秘密基地へ戻ってきても、火山の灰はきれいには落ちていなかった。
理央のスニーカーの縁には薄い灰色が残り、作業台の端にも、持ち帰った袋から落ちた細かな石粉がついている。
澪は上着を払ってから、真壁の前に並んだ物を見た。
採ってきた天然の特殊蛍石の隣には、火山で作った白っぽいフッ化カルシウムの試料があり、その向こうには以前から真壁が作っていたフローライトの魔石結晶まで出ている。
帰ってきたばかりなのに、もう比較が始まっていた。
「真壁さん、少しくらい休みません?」
澪が言うと、真壁は天然の特殊蛍石を置いた。
「座っている」
「そういう意味ではないです」
隣で理央が小さく笑った。自分も椅子に座りながら、袖についた灰を指で払っている。
「私はちょっと分かります。火山から戻ったら、いったん終わった感じしません?」
「原料の話は前進した」
真壁は白い試料へ視線を移した。
「こちらも、フッ化カルシウムまでは作れた。フローライトを魔石結晶にする方法もある」
「じゃあ、こっちからも作れるんですか?」
「可能性はある。ただ、東都へ出せる品質で安定するかは別だ。天然側との差もまだ見たい」
「あ、そこはまだなんですね」
理央は白い試料から、透明感のある天然石へ視線を戻した。
澪にもそこは分かる。成分が同じになったからといって、そのまま代わりになるわけではない。けれど、掘る以外の道が見えたこと自体は大きい。
火山まで行った甲斐はあった。
そう思ったところで、真壁が別の小さなケースを出した。
澪はその手元を見て、少しだけ嫌な予感がした。
「今度は何ですか?」
「東都へ渡す規格品の見本だ」
ケースの中から出てきたのは、指先に乗るほどの細い棒だった。
理央が身を乗り出す。
「小さっ」
「直径1.25mm、長さ4mmだ」
真壁はそれを天然の特殊蛍石の横へ置いた。
塊の石の隣では、余計に小さく見える。
「これが完成品ですか?」
「押入商会側では、ここまでだ。最終の光学研磨は東都がやる」
「じゃあ、私たちはこの棒を作って渡すんですね」
「そういうことだ」
理央がケースを覗き込んだまま、しばらく黙る。
澪も同じ物を見ていた。
小さいから簡単、とは真壁が言うはずがない。
「試作の条件は、もう出てるんですよね?」
「ああ。1本を作る話なら終わっている」
真壁は規格品を指先で転がした。
「問題は、この形と品質の物を必要数そろえることだ」
理央が顔を上げた。
「必要数って……」
「3月分だ」
真壁がノートPCを開く。
澪は画面が立ち上がる前に数字を思い出した。
「800万個」
「そうだ」
理央の手が、袖の灰を払う途中で止まった。
「石を見つけても、そこは減らないんですね」
「注文数だからな」
「それはそうなんですけど」
真壁は気にした様子もなく、規格品をPCの横へ置いた。
「次は、この800万個をどう作るかだ」
画面に数字を出すと、そのまま電卓を手前へ引く。
澪はまだ灰の残る袖を見てから、8000000と表示された画面へ目を戻した。
真壁の指は、もう割り算のキーへ移っていた。
「20日で見る」
真壁が数字を入れる。
「1日8時間。まずは普通に人が扱える時間で必要能力を出そう」
800万を20で割る。
40万。
さらに8で割ると、5万。
「1時間で5万個……」
澪が言った途端、理央の眉が寄った。
「もう嫌な数字です」
「1分なら約833個だ」
「小さくなってません」
「1秒なら約13.9個」
真壁がそこで手を止めた。
「ほぼ14個だな」
理央が画面と見本を見比べる。
「1秒に14個です?」
「ああ」
「それなら14個だけ見れば――」
「次の1秒にも14個だ」
「……ですよね」
真壁はケースから見本を出し、机の上へ並べ始めた。
14本が一列に並ぶ。
小さい。
これだけなら、800万個よりずっと現実的に見えた。
壁の時計の秒針が一つ進んだ。
「次の14個だ」
「待ってください。まだ最初の14個見てます」
「もう次だ」
もう一つ進む。
「さらに14個」
「時計見たくなくなってきました」
理央が本当に時計から目を逸らしたので、澪は笑いそうになった。
けれど、机の上の14本を見ると笑ってもいられない。
この小さな棒が、1秒ごとに増える。それが1分でも1時間でもなく、8時間続く。
「もちろん毎秒14回、真壁さんが操作するわけじゃないですよね」
「それでは量産にならない」
真壁は並べた見本をケースへ戻した。
「まとめて処理する。見るべきなのは、平均して合格品をこの速度で出せるかだ」
「合格品、ですか」
「作った数ではなく、東都へ渡せる数だ」
その言葉で、澪の中でも数字の意味が少し変わった。
800万個作ればいいわけではない。
800万個、渡せる物をそろえなければならない。
真壁はPCを閉じなかった。横へずらし、代わりに収納内プラントの作業領域へ意識を向ける。
「まず今の工程を、そのまま増やしてみよう」
「いきなりですか?」
「数字は出たからな」
理央が時計を見ないまま言った。
「真壁さん、ほんとに休憩ないですね」
「座っている」
「それ、さっき澪さんにも言ってました」
最初の試験は、見慣れた形から始まった。
魔石結晶化したフローライトを、東都へ渡す棒状規格へ揃える。
真壁は収納内プラントへ少量を流し、結果を取り出した。
長さ。太さ。欠け。内部の亀裂。端の状態。
既に試作で条件は出ている。1本なら問題なく作れる。
「これなら同じ条件で増やせますよね?」
理央が聞く。
「増やせる」
真壁は即答した。
次の試験量を増やす。
同じ条件で流した。出来上がった物を確認し、少し条件を直す。
また流す。
今度は前より揃った。
「いい感じじゃないですか」
理央の声が明るくなる。
澪もそう思った。
真壁の収納内プラントは、もともと同じ処理を繰り返すことに強い。工程を決め、理解した処理を固定してしまえば、いちいち手元で1本ずつ作る必要はない。
ところが真壁は次の量を流さなかった。
出来上がった群れの中から、数本を別に取り出している。
「何かありました?」
「少し外れている」
見せられても、澪の目にはほとんど同じに見えた。
真壁は規格内へ収まった物と、わずかに外れた物を分ける。
「なら、もう少し条件を詰めれば……」
「ああ」
結晶化の条件を詰める。
形状の揃え方を直す。
寸法が外れにくいようにする。
もう一度。
確かに合格側は増えた。
ただ、その分だけ真壁が途中で見る場所も増えた。
次は別の外れ方が出る。
真壁はそこを直した。
今度は別の条件を確認する。
処理量を増やすほど、規格から外さないための確認が細かくなっていった。
真壁は条件を一つ戻した。
次の試験では別の値を詰める。
結果を見て、また戻す。
その次は二つ同時に変えかけて、途中で手を止めた。片方だけ元へ戻し、もう一度流す。
それでも、処理量を増やした時だけ別の外れ方が出た。
澪は途中から、出来上がった棒より真壁の手元を見るようになっていた。
普段なら、試験が終わった時には次の試料がもう動いている。失敗しても、原因を一つ潰したとでも言うように、すぐ次へ進む。
今回は、その次が来ない。
真壁の指が操作位置から離れたままになっていた。
合格品と、規格から少し外れた棒状結晶。その二つを並べ、しばらく黙って見ている。
一度、合格品へ手を伸ばした。
触れずに引っ込める。
今度は規格外品を持ち上げ、見本の横へ置いた。向きを変えて見比べ、また置く。
理央も、さすがに気づいたらしい。さっきまで次々に質問していたのに、声をかけるまで少し間があった。
「真壁さん、次やらないんですか?」
「考えている」
短い返事だった。
それきり動かない。
収納内プラントの流れも止まったままだった。いつもなら真壁の判断に追い立てられるように区画が動くのに、今は細い棒状結晶だけが静かに並んでいる。
澪は思わず理央と顔を見合わせた。
真壁が試験で外すこと自体は珍しくない。むしろ外した後の方が速い人だ。
だから、何も始めない時間の方が気になった。
真壁は規格外になった棒を一本、指先で転がした。
折れていない。曇ってもいない。
ほんの少し、狙った寸法から外れているだけだ。
さらにもう一本、別の規格外品を並べる。
真壁の眉間に浅い皺が寄った。
何かを確かめるように、合格側と規格外側を一度ずつ見直す。
真壁の目が、そこで止まった。
「……待て」
棒を持ち上げる。
「どうしました?」
「これを失敗にしているのが悪い」
澪は見本と見比べた。
「でも、規格外ですよね」
「ああ」
真壁は規格外品を戻さず、作業台へ置いた。
「800万個全部を、最初から規格どおりに作る必要はない」
理央が首を傾げる。
「でも800万個、納めるんですよね?」
「納めるのは合格品だ」
真壁の手が動き出した。
「合格品を800万個得ればいい」
さっきまで止まっていたのが嘘のようだった。
規格外品を捨てる区画から外す。
生成側の条件を開く。
澪が声をかける前に、真壁はもう次の試験量を増やしていた。
次に出てきた棒状結晶を見て、理央が露骨に不安そうな顔をした。
「さっきより揃ってなくないですか?」
「揃えていないからな」
「えっ」
長さは近いが同じではない。太さにも少しばらつきがあり、端の形もきれいに統一されていない。
さっきまで真壁は、これを出さないために条件を詰めていた。
今度は逆に、許す範囲を広げている。
「真壁さん、ちゃんと作るの諦めてません?」
「諦めてはいない」
真壁は出来上がった群れをまとめて保持した。
「作る場所を変えただけだ」
「場所?」
「精度を生成側だけで出すのをやめる」
澪は並んだ候補品を見て、少し遅れて意味を取った。
「先に棒状まで大量に作って、後から合う物を選ぶんですか?」
「そうしよう」
また一群が作られる。
今度は真壁が1本ずつ触らない。
規格ぴったりに近づけるための細かな調整が減った分、候補品が増える速度は明らかに上がっている。
見た目は前より雑然としていた。
なのに真壁の表情は、前よりずっと穏やかだ。
「不揃いなのに、こっちの方がいいんですね」
理央が納得しきれない顔で言う。
「後で分けられるならな」
「分ける方が大変じゃないですか?」
そこで真壁の手が一度止まった。
今度はさっきのような長い停止ではない。
「そこだな」
大量生成した候補品が、収納内の一つの区画にまとまっている。
肉眼で見て選ぶなら、理央の言う通りだった。
800万個を作るために、800万個以上の候補品を1本ずつ見る。
それでは何も解決していない。
「これ、全部鑑定するんですか?」
理央が聞いた。
「1本ずつならやらない」
「ですよね」
真壁は答えながら、候補品の群れをそのまま収納内に置いた。
「まず長さだけで分ける」
靄が薄く広がる。
候補品の一部が、別の区画へ移った。
理央が目を瞬く。
「今、何しました?」
「分類だ」
「収納の?」
「ああ」
それ自体は、澪にも珍しくない。
素材で分ける。用途で分ける。状態で分ける。収納が育ってから、何度も使ってきた。
真壁は移した群れを戻した。
今度は長さだけでなく、直径の条件も加える。
また分かれた。
次は欠け。
その次は内部の亀裂。
東都から受けている規格に合わせて条件を重ねるほど、合格側に残る本数が減っていく。
「……これ、選別できてますよね」
澪が言う。
「できている」
真壁は返事をしたが、候補品ではなく、自分の収納を見ていた。
すぐには次の条件を入れなかった。
長さで分けた群れを元へ戻す。
今度は直径だけで分ける。
それも戻す。
欠けの有無で分け、さらに戻す。
どれも同じように通る。
真壁は一度腕を組み、動いた区画を見たまま黙った。
澪には、その沈黙の方が気になった。さっき規格品をどう作るかで止まった時と同じだった。答えがあるなら、真壁は話しながらもう試している。
今は試しているのに、まだ何かが腑に落ちていない。
「真壁さん?」
返事の代わりに、真壁はもう一度だけ分類をやり直した。
「分類は、何を見て分けている?」
「何をって……収納してる物じゃないんですか?」
理央が答える。
「材質なら分かる。だが、今は寸法と内部の状態まで見た」
真壁は候補品を一本取り出し、指で転がした。
「収納そのものが、これの内部亀裂を見ているのか?」
言いながらも、納得している声ではなかった。
澪もそこで引っかかった。
収納には分類がある。
でも、長さが規格内か、内部に亀裂があるかという情報を、何が判断しているのか。
真壁はしばらく候補品を見た後、今度は鑑定を向けた。
一度。
もう一度、条件を変えて見る。
その結果と、さっき分類された群れを見比べる。
そこでようやく、口元がわずかに動いた。
「鑑定だな」
「分類に鑑定を使ってるってことですか?」
「そう考えると通る」
真壁はもう一度、条件を変えた。
「収納が品質という言葉を理解しているわけではない。私が鑑定で取れる情報を、分類条件に使っている」
今度は条件を一つ増やす。
規格内で、欠けがなく、内部亀裂もないもの。
靄が動く。
条件に合った群れだけが分かれた。
理央がその様子を見ながら、少し身を乗り出した。
「条件、いくつでも足せるんですか?」
「試そう」
真壁はさらに条件を重ねた。
東都から受けている規格の範囲。欠け。内部の状態。魔石結晶として必要な状態。
結果は返ってくる。
真壁はすぐには口を開かなかった。
条件を一つ外す。
戻す。
順番を変える。
また戻す。
同じ条件なら同じ群れが残る。
次に、わざと規格から外れた一本を混ぜる。
それだけが弾かれた。
真壁はそこで、ようやく背もたれから身体を起こした。
「大量の情報から、指定した条件だけを拾って判定している」
「はい」
「AIに近いな」
理央がすぐに顔を上げた。
「鑑定がAIなんですか?」
「同じだとは言っていない。働かせ方の話だ」
真壁は条件を一つ外し、また戻した。
同じ結果になる。
そこで手が止まった。
「……待て」
澪は今度こそ、何かを掴んだ時の止まり方だと分かった。
「条件を組める」
「今も組んでましたよね?」
「ああ。だが、見る項目を変えるだけではない」
真壁は分類された群れへ視線を移した。
「条件そのものを順番に組んで、判定させられる」
理央が少し考える。
「それって、プログラムみたいな?」
「そうだ」
真壁の指が動いた。
「鑑定はプログラムできる」
澪が思わず真壁を見る。
真壁はもう次を見ていた。
「なら、判定の後もつなげられるはずだ」
そこからの真壁は速かった。
長さだけだった条件に、直径を足す。
外観状態を足す。
内部の異常を外す。
魔石結晶として必要な状態も加える。
一度に全部を入れて終わりにはしない。条件を一つ増やすたびに少量で流し、結果を外していないことを確かめる。
澪は途中から、何を試しているのか追うだけで精いっぱいになった。
「合った物を分けるところまでは分かりました」
「次だ」
真壁は規格外側を見る。
「戻せる物だけ、再処理側へ」
靄が動いた。
規格外品のうち、再利用できる物だけが別区画へ移る。
残った物はそのまま隔離された。
真壁は再処理側へ送った群れを、原料側の受入口へ戻した。
そのまま結晶化工程へつなぐ。
候補品が作られる。
条件に合う物が分かれる。
外れた物のうち、戻せる物だけが入口へ戻る。
「ちょっと待ってください」
理央が両手を上げた。
「今、真壁さんが選んでないですよね?」
「選んでいない」
「鑑定して、分類して、外れたの戻しましたよね」
「ああ」
「それ、勝手に続けられるんですか?」
真壁は答えず、流れをもう一周させた。
同じように動いた。
今度は途中で、条件から外れた別の状態を一つ混ぜる。
その品だけが再処理側ではなく隔離区画へ残った。
真壁がそこで処理を止める。
「判定結果を、次の収納機能へ渡せる」
澪はその言葉を頭の中で追った。
鑑定で条件を見る。
条件に合えば完成側へ。
再処理できるなら戻す。
想定外なら分けて止める。
それぞれは、真壁が前から持っている機能だ。
違うのは、それを判定結果の後へつないでいることだった。
「それって……条件分岐みたいなものですか?」
澪が聞くと、真壁は候補品を見たまま頷いた。
「そうだ」
真壁は隔離した一本を取り出した。
「鑑定で条件を判定する。その結果に、自分が持っている収納の機能を割り当てられる」
また手が動く。
合格した物は完成側へ。
再処理できる物は原料側へ。
どちらにも入らない物は隔離したまま止める。
「今まで分類って、もっと単純に使ってましたよね」
澪が言う。
「私もそうしていた」
真壁はあっさり認めた。
「分類を突き詰めなかったな」
理央が候補品の群れを見た。
「鑑定って、思ってたより変なスキルですね」
「便利なのは確かだ」
真壁は流れを再開した。
今度は誰も途中で手を入れない。
棒状結晶が増え、条件に合う物が完成側へ分かれ、規格外の一部が原料側へ戻る。
澪はしばらくその循環を見ていた。
「真壁さん」
「何だ」
「さっきまで止まってましたよね」
「ああ」
「もう別物になってません?」
真壁は流れを見たまま答えた。
「問題が分かったからな」
理央が小声で言った。
「分かった後が速すぎるんですよ」
一周させただけでは終わらなかった。
最初の流れでは、生成側から候補品が入りすぎて判定前に少し溜まった。
真壁は量を落とさず、判定へ渡す単位を変えた。
次は再処理側から戻る量と、新しく入れる原料が重なった。
受入口を分ける。
さらに流す。
今度は合格側が途切れず増えた。
「また変えました?」
「戻す位置を変えた」
「さっきから、どこ触ってるのか分からなくなってきました」
「全部見る必要はない」
「真壁さんが言うと怖いです」
理央の返しを聞き流しながら、真壁は完成側の棒状品を抜き取った。
条件内。
もう一群。
こちらも問題なし。
その次は途中で一度止め、隔離側へ上がった物だけを確認した。
澪が気づく。
「最初より、真壁さんが止める回数減ってますね」
「通常の流れは見えた」
真壁は処理を再開する。
「同じ条件なら任せられる」
「放っておいていいんですか?」
理央が聞く。
「異常まで放っておく気はない」
真壁は隔離側を指した。
「想定外はここへ出す。通常処理だけ固定する」
もう一度流す。
今度は途中で手を入れない。
生成された小型棒状結晶が判定へ流れ、合格品が完成側へ移る。戻せる物は再処理へ回り、再び原料側へ入る。
最初は真壁の操作で動いていた流れが、次第に一つの工程としてまとまっていく。
澪はそこで、以前から真壁が言っていた「収納内プラント」の意味が少し違って見えた。
中に便利な設備が置いてあるだけではない。
真壁が理解した処理をつなぎ、同じ条件で繰り返せる形にしてしまう。
今回はそこへ、鑑定の判定まで入った。
「これ、もう品質管理までプラントの中ですよね」
「通常判定はな」
「真壁さんは何をするんです?」
「異常を見る。条件を変える必要が出た時も私だ」
理央が真壁をじっと見た。
「急に暇になったように見えます」
「そう見えるなら成功だ」
「暇ではないんですね」
「当然だ」
理央が「ですよね」と肩を落とした。
真壁はその間にも完成側の数を見ている。
数回の調整を終えたところで、ようやく手を止めた。
「これで固定しよう」
澪は完成側へ増えていく細い棒を見た。
火山から持ち帰った石を前にしていた時には、800万個という数字しかなかった。
真壁が手を離しても、完成側の区画へ細い棒状品は増え続けていた。
固定した工程へ、まとまった量を流した。
今度は真壁が途中へ手を入れない。
澪は時計を見た。
理央も同じことを考えたらしく、スマホを出している。
「1分、測るんですか?」
「ああ」
「最初の14個の時みたいで嫌ですね」
「今度は増えた方を見る」
「それも怖いです」
真壁は合図もせずに開始した。
候補品が生成される。
判定。
分離。
再処理。
完成側へ細い棒状品が増えていく。
工程の途中で真壁が触ったのは、隔離側へ異常が上がっていないことを確かめた時だけだった。
1分。
「止める」
流れが止まった。
真壁が完成側の数を確認する。
理央が先に覗き込んだ。
「……2,000、超えてません?」
「少しな」
真壁は数字を見直した。
「安全側で2,000個/分として見よう」
澪はさっきの計算を思い出した。
「必要なの、約833個/分でしたよね」
「ああ」
理央がスマホの電卓を叩く。
「2,000割る60……33.3。1秒33個くらいです」
自分で計算してから、理央は変な顔をした。
「1秒14個で困ってたんですよね?」
「そうだ」
「倍以上になってるじゃないですか」
「必要速度は超えたな」
真壁はそこで終わらず、今度は800万を2,000で割った。
「4,000分」
澪も計算する。
「66時間40分」
「20日なら、1日平均3時間20分ですね」
理央が言った。
数字だけ見れば、急に現実的になった。
「なら、いけるんじゃないですか?」
「作れる」
真壁は簡単に認めた。
澪はその返事の後があると分かった。
「でも、ですよね」
「ああ」
真壁は収納内プラントを完全には解除せず、低い負荷で循環を残した。
「固定したから、66時間40分ずっと私が1本ずつ見る必要はない。だが、この処理を動かしているのは私の収納だ」
澪は少し前まで見ていた流れを思い返した。
結晶化。
鑑定による判定。
分類と分離。
再処理。
手は離れても、真壁の能力から離れたわけではない。
「魔力と集中力は使い続けるんですね」
「そうなる」
真壁は短く答えた。
「じゃあ、寝てる間も回すのは?」
「やらない。休息を削る運用は続かない」
理央は素直に頷いた。
「毎日3時間20分なら、真壁さんならできそうですけど」
理央が言う。
澪はそれを聞いて、すぐには頷けなかった。
真壁ならできる。
だから真壁にやらせる。
それでは、少し前まで何でも澪と真壁で抱えていた頃と変わらない。
「でも真壁さん、これだけやってる人じゃないですから」
「その通りだ」
真壁がPCの数字へ目を戻す。
「月800万個を作る方法はできた。毎月、私の収納へ800万個を集める設計にする必要はない」
「できるのに、やらないんですか?」
「余裕がない設計は続かない」
理央が一度黙った。
「……また次があるんですね」
「ある」
「ですよね」
諦めたような返事だった。
真壁は66時間40分の横へ、別の数字を書き始めた。
「外で使う時間を減らす方法はある」
澪には心当たりがあった。
「アルヴェラでやった、収納の中だけ時間を進めるやつですか?」
「ああ。それをこの固定工程へ使えるか試す」
理央が顔を上げる。
「まだ速くするんですか?」
「外時間を減らす。意味が違う」
「1秒33個まで来たのに……」
「それと、同時処理だ」
真壁はもう次の欄を作っている。
理央がその手元を見て、深く息を吐いた。
「最初、棒を800万個作る話でしたよね」
「今もそうだ」
「収納の時間までいじる話になってます」
「作る方法が分かったから、次は楽に作る方法だな」
澪は反射的に真壁を見た。
その言い方をする時は、たいてい楽になるのは工程の方で、人ではない。
理央も同じことを考えたらしい。
「真壁さんの『楽に』、信用していいんですか?」
「結果を見てから判断しよう」
答えだけはまともだった。
けれど真壁の手元では、もう次の試験条件が書き始められていた。