冬の午前、六畳間へ差し込む光は白く、窓際だけがまだ少し冷たそうに見えた。暖房の低い運転音が続く中、真壁は押し入れの前で足を止めている。
ミニテーブルの近くでは、理央が座布団に座っていた。本棚のそばではシロガネが丸くなり、古い燭台はいつもの場所から動かない。
真壁が押し入れの戸へ手を掛けたところで、ふと思い出したように言った。
「そろそろレヴァニアに仕入れに行かねばならないな」
澪は来週の予定を頭の中でなぞった。
大学もある。それでも動けないほど詰まってはいない。
「来週あたりですね。向こうへ行った時に、リュシアさんにも伝えておきます」
「うむ」
真壁はそこで戸を開けた。
押し入れの中の暗がりではなく、その先には異世界側の空間が続いている。六畳間の暖房音と、戸の向こうから入ってくるわずかな生活音が一瞬だけ重なった。
「飛行船がいよいよ役に立つ。だが、何があるか分からん」
その言い方に、理央が顔を上げた。
「仕入れですよね?」
「そうだ」
「真壁さんが言うと、普通の仕入れに聞こえないんですけど」
真壁は特に反応せず、向こう側へ視線を移している。
澪は理央を見る。
「仕入れですよ」
「飛行船で外国に行く仕入れが、普通なんですか?」
「押入商会では、たぶん」
「そこ、ちょっと自信なくなってません?」
澪は答える前に一度口を閉じた。
外国へ買い付けに行く。それだけなら商売としておかしくない。
ただし移動手段が飛行船で、出発口が江古田の押し入れである。
理央が引っ掛かっているところは、たぶんそこだ。
真壁は話を長引かせなかった。
「では行ってくる」
「はい。お願いします」
真壁が押し入れの向こうへ消える。
戸が閉じると、六畳間にはまた暖房の音だけが残った。
シロガネが一度だけ尻尾を動かす。
理央は閉じた戸を見たまま、しばらく黙っていた。
ついさっきまで、ただの冬の午前だったはずだ。
それなのに、外国への仕入れと飛行船の話が、ゴミ出しの予定でも決めるような調子で終わってしまった。
その違和感を言葉にする前に、澪が理央の方へ向き直った。
「さて」
澪がそう言った瞬間、理央の肩がわずかに上がった。
「その『さて』が怖いんですけど」
「どうしてですか?」
「ここ数日で、だいたい分かってきました」
理央はミニテーブルへ両手を置いた。
身体が重いわけではない。先日飲んだ竜血疲労耐久強化薬のおかげもあって、あれだけ収納を使った割には疲労が残っていなかった。
問題は別にある。
澪が訓練を始める時の言葉を覚えてしまった。
「今日は収納を上げません」
理央の顔が少し緩む。
「鑑定も上げません」
「よかった……」
「別のことをします」
緩んだ顔が元に戻った。
「やっぱり何かするんじゃないですか」
「アルバイトですから」
「その一言、強いなあ」
澪は笑いをこらえながら、理央へ鑑定を使った。
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飯島理央
分類:人間/異界渡航者
現在ジョブ:作家見習い
レベル:5
前職:箱入り娘 Lv5
状態:異世界再訪/情報過多/軽度疲労
疲労度:38%
身体異常:なし
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基礎能力値
体力:38
筋力:27
器用:76
知力:84
判断:72
精神:69
集中:91
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未使用SP
5
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取得スキル
共鳴
----------------------------------
技能
作文:6
彫金:4
鑑定:7
収納:8
錬金:2
----------------------------------
成長傾向
商才:芽あり(+)
薬学:芽あり(+)
並行思考:芽あり(+)
防衛用収納展開:芽あり(+)
雷:芽あり(+)
射撃:芽あり(+)
火:芽あり(+)
収納内時間停止:芽あり(+)
統率個体識別:芽あり(+)
地図:芽あり(+)
移動加速:芽あり(+)
重力:芽あり(+)
転移:芽あり(+)
醸造:芽あり(+)
----------------------------------
加護
成長促進
見守り
----------------------------------
表示そのものは理央には見えない。
そのため理央は、澪の顔を見ながら結果を待っていた。
「やっぱり収納と鑑定は動いてませんね」
「あれだけ使ったのに?」
「はい」
澪は表示をもう一度見直した。
収納Lv8。鑑定Lv7。
少し前までなら、使えば使った分だけ目に見えて数字が上がっていた。けれど今は、昨日までと同じ使い方を繰り返しても変化がない。
だからといって、Lv8の次に見えない壁があると決めるのは早い。
「この辺まで来ると、ただ使うだけじゃ難しいのかもしれません」
「上げられないってことですか?」
「そこまでは分かりません。今までと同じやり方だけでは、という話です」
理央は少し考えてから、テーブルの端を指でなぞった。
「ゲームみたいに、経験値が足りないとかじゃないんですね」
「少なくとも、数字だけ見ていればいい感じではなさそうです」
澪はそこで、以前真壁から言われたことを思い出した。
あの人は、スキルの数字そのものより、何が欲しいかを先に考えろと言った。
「ジョブのレベルが上がる段階で、この技能が欲しい、この能力が欲しいって思えって、真壁さんに言われました」
理央が顔を上げる。
「思うんですか?」
「ただ欲しいじゃなくて、何に使いたいのかまで考えておいた方がいいみたいです」
「じゃあ今のうちに?」
「実際に使って、何が足りないのか分かっていた方がいいと思います」
理央は自分の手を見た。
収納はもう30t近い規模を扱える。鑑定も、物を見るだけならかなり細かいところまで拾えるようになった。
それでも、自分が何をしたいかまでは数字の方から教えてくれない。
「今日は、収納と鑑定そのものを上げる練習はしません」
「それは助かります」
「今持っている収納を、別の技能と組み合わせます」
理央は数秒黙った。
「……それ、楽な話ではないですよね?」
澪は返事の代わりに、彫金道具を入れてある箱へ手を伸ばした。
箱の蓋を開けると、金属同士が触れる乾いた音がした。
理央の父、修が選んだ彫金道具だ。使った跡が残る工具に、細い銀線、小さな金具。澪はその横へ、小粒の石をいくつか並べた。
理央の表情が少しだけ変わる。
収納の訓練と言われるより、こちらの方が明らかに食いつきがいい。
「今日は収納の中でアクセサリーを作ってみましょう」
理央が道具へ伸ばしかけた手を止めた。
「収納、上げないって言いましたよね?」
「上げる訓練ではなくて、Lv8を使う訓練です」
「言い方で逃げてません?」
「逃げてません」
澪はきっぱり答えたが、理央の目はまだ疑っていた。
それでも彫金道具を前にして、やらないとは言わない。
理央は材料を一度見比べ、使うものだけを選んだ。それから工具、銀線、金具、石を収納へ入れる。
靄が薄く広がり、ミニテーブルの上から材料が消えた。
「中で分けておくといいですよ。石と金具と銀線、それから途中のものも混ぜないように」
「この金具どこだっけ、がない」
「分類しておけますから」
理央は収納の中へ意識を向けたまま、少し黙った。
必要なものを探す時、机の上を端から見直す必要がない。
使っていない工具は別。切った銀線は別。作業途中の部品も、完成品に混ざらない。
「作業机が散らからないんですけど」
「便利ですよね」
「これ、彫金やってる人に怒られません?」
「どうしてですか?」
「机の上で、どこ置いたっけって探す時間まで消えてます」
澪には、それが怒られる理由には思えなかった。
けれど理央にとっては、工具や材料を探す時間まで含めて、これまでの彫金だったらしい。
最初は1個だけ作る。
理央は小さな石を選び、銀線と金具を合わせていく。
制作そのものを収納が勝手にやってくれるわけではない。石の位置を決めるのも、銀線の曲げ方を考えるのも理央だ。
途中、金具の細かな形が気になったところで、錬金を使ってごく小さく整える。
一度直して、もう一度見る。
それでも気に入らず、少し戻す。
澪は横から口を出さなかった。
理央は材料の扱いに慣れている。完全な初心者なら手順を教える必要があるが、今は本人がどこまでできるかを見る方がいい。
やがて、収納から靄とともに小さなアクセサリーが現れた。
理央は手のひらへ載せ、すぐに裏側を見る。
「ここ、変じゃないですか?」
「鑑定しますね」
澪が意識を向ける。
形状に大きな崩れはない。金具も収まっている。石の見え方も悪くない。
そして、品質の表示で目が止まった。
「☆5です」
「え?」
「品質、☆5です」
理央は一度アクセサリーを見て、それから澪の顔を見る。
「ほんとに?」
「ほんとです」
「私が作ったやつですよね?」
「理央ちゃんが作ったやつです」
確認する必要のないところまで確認してから、理央はもう一度手のひらへ視線を落とした。
口元が少し緩んでいる。
収納が便利だったことより、自分が作ったものに☆5が付いたことの方が、今はずっと大きいらしい。
澪はそれを見てから、次に使う材料を2組分だけ取り出した。
ミニテーブルの一角に、☆5のアクセサリーが置かれた。
その横へ澪が2組分の材料を並べると、理央の目が細くなる。
「次は2個同時に作ります」
「やっぱり」
「やっぱり?」
「1個で終わるわけないと思ってました」
理央は材料ではなく澪を見る。
「でも、なんで並行して作業しなくちゃいけないんですか?」
言われて、澪は少し考えた。
自分にとって並行思考は便利だ。
大学でも商会でも、やることが一つだけという日はほとんどない。
「便利なんです。私も大学のゼミの発表とかで役に立ちました。収納で作業しながら打ち合わせの議事録を作ったり」
「それ、便利なんじゃなくてやること増えてません?」
「便利ですよ」
理央が黙った。
その視線に押され、澪も一瞬だけ黙る。
「今ちょっと考えましたよね」
「考えてません」
「間がありました」
澪は別の例を探した。
大学では刺さらないなら、もっと理央に近い使い方がある。
「真壁さんみたいに収納内でキーボードを操作できるなら、アニメを見ながら別の作業もできるかもしれません」
「それ先に言ってくださいよ」
返事が速かった。
「ゼミの話よりそっちですか?」
「そっちです」
理央は迷わず言い切った。
何に使いたいかを考えろ、と言われた直後に、本人が欲しい理由を見つけている。
方向が正しいのかはともかく、分かりやすい。
「では、まず今のままで2個やってみましょう」
「取ってからじゃないんですか?」
「今できないことを見た方がいいので」
理央は2作品分の材料を収納した。
収納Lv8なら、2つの制作途中品を分けて置くこと自体は難しくない。
問題は理央の方だった。
一つ目の銀線を曲げる。
次に二つ目へ移り、石の位置を見る。
また一つ目へ戻る。
「……あれ」
理央の動きが止まった。
「どこまでやりました?」
「今それ考えてます」
再び一つ目へ集中し、その状態を思い出す。
今度は二つ目が薄くなる。
しばらく見ていた澪は言った。
「それ、交互にやってるだけですね」
「やっぱり?」
「かなり速く切り替えてますけど、同時ではないです」
理央自身も分かっていた。
戻るたび、一瞬だけ「どこまでやったっけ」が入る。
収納の中には2つとも残っているのに、頭の中では片方ずつしか前へ出てこない。
澪は理央へ鑑定を使った。
「並行思考、芽ありのままです。+も付いてます」
「1SPで取れるやつ?」
「はい」
理央はほとんど迷わなかった。
「取ります」
「早いですね」
「アニメ見ながら使えるんですよね?」
「そこを目的にするんですか?」
「小説にも使えそうだし」
後半が付いたので、澪は何も言わなかった。
理央が取得を意識する。
数字だけが増えたような派手な感覚はなかったらしい。それでも本人の鑑定結果は確かに変わった。
----------------------------------
飯島理央
分類:人間/異界渡航者
現在ジョブ:作家見習い
レベル:5
前職:箱入り娘 Lv5
状態:異世界再訪/情報過多/軽度疲労
疲労度:38%
身体異常:なし
----------------------------------
基礎能力値
体力:38
筋力:27
器用:76
知力:84
判断:72
精神:69
集中:91
----------------------------------
未使用SP
4
----------------------------------
取得スキル
共鳴
----------------------------------
技能
作文:6
彫金:4
鑑定:7
収納:8
錬金:2
並行思考:1
----------------------------------
成長傾向
商才:芽あり(+)
薬学:芽あり(+)
防衛用収納展開:芽あり(+)
雷:芽あり(+)
射撃:芽あり(+)
火:芽あり(+)
収納内時間停止:芽あり(+)
統率個体識別:芽あり(+)
地図:芽あり(+)
移動加速:芽あり(+)
重力:芽あり(+)
転移:芽あり(+)
醸造:芽あり(+)
----------------------------------
加護
成長促進
見守り
----------------------------------
「取れました」
「では、もう一度」
「休憩なし?」
「まだ始めたばかりですよ」
「そうでした」
理央は少しだけ嫌そうな顔をしたが、すぐ収納の中の2作品へ意識を戻した。
今度は片方へ集中しても、もう片方がどこまで進んでいるかが、完全には消えなかった。
並行思考を取った後は、同じ2個でも動きが変わった。
一つ目の銀線を整えている間も、もう一つの石と金具がどの状態にあるかが頭から落ちない。
完全に別々の手が2組あるわけではない。
それでも、戻るたびに「どこまでやったっけ」と探し直す時間がなくなった。
「これならいけるかも」
理央の声にも余裕が戻っていた。
六畳間は静かだった。
工具が触れる小さな音と、衣服がこすれる音。暖房の風が低く流れ、本棚の近くではシロガネが何もしていない猫の顔で座っている。
古い燭台も、いつもと何も変わらない。
それなのに、理央の視線が一度、燭台へ動いた。
すぐ作業へ戻る。
少しして、今度はシロガネへ。
「……なんか集中しづらいんですけど」
澪は理央を見る。
並行思考を取った直後だ。使い方に慣れていないせいかと思ったが、理央の視線は作業中の2作品ではなく、燭台とシロガネの方へ引かれている。
その組み合わせに、澪は覚えがあった。
アメジストのペンダントを作った時も、この2人は理央用だと分かった途端に加護を付けた。
澪は古い燭台とシロガネを順番に見る。
「お二人とも、加護を付けようとしてません?」
返事がない。
その沈黙が、むしろ怪しい。
「売り物にしますので、やめてください」
『……そうか』
燭台の神様から返事が来た。
『分かった』
続いてシロガネ。
理央の手が止まる。
「止まるんだ」
「売り物ですから」
「そこは分かってくれるんですね」
シロガネは前足を揃えたまま、何事もなかったように目を細めている。
燭台も当然ながら動かない。
澪は念のため制作途中の2作品を鑑定した。
加護は付いていない。
「大丈夫です。まだ付いてません」
「よかった……販売したアクセサリーに神様の加護が付いてたら、どう説明すればいいのか分からないです」
「説明しないで売るわけにもいきませんからね」
「そこ真面目に考えるんですね」
「商品ですから」
理央は小さく息を吐き、作業へ戻った。
邪魔が止まると、2作品は最後まで途切れず進んだ。
銀線を整え、金具の細かな形を錬金で直し、石の収まりを見直す。
やがて2個が完成する。
澪は並べた作品へ鑑定を使った。
どちらも品質は☆4だった。
「☆5じゃない?」
「はい。若干、品質は落ちるみたいですよ」
理央は先に作った☆5と、今の2個を見比べた。
見た目だけなら、大きな差には見えない。
「神様に気を取られたからですか?」
「それだけとは決められません。並行して作った分、1個だけに集中した時より注意が分かれた可能性もあります」
「2個できたから、単純に2倍ってわけじゃないんだ」
「でも☆4なら、十分売り物になりますよ」
理央が顔を上げた。
「売り物?」
「はい」
澪にとっては自然な答えだった。
完成していて、品質にも問題がない。
理央はまだ訓練品のつもりだったらしく、机の上の2個を見る目が少し変わった。
☆5の1個と、☆4の2個を端へ寄せたあと、澪は新しい材料を3組用意した。
理央はもう驚かなかった。
「では3個にしましょう」
「ですよね」
「慣れてきましたね」
「澪さんのやり方にです」
3組は、理央が混同しにくいよう、色や大きさの違う石を選んだ。
銀線と金具もそれぞれ分けて収納へ入れる。
2個までなら、片方へ意識を向けても、もう片方の状態は残っていた。
3個になると、その感覚が急に不安定になる。
一つ目を進める。
二つ目を見る。
三つ目へ移った瞬間、一つ目か二つ目の細かい状態が薄くなる。
「2個なら分かるのに、3個になると1個どっか行きます」
「収納からは消えてませんよ」
「頭の中でです」
「ああ」
「今、物が消えたみたいに言わないでください」
理央は口では返しながらも、意識は収納の中へ向いたままだ。
3つ全部を同じ強さで考えようとすると、かえって順番が絡む。
そこで一度、手を止めた。
「全部を同時に考えなくてもいいのか……」
今加工しているもの。
次に触るもの。
状態だけ覚えておくもの。
理央は3つへ付ける意識の強さを変えた。
一つ目の金具を調整しながら、二つ目は次に触る場所だけを残し、三つ目は工程がどこまで進んでいるかだけを保持する。
すると、さっきより見失いにくい。
澪は口を出さずにしばらく見てから、試しに声を掛けた。
「理央ちゃん」
「はい?」
「次、どれを触ります?」
「2個目の石座です。そのあと3個目の銀線」
答えてから、理央が目を見開いた。
「今しゃべったのに、中の3つ分からなくならなかった」
「並行思考は収納専用じゃありませんから」
「これ、本当に便利かも」
「でしょう?」
「でも3つになると頭がこんがらがります」
「そこは慣れですね」
「また慣れ」
理央は呆れたように言ったが、作業は続けた。
銀線の曲がりを直し、金具の細部へ錬金を使う。
3つを完全に同時に加工しているわけではない。それぞれの状態を落とさず、次に触る順番を変えながら進めている。
最後の1個を出した時、理央は肩を回した。
「終わった」
「では見ますね」
澪が3個を順に鑑定する。
すべて☆4。
そして理央本人へ意識を向けたところで、表示が変わっていることに気づいた。
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飯島理央
分類:人間/異界渡航者
現在ジョブ:作家見習い
レベル:5
前職:箱入り娘 Lv5
状態:異世界再訪/情報過多/軽度疲労
疲労度:38%
身体異常:なし
----------------------------------
基礎能力値
体力:38
筋力:27
器用:76
知力:84
判断:72
精神:69
集中:91
----------------------------------
未使用SP
4
----------------------------------
取得スキル
共鳴
----------------------------------
技能
作文:6
彫金:5
鑑定:7
収納:8
錬金:3
並行思考:2
----------------------------------
成長傾向
商才:芽あり(+)
薬学:芽あり(+)
防衛用収納展開:芽あり(+)
雷:芽あり(+)
射撃:芽あり(+)
火:芽あり(+)
収納内時間停止:芽あり(+)
統率個体識別:芽あり(+)
地図:芽あり(+)
移動加速:芽あり(+)
重力:芽あり(+)
転移:芽あり(+)
醸造:芽あり(+)
----------------------------------
加護
成長促進
見守り
----------------------------------
「収納と鑑定は上がってません」
理央の肩から力が抜けた。
「よかった」
「並行思考と彫金と錬金は上がりました」
「結局3つ上がってるじゃないですか!」
澪は表示を見直した。
収納Lv8、鑑定Lv7、作文Lv6、作家見習いLv5はそのまま。未使用SPも、並行思考の取得に1使ったので4だ。
理央は文句を言いながらも、並行思考Lv2の方が気になるらしい。
「これ、小説にも使えますよね?」
「使えると思います」
「本文書きながら資料探したり」
「はい」
「設定を頭に置きながら次の場面考えたり」
「できますね」
「編集さんと話しながら修正考えたり?」
「かなり相性いいと思いますよ」
理央は数秒黙った。
「……めちゃくちゃ使えるじゃないですか」
「だから便利だって」
「アニメの話からしてくださいよ」
「そこに戻るんですね」
澪は少し笑ってから、さっき真壁の話をした理由へ戻った。
「次に作家見習いのレベルが上がる時、何が欲しいか考えておいてくださいね」
「収納Lv9」
「レベルじゃなくて、何ができるようになりたいかですよ」
「あ」
理央は少し考える。
「もっと大きいものを扱える収納」
「はい」
「あと、今より細かいところまで分かる鑑定」
「そういう感じです」
「いっぱい思っておいた方が得じゃないですか?」
「欲張れとは言われてません」
「でも欲しいものは欲しいです」
「それはそうですけど」
否定しきれず、澪は口を閉じた。
理央はもう、収納Lv9という数字ではなく、その先で何をしたいかを考え始めていた。
訓練が終わると、ミニテーブルの上には完成したアクセサリーが並んでいた。
最初に1個だけ作った☆5。
2個並行で作った☆4が2個。
さらに3個並行で作った☆4が3個。
工具はまだ完全には片づいておらず、細い銀線と金具が机の端に残っている。
理央は完成品を見ながら、ようやく作業が終わった顔をしていた。
澪は☆5と☆4をもう一度見比べる。
鑑定では差が出る。
ただ、普通に見ただけで「こちらが☆5、こちらが☆4」と分かるほど大きな違いではない。
「できたもの、どうします?」
理央が顔を上げた。
「どうするって?」
「通販します?」
「売るんですか?」
質問の速さに、澪の方が少し驚いた。
「☆4なら十分売り物になりますよ」
「これ訓練で作ったんですけど」
「この前も似たようなこと言ってませんでした?」
理央が黙る。
川底の泥を分けていた時も、訓練で出来た物をリュシアが次々と商品へ回した。
その時は理央も、商人しかいない、と呆れていた。
理央は澪をじっと見る。
「……澪さん、リュシアさんに影響されてません?」
「そうですか?」
「前より売る判断が早くなってます」
言われてみれば、否定しきれない。
使える物を作ったのなら、眠らせておく理由もない。
そう考える速度は、確かに以前より上がっている。
理央は最初の☆5を手に取った。
「これは?」
「これは残しておきません?」
「なんで?」
「1個だけ作った時の基準になりますから。今度、並列でも☆5が作れるようになったか比べられます」
「ああ」
理央は☆5を手のひらで少し傾け、次に☆4の一つを持った。
見た目はどちらも自分が作ったアクセサリーだ。
けれど、制作した時の感覚は違う。
1個へ全部の注意を向けたものと、複数を頭から落とさないようにしながら作ったもの。
その差を残しておけば、次に自分がどこまで上手くなったかも分かる。
「じゃあ、これは残す」
「はい」
澪は☆5を別に置いた。
「なので☆4を売りましょう」
「そっちは即決なんですね」
「商品として問題ないですから」
「やっぱり影響されてる気がする」
理央はそう言いながらも、止めなかった。
机の上の☆4を一つずつ集め、通販へ回す側へ寄せていく。
訓練で作っただけの品だったはずなのに、並べ方が変わっただけで、理央の目にも少しずつ商品らしく見え始めていた。
冬の光が少し傾き、ミニテーブルの上の銀が白く反射していた。
澪はスマホを構え、☆4のアクセサリーを一つずつ撮っていく。
石の色が飛ばない角度。
銀線の形が分かる向き。
裏側も見えるように置き直す。
理央はその横で、画面と実物を交互に見ていた。
「商品名、どうします?」
「私が決めるんですか?」
「作った人ですから」
理央の指が止まる。
小説なら、自分が書いたものへ題名を付けることは何度もやってきた。
でも、今スマホの横に並んでいるのは文章ではない。
自分の手で作ったアクセサリーだ。
「商品説明もお願いします」
「それも?」
「作家ですから」
「便利に使われてません?」
「適材適所です」
理央は疑わしそうに澪を見たが、文章を書くこと自体には抵抗がない。
スマホを受け取ると、実物を見ながら入力を始めた。
石の色。
銀の形。
大きさを誤解しないための説明。
身につけた時にどう見えるか。
小説の紹介文とは違う。雰囲気だけを書いても、買う側には伝わらない。
何度か文字を消し、実物を持ち上げてから書き直す。
「これ、小説のあらすじより難しくないですか?」
「用途が違いますからね」
「小説なら多少ぼかしてもいいのに」
「商品はぼかさない方がいいですね」
「ですよね……」
理央は少しだけ唸り、また画面へ戻った。
その時、視界の端に古い燭台が入った。
本棚の近くにはシロガネもいる。
理央の指が止まった。
「……加護、付いてませんよね?」
澪も同じことを思い出した。
「見ます」
通販へ出す5個を順に鑑定する。
どれにも加護は付いていない。
「付いてません」
「よかった」
理央はそこで燭台とシロガネへ顔を向けた。
「売り物なのでお願いしますね」
理央がそう言うと、神々の掲示板に新しい書き込みが増えた。
----------------------------------
【販売品への加護について】【付与中止】
001:燭台
付けぬ。
002:鎮守
分かった。
----------------------------------
「ちゃんと分かってるんだ」
「一度止めましたからね」
理央は安心したようにスマホへ戻った。
澪が最後に商品ページを見直す。
一般の通販商品として必要な範囲だけが載っている。
品質☆4という鑑定結果は書かない。
加護もない。
魔法的な効果を売る商品ではなく、普通のアクセサリーとして並べる。
「これで出しますね」
「はい」
澪が公開操作をする。
画面が切り替わった。
そこには、理央が作ったアクセサリーの写真と、自分で考えた商品名、自分で書いた説明文が並んでいる。
理央はしばらく画面を見たまま動かなかった。
「……ほんとに出てる」
「出ましたね」
小説が商品として売られることは、もう知っている。
アクセサリーを作ることも、初めてではない。
けれど、自分が作ったアクセサリーが、自分の作品として誰かに選ばれる場所へ並んだのは初めてだった。
「売れるかな」
「☆4ですよ」
「その☆、お客さんには見えませんよね?」
「見えませんね」
「じゃあ普通に不安なんですけど」
理央はそう言いながら、もう一度商品ページを上から見直した。
傾いた冬の日差しが、スマホの画面と机の上に残した☆5のアクセサリーを同時に照らしていた。