澪が玄関で靴を履いていると、背後から真壁の声がした。
「東都か」
「はい。納品してきます」
肩へ鞄を掛ける。
東都特殊金属試作株式会社への納品も、もう初めてではない。最初に純チタンの試料を持ち込み、営業技術部の鷺沼佳樹と話した頃は、会社の受付を通るだけで妙に背筋が伸びた。
今では、どの荷姿なら受け取りやすいか、どの程度まで自分が答え、技術的な話を専門家へ渡すべきか、その境目くらいは分かる。
今日も澪だけで済ませる予定だった。
真壁は玄関脇の荷へ目をやった。
いつもの納品物に混じって、今回追加した試料がある。
魔石化したフローライト。
真壁の視線が、そこで止まった。
「今回は私も行こう」
澪は靴紐を結んでいた指を止めた。
「真壁さんもですか?」
「ああ」
「何かありました?」
「いや」
真壁は上着を取った。
「少し気になる」
「……そうですか」
澪は立ち上がった。
真壁が「少し気になる」と言う時は、本人の中では本当にその程度なのだと思う。
困るのは、そこから何が出てくるか分からないことだった。
今日は納品だけ。
そう思いながら玄関を出たが、自分でもあまり信じてはいなかった。
東都特殊金属試作株式会社の建物へ入ると、自動ドアが閉じるのと同時に冬の冷気が背後へ切れた。
受付の奥では電話が鳴り、作業着姿の社員が書類を抱えて通り過ぎていく。廊下の向こうからは、加工機の低い唸りと、ときおり金属同士が触れる乾いた音が響いていた。
澪には、その音が以前より近く感じられた。
ここで何が作られているのかを全部理解しているわけではない。ただ、押入商会が持ち込んだ素材が、この建物のどこかで削られ、調べられ、別の会社へ渡っていくことは知っている。
案内された会議室では、鷺沼佳樹が待っていた。
「篠原さん、いつもありがとうございます」
「こちらこそ、お世話になっています」
鷺沼の目が、隣の真壁へ移る。
「今日は真壁さんもご一緒ですか」
「ええ。少々気になるものがありましてな」
その一言で、鷺沼の表情が変わった。
「でしたら、ちょうどよかったです。こちらからもお話ししたいことがありまして」
澪は鞄を椅子の横へ置いた。
やっぱり。
通常の納品分は担当者へ受け渡すだけで終わった。
鷺沼がテーブルへ戻ってくる。その手には、小さな透明ケースがあった。
置かれたケースの中で、淡い色の結晶が蛍光灯を受けている。
「例のフローライトです」
真壁が椅子へ座り直した。
「何か分かりましたかな」
「分かったというより、話が広がりました」
鷺沼はケースを指先でこちらへ滑らせた。
「こちらだけで見る材料じゃないと思いまして、外にも評価をお願いしたんです。FUJISHIROさんと新川電気さんです」
「電線の会社ですよね?」
澪が聞く。
「ええ。ただ、今回の話は銅線じゃありません」
鷺沼の指がケースの上で止まる。
「光です」
「光?」
「光ファイバへ送り込む側です」
真壁が短く聞いた。
「レーザーですか」
「そうです」
そこで技術担当者が加わった。
テーブルへ、小指の先ほどの部品や金属製の小さな台座が並べられていく。
澪には、どれも「精密な電子部品」にしか見えない。
「このフローライトそのものを通信機に入れる、という話ではありません」
技術担当者が、既存の部品とケースを並べた。
「送信側の光源部品として使える可能性があります」
澪の中で、別の光景が唐突に重なった。
火山東街道。
劫炎の黒煙。
その中から飛び出してくるビッグマンティス。
右舷側の大人たちが構えたビームマシンガン。
ババババッ!!
白い光に撃ち抜かれて落ちていった魔物。
目の前のケースへ視線を戻す。
同じものだった。
昨日まで撃っていたんですけど。
澪は口に出さなかった。
「出力が高いだけなら、ここまで話は大きくなりません」
技術担当者が続ける。
「送信側へ使うとなると、光の安定性が効いてきます。距離が伸びれば伸びるほど、小さな乱れが無視できなくなる」
「この石は違うと」
真壁が尋ねた。
「今のところは、かなり違います」
技術担当者は慎重に言った。
「少なくとも、FUJISHIROさんと新川電気さんは追加で試したいと言っています」
真壁がケースを持ち上げる。
蛍光灯へ透かすように結晶を傾けた。
「あれにそんな使い道があるのか」
澪は真壁を見なかった。
鷺沼には、その「あれ」が何なのか分からない。
「私たちとしては、逆にそこが知りたいんですが」
鷺沼が苦笑する。
「これ、本当にフローライトなんですよね?」
「特殊なものです」
「どうやって作ったんです?」
「それはお話しできません」
「ですよね」
鷺沼はあっさり引いた。
以前からそうだった。
押入商会には、答えるところと答えないところがある。
「では、次も同じものが出せるかだけ教えてください」
「それなら出せます」
真壁の返事には迷いがなかった。
鷺沼は一度だけ技術担当者へ目をやる。
その視線の意味を、澪も少し分かるようになっていた。
珍しい石が1個あるだけでは商売にならない。
次も来る。
その次も同じ品質で来る。
そこまで揃って、初めて企業が動ける。
「でしたら、次へ進めます」
鷺沼の声が営業のものへ変わった。
「両社から追加の引き合いが来ています」
「価格は」
真壁が即座に聞いた。
澪は一瞬だけ横を見る。
そこなんですね。
「普通の蛍石の価格では見ません」
鷺沼がケースを指した。
「特殊光学材料として、まず100,000円/kg」
澪の指先が膝の上で止まった。
1kgで10万円。
10kgなら100万円。
100kgなら1,000万円。
そこで止めた。
向こう側にどれだけあるかまで掛けると、今ここで考えるべき数字ではなくなる。
「その価格なら問題ありません」
真壁は平然としていた。
鷺沼が探るように聞く。
「供給量は?」
「需要次第ですな」
「かなり出せる、と考えても?」
「注文もないうちから量だけ決めても意味はありますまい。必要量を出してください」
鷺沼の眉が動いた。
「分かりました」
ここで真壁が大量供給を言い切らないことに、澪は少しだけ安心した。
慎重だから、ではない。
真壁の場合、売れる量が分からないうちに供給枠を固定すること自体を無駄と考えているだけだ。
「ただ」
鷺沼が椅子へ深く座った。
「これ、FUJISHIROさんと新川電気さんだけで終わらない可能性があります」
真壁の目が上がった。
「AIです」
澪は思わず聞き返した。
「AI?」
「はい。AI用のデータセンターです」
鷺沼は、先ほど並べた部品を指で2つに分けた。
「AIというと、GPUとか計算用の半導体が先にニュースになりますよね」
「そうですね」
澪も、そのイメージだった。
「でも計算機を何千台、何万台と並べれば終わりじゃない。計算機同士で大量のデータを送り続けなきゃいけない」
鷺沼が机の端から端へ指を滑らせる。
「ラックの中。ラック同士。建屋の中。それからデータセンター同士。計算機だけ速くなっても、その間が詰まったら意味がないんです」
澪はケースのフローライトへ目を落とした。
AI。
大学で使う生成AIや、ニュースで聞く半導体企業なら分かる。
けれど今、AIの話をしている机の中央にあるのは石だった。
AIって、蛍石まで必要になるんですか。
自分の中で浮かんだ疑問に、自分で困る。
正確には、この石だから必要になるかもしれないのだ。
「今は、その接続をどんどん光へ移そうとしています」
鷺沼が続ける。
「速度もそうですし、消費電力の問題もある。データセンターは電気を食いますからね」
「なるほど」
真壁がケースへ目を落とした。
「そこで、この光源ですか」
「使えれば、ですね」
「その場合、客は電線会社だけではなくなる」
真壁の言葉に、鷺沼が頷いた。
「そうです」
鷺沼は机に置かれた資料のページをめくった。
「海外なら、アルカライト・フォトニクスやルミナーク・テクノロジーズみたいな、光源や光トランシーバを直接やっている会社がまずあります」
聞いたことのない会社名が出た。
澪は覚えることを諦めず、頭の中で位置だけを置く。
海外の光部品会社。
「その先にセレノア・ネットワークスのような長距離通信装置の会社がある。その製品を使う通信会社がいて、さらに大量のAIデータセンターを持つクラウド事業者がいる」
「まだ先があるんですか?」
澪が思わず聞いた。
鷺沼が笑う。
「むしろ、その先の会社が一番大きな買い手になる可能性があります」
「例えば?」
「アルマダ・クラウド、マイクロニア・クラウド、グローバルサーチ・クラウド。その辺りですね」
そこまで来ると、澪にも規模感だけは分かった。
世界中にデータセンターを持つ会社。
日本の電線会社へ材料を納める話だったはずが、気づけばその向こうに海外企業が何層にも並んでいる。
東都。
国内の光通信企業。
海外の光部品メーカー。
通信装置。
クラウド。
澪は頭の中に伸びた矢印を途中で止めた。
石1つから、どこまで行くんですか。
真壁は黙って聞いていた。
鷺沼が市場を広げるほど、むしろ余計なことを言わなくなっている。
澪には、それが少し気になった。
この人は今、別の何かを探している。
真壁の指がケースの縁を一度叩いた。
「鷺沼さん」
「はい」
「これは、ファイバへ入れなければ使えないのですかな」
澪は真壁を見た。
また前提を外し始めた。
鷺沼も一瞬止まる。
技術担当者の方が先に意味を取った。
「空間光通信ですか」
「そうです」
「できます」
今度は鷺沼が答えた。
「光ファイバを通さず、レーザー光を直接相手へ飛ばす方法があります」
「地上でも?」
「見通せる場所同士なら。ただ、天候や大気の影響を受けますし、障害物にも弱い」
「では、宇宙なら?」
技術担当者が真壁を見た。
澪も見た。
鷺沼だけが、あまり驚かなかった。
「そこまで考えましたか」
「途中に何もない方が、光を飛ばすには都合がよいでしょう」
「衛星通信は、すでに研究も実用化も進んでいます」
鷺沼が椅子を真壁側へ向けた。
「地上局と人工衛星。人工衛星同士。電波ではなくレーザーを使う」
「距離は?」
「衛星同士なら、数万km規模でも話になります」
澪は一度だけ瞬きをした。
数万km。
火山東街道では、人間ほどのマンティスを撃っていた石である。
用途が変わったと思ったら、今度は距離の桁まで変わった。
(昨日はマンティスでしたよね)
さすがに、それは心の中だけにしておいた。
「電波より光の方が、送れる情報量を増やしやすい」
鷺沼が続ける。
「ビームも細く絞れます。衛星へ載せる端末を小型化できれば、重量の面でも有利になる」
「電力は」
「少ないほどありがたいです。衛星は使える電力に限りがありますから」
「なるほど」
真壁の返事が短くなった。
「ただし」
技術担当者が人差し指を上げる。
「光源が良ければ全部解決、ではありませんよ」
「当然でしょうな」
「相手が動きます。衛星同士なら、ものすごい速度で位置関係が変わる。細いレーザーを正確に当て続ける追尾技術が必要です」
「光源と追尾は別の問題ということですな」
「はい。それに光学系、制御、通信処理も要る」
真壁が頷く。
「ならば、この材料が優れていたとしても、完成品まで弊社で抱える必要はない」
「そうなります」
「よい」
澪は横から真壁を見た。
そこで「自分たちで衛星通信機を作ろう」と言い始めなかったことに、少し安心する。
もっとも、安心していい理由が違う気もした。
真壁はやらないのではない。
既に専門会社があるなら、そこへ売った方が早いと考えているだけだ。
「そうなると、顧客はさらに増えますな」
真壁が鷺沼へ向き直った。
「ええ。通信機器会社だけではありません」
「衛星メーカー」
「入ります」
「地上局設備」
「入ります」
「宇宙通信事業者」
「当然です」
真壁の口元がわずかに動いた。
「これはビッグビジネスになりそうですな」
澪はそこで初めて、その言葉に納得した。
10万円の石が高く売れる、という話ではない。
その石を使いたい業界が、横へ横へと増えている。
光ファイバ。
AI。
海外。
そして宇宙。
鷺沼も笑ってはいなかった。
「相当な規模になる可能性はあります」
「この2社独占とはいきますまい」
「私も勧めません」
真壁が身体を少し前へ出した。
「鷺沼さん。弊社との間に、一旦入っていただけますでしょうか」
「当社がですか」
「ええ。御社なら材料を理解している。FUJISHIROさんや新川電気さんの技術部門とも話が通る。海外へ話を持っていく場合も、弊社が1社ずつ技術説明から始めるより早い」
鷺沼が腕を組んだ。
「技術窓口と橋渡し、ですね」
「そうです」
「販売を全部うちに、という意味ではなく?」
「そこまで丸投げするつもりはありません。相手の要求を弊社へつなぎ、こちらから出せる材料の形へ落としていただきたい」
鷺沼がケースへ目を落とした。
「それを海外までやるとなると、かなり人が要りますよ」
「でしょうな」
「今の部署だけでは回らなくなるかもしれません」
「むしろ、そうなると見ています」
澪は鷺沼を見る。
さっきまで売る材料の量を話していたはずが、今度は東都側の人数の話になっている。
商談の大きさが、また1段変わった。
「設備も増やすことになります」
「必要なら増やしていただく」
「簡単に言いますね」
「売上が増えるなら、設備投資もできますでしょう」
鷺沼が苦笑した。
「真壁さん、それは当社へ相当な責任を負わせる話ですよ」
「もちろんです」
真壁はすぐ返した。
「ですから、利益も取っていただく」
鷺沼の笑みが止まった。
そこは澪にも分かった。
東都を便利な仲介役にする、という話ではない。
押入商会だけが儲け、面倒なところを東都へ押しつける話でもない。
仕事を増やすなら、その分は東都にも残す。
「……本気ですか」
「本気です」
「分かりました」
鷺沼は背もたれから身体を起こした。
「社内へ持っていきます」
「お願いします」
真壁が続ける。
「先行して評価していただいた2社については、その分は尊重しましょう。ただ、独占供給にはしません」
「それでいいと思います。ここで囲わせるには、用途が広すぎる」
「同感ですな」
そこで鷺沼がケースを手元へ寄せた。
「となると、最初の追加分は国内2社向け。その評価を見ながら、海外の候補にも話を持っていく形ですね」
「それでよいでしょう」
「保管や輸送条件はこちらで詰めます。先方が加工形状を指定してきたら?」
「内容を見せてください。こちらで合わせられるか決めます」
「品質差が出た場合は?」
「出さないよう揃えますが、先方の基準から外れたものは使わない。それでよいでしょう」
鷺沼が頷く。
澪は、商談のテンポが変わったことに気づいた。
最初は鷺沼が説明し、真壁が聞いていた。
今は、お互いが短く条件を投げ、その場で形が決まっていく。
澪が口を挟む余地はほとんどない。
ただ、聞いているだけでも分かる。
もうサンプル1個の相談ではなかった。
その時、真壁が何気ない調子で言った。
「しかし、残念ですな」
鷺沼が顔を上げる。
「何がです?」
「御社の株式が上場されていましたら、今、購入できるだけ購入するのですが」
鷺沼の手が止まった。
澪も止まった。
「……はい?」
鷺沼が先に聞き返したので、澪は何も言わずに済んだ。
「うちは非上場ですよ」
「存じています。だから残念なのです」
鷺沼は一度笑いかけた。
しかし、真壁がまったく冗談の顔をしていないのを見て、表情を戻した。
「そこまでですか」
「そこまでです」
澪はテーブルのケースへ目を落とした。
ついさっきまで1kg100,000円という価格に驚いていた。
今度は材料ではなく、会社そのものを買えるだけ買いたいと言っている。
(話の単位が変わってませんか)
「理由を聞いても?」
鷺沼が真壁へ向き直る。
「AIだけなら、ここまでは申しません」
真壁がケースを指した。
「国内の光通信だけでもない。海外へ広がる。ファイバの外へ出せば空間光通信がある。衛星間通信まで用途が伸びる可能性がある」
鷺沼の表情から、最後の笑みも消えた。
「そして御社は、この材料を既に扱っている。加工側の話も分かり、使用側とも話ができる」
「……なるほど」
「この材料が当たった場合、御社が今の規模のままという方が考えにくい」
鷺沼はしばらく黙った。
壁の向こうから加工機の低い音が響いている。
さっきまで何も気にならなかったその音が、澪には急に違って聞こえた。
もし本当に仕事が増えたら。
機械が増える。
人が増える。
この廊下を歩く社員も、今よりずっと多くなる。
澪は目の前の鷺沼と、壁の向こうの工場を頭の中で初めて結びつけた。
「どのくらいを見ています?」
鷺沼が聞く。
真壁は間を置かなかった。
「10倍になっても驚きませんな」
会議室が静かになった。
廊下を台車が通り過ぎる。
ゴロゴロという車輪の音だけが、扉の向こうを横切っていった。
「10倍……」
鷺沼が椅子へ背を預ける。
澪は暗算しなかった。
さっき1kg10万円のところで止めたのだから、今度は会社10倍の計算まで付き合う必要はない。
「少なくとも、その可能性を見る価値はあるでしょう」
「それで、上場していたら株を買えるだけ買う、と」
「ええ」
鷺沼が額へ手を当てた。
「社長にそのまま話したら、私が何を吹き込まれたんだと言われそうですよ」
「フローライトを見せればよいでしょう」
「そのフローライトを持ち込んだのは真壁さんでしょう」
「では、私も伺いましょうか」
「それは話がさらに大きくなりそうなので、まず私からにさせてください」
鷺沼が即座に返した。
澪は思わず口元を押さえた。
鷺沼さん、その判断はたぶん正しいです。
真壁が行けば、社内説明のはずが別の事業まで増える可能性がある。
「そうですか」
真壁は残念そうでもなかった。
「ではお願いします」
「ええ」
鷺沼はケースを手元へ引き寄せた。
「しかし……」
結晶を見ながら、首を振る。
「これ1つで、ずいぶん遠くまで来ましたね」
澪も同じものを見る。
AI。
海外。
宇宙。
たしかに遠い。
物理的な意味でも、話の意味でも。
会社を出ると、午後の冷たい風がコートの裾へ入り込んだ。
暖房の効いた会議室に長くいたせいか、外気が余計に冷たく感じる。
駐車場の端では、冬の日差しが車の屋根へ白く反射していた。
澪はマフラーを直しながら、隣を歩く真壁を見る。
「真壁さん」
「なんだ」
「最初から、ああなると思ってついてきたんですか?」
「いや」
返事はすぐだった。
「少し気になっただけだ」
澪の足が一瞬だけ遅れた。
本当に、それだけだったらしい。
「そうですか……」
真壁はもう前を向いている。
背後には東都特殊金属試作株式会社の建物があった。
来た時と同じ建物。
同じ駐車場。
同じ看板。
澪は一度だけ振り返った。
真壁の話が現実になれば、この会社は10倍になるかもしれない。
そして、その入口になった石は。
昨日、マンティスを撃っていた。
澪は前を向き直った。
(やっぱり、用途の振れ幅がおかしいです)