押し入れの向こうは異世界でした   作:Brooks

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第247話 安全第一

 

 12月中旬の朝、採石場跡には薄く霜が降りていた。

 

 吐く息が白い。岩壁の前に立つ真壁、澪、ヴァルト、リュシアの頭には、揃ってゲンダイ側の工事用ヘルメットが載っている。

 

 リュシアは黄色い帽体を指先で叩いた。乾いた音がした。

 

「これ、本当に要るのかい」

 

「安全第一だ」

 

 真壁は即答した。

 

 4人の背後にあるのは、秘密基地の入口ではない。昨日まで古い採石場の岩山として見ていた、巨大な岩壁だった。侯爵家から開発の了承を得たことで、その岩壁は飛行船を受け入れる場所へ変わろうとしている。

 

 リュシアが今日ここへ来た目的は、収納内工程を教わることだった。

 

「収納の中で加工する方法を教えてくれる、という話だったね」

 

「そうだ。リュシア殿、現在の収納はLvいくつかね」

 

「Lv5だよ」

 

「Lv7まで上げ給え」

 

 迷いのない指示だった。

 

 リュシアは真壁の顔を見た後、未使用SPへ意識を向けた。必要な技能へ資金を投じる時と同じ顔になる。表示を確かめ、収納へSPを割り振った。

 

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【ステータス表示】

 

 収納 Lv5

 ↓

 収納 Lv6

 ↓

 収納 Lv7

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 最後の表示が切り替わると、その下へ新しい文字が続いた。

 

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【収納Lv7・追加機能】

 

成分別分離

溶解

固形化

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「……増えたね」

 

 リュシアは3つの機能を順に読んだ。

 

「そこから先は、澪君に教わり給え」

 

 真壁に促され、リュシアが澪を見る。

 

「先生、頼むよ」

 

「先生というほどではありませんけど……私も前にやっていますから」

 

 澪は自分のヘルメットの位置を直した。

 

 白金を収納内で分離し、溶解してから固形化した経験がある。現在の澪は収納Lv10、鑑定Lv10だ。4人の中でも、収納内で大量物を扱う能力は高い。

 

 もっとも、初めて教える相手へ、その経験をどう説明すればよいかは別問題だった。

 

 澪は岩壁の足元を見回し、両手で抱えられるほどの岩を一つ選んだ。

 

「最初に大事なのは、混ぜないことです」

 

「分ける前からかい?」

 

「はい。最初から全部を細かく分けようとすると、自分でも何をしているのか分からなくなります。まず大きく分けて、必要なところだけ細かくします」

 

 リュシアは頷き、澪が示した岩へ手を向けた。

 

 岩が消える。

 

 リュシアは収納内部へ意識を向け、そのまま鑑定した。

 

----------------------------------------

【収納物・鑑定結果】

 

硬質岩

石英

長石

雲母

磁鉄鉱

イルメナイト

土砂

水分

----------------------------------------

 

「え?」

 

 リュシアが岩のあった地面を見た。

 

 一個の岩を入れただけだった。しかし収納内では、一塊の岩ではなく、そこに含まれる複数の素材として認識されている。

 

 表示へ戻り、見慣れない名前で目を止めた。

 

「イルメナイトと出ているけど、これはどちらへ分けるんだい」

 

 澪もリュシアの表示を確認した。

 

「鉱物だとは思いますけど……真壁さん」

 

「鑑定すればわかるが。鉱石側へ分け給え」

 

「何の鉱石なんだい」

 

「チタンの原料になる」

 

 用途を聞いた途端、リュシアの目がわずかに細くなった。

 

「売れるのかい」

 

「まず分け給え」

 

「はいはい。値打ちは逃げないからね」

 

 名称を知れば、次に考えるのは価値、量、用途、扱いである。リュシアはイルメナイトを鉱物側へ寄せた。

 

 澪は自分でも同じ種類の岩を収納し、手順を見せる。

 

「最初は、岩石、鉱物、土砂、水分です」

 

 収納の中で4つの区画を作る。硬質岩を岩石へ、石英、長石、雲母、磁鉄鉱、イルメナイトを鉱物へ移し、土砂と水分を別にした。

 

「ここで、鉱物側だけ成分別分離を使います」

 

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 石英

 長石

 雲母。

 磁鉄鉱

 イルメナイ。

----------------------------------------

 

 混じっていた鉱物が、指定した成分ごとに分かれていく。

 

「必要な物だけを溶かします。全部に使う必要はありません。溶けたら形を指定して、最後に固形化です」

 

 澪は分離した少量の磁鉄鉱を溶解し、扱いやすい小さな塊へ固形化した。表面の揃った黒い塊を手の上へ出す。

 

 リュシアも同じ手順を試した。

 

 だが、分離、溶解、固形化まで一度に進めようとしたため、出てきた固形物は片側が崩れていた。

 

「一つずつでいいですよ。まず分けて、それから溶かして、最後に形を決めます」

 

「急ぐと、形を決める前に固まるんだね」

 

「はい。工程を飛ばさなければ大丈夫です」

 

 リュシアは崩れた塊をもう一度収納した。今度は分離の完了を確認してから溶かし、寸法を意識して固形化する。

 

 掌へ出てきた塊には角があり、表面も揃っていた。

 

「出来たよ」

 

「はい。今の順番です」

 

「では、本番だ」

 

 背後から真壁の声がした。

 

 リュシアが振り返る。

 

「何がだい?」

 

 

 

 

 

 真壁が収納から大型ディスプレイを出した。

 

 岩壁へ重ねるように、5つの巨大な馬蹄形断面が表示される。大きさを示す線は岩壁の上方まで伸び、人の姿など目盛りの点にしか見えない。

 

【通常ドック 4本】

 

奥行230m

最大幅70m

最大高62m

馬蹄形断面

 

【大型製造・大整備ドック 1本】

 

奥行250m

最大幅80m

最大高70m

馬蹄形断面

 

 リュシアは黙った。

 

 小さな岩で覚えたばかりの成分別分離と、画面の中に並ぶ巨大な横穴を見比べる。

 

「……これかい?」

 

「これだ」

 

「私は収納の練習をするんだよね」

 

「実物で覚える方が早い」

 

 真壁の声は、先ほどの岩をもう一個渡す時と変わらなかった。

 

 澪も画面を見上げる。一本だけでも大きい。それが通常ドック4本と、大型製造・大整備ドック1本である。

 

 しかも、ここへ入れる飛行船は、まだ最終設計を終えていない。

 

「飛行船の大きさがまだ決まっていないから、先に余裕を取るんですよね」

 

「そうだ」

 

 ゲンダイ側で開発されている大型貨物飛行船は、設計思想と規模を考えるための参考でしかない。その機体をここでそのまま造るわけではなく、実際の機体は真壁がこれから独自に設計する。

 

 格納だけではない。製造、点検、大整備、気嚢関係の作業、推進装置と魔道具の着脱、大型貨物を扱う荷役設備まで置く。機体を中で分解し、両側から作業出来る空間が必要になる。

 

「飛行船より先に、穴の方を大きくしておくんだね」

 

「後から岩盤を広げる方が面倒だからな」

 

 リュシアは小さな固形物を見た後、それを収納へ戻した。

 

 ヴァルトは画面の大きさではなく、実際の岩壁を見ていた。入口予定位置まで歩き、露出した岩肌へ手を当てる。鑑定表示だけで判断せず、細い割れ目を目で追い、その両側を確かめた。

 

「ここは、少し密にした方がよいでしょうな」

 

 ヴァルトが指した先には、岩の色に紛れるほど細い亀裂が走っている。

 

「補強を詰めますか?」

 

「ええ。この亀裂の周囲だけで足ります。その先の岩質は安定しています」

 

「では、ここは5m間隔にしよう」

 

 真壁が画面上の補強位置を書き換えた。

 

 通常部の鉄骨主リブは約10m間隔。亀裂や弱部では約5m間隔まで詰める。問題が見つかったから止めるのではなく、安全に進めるための施工条件へ変える。

 

 真壁が収納から鋼材を出した。

 

 一本の完成品ではない。馬蹄形の鉄骨主リブを構成する部材が、組み立てる順に並んでいく。それでも一つ一つが、人の手で動かす大きさではなかった。

 

「もう作ってあるのかい」

 

「必要な分から加工している」

 

 一次構造補強へ使う鋼材は、5本を合わせて約25,000tを予定している。

 

「25,000t?」

 

「5本分だ」

 

「5本分と聞いても、25,000tは減らないよ」

 

 リュシアは数量を確認する商人の声で言った。真壁は鋼材の配置を確認し終えると、3人へ向き直った。

 

「澪君は1番と2番を先行してもらいたい」

 

「2本ともですか?」

 

「君が一番速い」

 

 澪は返事をする前に、画面の2本を見上げた。

 

「能力が高いほど、担当範囲が増えていませんか」

 

「有効に使っている」

 

「先生、頑張っておくれ」

 

「リュシアさんもですよ」

 

「私もかい」

 

「実地練習です」

 

 澪は1番ドック予定面へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 岩盤を鑑定し、最初の掘削範囲を指定する。

 

 収納。

 

 爆音はなかった。削岩機の震動も、発破の衝撃もない。巨大な岩壁の一部だけが、切り取られたように消えた。

 

 朝の冷たい空気が、出来たばかりの空間へ流れ込んでいく。

 

「……静かだね」

 

「そこは、私も最初は変な感じがしました」

 

 澪は露出した岩盤から目を離さず、収納内部へ意識を移した。

 

 消えた岩盤は一塊のままでは残っていない。鑑定し、まず用途ごとに大きく分ける。

 

----------------------------------------

【収納物・一次分類】

 

硬質岩

風化岩

土砂

水分

 

磁鉄鉱

イルメナイト

チタン磁鉄鉱

赤鉄鉱

ルチル

ガーネット

ジルコン

石英

長石

雲母

----------------------------------------

 

 建築用の規格石材へ回せる硬質岩。道路と路盤に使える岩。骨材や石粉、充填材へ回す物。風化物、土砂、水分。そして鉱物。

 

 鉱物側だけを、さらに成分別分離へ掛ける。

 

「終わった物から、こちらへ渡し給え」

 

「はい」

 

 澪が分類済み資源を外へ出す。真壁はそれを自分の収納へ再収納し、最終保管区画へ振り分けた。

 

 受け取ったまま待つことはない。

 

 露出した岩盤へ、先ほどの鉄骨主リブを組み上げる。巨大な部材が馬蹄形に立ち、奥行方向の連結材が入る。岩盤の状態に合わせて固定し、次の約10mへ進む。

 

 亀裂が確認された区間だけは、約5m先へ次の主リブを置く。

 

 澪が次の岩盤を収納している間に、真壁の補強が進んだ。真壁が鉄骨を入れている間、澪は収納内で分類を続ける。

 

 2番ドック側では、リュシアが最初の掘削範囲を決めていた。澪ほど広くは取らない。ヴァルトが示した安全な範囲の内側へ、確実に指定を置く。

 

 収納。

 

 岩盤が音もなく消えた。

 

 リュシアはすぐ鑑定へ移る。

 

「磁鉄鉱、イルメナイト……またイルメナイトがあるね」

 

「そのまま鉱物側へ入れてください」

 

「用途を聞かなくてもいいのかい」

 

「用途が分からなくても、分類先が分かれば作業は進められます。必要な物だけ後で確認すれば大丈夫です」

 

「なるほど。今は品名と置き場を間違えなければいいんだね」

 

 リュシアが大分類を終え、鉱物側へ成分別分離を掛けた。まとまった区画から真壁へ渡す。

 

「真壁さん、こちらは終わったよ」

 

「受ける」

 

 分類済み資源が真壁の収納へ移る。

 

 真壁は2番側にも鉄骨を入れ、それと並行して1番と2番の間にある中央部を自分で収納した。自分の掘削物を鑑定し、分類しながら、澪とリュシアから届いた資源もそれぞれの保管区画へ送る。

 

 一つの作業を終えてから次へ移るのではない。

 

 澪が大面積を収納する。

 

 リュシアが境目と別区画を収納する。

 

 真壁が中央部を掘り、自分の収納内で分類する。

 

 3人の分類済み資源は、最終的に真壁へ集まる。その収納が巨大な中央倉庫となり、建築用、道路用、骨材用、風化物、鉱物ごとの最終保管区画へ送り続ける。

 

 同時に真壁は、鉄骨主リブを加工して設置し、連結材を固定する。岩盤を加工し、必要な排水経路を切る。次の主リブを立て、届いた資源を受け、また掘る。

 

 どの工程も止まらなかった。

 

 ヴァルトは掘削の先へ進んだ。新しく露出した岩盤を鑑定し、壁面と天井を歩いて確認する。亀裂の続く方向、岩質の変化、染み出した水の跡を見て、次に掘削可能な範囲を3人へ伝える。

 

「ここから先は、上部に亀裂があります」

 

 澪が作業範囲を狭めた。

 

「主リブは5mですか?」

 

「最初の2本だけ5mにしてください。その先は亀裂が浅くなりますので、通常の約10m間隔へ戻してよいでしょう」

 

「分かった」

 

 真壁は5m先に主リブを追加した。

 

 止めない。弱部があるなら補強を増やす。次に進める条件が整えば、そのまま進む。

 

 午前の終わり頃には、リュシアは素材名を見るたびに質問しなくなっていた。

 

 磁鉄鉱。

 

 イルメナイト。

 

 チタン磁鉄鉱。

 

 ガーネット。

 

 ジルコン。

 

 まず分類する。必要な用途や価値は、工程を止めずに後で確認する。

 

「またチタン磁鉄鉱が出たよ」

 

「鉱物側へ」

 

 真壁の返事を受け、リュシアは分離を進めた。それから表示された成分へ目を止める。

 

「これは鉄とチタンの両方なんだね」

 

「そうだ」

 

「どちらが多いんだい」

 

「この辺りの物なら鉄だ」

 

 リュシアの視線が、収納内に増えていくチタン磁鉄鉱へ移った。

 

「それなら、鉄もかなり出ているんじゃないかい」

 

「最後に集計する」

 

「その答えは、嫌な予感がするね」

 

「私もします」

 

 隣の区画を処理しながら、澪も静かに同意した。

 

 

 

 

 

 昼食のために作業を止めた時間は短かった。

 

 折り畳み椅子へ座った真壁とヴァルトは、食べながら同じ図面を見ている。午前中に露出した岩盤の状態と、午後に進める範囲を重ねていた。

 

「今は休憩中だよね」

 

 リュシアが澪へ尋ねた。

 

「この2人の場合、たぶん同じなんですよ」

 

 食べているので休憩であり、図面を見ているので打ち合わせでもある。どちらか一つに決める必要を、本人たちは感じていないらしい。

 

 午後、作業範囲は1番と2番から3番へ広がった。

 

 最初は澪の指示を確認していたリュシアも、岩盤を収納すると、自分で大分類と成分別分離まで進めるようになっていた。分類済み資源が一定量に達したところで真壁へ送る。

 

「鉱物側を送るよ」

 

「はい。こちらは道路用です」

 

 澪も別区画を渡す。

 

「受ける」

 

 真壁は両方を収納しながら、3番の中央部を掘削する。次いで4番へ移った頃には、誰かの作業が終わるのを待つ時間がなくなっていた。

 

 ヴァルトが一つの区画を確認している間にも、確認済みの別区画では掘削と分類と補強が続く。4人が真面目に各自の役割を果たすほど、山から巨大な空間が削り出されていった。

 

 最後に取り掛かったのは、最大幅80m、最大高70m、奥行250mの大型製造・大整備ドックだった。

 

 入口からしばらく進んだところで、ヴァルトが右手を上げた。

 

「ここは水がありますな」

 

 3人の作業が、指定された区画だけで止まる。

 

「量は?」

 

 真壁は中止するかではなく、施工条件を尋ねた。

 

 ヴァルトは露出した岩肌へ触れ、地下水の流れと周囲の亀裂を確認した。

 

「工事を避けるほどではありません。右側へ先に流路を取れば、掘削区画へ回り込まずに済むでしょう」

 

「では、流路の分だけ先に抜きます」

 

 澪が排水経路の範囲を指定し、岩盤を収納した。

 

 水が新しい流路へ落ちる。真壁が水圧の掛かる部分へ追加の鋼材を入れ、周囲を補強した。ヴァルトが流れと岩盤をもう一度確かめる。

 

「これで続けられます」

 

 工事は再開した。

 

 安全第一。

 

 だが、安全は停止するための言葉ではない。亀裂があれば主リブを増やし、地下水があれば排水経路を先に造る。安全に進める条件を整え、そのまま前へ進む。

 

 日が傾き始めるまで、収納、鑑定、分類、成分別分離、資源の受け渡し、鉄骨補強は途切れなかった。

 

 

 

 

 

 夕方、4人は一度、岩山の外へ出た。

 

 朝まで、そこには巨大な岩壁があった。

 

 今は5つの馬蹄形開口が並んでいる。

 

 通常ドック4本。その隣に、さらに大きな大型製造・大整備ドックが口を開けていた。内部には鉄骨主リブが奥まで連なり、主掘削と一次補強を終えた岩盤を支えている。

 

 床はまだない。

 

 照明も、換気設備も、巨大な扉もない。整備設備、ヘリウム設備、荷役設備もこれからである。

 

 完成した飛行船基地ではない。

 

 それでも、朝には存在しなかった5本の巨大なドックが、岩山の中に出来ていた。

 

 リュシアは、しばらく何も言わずに開口を見上げた。

 

「……ここ、今日の朝まで岩山だったんだよね」

 

「そうですね」

 

「収納というのは、こういう使い方をするものだったのかい」

 

 澪は答えようとして、5本の開口を見た。

 

 自分も今日一日、その使い方をしていた。否定する言葉が見つからない。

 

「集計する」

 

 真壁は4人の前へ表示を出した。

 

 真壁自身が掘って分類した分。

 

 澪が掘り、用途別と成分別に分けた分。

 

 リュシアが実習から始め、最後には自分で分類して渡した分。

 

 すべてが真壁の収納へ集約されている。

 

--------------------------------------------------------------------

【地下ドック主掘削結果】

 

通常ドック 4本

大型製造・大整備ドック 1本

 

総掘削容量

4,737,406m³

 

総収納重量

12,790,996t

--------------------------------------------------------------------

 

 澪が数字を見る。

 

 リュシアは桁を一つずつ追い、少し遅れて読み終えた。

 

「……1,279万」

 

「トンですね」

 

「トン……」

 

「分類結果」

 

 真壁が次の表示を開いた。

 

--------------------------------------------------------------------

【地下ドック掘削物・最終分類】

 

建築用・規格石材向け硬質岩

4,600,000t

 

道路・路盤・砕石向け

2,900,000t

 

骨材・石粉・充填材向け

1,300,000t

 

風化岩・亀裂岩・粘土・土砂

400,996t

 

イルメナイト

900,000t

 

チタン磁鉄鉱

500,000t

 

ルチル

120,000t

 

磁鉄鉱

1,300,000t

 

赤鉄鉱

300,000t

 

ガーネット

180,000t

 

ジルコン

90,000t

 

石英・長石・雲母ほか

200,000t

 

合計

12,790,996t

--------------------------------------------------------------------

 

 誰もすぐには話さなかった。

 

 リュシアが上から順に読み直す。

 

 建築用の硬質岩が460万t。

 

 道路と路盤、砕石へ回せる物が290万t。

 

 骨材、石粉、充填材が130万t。

 

 その下に鉱物が続く。

 

 イルメナイト90万t。チタン磁鉄鉱50万t。磁鉄鉱130万t。赤鉄鉱30万t。

 

 一度、合計まで目を通した。

 

 もう一度、最初へ戻る。

 

「……ちょっと待っておくれ」

 

「どうした」

 

「私たちは、ドックを掘っていたんだよね」

 

「そうだ」

 

「鉱山を開いたんじゃないんだよね?」

 

「元からそこにあった」

 

「そういう意味じゃないよ」

 

 リュシアは本気で確認し、真壁も本気で答えていた。どちらも冗談を言っていない。その認識の間にだけ、埋めようのない幅があった。

 

 澪は鉱物ではなく、表示の上半分を見ていた。

 

 建築用硬質岩460万t。道路と路盤290万t。骨材130万t。

 

 これから造る町には、道路、基礎、建物、倉庫、工場が要る。そのかなりの部分を造る資材が、すでに分類済みの状態で収納されている。

 

「町の資材まで、ここからかなり出せますね」

 

「使える物を捨てる理由はない」

 

 真壁にとって、掘削物は処分する残土ではなかった。岩盤を収納した時点で鑑定し、用途別に分け、必要な鉱物まで取り出した。山は消えたのではなく、飛行船事業と町づくりへ使える資産へ形を変えたのである。

 

 ヴァルトは鉄系鉱物の数字を見ていた。

 

「しかし、鉄が多いですな」

 

「鉱物重量と、そこから得られる金属重量は別だ。だが、相当量にはなる」

 

 リュシアが25,000tの鋼材を使った鉄骨主リブと、表示の磁鉄鉱を交互に見る。

 

「約25,000tの鉄骨で穴を補強して、掘ったら磁鉄鉱だけで130万tかい」

 

「そうなる」

 

 計算は合っている。

 

 だからこそ、リュシアは否定する材料を失った。

 

 完成した5つの巨大な開口を見る。もう一度、最後の合計を見る。

 

 12,790,996t。

 

「……やってしまったね」

 

 澪も今回は否定出来なかった。

 

 真壁は表示を閉じる。

 

「では、次は中だ」

 

 リュシアが真壁を見る。

 

「まだ次があるのかい」

 

「穴を掘っただけだからな」

 

 澪は振り返った。

 

 5つの巨大なドックは、昨日まで山だった。

 

 その山はなくなっていない。

 

 形を変え、用途別に分けられ、すべて収納の中に残っている。

 

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