押し入れの向こうは異世界でした   作:Brooks

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第299話 国境は飛び越えません

 

 前日の車輪跡が、凍りかけた土の上に残っていた。

 

 澪たちが転移で戻ったのは、西境の山々が見える街道脇の平地だった。昨日、新型エアカーを着陸させ、周囲の安全を確かめた上で登録した場所である。

 

 江古田で一晩過ごしただけなのに、山の影は昨日より濃くなったように見えた。冬の空は青く晴れているが、吹き下ろす風は領都周辺より冷たい。

 

「昨日の続きですね」

 

 理央は自分たちの足元と、遠くの山を見比べた。

 

「そうですね。昨日より西から始められます」

 

 澪が地図を確かめる。領都から昨日通った街道が西へ伸び、今立っている場所で止まっていた。その先に道があることは目で分かる。しかし、地図の上ではまだ白い。

 

 真壁が周囲の人影を確かめ、収納へ手を伸ばす。地表を薄い靄が流れ、昨日持ち帰った6人乗りの車体が、タイヤから順に姿を現した。

 

「出発地点に車を置いておかないんですね」

 

「誰かに見つけられるよりはよいだろう」

 

 それはそうだ。理央は素直に頷き、2列目の座席へ乗り込んだ。澪も隣に座り、シートベルトを留める。

 

 車体は昨日の地形情報を表示したが、その線も澪の地図と同じ場所で途切れていた。真壁が走行用の制御を起動し、新型エアカーは街道へ戻った。

 

 しばらくは緩やかな上りだった。しかし山が近づくにつれ、街道は斜面に沿って曲がり始める。左右に広がっていた畑は消え、冬枯れした木々と灰色の岩肌が増えていった。

 

 谷底から水の音が上がってくる。日陰の斜面には薄く雪が残り、轍の深い場所では泥が凍って硬い段差になっていた。

 

「海、まだ全然見えませんね」

 

 理央が谷の向こうへ首を伸ばす。見えるのは、重なる山腹ばかりだった。

 

「まずは山越えです」

 

「外国へ行く前に、普通に山です」

 

 海のある国へ向かっているのに、視界はますます山に塞がれていく。理央は少し納得しにくそうな顔をした。

 

 強い傾斜へ入ると、真壁が重力制御を調整した。飛行船で使った制御を車体に合わせたもので、タイヤが地面をつかむ力は残したまま、車体に掛かる重力だけが少し弱まる。

 

 4輪のモーターへ掛かる負担が下がり、車体は速度を上げずに急坂を上った。前方の落石と深い轍は車載側の表示に浮かび、足回りが車輪ごとに伸び縮みする。

 

 道の真ん中へ拳より大きな石が落ちていた。右に避ければ谷側の路肩へ寄りすぎ、左に避ければ山肌から張り出した岩に近づく。車載側は両方の間隔を重ねて表示した。

 

 真壁は完全に車を止め、ドアを開けた。

 

「どかすんですか?」

 

「この大きさなら、その方が早い」

 

 収納で石を取り込み、街道から外れた岩の間へ出す。大きな工事にするよりも早く、後から来る馬車にも道が残る。

 

「探索車なのに、最後は真壁さんがどかすんですね」

 

「車ができることと、私ができることは分けなくてよい」

 

 真壁が運転席へ戻る。理央は外れたシートベルトが再び留まるのを見てから、窓の外へ顔を戻した。

 

 対向から荷馬車が現れると、真壁はすぐに速度を落とした。道幅の広がるところまで戻り、車体を山側に寄せる。

 

 馬は見慣れない車を警戒して首を振ったが、エアカーが止まっているのを見て、御者に引かれながらゆっくり横を通り過ぎた。荷台からは塩と乾物の匂いが流れてきた。

 

 それが遠ざかってから、真壁は再び車を進めた。

 

 東へ下る荷馬車の轍は、新型エアカーが進む方向と逆に深く刻まれている。重い荷を積んだ馬車が、山を越えて何台も下った跡だった。街道の傾斜だけでなく、その溝もまたハンドルを取られる原因になる。

 

 車体は轍の向きと深さを先に拾い、左右の車輪を同時に落とさない進路を表示した。真壁がそれを見て位置を決めると、サスペンションが順に段差を越える。車内では小さく身体が揺れるだけだった。

 

「馬車の人、これをずっと上ってくるんですよね」

 

 理央の声から、面白がっていた色が少し消えた。

 

「道があるだけで、荷が楽に越えられるわけではありません」

 

 澪は昨日見た塩や干し魚を思い出した。市場へ並ぶまでに、あの荷はこの山道を通っている。内陸まで運ばれた分だけ高くなるという言葉が、今日は車窓の外に形となっていた。

 

 新型エアカーは山道を無視するのではなく、山道に合わせて上っていった。

 

 

 

 街道は、山腹を縫うように何度も折れ曲がっていた。

 

 車内の表示では、真上にある道と現在地の間はそれほど離れていない。しかし、実際の街道は一度南へ大きく張り出し、谷の奥を回ってから北へ戻る。

 

 窓の外に見える山道の先を追っていた理央が、ふと上を見た。

 

「これ、飛べばすぐですよね?」

 

 斜面の上には、これから向かう街道が見えている。空を直線で進めば、谷を大きく迂回する必要はない。

 

「飛べますけど」

 

 澪も、一度は理央の言葉に頷きかけた。昨日の短い飛行で、新型が安定して浮き上がることも分かっている。

 

「国境は飛び越えません」

 

 真壁は進行方向を見たまま答えた。

 

「まだ国境の手前ですよね?」

 

「そうだ。だが、上空から近づけば向こうからは意図が分からない。最初から街道を進む方がよい」

 

 その先の曲がり角で、車はまた止まった。上から下ってきた隊商が、何台も続いていたからだ。

 

 先頭の御者が片手を上げ、後ろへ何かを叫ぶ。その声は途中からセレヴィア語に変わり、後続の馬車が間隔を狭めて一列になった。

 

 真壁は広い所へ車体を寄せ、隊商全体が通り過ぎるまで待った。

 

 積み荷には、縄で固定された樽と、長い布包みが多い。覆いの隙間からは粗い塩の袋も見えた。御者たちはエアカーの横を通りながら全員が振り返ったが、荷を止めてまで見物しようとはしなかった。

 

「飛ぶ方が早いのに、待つんですね」

 

「私たちが早いことと、相手の道を奪ってよいことは別です」

 

 澪の言葉に、理央は窓の外を見たまま頷いた。

 

「便利でも、使わない方がいい時があるんですね」

 

「外国の国境で試すことではありませんから」

 

 澪が言うと、理央はまた上の道を見た。

 

「真壁さんなら、普通に飛ぶかと思いました」

 

「どういう意味かな」

 

「海水を原料にしようとする人なので」

 

 真壁は答えなかった。

 

 澪は小さく笑い、窓の外へ視線を戻した。前方の断崖に沿って、石を積んだ低い壁が続いている。その外側は谷で、川が白い筋のように見えた。

 

 新型エアカーは車幅と壁までの距離を表示し、路面の崩れかけた端を避けて走る。ときおり方向の異なる風が谷から吹き上げたが、地上にいる限り、車体はそれを大きく受けない。

 

 峰の一つを回り込むと、山の間が低く落ち込んだ場所が見えた。街道はそこへ向かっている。

 

 峠である。

 

 その先に、幾つもの屋根が小さく見え始めた。

 

 

 

 山中の静かな街道が、峠の手前で急に賑わい始めた。

 

 最初に見えたのは、並んだ馬用の水槽だった。長い道を上ってきた馬が鼻先を水へ沈め、御者は背の荷を確かめている。少し離れた小屋では湯気が上がり、旅人が手にした器から何かを飲んでいた。

 

 荷馬車を留められる広い空地。交代の馬をつなぐ場所。積み荷の縄を締め直す者。道中の客を相手に、パンや温かい汁物を売る店。

 

 ここは町というより、国境を通る人間のためにできた立ち寄り場だった。

 

「山の中なのに、店が多いですね」

 

 理央は窓の左右へ視線を忙しく動かした。

 

「ここで食べておかないと、次に何があるか分からないんでしょうね」

 

「それに、人が待つところには商売ができます」

 

 澪が答えると、理央はすぐに道路脇の店を見直した。行列の進み方に合わせて受け渡しが早い店もあれば、馬を休ませる間に客を座らせる店もある。同じ食べ物を売っているのではなく、待ち時間の違う客を見ていた。

 

 聞こえる言葉にも、昨日よりセレヴィア語が増えている。こちら側の言葉で注文した客に店主が答え、次の客とは別の言葉で話す。境目に近い場所では、どちらか一方だけで商売をする方が難しいらしい。

 

 真壁は車を通行の邪魔にならない場所へ停めた。

 

 3人が車を降りると、山道を上ってきた時よりも多くの視線が集まった。通り過ぎる者は車輪を見、店の前にいる者は馬がいないことを確かめる。近くの馬が驚かないよう、真壁は車体を停止させたままにした。

 

 両替を扱う者も、最初は車の方を見ていた。しかし真壁が硬貨の袋を出すと、すぐに商売の顔に戻った。

 

「関所の前に、通貨を替えておこう」

 

「この硬貨、向こうでは使えないんですか?」

 

 理央が昨日の干物を買った硬貨を思い出し、収納から小さな袋を出した。

 

「国境までは使える。向こうにも受け取る商人はいるだろうが、どこでも同じ条件とは限らない」

 

「先に必要な分を替えた方がいいんですね」

 

 澪も硬貨を大量に出すことはしなかった。まず必要なのは、カルディオへ着いてからの少額の支払いである。現地の相場も物価も分からない段階で、全部を替える理由はない。

 

 両替を扱う者の前には、両側の硬貨が見本として並べられていた。真壁は提示された条件を聞き、渡す硬貨と受け取る硬貨の枚数を確かめる。澪も示された枚数と実際に受け取った枚数を照合し、理央は二人の手元を覗き込んだ。

 

「先に、どれがどの支払いに使えるか覚えないと駄目ですね」

 

「最初は、使う前に確かめましょう」

 

 理央は両替した分だけを別の小袋へ移し、王国側の硬貨と混ざらないよう収納した。商人になったからといって、見慣れない通貨をすぐ使いこなせるわけではない。それもこれから見る市場の一部だった。

 

「慣れてからも、出す時には確かめた方がいい」

 

 真壁の言葉に、理央は硬貨の入った袋を持ち上げて頷いた。

 

 国はまだ越えていない。

 

 それでも、手の中のお金は、すでに向こう側のものに変わっていた。

 

 

 

 関所へ続く列の最後尾に、新型エアカーが並んだ。

 

 前にいるのは、布をかぶせた荷馬車である。その先にも樽を積んだ馬車、徒歩の旅人、複数の商人がまとまった隊商が続いていた。

 

 馬のいない6人乗りの車両は、どこに混じっても目立った。

 

 前の荷馬車から降りた御者が、縄を確かめるふりをしながら何度も振り返る。反対側の列にいる子供は、大人の陰から車体を見ていた。

 

「見られてますね」

 

「昨日も見られていましたから」

 

「関所だと、逃げ場がないです」

 

 理央の声が小さくなる。澪も居心地がよいわけではないが、ここで車を収納し、歩いて列へ入り直す方がよほど不審である。

 

「普通に待ちましょう」

 

「そうだね」

 

 真壁は最初からそのつもりで、前の馬車が進んだ分だけ車体を動かした。

 

 関所は、山が狭まった街道を閉じられる位置に作られていた。石を積んだ土台と太い木の門。人の出入りを見る場所と、荷馬車を脇へ寄せて積み荷を確かめる場所が分かれている。武装した兵士たちは、一台ごとに人数と荷を見て、進む列を振り分けていた。

 

 列の先では、王国側の兵士が人数と荷を順に確かめていた。理央は自分の収納に入れた硬貨の袋へ意識を向ける。この確認を終え、さらに向こう側の確認も済ませれば、さっき替えた通貨を使う土地へ入る。

 

 いよいよ前が空き、真壁が車を進める。

 

 兵士が片手を上げた。車体が停まると、まず先頭に立った一人が車輪を見た。次に車体の前へ回り、馬を探すように左右へ顔を向けた。

 

「馬は?」

 

「いない」

 

 真壁の答えに、兵士はもう一度エアカーを見た。

 

「これは、自分で動くのか」

 

「私たちの移動用車両だ」

 

 兵士は後ろの者と顔を見合わせた。それでも手続きを止めはしない。いつまでも驚いているのではなく、誰が乗っているかを確かめる方へ切り替えた。

 

 ドアが開き、真壁、澪、理央の順に外へ出る。

 

 どこから来たのか。人数は何人か。どこへ向かうのか。何のための旅か。

 

 真壁は、自分たちが商人であり、西の市場を見るために3人で旅をしていること、まずカルディオへ向かうことを答えた。澪と理央も、順番に自分の名前を告げた。

 

 車内には3人分の座席以外にも空席がある。兵士は扉を開け、ほかに誰かいないか、座席の陰に人を隠していないかを確かめた。

 

 最後列の座席まで見た兵士は、乗っているのが3人だけだと分かると、今度は車体の下を覗き込んだ。

 

「馬もいないのに、どうやって動く」

 

「説明するより、見た方が早いだろう」

 

「動かしてみろ」

 

 真壁が運転席へ戻り、車体を数mだけ前後させた。車輪が回り、馬も人も押していないのに動く。周囲から小さなどよめきが起き、確認した兵士は腕を組んだ。

 

 それでも、飛行用の翼を展開させるようなことは求めなかった。地上の車両として、門を通せるかを見ている。

 

 確認を終えた兵士が、門の先へ進むよう示した。

 

 理央が車へ戻ると、隣の澪へ小声で言った。

 

「車を数m動かすだけで、こんなに見られるんですね」

 

「翼を出さなくてよかったです」

 

 二人の視線が運転席へ向く。真壁は聞こえていないふりをして、車体を列の前へ進めた。

 

 新型エアカーは門の間をゆっくり進み、少し先で再び止められた。

 

 今度はセレヴィア側の兵士が待っていた。外套や装備の形はこちら側とは異なり、交わされる声もセレヴィア語が中心である。こちら側の言葉を話せる者が前へ出ると、3人の名前、人数、目的地と旅の目的を改めて確かめた。車内と空席にも目を通し、見慣れない車両が自力で動くことについても、王国側と同じように確認する。

 

 真壁は聞かれたことだけに答えた。兵士も技術の説明まで求めず、確認を終えると道を開けた。

 

 地面に境界線が引かれているわけではない。一歩で景色が変わるわけでもない。

 

 それでも二度目の確認を終えて道へ出た時、3人は初めて正式にセレヴィアへ入った。

 

 

 

 門の西側にも、山はそのまま続いていた。

 

 岩の色も、日陰に残る雪も、谷を流れる水の音も変わらない。街道も関所で途切れることなく、山の向こうへ下っている。

 

「もうセレヴィアなんですよね?」

 

 理央が後ろの門を確かめる。

 

「そうです」

 

「山は全然変わらないです」

 

「山に国は分かりませんから」

 

 澪が答えた直後、車の横を二人の旅人が通った。二人の会話はすべてセレヴィア語で、こちらの言葉は一つも混じらない。

 

 続いて通った荷車の御者も、門の兵士へセレヴィア語で声を掛けた。着ている外套は王国側で見る厚い毛織りより軽く、裾や肩に色の違う布が使われている。

 

 反対からは、王国側でも見慣れた外套の商人が歩いてきた。彼はセレヴィア語で道を譲るよう声を掛け、澪たちの車を見ると、こんどはこちら側の言葉で「珍しい車だ」と笑った。

 

「人を見ると、向こうに来た感じがします」

 

 理央が言う。

 

「こちらでは、昨日見た外国商人の方が普通の人なんですね」

 

 澪は街道の脇を見た。小さな建物は石の使い方が少し違い、壁の表面に明るい色が残っている。店先に並ぶのは干した魚や塩、色の強い布だけではない。王国側の穀物袋や厚い毛織りも積まれ、両方の客が足を止めていた。

 

 国境の西側にも、王国側の商品は普通にある。人と荷が何度も往来してきた道なのだから、門を越えた瞬間に文化まで入れ替わるはずがなかった。

 

 それでも、進むほどにセレヴィア語の声が増える。新型エアカーに視線を向ける者が何か言っても、3人にはその意味が分からないことも多い。

 

 理央は聞き取れない言葉の方へ反射的に顔を向け、すぐに次の建物や荷車へ視線を移す。表情に不安よりも好奇心が戻ってきていた。

 

 真壁は速度を抑え、地上走行のまま西へ進む。

 

 車載側の地形表示には、走った分だけ新しい街道が加わっていく。澪の地図にも、初めて足を運んだセレヴィアの道が伸び始めた。

 

 理央は後ろへ遠ざかる関所を一度振り返り、それから、地形表示に伸びていく未知の街道へ向き直った。

 

 

 

 峠からの下りが緩やかになると、街道脇の人家が増え始めた。

 

 最初は木と石を組み合わせた小さな家が点々と立つだけだった。それが二軒、三軒と並び、馬をつなぐ柵や荷車を留める広場が現れる。

 

 荷の量も変わった。峰では一列になっていた荷馬車が、ここでは複数の道から集まってくる。空の荷台を西へ走らせる者、樽や箱を積んで東へ向かう者。御者同士が道を譲り合い、時には大声で相手を呼ばわりながら進んでいた。

 

「街に近づいてますよね」

 

 理央が前席の間から進行方向を見た。

 

「人と荷が集まっていますから」

 

 澪も、建物より先に荷車の流れを見ていた。山を越えてきた荷と、これから山へ向かう荷が、同じ道の先へ集まっている。空の荷台も、樽や箱を満載した馬車も、御者の声に合わせて少しずつ列を詰めていた。

 

 真壁は交差する荷車の流れを見ながら、ゆっくり車を進めた。

 

「単なる山下の町ではないようだね」

 

「国境を通った荷を受ける街なんでしょうか」

 

「見れば分かる」

 

 真壁はそれ以上を決めつけなかった。まだ街の中へ入ってもいない。

 

 山が左右へ開けた先に、外壁と屋根の集まりが見えた。

 

 王国側で見慣れた街より、壁の色が明るい。屋根の傾きや軒の連なり方も少し違っている。その手前には広い道が集まり、荷馬車、騎乗の者、荷を背負った旅人たちが同じ入り口へ向かっていた。

 

 布の色が増える。聞こえる声の大半が、もうセレヴィア語だった。その中に、時々こちら側の言葉も混じる。荷車には海から来たと分かる魚や塩だけでなく、王国側の穀物や毛織りも積まれていた。

 

「あれがカルディオですか?」

 

 理央がこれまでで一番大きく窓へ身を寄せた。

 

「そうだ」

 

 真壁の答えを聞き、理央は街の名前を確かめるようにもう一度口の中で繰り返した。

 

「ここからすぐ次へ行くんですか?」

 

「いいえ。まずはここを見ましょう」

 

 澪は街の入り口へ集まる人と荷を見た。どこから来て、ここで何を買い、次にどこへ向かうのか。入口から見ているだけでも、王国側の市場とは違う流れがある。

 

「急ぐ理由はない」

 

 真壁も同意した。

 

 新型エアカーは、街へ入る荷馬車の後ろで止まった。前には荷と人の列が続いている。後ろからも、山を越えた新しい馬車が次々と近づいてきた。

 

 理央はその列にいる商人の服、荷台の箱、門の奥に見える屋根を順番に見た。

 

 海はまだ見えない。

 

 それでも、3人はセレヴィアで最初の街、カルディオへたどり着いた。

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