一つが、人の手で動かす大きさではなかった。
「もう作ってあるのかい」
「必要な分から加工している」
一次構造補強へ使う鋼材は、5本を合わせて約25,000tを予定している。
「25,000t?」
「5本分だ」
「5本分と聞いても、25,000tは減らないよ」
リュシアは数量を確認する商人の声で言った。真壁は鋼材の配置を確認し終えると、3人へ向き直った。
「澪君は1番と2番を先行してもらいたい」
「2本ともですか?」
「君が一番速い」
澪は返事をする前に、画面の2本を見上げた。
「能力が高いほど、担当範囲が増えていませんか」
「有効に使っている」
「先生、頑張っておくれ」
「リュシアさんもですよ」
「私もかい」
「実地練習です」
澪は1番ドック予定面へ歩き出した。
岩盤を鑑定し、最初の掘削範囲を指定する。
収納。
爆音はなかった。削岩機の震動も、発破の衝撃もない。巨大な岩壁の一部だけが、切り取られたように消えた。
朝の冷たい空気が、出来たばかりの空間へ流れ込んでいく。
「……静かだね」
「そこは、私も最初は変な感じがしました」
澪は露出した岩盤から目を離さず、収納内部へ意識を移した。
消えた岩盤は一塊のままでは残っていない。鑑定し、まず用途ごとに大きく分ける。
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【収納物・一次分類】
硬質岩
風化岩
土砂
水分
磁鉄鉱
イルメナイト
チタン磁鉄鉱
赤鉄鉱
ルチル
ガーネット
ジルコン
石英
長石
雲母
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建築用の規格石材へ回せる硬質岩。道路と路盤に使える岩。骨材や石粉、充填材へ回す物。風化物、土砂、水分。そして鉱物。
鉱物側だけを、さらに成分別分離へ掛ける。
「終わった物から、こちらへ渡し給え」
「はい」
澪が分類済み資源を外へ出す。真壁はそれを自分の収納へ再収納し、最終保管区画へ振り分けた。
受け取ったまま待つことはない。
露出した岩盤へ、先ほどの鉄骨主リブを組み上げる。巨大な部材が馬蹄形に立ち、奥行方向の連結材が入る。岩盤の状態に合わせて固定し、次の約10mへ進む。
亀裂が確認された区間だけは、約5m先へ次の主リブを置く。
澪が次の岩盤を収納している間に、真壁の補強が進んだ。真壁が鉄骨を入れている間、澪は収納内で分類を続ける。
2番ドック側では、リュシアが最初の掘削範囲を決めていた。澪ほど広くは取らない。ヴァルトが示した安全な範囲の内側へ、確実に指定を置く。
収納。
岩盤が音もなく消えた。
リュシアはすぐ鑑定へ移る。
「磁鉄鉱、イルメナイト……またイルメナイトがあるね」
「そのまま鉱物側へ入れてください」
「用途を聞かなくてもいいのかい」
「用途が分からなくても、分類先が分かれば作業は進められます。必要な物だけ後で確認すれば大丈夫です」
「なるほど。今は品名と置き場を間違えなければいいんだね」
リュシアが大分類を終え、鉱物側へ成分別分離を掛けた。まとまった区画から真壁へ渡す。
「真壁さん、こちらは終わったよ」
「受ける」
分類済み資源が真壁の収納へ移る。
真壁は2番側にも鉄骨を入れ、それと並行して1番と2番の間にある中央部を自分で収納した。自分の掘削物を鑑定し、分類しながら、澪とリュシアから届いた資源もそれぞれの保管区画へ送る。
一つの作業を終えてから次へ移るのではない。
澪が大面積を収納する。
リュシアが境目と別区画を収納する。
真壁が中央部を掘り、自分の収納内で分類する。
3人の分類済み資源は、最終的に真壁へ集まる。その収納が巨大な中央倉庫となり、建築用、道路用、骨材用、風化物、鉱物ごとの最終保管区画へ送り続ける。
同時に真壁は、鉄骨主リブを加工して設置し、連結材を固定する。岩盤を加工し、必要な排水経路を切る。次の主リブを立て、届いた資源を受け、また掘る。
どの工程も止まらなかった。
ヴァルトは掘削の先へ進んだ。新しく露出した岩盤を鑑定し、壁面と天井を歩いて確認する。亀裂の続く方向、岩質の変化、染み出した水の跡を見て、次に掘削可能な範囲を3人へ伝える。
「ここから先は、上部に亀裂があります」
澪が作業範囲を狭めた。
「主リブは5mですか?」
「最初の2本だけ5mにしてください。その先は亀裂が浅くなりますので、通常の約10m間隔へ戻してよいでしょう」
「分かった」
真壁は5m先に主リブを追加した。
止めない。弱部があるなら補強を増やす。次に進める条件が整えば、そのまま進む。
午前の終わり頃には、リュシアは素材名を見るたびに質問しなくなっていた。
磁鉄鉱。
イルメナイト。
チタン磁鉄鉱。
ガーネット。
ジルコン。
まず分類する。必要な用途や価値は、工程を止めずに後で確認する。
「またチタン磁鉄鉱が出たよ」
「鉱物側へ」
真壁の返事を受け、リュシアは分離を進めた。それから表示された成分へ目を止める。
「これは鉄とチタンの両方なんだね」
「そうだ」
「どちらが多いんだい」
「この辺りの物なら鉄だ」
リュシアの視線が、収納内に増えていくチタン磁鉄鉱へ移った。
「それなら、鉄もかなり出ているんじゃないかい」
「最後に集計する」
「その答えは、嫌な予感がするね」
「私もします」
隣の区画を処理しながら、澪も静かに同意した。
昼食のために作業を止めた時間は短かった。
折り畳み椅子へ座った真壁とヴァルトは、食べながら同じ図面を見ている。午前中に露出した岩盤の状態と、午後に進める範囲を重ねていた。
「今は休憩中だよね」
リュシアが澪へ尋ねた。
「この2人の場合、たぶん同じなんですよ」
食べているので休憩であり、図面を見ているので打ち合わせでもある。どちらか一つに決める必要を、本人たちは感じていないらしい。
午後、作業範囲は1番と2番から3番へ広がった。
最初は澪の指示を確認していたリュシアも、岩盤を収納すると、自分で大分類と成分別分離まで進めるようになっていた。分類済み資源が一定量に達したところで真壁へ送る。
「鉱物側を送るよ」
「はい。こちらは道路用です」
澪も別区画を渡す。
「受ける」
真壁は両方を収納しながら、3番の中央部を掘削する。次いで4番へ移った頃には、誰かの作業が終わるのを待つ時間がなくなっていた。
ヴァルトが一つの区画を確認している間にも、確認済みの別区画では掘削と分類と補強が続く。4人が真面目に各自の役割を果たすほど、山から巨大な空間が削り出されていった。
最後に取り掛かったのは、最大幅80m、最大高70m、奥行250mの大型製造・大整備ドックだった。
入口からしばらく進んだところで、ヴァルトが右手を上げた。
「ここは水がありますな」
3人の作業が、指定された区画だけで止まる。
「量は?」
真壁は中止するかではなく、施工条件を尋ねた。
ヴァルトは露出した岩肌へ触れ、地下水の流れと周囲の亀裂を確認した。
「工事を避けるほどではありません。右側へ先に流路を取れば、掘削区画へ回り込まずに済むでしょう」
「では、流路の分だけ先に抜きます」
澪が排水経路の範囲を指定し、岩盤を収納した。
水が新しい流路へ落ちる。真壁が水圧の掛かる部分へ追加の鋼材を入れ、周囲を補強した。ヴァルトが流れと岩盤をもう一度確かめる。
「これで続けられます」
工事は再開した。
安全第一。
だが、安全は停止するための言葉ではない。亀裂があれば主リブを増やし、地下水があれば排水経路を先に造る。安全に進める条件を整え、そのまま前へ進む。
日が傾き始めるまで、収納、鑑定、分類、成分別分離、資源の受け渡し、鉄骨補強は途切れなかった。
夕方、4人は一度、岩山の外へ出た。
朝まで、そこには巨大な岩壁があった。
今は5つの馬蹄形開口が並んでいる。
通常ドック4本。その隣に、さらに大きな大型製造・大整備ドックが口を開けていた。内部には鉄骨主リブが奥まで連なり、主掘削と一次補強を終えた岩盤を支えている。
床はまだない。
照明も、換気設備も、巨大な扉もない。整備設備、ヘリウム設備、荷役設備もこれからである。
完成した飛行船基地ではない。
それでも、朝には存在しなかった5本の巨大なドックが、岩山の中に出来ていた。
リュシアは、しばらく何も言わずに開口を見上げた。
「……ここ、今日の朝まで岩山だったんだよね」
「そうですね」
「収納というのは、こういう使い方をするものだったのかい」
澪は答えようとして、5本の開口を見た。
自分も今日一日、その使い方をしていた。否定する言葉が見つからない。
「集計する」
真壁は4人の前へ表示を出した。
真壁自身が掘って分類した分。
澪が掘り、用途別と成分別に分けた分。
リュシアが実習から始め、最後には自分で分類して渡した分。
すべてが真壁の収納へ集約されている。
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【地下ドック主掘削結果】
通常ドック 4本
大型製造・大整備ドック 1本
総掘削容量
4,737,406m³
総収納重量
12,790,996t
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澪が数字を見る。
リュシアは桁を一つずつ追い、少し遅れて読み終えた。
「……1,279万」
「トンですね」
「トン……」
「分類結果」
真壁が次の表示を開いた。
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【地下ドック掘削物・最終分類】
建築用・規格石材向け硬質岩
4,600,000t
道路・路盤・砕石向け
2,900,000t
骨材・石粉・充填材向け
1,300,000t
風化岩・亀裂岩・粘土・土砂
400,996t
イルメナイト
900,000t
チタン磁鉄鉱
500,000t
ルチル
120,000t
磁鉄鉱
1,300,000t
赤鉄鉱
300,000t
ガーネット
180,000t
ジルコン
90,000t
石英・長石・雲母ほか
200,000t
合計
12,790,996t
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誰もすぐには話さなかった。
リュシアが上から順に読み直す。
建築用の硬質岩が460万t。
道路と路盤、砕石へ回せる物が290万t。
骨材、石粉、充填材が130万t。
その下に鉱物が続く。
イルメナイト90万t。チタン磁鉄鉱50万t。磁鉄鉱130万t。赤鉄鉱30万t。
一度、合計まで目を通した。
もう一度、最初へ戻る。
「……ちょっと待っておくれ」
「どうした」
「私たちは、ドックを掘っていたんだよね」
「そうだ」
「鉱山を開いたんじゃないんだよね?」
「元からそこにあった」
「そういう意味じゃないよ」
リュシアは本気で確認し、真壁も本気で答えていた。どちらも冗談を言っていない。その認識の間にだけ、埋めようのない幅があった。
澪は鉱物ではなく、表示の上半分を見ていた。
建築用硬質岩460万t。道路と路盤290万t。骨材130万t。
これから造る町には、道路、基礎、建物、倉庫、工場が要る。そのかなりの部分を造る資材が、すでに分類済みの状態で収納されている。
「町の資材まで、ここからかなり出せますね」
「使える物を捨てる理由はない」
真壁にとって、掘削物は処分する残土ではなかった。岩盤を収納した時点で鑑定し、用途別に分け、必要な鉱物まで取り出した。山は消えたのではなく、飛行船事業と町づくりへ使える資産へ形を変えたのである。
ヴァルトは鉄系鉱物の数字を見ていた。
「しかし、鉄が多いですな」
「鉱物重量と、そこから得られる金属重量は別だ。だが、相当量にはなる」
リュシアが25,000tの鋼材を使った鉄骨主リブと、表示の磁鉄鉱を交互に見る。
「約25,000tの鉄骨で穴を補強して、掘ったら磁鉄鉱だけで130万tかい」
「そうなる」
計算は合っている。
だからこそ、リュシアは否定する材料を失った。
完成した5つの巨大な開口を見る。もう一度、最後の合計を見る。
12,790,996t。
「……やってしまったね」
澪も今回は否定出来なかった。
真壁は表示を閉じる。
「では、次は中だ」
リュシアが真壁を見る。
「まだ次があるのかい」
「穴を掘っただけだからな」
澪は振り返った。
5つの巨大なドックは、昨日まで山だった。
その山はなくなっていない。
形を変え、用途別に分けられ、すべて収納の中に残っている。