押し入れの向こうは異世界でした   作:Brooks

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第266話 半分は残してあります

 

 2027年1月中旬。

 

 明石さんの事務所へ入った時、外の冷たい空気がコートの表面にまだ残っていた。

 

 窓から差し込む午後の日差しは明るいのに白っぽく、暖房の効いた室内とはまるで温度が違う。奥では誰かが電話で話していて、ときおりコピー機が短く動く。キーボードを叩く音と紙をめくる音が、その隙間を埋めていた。

 

 澪は打ち合わせ卓の前でバッグを膝の横へ置いた。

 

 隣では真壁がコートを椅子の背へ掛け、持ってきた薄い書類ケースを机の端へ置いている。

 

 卓上には、出されたばかりのお茶が3つ。

 

 澪は湯呑みに口をつけた。

 

 熱い。

 

 何事もなかったように戻した。

 

「では、2026年分の個人側を見ていきましょう」

 

 向かい側で明石さんがノートPCを開いた。

 

 画面はこちらを向いていない。

 

 自分のお金の話なのに、自分には数字が見えない。

 

 それだけで、澪は背筋を伸ばした。

 

 とうとう来た。

 

 いつか来るとは分かっていた。

 

 金貨を初めて換金した時から、ずっと頭のどこかにいたものだ。

 

 確定申告。

 

 ただし、まだ1月である。

 

「提出直前になってから始めると慌ただしくなります。今のうちに、足りないものを見ておきます」

 

「はい」

 

 少しだけ息が抜けた。

 

 今日ここですべてが決まるわけではないらしい。

 

 会社側については、明石さんが毎月見ている。今日の中心は澪と真壁の個人側、とくに会社ができる前に澪個人で動かしたお金だった。

 

 明石さんが画面を切り替えた。

 

「その前に。納税に備えた資金は残していますか」

 

「あります」

 

 澪はほとんど間を置かず答えた。

 

 ここだけは自信がある。

 

「どのくらいでしょう」

 

「半分くらいです」

 

 明石さんが画面から顔を上げた。

 

「何の半分ですか」

 

「え」

 

 澪の指が止まった。

 

 何の。

 

 考えたことがなかった。

 

「大きなお金が入った時は、だいたい半分です。白金を売った時も、その後のお給料も、賞与も」

 

 言いながらスマホを取り出す。

 

 銀行アプリを開けば、残高は見せられる。

 

 その横で、真壁も同時にポケットへ手を入れた。

 

 澪は横を向いた。

 

 真壁の手にもスマホがある。

 

 向こうも澪を見た。

 

 明石さんの視線が、机の上へ並びかけた2台へ動いた。

 

「残高を見せていただく前に、何のお金を残しているのかを分けましょう」

 

 澪はスマホを持ったまま止まった。

 

「口座に入っているという点では同じでも、給与と賞与と売却代金と、会社から戻ってきたお金は同じではありません」

 

「はい」

 

 澪はスマホを机へ置いた。

 

 銀行アプリから見れば、全部ただの入金である。

 

 数字の左側にプラスが付く。

 

 澪はそのプラスを見るたびに、とりあえず半分を触らないものとして考えてきた。

 

 かなり慎重なことをしてきたつもりだった。

 

「税額を計算した結果、半分になったわけではないんですね」

 

「違います」

 

「何か根拠がありますか」

 

「足りなくなるのが嫌だったので」

 

 答えてから、少し弱い気がした。

 

 でも本当に、それだけだった。

 

 明石さんは何も言わず、今度は真壁を見る。

 

「真壁さんは?」

 

「私も概ね半分は残しておりますな」

 

 澪はまた横を向いた。

 

「真壁さんも?」

 

「ええ」

 

「相談してませんよね」

 

「しておりません」

 

 そこは即答だった。

 

 明石さんが聞く。

 

「真壁さんの半分にも、計算上の根拠はありませんか」

 

「ありませんな。予想外の負担が出るなら、余裕は大きい方がよいでしょう」

 

「安全率ですか」

 

「そのようなものです」

 

 明石さんは一拍だけ置いた。

 

「税額は安全率では決まりません」

 

「承知しました」

 

 真壁は素直に頷いた。

 

 澪には、半分を残すことまでやめる顔には見えなかった。

 

 たぶん自分も同じ顔をしている。

 

「半分という割合そのものに、税務上の意味はありません。ただ、資金を使わず確保していたことは助かります」

 

「じゃあ」

 

 澪は身を乗り出しかけた。

 

「資金面については問題ありません」

 

 肩から力が抜けた。

 

 よかった。

 

 何かあった時のために触らなかったお金は、少なくとも無駄ではなかった。

 

 湯呑みへ手を伸ばす。

 

 今なら飲めそうだった。

 

「では、何のお金だったのかを見ていきましょう」

 

 湯呑みを持ち上げたところで、肩に力が戻った。

 

「はい」

 

 お茶は、ちょうど飲める温度になっていた。

 

 明石さんが画面を切り替える。

 

「真壁さんは8月以降、月80万円。年末の賞与が300万円」

 

「はい」

 

「澪さんも月80万円。賞与300万円」

 

「はい」

 

 澪は湯呑みを置き、少し姿勢を正した。

 

 月80万円。

 

 改めて人から言われると大きい。

 

 大学生になった頃の自分なら、その金額だけでしばらく固まったと思う。

 

 まして賞与300万円。

 

 明石さんが画面へ目を通す。

 

「こちらは大丈夫です」

 

 マウスが動いた。

 

 次の画面へ移る。

 

 澪は瞬きをした。

 

「え」

 

「はい?」

 

「賞与の300万円も?」

 

「はい」

 

「月80万円の方も?」

 

「毎月見ています」

 

「……そうでした」

 

 そうだった。

 

 顧問税理士なのだから見ている。

 

 真壁が隣から言った。

 

「顧問ですからな」

 

「知ってます」

 

 知っていた。

 

 知っていたのだが、自分の中ではまだ大事件だったのである。

 

 明石さんは特に気にした様子もなく、別の資料を開いた。

 

「では、法人設立前へ戻ります」

 

「戻るんですね」

 

 澪は今度こそ湯呑みを置いた。

 

 真壁が椅子へ座り直す。

 

 ここから先は、真壁が押入商会へ入るより前の話だ。

 

 画面の日付が2026年前半へ戻っていく。

 

 飯島貴金属。

 

 その名前が見えた時、澪には数字より先に、当時の空気が戻ってきた。

 

 金貨が、本当に家賃になるのか。

 

 そんなことを本気で考えていた頃だ。

 

 向こうで手に入れた硬貨は、日本のコンビニでもスーパーでも使えない。だから飯島さんのところへ持っていき、金を含む金属として調べてもらった。

 

 当時は、その先に会社を作ることになるなど考えてもいなかった。

 

「最初はこちらですね」

 

 明石さんが古い買取明細を示した。

 

「はい」

 

 澪は自然に紙へ身を寄せた。

 

 その近くには、当時の小さな仕入れのレシートもある。

 

 百円ショップ。

 

 安全用品。

 

 日用品。

 

 数千円という数字と、金貨を換えた数十万円という数字。

 

 今となっては小さく見える。

 

 けれど、あの頃の自分には小さくなかった。

 

 家賃になった。

 

 食費になった。

 

 次に向こうへ行くための道具を買える金になった。

 

「当初はこの程度でしたか」

 

 真壁が明細へ目を落とした。

 

 澪は少しだけ口を尖らせた。

 

「当時は大金だったんです」

 

「それはそうでしょうな」

 

 真壁はすぐ認めた。

 

 からかっているわけではないらしい。

 

 そのまま次の資料を見る。

 

「その後、増えておりますな」

 

「成長グラフみたいに見ないでください」

 

「事業の推移としては興味深い」

 

「私は当時、事業の推移なんて考えてませんでした」

 

 どうやって来月も生活するかを考えていた。

 

 明石さんは2人の会話へは入らず、日付と明細を順に追っている。

 

 澪も思い出しながら答えた。

 

 最初の換金。

 

 その後の追加。

 

 さらに追加。

 

 向こう側で何を売って、何を受け取ったかは話さない。

 

 ここで見るのは日本側へ持ってきた後だけだ。

 

 飯島貴金属へ持ち込んだ。

 

 査定された。

 

 円になった。

 

 口座へ入った。

 

「この頃から、入ったお金を全部使わないようにしていますね」

 

 明石さんが言った。

 

「怖かったので」

 

「助かっています」

 

 澪は少しだけ胸を張った。

 

 昔の自分が褒められた気がした。

 

「過去の社長がよい仕事をしておりますな」

 

「その頃、会社ありませんけど」

 

「では創業者ですな」

 

「それは今もそうです」

 

 真壁は一度頷き、古い明細から現在の資料へ視線を移した。

 

「個人での売却を減らし、法人側へ一本化した方が――」

 

「法人化後は、既にそうしています」

 

 明石さんが言った。

 

 真壁の言葉が止まった。

 

「そうでしたな」

 

 澪は何も言わなかった。

 

 ただ、お茶を一口飲んだ。

 

 ちょっとだけおいしかった。

 

 あの頃は、何も分かっていなかった。

 

 税金も、会社も、名義も、口座も、ほとんど知らなかった。

 

 でも怖いから調べた。

 

 分からないから明石さんへ相談した。

 

 使ったもののレシートは残した。

 

 大きなお金が入れば、全部は使わなかった。

 

 昔の私、思っていたより頑張ってたかもしれない。

 

 そんな気分になったところで、明石さんが次の資料を開いた。

 

 44,000,000円。

 

 澪の背筋が勝手に伸びた。

 

「残してあります」

 

 明石さんの手が止まった。

 

「まだ何も聞いていません」

 

「でも、これですよね」

 

「これです」

 

 白金。

 

 法人化前に澪個人で売った分だった。

 

 4,400万円。

 

 今の押入商会は、それより大きな金額を動かすこともある。

 

 それでも、この数字だけは澪の中で別だった。

 

 会社のお金ではない。

 

 自分の口座へ、本当に4,400万円が入った。

 

 銀行アプリを何度見ても、自由に使っていい金だとは思えなかった。

 

 だから触らなかった。

 

 正確には、怖くて触れなかった。

 

 明石さんが先ほどまで見ていた資料と並べる。

 

 数千円のレシート。

 

 数十万円の金貨。

 

 44,000,000円。

 

 紙の大きさはたいして変わらないのに、数字だけがおかしい。

 

「急に増えましたね」

 

 澪は自分で言った。

 

「増えましたね」

 

 明石さんも認めた。

 

 真壁が明細を見ながら口を開く。

 

「最初の売却額から成長率を取ると――」

 

「そこ計算しなくていいです」

 

「そうですかな」

 

「いいです」

 

 真壁は計算するのをやめた。

 

 たぶん今、頭の中では途中まで出ていた。

 

 明石さんは金額に驚いて話を止めることなく、画面を進める。

 

「売却先はこちら。日付はこちら。入金も一致しています」

 

「はい」

 

「この時に直接かかった費用は――」

 

 淡々と続く。

 

 澪は少し拍子抜けした。

 

 4,400万円なのに。

 

 自分の中では、本日の最大の爆弾だった。

 

「金額は大きいですが、見るところは同じです」

 

 明石さんが言った。

 

 金額が大きいから怖いのではない。

 

 何のお金なのか分からなくなる方が困るらしい。

 

 澪の中で、4,400万円という大きな塊が、売却、入金、費用という別々のものへほどけていく。

 

 明石さんが次の項目へ移ろうとしたところで、真壁が口を開いた。

 

「仕入れ経路の詳細については、取引上の秘密としております」

 

 澪の指先が止まった。

 

 来た。

 

 そこへ行くのか。

 

 背中に冷たいものが走る。

 

 明石さんは真壁を見た。

 

「そこを伺っているわけではありません」

 

「そうでしたか」

 

「日本側で生じた取引について見ています」

 

「承知しました」

 

 真壁はあっさり引いた。

 

 澪だけが一瞬緊張して損をした。

 

 異世界とは言わない。

 

 押し入れの向こうとも言わない。

 

 それは最初に明石さんへ相談した頃から変わっていない。

 

 そして今も、言わなくても現代側で起きたことは現代側の言葉で扱える。

 

 澪は小さく息を吐いた。

 

 明石さんがもう一度、資金の話へ戻る。

 

「この売却分についても、納税資金は十分残っています」

 

「半分以上あります」

 

「資金は先ほど確認しました」

 

「じゃあ大丈夫ですね」

 

「資金は」

 

「資金は」

 

 澪は復唱した。

 

 まだ終わっていないらしい。

 

 窓から入る冬の日差しは、いつの間にか机の端まで移っていた。

 

 最初は熱かったお茶も、もう湯気が出ていない。

 

 資料は残り少なくなっている。

 

 明石さんが別の入金を表示した。

 

 3,000,000円。

 

「これは会社から澪さんへ戻った300万円ですね」

 

「はい」

 

「元々、澪さんが会社へ貸していたお金です」

 

「はい」

 

 これは覚えている。

 

 会社を作ったばかりの頃、会社側へ回したお金だ。

 

 それが戻ってきた。

 

「これも半分残してあります」

 

 明石さんの手が止まった。

 

 澪も止まった。

 

 今までと反応が違う。

 

 何かある。

 

「これも?」

 

「はい」

 

「税金用に?」

 

「はい」

 

「なぜでしょう」

 

 澪は考えた。

 

 なぜ。

 

 口座に大きなお金が入った。

 

 だから使わなかった。

 

 それ以上の理由は――。

 

「……入ってきたので」

 

 数秒、誰も話さなかった。

 

 遠くでコピー機が動いた。

 

 紙が排出される乾いた音だけが聞こえる。

 

「元々、澪さんが会社へ貸していた300万円です」

 

 明石さんがもう一度言った。

 

「はい」

 

 そこまでは分かる。

 

 澪はようやく、自分が何をしたのか理解した。

 

「じゃあ、残しすぎました?」

 

「残して困ることはありません」

 

 明石さんはそう答えた。

 

 真壁が横から言う。

 

「資金が余りましたな」

 

「余ってません。貯金です」

 

「同じ金です」

 

「気分が違います」

 

「使わない分には問題ありません」

 

 明石さんが話を戻した。

 

 澪は口を閉じた。

 

 でも、貯金と余った金は違う。

 

 少なくとも気分はかなり違う。

 

 明石さんが最後の項目を見ていく間、澪は画面に出てくる入金を頭の中で分けてみた。

 

 給与。

 

 賞与。

 

 売却代金。

 

 会社から返ってきたお金。

 

 全部、銀行アプリでは同じプラス表示になる。

 

 でも同じではない。

 

 最初に金貨を換えた頃は、円になったことだけで精一杯だった。

 

 今は、会社の金と自分の金を分けられる。

 

 何のお金かも考える。

 

 分からなければ明石さんに聞けばいい。

 

 半分を使わないという方法は、かなり大雑把だったらしい。

 

 それでも、使い切ってから困るよりはずっとよかった。

 

「今後、大きな取引が見えている時は、入金後ではなく事前に相談してください」

 

 明石さんが言った。

 

 真壁がすぐに答える。

 

「その方が効率がよいですな」

 

「はい。条件が決まってから直すより、決める前に見た方が早いです」

 

 真壁が頷く。

 

 その横顔を見て、澪は少し安心した。

 

 たぶん次からは、半分を残す前に明石さんへ連絡が行く。

 

 ただし真壁なので、連絡した後も半分くらい残す可能性はある。

 

 自分も人のことは言えない。

 

 明石さんが画面を閉じていく。

 

「2026年分については、必要なものはほぼ揃いました」

 

「よかった……」

 

 今度こそ、はっきり息が抜けた。

 

 澪は背もたれへ身体を預ける。

 

 2026年が終わった。

 

 少なくとも税金の準備の上では。

 

 明石さんがノートPCを閉じた。

 

 真壁も書類ケースを閉じる。

 

 澪は机の上のスマホを取り、バッグへしまった。

 

 全員が終わる動きをした。

 

 澪の中でも、金貨、白金、給与、賞与、300万円がようやく過去の側へ並んだ。

 

「そういえば」

 

 明石さんが言った。

 

 澪の手はまだバッグの中にあった。

 

「蛍石の件ですが」

 

 止まった。

 

 真壁の手が、閉じたばかりの書類ケースへ戻った。

 

「今日は資料を出さなくて大丈夫です」

 

 真壁がケースから手を離した。

 

 澪もスマホをバッグへ押し込む。

 

「1kg10万円前後というお話でしたね」

 

「まだ評価段階です」

 

 澪はすぐ答えた。

 

 数日前の話が一気に戻ってくる。

 

 蛍石。

 

 光。

 

 光通信。

 

 空間光通信。

 

 地上局。

 

 その先には人工衛星の話まで出た。

 

 確定申告のことを考えている間だけ、意識の外へ追いやっていた。

 

「どの程度の数量になりそうでしょう」

 

「まだ少し――」

 

 言いかけて、止まった。

 

 明石さんが澪を見る。

 

「『少し』ではなく、数量でお願いします」

 

「……まだ決まってません」

 

「分かりました」

 

 危なかった。

 

 少し、と言うところだった。

 

 押入商会で少しという言葉は、時々おかしな量になる。

 

 澪にも自覚はある。

 

 主な原因が誰かは、隣を見なくても分かる。

 

「需要に応じて供給量を決めればよいでしょう」

 

 真壁が普通に言った。

 

 明石さんの視線が真壁へ移る。

 

「単位からお願いします」

 

「kgですな」

 

 澪は少し安心した。

 

 tではない。

 

「年間でどの程度ですか」

 

「需要次第です」

 

 安心は早かった。

 

 明石さんが一度閉じたノートPCへ手を戻した。

 

「海外の話もありますか」

 

 澪は真壁を見た。

 

「可能性はあります」

 

 真壁が答える。

 

「国内だけではない?」

 

「評価先次第でしょう」

 

「宇宙関係も?」

 

 澪は今度は明石さんを見た。

 

 どうしてそこまで。

 

「……話には出ました」

 

「人工衛星ですか」

 

「衛星間通信の用途候補です」

 

 真壁が補足した。

 

 明石さんがノートPCを開いた。

 

 さっきまで暗かった画面に、また光が戻る。

 

 終わったはずの打ち合わせ卓が、元へ戻った。

 

 澪はバッグへしまったスマホを取り出すべきか迷った。

 

「2026年の話ではありませんから、今日はここまでで大丈夫です」

 

 明石さんが言う。

 

 澪はスマホを出さなかった。

 

 真壁も書類ケースを開かない。

 

 ただし、明石さんのノートPCだけは開いたままだった。

 

「今年の大型取引については、売ってからではなく、価格と契約条件が見えた段階で連絡してください」

 

「はい」

 

 澪は今度は迷わず答えた。

 

 金貨1枚が家賃になるのか分からず立ち止まっていた頃とは違う。

 

 分からない時に、何をすればいいかは分かる。

 

 会社で扱う。

 

 数量と価格を決める。

 

 契約する前に専門家へ聞く。

 

 そこまで考えてから、澪はふと気になった。

 

「半分残すだけじゃ駄目ですか」

 

 明石さんが澪を見る。

 

 隣で真壁が口を開きかけた。

 

「真壁さんもです」

 

 先に言われた。

 

「承知しました」

 

 真壁は口を閉じた。

 

 明石さんは開き直したノートPCへ手を置いた。

 

「今回は、半分残す前に相談してください」

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