押し入れの向こうは異世界でした   作:Brooks

256 / 257
第256話 神様も異世界へ行きたい

 

 帰る日の朝、澪は閉じたバッグをもう一度開けた。

 

 財布。充電器。着替え。大学へ戻ればすぐ使うものは、だいたい入っている。

 

 もっとも、本当に増えた荷物の大半はバッグの中にはなかった。

 

 昨夜、母と祖母と作ったおせち。友人の家で買った米と、もらった野菜。祖父の小屋から引き取った大工道具や滑車、ウインチ、臼と杵まで、まとめて収納の中に収まっている。

 

 帰省したはずなのに、帰る頃には妙に荷物が増えていた。

 

「澪、これも持ってく?」

 

 母が台所から紙袋を提げてくる。

 

「何?」

 

「お菓子」

 

「まだ増えるの?」

 

「バッグに入るでしょう」

 

「入るけど」

 

 収納を使えば、もちろん入る。

 

 その答えをそのまま言えないので、澪は紙袋を受け取った。

 

「ありがとう」

 

「駅まで送ろうか?」

 

「大丈夫。その前にちょっと寄りたいところがあるから」

 

「どこ?」

 

「昨日の神社」

 

 母の手が止まった。

 

「忘れ物?」

 

「忘れ物ではないんだけど……」

 

「じゃあ何?」

 

 昨日、拝殿の前で表示された文字が浮かぶ。

 

 また来い。

 

 興味がある。

 

「ちょっと用事」

 

「神社に?」

 

「うん」

 

 母はしばらく澪を見ていたが、それ以上は聞かなかった。

 

 澪も説明する方法を持っていない。

 

 地元の神様に呼ばれています。

 

 帰省最終日の娘が朝から言うには、かなり難しい内容だった。

 

 玄関で父母に挨拶し、靴を履く。

 

「じゃあ、またね」

 

「ちゃんと食べなさいよ」

 

「食べてるよ」

 

「忙しい時ほど怪しいんだから」

 

「はい」

 

 父からも「無理するなよ」と言われ、澪は苦笑しながら家を出た。

 

 冷たい空気が頬に触れる。

 

 駅へ向かうには少し遠回りになる。

 

 それでも、ここで無視して帰ったら、六畳間へ戻ってからずっと気になる。

 

「聞くだけ聞いて帰ろう」

 

 そう決めて、昨日の神社へ足を向けた。

 

 

 

 

 

 元日の夕方ほどではないが、境内にはまだ正月らしい人出が残っていた。

 

 参道脇の飾りもそのままで、焚き火の跡から薄く煙の匂いがする。朝の陽が差しているところは明るいのに、木陰へ入ると足元から冷えた。

 

 澪は昨日と同じように賽銭を入れ、鈴を鳴らして手を合わせた。

 

 今日は、見られている感覚に驚かない。

 

 参拝客が離れたのを待ってから、拝殿へ意識を向ける。

 

「鑑定」

 

-------------------------------

対象:当地鎮守

 

来たか。

-------------------------------

 

「来ましたけど」

 

 昨日より返事が早い。

 

「呼んだの、そちらですよね」

 

-------------------------------

そうだ。

-------------------------------

 

「それで、何の用だったんですか?」

 

 少し間が空いた。

 

-------------------------------

異界について聞きたい。

-------------------------------

 

「異世界?」

 

-------------------------------

そうだ。

-------------------------------

 

 澪は拝殿を見上げた。

 

 それだけなら、昨日の時点でもかなり興味を持たれていた。

 

「何が知りたいんですか?」

 

 問いかけると、返ってきた内容は思っていたより素朴だった。

 

 空はあるのか。

 

 海はあるのか。

 

 人は同じ姿なのか。

 

 魔術とは何なのか。

 

 魔物はいるのか。

 

 神はいるのか。

 

 澪は人の邪魔にならない端へ寄りながら、答えられるところだけ答えていった。

 

「空もあります。人も普通にいます。町も国もありますよ」

 

-------------------------------

魔術は。

-------------------------------

 

「あります」

 

-------------------------------

魔物は。

-------------------------------

 

「います」

 

-------------------------------

剣は。

-------------------------------

 

「ありますけど……」

 

 澪は少し嫌な予感がした。

 

「もしかして、そういうのに興味あるんですか?」

 

-------------------------------

ある。

-------------------------------

 

「やっぱり」

 

 六畳間の本棚、その最上段にいる古い燭台が頭に浮かんだ。

 

 最初は現代のことを知りたがっていた。

 

 テレビを見せた。

 

 アニメも見た。

 

 小説も読ませた。

 

 その結果、知識は確実に増えた。

 

 増えたのだが、異世界についての方向だけは少々おかしくなった。

 

「先に言っておきますけど」

 

-------------------------------

何だ。

-------------------------------

 

「うちにも神様がいるのは、昨日分かってましたよね」

 

-------------------------------

知っている。

古い神性。

-------------------------------

 

「その神様、テレビとかアニメとか小説で、ゲンダイのことをかなり勉強してるんです」

 

-------------------------------

よいことだ。

-------------------------------

 

「そこまではいいんです」

 

 問題はその先だった。

 

「異世界のことまで、かなりラノベ寄りに理解しちゃってるんです」

 

 返事が止まった。

 

-------------------------------

ラノベとは。

-------------------------------

 

「ああ、そこからか」

 

 澪は額に指を当てた。

 

「剣と魔法があって、冒険者がいて、魔物を倒して、勇者がいて、魔王がいて……みたいな物語が多いんです」

 

-------------------------------

勇者。

-------------------------------

 

「そこ拾わないでください」

 

-------------------------------

魔王。

-------------------------------

 

「そっちも」

 

 昨日まで得体の知れない神様だったのに、急に話の方向がおかしくなってきた。

 

「確かに、剣も魔法もあります。冒険者もいます。魔物もいます。でも、それだけじゃないですからね」

 

 澪は指を折りそうになって、やめた。

 

 説明を並べたら、それこそ異世界観光案内になる。

 

「魔法があっても、道が悪くなったら小麦は運べません」

 

-------------------------------

……。

-------------------------------

 

「冬は普通に寒いです。病気にもなります。食べ物が余って困るところもあれば、足りなくなるところもあります」

 

 返事はない。

 

「商売もあるし、税もあります。領主もいます。職人さんは毎日仕事してます。魔物が出たら、普通に危ないです」

 

-------------------------------

なるほど。

-------------------------------

 

「毎日冒険してるわけじゃないですよ」

 

-------------------------------

分かった。

-------------------------------

 

 本当に分かっただろうか。

 

 燭台の神様も似たような返事をして、その後で「聖剣」だの「魔王」だのを覚えていた気がする。

 

 澪は拝殿を見た。

 

「それでも行きたいですか?」

 

 今度は返答まで少し時間があった。

 

-------------------------------

見たい。

-------------------------------

 

「そうですか」

 

-------------------------------

お前がそこまで言うなら、

なおさら見たい。

-------------------------------

 

 澪は目を細めた。

 

「普通は逆じゃないですか?」

 

-------------------------------

実物を見る。

それがよい。

-------------------------------

 

 そこまで言われれば、少なくとも期待外れだから怒られる心配はなさそうだった。

 

 別の心配はある。

 

「でも、ここを離れて大丈夫なんですか?」

 

-------------------------------

離れない。

-------------------------------

 

「じゃあ、どうやって行くんです?」

 

-------------------------------

依り代を使う。

-------------------------------

 

「依り代?」

 

 その時だった。

 

 拝殿の脇、植え込みの向こうから、小さな白いものが歩いてきた。

 

 猫だった。

 

 まだ子猫だ。

 

 冬毛がふわりと膨らみ、身体が実際より丸く見える。耳は小さく、尻尾も細い。

 

 澪のところまで来ると、靴の先を一度嗅いで、そのまま座った。

 

「……この子?」

 

-------------------------------

そうだ。

-------------------------------

 

「いや、そうだって」

 

 澪はしゃがんだ。

 

 子猫は逃げない。

 

 指先を近づけると、鼻を寄せて匂いを嗅いだ。

 

「神様がこの子に入るんですか?」

 

-------------------------------

本体はここに残る。

-------------------------------

 

「じゃあ、この子の中には?」

 

-------------------------------

私の神格を写す。

-------------------------------

 

 その表示が出た直後、空気が変わった。

 

 風が止まったわけではない。

 

 音が消えたわけでもない。

 

 けれど、一瞬だけ境内の奥行きが深くなったような気がした。

 

 白猫が拝殿を振り返る。

 

 次に澪を見る。

 

 澪は思わず鑑定を使った。

 

 猫であることに変わりはない。

 

 生きている。

 

 呼吸もしている。

 

 ただ、その上へ別の何かが重なっていた。

 

「……本当に入った」

 

-------------------------------

写した。

-------------------------------

 

「私がこの子を預かるんですか?」

 

-------------------------------

そうだ。

-------------------------------

 

「猫を?」

 

-------------------------------

私を。

-------------------------------

 

 澪は白猫を見た。

 

「でも猫ですよね?」

 

-------------------------------

依り代だ。

-------------------------------

 

「見た目も身体も猫ですよね?」

 

-------------------------------

猫だ。

-------------------------------

 

「ですよね」

 

 そこは認めるらしい。

 

 澪が手を伸ばすと、白猫は嫌がらずに抱き上げられた。

 

 軽い。

 

 毛の奥はちゃんと温かい。

 

 小さな身体が腕の中で呼吸している。

 

 そこで新しい表示が出た。

 

-------------------------------

呼ぶ名を与えよ。

-------------------------------

 

「名前?」

 

-------------------------------

そうだ。

-------------------------------

 

「私が付けるんですか?」

 

-------------------------------

お前に委ねる。

-------------------------------

 

 急に責任が重くなった気がして、澪は白猫を抱いたまま拝殿を見る。

 

「神様の名前を、私が決めるんじゃないですよね?」

 

-------------------------------

違う。

依り代を呼ぶ名だ。

私の名ではない。

-------------------------------

 

「それなら……」

 

 腕の中の子猫を見る。

 

 真っ白な毛だった。

 

 けれど、冬の日差しが当たるところだけ、毛先が銀色に光って見える。

 

「シロ……」

 

 そこまで言って止めた。

 

 いくら何でも、そのまますぎる。

 

「シロガネ」

 

 猫の耳が動いた。

 

「シロガネ、でどう?」

 

-------------------------------

よい。

その名を使う。

-------------------------------

 

「じゃあ、よろしくね。シロガネ」

 

「にゃあ」

 

 澪の手が止まった。

 

「……今のは神様ですか? 猫ですか?」

 

-------------------------------

猫だ。

-------------------------------

 

「そうなんだ」

 

 神様が鳴いたわけではないらしい。

 

 それはそれで、少し安心した。

 

 そして次の瞬間、別の問題に気づいた。

 

 澪は腕の中のシロガネを見る。

 

「……生きてますよね」

 

-------------------------------

当然。

-------------------------------

 

「収納、出来ないじゃないですか」

 

-------------------------------

そうだ。

-------------------------------

 

「どうやって連れて帰るんですか?」

 

 返事はなかった。

 

 神様は異世界へ行く方法を用意した。

 

 そこから先の移動は、どうやら澪の担当らしい。

 

 

 

 

 

 神社を出て、澪は数十歩で立ち止まった。

 

 腕の中にはシロガネ。

 

 駅へ行く。

 

 電車へ乗る。

 

 そのまま抱いて帰るわけにはいかない。

 

「キャリーが要りますよね」

 

 シロガネが澪を見上げる。

 

「神様でも、この身体ならご飯も食べるんですよね?」

 

-------------------------------

猫は食べる。

-------------------------------

 

「お水も?」

 

-------------------------------

飲む。

-------------------------------

 

「トイレも?」

 

 少し間があった。

 

-------------------------------

猫だからな。

-------------------------------

 

「そこは全部猫なんですね……」

 

 澪は予定を変更した。

 

 帰り道の途中で猫用のキャリーと、当面困らない程度の用品を揃える。

 

 用品は収納へ。

 

 シロガネだけはキャリーの中。

 

 神様を連れて帰るというより、急に子猫を預かることになった人の荷物になっていた。

 

 駅へ向かう前に実家へ寄ると、玄関で母に見つかった。

 

「……澪」

 

「はい」

 

「その猫、どうしたの?」

 

 キャリーの中でシロガネが座っている。

 

「預かることになりました」

 

「いつ?」

 

「さっき」

 

「朝はいなかったよね」

 

「いなかった」

 

 母がキャリーを覗く。

 

「かわいい」

 

「うん」

 

「どこで?」

 

 澪は一拍置いた。

 

「神社」

 

「神社で猫預かってきたの?」

 

「そういうことになりました」

 

「誰に頼まれたの?」

 

「……神社の方」

 

 嘘ではない。

 

 かなり広い意味では。

 

 父まで玄関へ出てきた。

 

「猫?」

 

「預かるんだって」

 

「澪が?」

 

「しばらく」

 

 父もキャリーを覗く。

 

 シロガネは落ち着いている。

 

「名前は?」

 

「シロガネ」

 

「白いから?」

 

「だいたいそんな感じ」

 

 そこで説明を止めた。

 

 まさか、

 

 中身は地元の神様です。

 

 とは言えない。

 

「ちゃんと世話するのよ」

 

「分かってる」

 

 むしろ、そこが一番気になっている。

 

 神格がどうとか、依り代がどうとかより、生き物を預かった以上は食事も水も用意しなければならない。

 

 澪は父母へもう一度挨拶をして、今度こそ帰路についた。

 

 行きは一人だった。

 

 帰りは神様付きの白猫が1匹。

 

 予定というものは、あまり信用しない方がいいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 六畳間へ戻ると、真壁がいた。

 

「ただいま戻りました」

 

「お帰りなさい、澪君」

 

 真壁の視線が、澪の荷物からキャリーへ移った。

 

「澪君」

 

「はい」

 

「猫がおりますな」

 

「います」

 

 真壁がキャリーへ顔を寄せる。

 

 シロガネも中から真壁を見ている。

 

「どうされた」

 

 澪は靴を脱ぎながら少し考えた。

 

 どう説明しても変な話になる。

 

 なら短い方がいい。

 

「神様です」

 

 真壁が止まった。

 

 キャリーを見る。

 

 澪を見る。

 

 もう一度キャリーを見る。

 

「この猫が、ですかな」

 

「正確には、中です」

 

「なるほど」

 

「分かったんですか?」

 

「まだ分かっておりません」

 

「ですよね」

 

 真壁はすぐに鑑定した。

 

 その目つきが変わる。

 

「……確かに、普通の猫ではありませんな」

 

「地元の神社の神様です。本体は神社に残っていて、この子には神格を写したそうです」

 

「写した」

 

「本人はそう言ってました」

 

「それで、こちらへ?」

 

「異世界を見たいそうです」

 

 真壁の眉がわずかに上がった。

 

「ほう」

 

「一応、ラノベみたいなところばかりじゃないですよって説明はしました」

 

「なぜラノベを?」

 

「燭台の神様が、テレビとかアニメとか小説で勉強した結果、異世界の理解がそっち寄りになってるので」

 

 真壁が本棚の最上段を見る。

 

 そこには、いつもの古い燭台がある。

 

「なるほど」

 

「それで、この子の名前はシロガネです」

 

「シロガネという神様ですかな」

 

「違います。シロガネは猫の名前です。神様は中です」

 

「なるほど」

 

「今度は分かりました?」

 

「関係は分かりました」

 

 澪はキャリーの扉を開けた。

 

 シロガネが鼻先を出す。

 

 少し匂いを嗅いでから、前足を畳へ置いた。

 

 もう片方。

 

 身体全部。

 

 白い尻尾がゆっくり上がる。

 

 六畳間の匂いを確かめるように歩き、やがて押し入れの前で止まった。

 

 次に本棚を見る。

 

 古い燭台。

 

 シロガネの耳が立った。

 

「あ」

 

 澪も燭台を見た。

 

「そうでした。こちらにも説明が」

 

 鑑定を使う。

 

 すぐに表示が開いた。

 

----------------------------------

【他神性確認】白猫について【依り代】

 001:燭台

  他神性、確認。

 002:燭台

  生体依り代。

 003:燭台

  神格転写あり。

 004:燭台

  興味深い。

----------------------------------

 

 澪は表示を読み終えてから燭台を見た。

 

「……怒らないんですか?」

 

----------------------------------

【他神性確認】白猫について【依り代】

 005:燭台

  怒る理由なし。

 006:燭台

  異界見学、理解。

 007:燭台

  観察希望。

----------------------------------

 

「そっちなんですね」

 

 警戒より興味が先だった。

 

 以前からそうだった。

 

 テレビを見せても、小説を渡しても、知らないものがあれば観察したがる。

 

 神様が増えても変わらないらしい。

 

 シロガネが畳へ座った。

 

 次の瞬間、表示が増えた。

 

----------------------------------

【他神性確認】白猫について【依り代】

 008:燭台

  訂正。

 009:燭台

  「写し」の定義、不正確。

 010:鎮守

  写しでよい。

 011:燭台

  よくない。

 012:鎮守

  意味は通じる。

 013:燭台

  定義が違う。

----------------------------------

 

 澪は表示を見直した。

 

「……そこなんですか?」

 

 シロガネが前足を舐め始める。

 

 その身体の中では、神様同士が用語について揉め始めていた。

 

----------------------------------

【他神性確認】白猫について【依り代】

 014:燭台

  依り代への定着あり。

 015:燭台

  本体との接続あり。

 016:燭台

  異界通過時の変化、観察希望。

 017:鎮守

  好きにしろ。

 018:燭台

  記録推奨。

 019:鎮守

  細かい。

 020:燭台

  必要。

----------------------------------

 

「神様相手でも観察するんですね……」

 

 澪が呟く。

 

 真壁は黙って表示を追っている。

 

 シロガネは今度は尻尾を身体へ巻き付けて座った。

 

 当地鎮守から新しい書き込み。

 

----------------------------------

【他神性確認】白猫について【依り代】

 021:鎮守

  お前も異界に興味があるのではないか。

 022:燭台

  否定しない。

 023:鎮守

  なら問題ない。

 024:燭台

  それと定義の誤りは別。

----------------------------------

 

「まだそこなんだ」

 

 澪は思わず口にした。

 

 さらに燭台の書き込みが続く。

 

----------------------------------

【異界知識】観察対象について【事前情報】

 001:燭台

  冒険者。

 002:燭台

  勇者。

 003:燭台

  魔王。

 004:燭台

  聖剣。

 005:燭台

  迷宮。

----------------------------------

 

「待ってください」

 

 澪はすぐ割り込んだ。

 

----------------------------------

【異界知識】観察対象について【事前情報】

 006:澪

  勇者と魔王と聖剣は、私は見てません。

 007:燭台

  未確認なだけ。

 008:澪

  話を広げないでください。

 009:鎮守

  先ほど聞いた話と違う。

 010:澪

  だから神社で説明したんです。

----------------------------------

 

 真壁の口元が少しだけ動いた。

 

 笑ったのかもしれない。

 

 澪は本棚を見る。

 

「やっぱりラノベ化してるじゃないですか」

 

----------------------------------

【異界知識】観察対象について【事前情報】

 011:燭台

  可能性は残る。

 012:澪

  残さなくていいです。

 013:燭台

  未知を切り捨てるのは非推奨。

----------------------------------

 

「そういう話じゃないんです」

 

 当地鎮守まで表示へ入る。

 

----------------------------------

【異界知識】観察対象について【事前情報】

 014:鎮守

  興味深い。

 015:澪

  増やさないでください。

----------------------------------

 

 澪は額に手を当てた。

 

 六畳間に戻ってきたばかりなのに、神様が2柱そろって異世界観光の相談を始めている。

 

 しかも一方はまだ行ってもいないのに勇者と魔王を期待している。

 

 シロガネはその間に身体を丸め、畳の上でくつろぎ始めた。

 

「真壁さん」

 

「はい」

 

「これ、いつまで続くと思います?」

 

 真壁は答えず、燭台とシロガネを順に見た。

 

 表示ではまた神格の定義の話へ戻っている。

 

 しばらくして、真壁が立った。

 

「真壁さん?」

 

「少々お待ちを」

 

 澪は、何か測定器でも出すのかと思った。

 

 真壁が収納から取り出したのは、瓶だった。

 

 日本酒。

 

「……お酒?」

 

「正月ですからな」

 

 続いて小さな器を2つ出す。

 

 1つを古い燭台の前へ。

 

 もう1つはシロガネから少し離し、猫が直接口をつけない位置へ置いた。

 

「真壁さん、それは?」

 

「御神酒です」

 

「それは分かります」

 

「神様が2柱おられるのでしょう」

 

「そうですけど」

 

 真壁は酒を注いだ。

 

「まず一献というのも悪くありますまい」

 

 澪は燭台を見る。

 

 シロガネを見る。

 

 もう一度真壁を見る。

 

「それで収まります?」

 

「収める必要もありますまい」

 

「え?」

 

「話が出来ればよろしい」

 

 真壁はそれだけ言って座った。

 

 鑑定欄が止まる。

 

 妙に長い間があった。

 

 やがて文字が増えた。

 

----------------------------------

【他神性確認】白猫について【依り代】

 031:鎮守

  よい酒だ。

 032:燭台

  供え、受領。

 033:鎮守

  細かい話は後でよい。

 034:燭台

  異議あり。

 035:燭台

  ただし酒が先でもよい。

----------------------------------

 

「結局飲むんですね」

 

 澪が言った。

 

 真壁は何も言わず、自分の分の茶を出している。

 

 論争が終わったわけではない。

 

 表示を見る限り、燭台の神様にはまだ異議がある。

 

 ただ、さっきまでより書き込みの速度は落ちた。

 

 その代わり、新しいものが出る。

 

----------------------------------

【他神性確認】白猫について【依り代】

 036:燭台

  なお、依り代の生活環境、未整備。

 037:燭台

  猫用品、追加推奨。

 038:鎮守

  細かい。

----------------------------------

 

「そこは大事です」

 

 澪は即答した。

 

 神格の定義より、少なくとも今はこちらの方が現実的だった。

 

「ご飯と水はあります。トイレはこれからちゃんと置きます」

 

----------------------------------

 039:燭台

  了承。

----------------------------------

 

「何で燭台の神様に飼育チェックされてるんでしょう」

 

 返事はない。

 

 シロガネは畳の上で丸くなっていた。

 

 古い燭台の前には御神酒。

 

 少し離れたところにも、当地鎮守へ供えたもう1つの器。

 

 その間では、まだ神格の「写し」を何と呼ぶかについて書き込みが続いている。

 

 澪はキャリーの横に置いた猫用品を見てから、畳の白い塊へ目を戻した。

 

 シロガネの耳がぴくりと動く。

 

 真壁が御神酒を少し足した。

 

 その直後、鑑定欄にまた新しい書き込みが増えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。