自由を求めて逃げ出したレイニャは、三歩で理央に呼び止められた。
「レイニャさん」
「もう終わったニャ〜」
「あと少しだけです」
「その言葉、さっきも聞いたニャ」
振り返ると、理央は追加の袋を持っていなかった。
代わりに、床へ出したままの袋を指している。
「限界まで詰める訓練はしません」
「本当ニャ?」
「出し入れが乱れていないか、最後に確かめるだけです」
レイニャは理央の顔をじっと見た。
昨日までなら、素直で優しそうな子だと思えた顔である。
今はその奥に、訓練をやり遂げる固い意志が見える。
「理央、教える時だけ真壁に似てるニャ」
「それは褒めています?」
「考え中ニャ」
結局、軽い袋を二つ出し入れし、旅鞄とハープを取り違えないことまで確認させられた。
澪が疲労の状態を見て、問題がないと頷く。
「はい、これで終わりです」
「今度こそニャ?」
「今度こそです」
理央の返事を聞いたレイニャは、その場で両腕を大きく広げた。
肩には何も掛かっていない。
背中にも、腰にも、重い荷物はない。
それなのに、自分の《収納》には旅鞄とハープが収まっている。
「軽いニャ〜」
「気に入りました?」
「気に入ったニャ」
身体を左右へ振っても、肩紐がずれない。
くるりと回っても、背中のハープが壁へ当たる心配もない。
「《収納》Lv2で十分かもしれないニャ」
「さっきまで、もっと上げるって言っていませんでした?」
「旅鞄もハープも入ったニャ」
「自分の荷物を運ぶだけなら、かなり楽になりますね」
「これ以上鍛えたら、また理央が怖くなるニャ」
「普通に教えただけです」
「普通じゃなかったニャ」
理央は納得していない顔をしたが、訓練再開とは言わなかった。
それだけで、レイニャは今の《収納》に満足できた。
「でも、《収納》って荷物を入れるだけじゃないですよ」
理央が何気なく続けた。
「ニャ?」
「育つと、できることが増えます」
レイニャは広げていた腕を下ろした。
「また、いっぱい入るようになる話ニャ?」
「それもありますけど、それだけではありません」
「まだ何かあるニャ?」
「今のレイニャさんは、入れて、出して、簡単に分けるくらいですよね」
「それで十分便利ニャ」
「先へ進むと、入れた物を長く保ちやすくなったり、混ざっている物を分けたりできるようになります」
レイニャの耳が、ぴくりと理央へ向いた。
「混ざった物を、どうやって分けるニャ?」
「《収納》の中でです」
「手を入れるニャ?」
「入れません」
「じゃあ、どうするニャ」
「欲しい物だけを選んで取り出します」
レイニャは、理央の両手を見た。
特別な道具を隠している様子はない。
「ほかにも、収納の中で材料を処理できるようになる人がいます」
「処理?」
「溶かしたり、形を整えたり、固めたりですね」
「待つニャ」
「はい?」
「今、溶かすって言ったニャ?」
「言いました」
「《収納》の中で?」
「そうです」
「炉は?」
「使いません」
「火は?」
「使わないこともあります」
「職人は?」
「何を作るかによりますね」
レイニャはしばらく理央を見つめた。
「それ、《収納》じゃないニャ」
「《収納》です」
「工房ニャ」
「そういう使い方もできます」
「便利の範囲がおかしいニャ」
理央は少し困ったように澪を見た。
「私も最初は、物を入れておく技能だと思っていましたよ」
澪は苦笑している。
「澪もできるニャ?」
「分類したり、必要な物を探したり、成分を分けたりするのは得意です」
「リュシアさんは、溶かしたり固めたりできます」
理央が付け加えた。
「理央は?」
「私は、収納の中で順番に作業を進める技能があります」
「三人とも違うニャ?」
「同じ《収納》でも、育ち方は同じではありません」
「じゃあ、あたしも育てれば、どれかできるニャ?」
「それは分かりません」
「ニャ?」
「レイニャさんに何が向いているかは、育ててみないと分かりませんね」
レイニャは自分の手のひらを見た。
つい先ほど手に入れたばかりの《収納》は、今のところ旅鞄より便利な旅鞄でしかない。
それが、この先どんなものになるのかは誰にも分からない。
「それは、ちょっと面白いニャ」
「興味が出ました?」
「でも、今日の訓練は終わりニャ」
「再開するとは言っていません」
「先に言っておくニャ」
理央に釘を刺してから、レイニャは《収納》へ意識を向けた。
淡い靄とともに、使い慣れたハープが腕の中へ現れる。
出したいと思った物が、すぐに手へ収まる。
それだけでも十分に不思議だった。
「そういえば、レイニャさん」
澪がハープを見て声をかけた。
「少し見せてもらってもいいですか?」
「弦ニャ?」
「いえ、木の方です」
昨夜切れた弦は、楽器工房で応急の手当てを受けている。
強く弾かなければ音は出せるが、レヴァニアへ向かう前にきちんと直す予定だった。
レイニャが差し出すと、澪はハープを両手で受け取った。
表側を見て、裏返し、厚い木枠へ指を添える。
やがて、木枠の根元近くで目が止まった。
「ここに、古い虫食いの跡がありますね」
「虫ニャ!?」
レイニャの耳と尻尾が同時に立った。
澪が示した場所へ顔を寄せる。
表には針の先ほどの古い跡があるだけで、虫の姿はない。
「今もいるニャ?」
「いません」
「本当ニャ?」
「《鑑定》で見ていますから、大丈夫です」
澪によれば、虫が通った細い道だけが木の内側に残っているらしい。
今も広がっている傷ではなく、ずっと昔についたものだった。
「そんなの、よく見つけたニャ」
「外からは、ほとんど分かりませんね」
レイニャも何度か見た覚えのある小さな跡だった。
古い楽器なのだから、この程度は仕方がないと思っていた。
「中の穴は、開けないと直せないニャ?」
「普通なら、難しいと思います」
澪の答えを聞いた理央が、ハープの木枠を覗き込んだ。
「澪さん、昨年ご実家でやったって言ってた補修みたいにできます?」
「祖父母の家の話ね。場所と広がりが正確に分かれば、できると思います」
「家と同じニャ?」
「やることは似ていますけど、これは楽器なので、もっと慎重にします」
澪はもう一度《鑑定》を使った。
虫の通った細い空隙だけでなく、木の継ぎ目や弦の力が掛かる場所も確かめているらしい。
「音を響かせるための空間には触れません」
「音、変わらないニャ?」
「変えないように、古い虫食いの部分だけを埋めます」
澪は《収納》から、細かな木粉の入った小袋と木工用の接着材を出した。
どちらも少量である。
「それを、外から入れるニャ?」
「外から押し込むと、必要のないところまで広がるかもしれません」
「じゃあ、ハープを開けるニャ?」
「開けませんよ」
木粉と接着材が澪の《収納》へ消えた。
中で必要な固さに混ぜているのだと、理央が小声で教えてくれる。
澪はハープを机の上へ置き、片手を木枠へ添えた。
外から見える変化は何もない。
刃物を入れることも、穴を広げることもなかった。
ただ、澪の視線だけが、木の内部にある見えない道を追っていく。
「少しずつ入れます」
澪の指先近くに、淡い靄がわずかに揺れた。
それもすぐに消える。
澪は位置をずらし、またほんの少しだけ補修材を出した。
虫食いの空隙へ、《収納》から直接届けている。
レイニャは澪の手元を見た。
次にハープを見た。
もう一度、澪を見る。
「……今、何したニャ?」
「中の空いていた部分へ、補修材を入れました」
「どこから?」
「《収納》からです」
「穴、開けてないニャ」
「開けていません」
「外から届いてないニャ」
「外から入れていませんから」
澪は《鑑定》で補修箇所を確かめ、表面に残っていた小さな跡だけを整えた。
木粉を詰めすぎたところはない。
接合部にも、音を響かせるための空間にも漏れていない。
「これで大丈夫です」
戻ってきたハープを、レイニャは上から下まで調べた。
裏返しても、削った跡はない。
小さな虫食い跡は目立たなくなっているが、その奥がどう直ったのかは見えなかった。
椅子へ腰掛け、応急修理中の弦へ負担を掛けないよう、そっと和音を鳴らす。
聞き慣れた音が、小さく部屋へ広がった。
少なくとも、レイニャの耳には変な響きは混じっていない。
「中だけ直したニャ?」
「必要なところだけです」
「見えないところを?」
「場所が分かればできます」
レイニャはハープを抱え、しばらく黙った。
「《収納》、ずるいニャ」
「何がです?」
「外から届かないところに届くニャ」
理央から発展した使い方を聞いても、どこか遠い技能の話にしか思えなかった。
だが、自分が毎日触れてきたハープの中へ、傷を増やさず材料が届くところを目の前で見た。
これは、荷物を隠すためだけの技能ではない。
使い方次第で、手では届かない場所にまで働きかけられる。
「でも、あたしは今、それできないニャ」
「できませんね」
理央が迷わず答えた。
「はっきり言うニャ」
「《収納》Lv2ですから」
「じゃあ、今のあたしには何ができるニャ?」
「今できることを、使ってみたらいいんじゃないですか?」
「何に?」
「来週、レヴァニアへ行くんですよね」
レイニャの耳が立った。
「行くニャ」
「では、《収納》を使って旅支度をしてみます?」
それなら、レイニャにも分かる。
何を持ち、何を置いていくのかを決めるのは、長く旅を続けてきた者の仕事だった。
「旅支度なら得意ニャ」
「説明を聞くより、自分の荷物を入れた方が早いです」
「今度はあたしが教えるニャ」
「お願いします」
孤児院の病人用離れで借りている空室へ戻ると、レイニャは《収納》から旅鞄を出した。
床へ座り、口を開く。
「まず、持っていきたい物を全部出すニャ」
「全部ですか?」
「入るかどうかは、そのあと考えるニャ」
着替えを畳み直し、外套と雨具を壁際へ置く。
丸めた旅用毛布の横には、水筒と保存食を並べた。
洗面道具の小袋、筆記具、予備の弦、ハープを拭く布も出てくる。
鞄の脇につけていた細かな旅道具を外すころには、狭い床のかなりの部分が埋まっていた。
「多いですね」
「少ないニャ」
「これで?」
「飛行船でレヴァニアへ行く支度ニャ」
レイニャは当然のように答えた。
「徒歩で長く旅するなら、水も食べ物も増やすニャ」
「飛行船でも持っていくんですね」
「止まった時に、自分の分が少しあると安心ニャ」
理央は感心したように床を見回した。
先ほどまで教える側だったが、旅支度については余計な口を挟まない。
レイニャは旅鞄の底へ手を入れ、敷布の下から平たく巻いた袋を引き出した。
それだけは、すぐに床へ置かなかった。
「それは何です?」
「昔の道具ニャ」
紐を解くと、中から清潔な布や包帯、小瓶、簡単な処置に使う道具が現れた。
どれも手入れはしてあるが、長く使われていない。
「治療の道具ですか?」
「そうニャ」
白魔道士として旅をしていたころは、もっと多くの道具を持っていた。
吟遊詩人になり、ハープを背負うようになってから、少しずつ減らした。
旅鞄も、楽器も、雨具も、水も、自分の背中へ載せなければならない。
使うかどうか分からない治療道具を全部運ぶ余裕はなかった。
それでも捨てきれず、最低限の物だけを鞄の底へ残していた。
「持っていくんですか?」
レイニャは包帯を一巻き手に取った。
「前なら、ここからもっと減らしたニャ」
「重いからですか?」
「重いし、場所も取るニャ」
ハープを選んだ時に、白魔道士だった自分を捨てたつもりはない。
ただ、歌を仕事にして旅をするなら、持てる量の中で選ばなければならなかった。
「でも、今は持っていけるニャ」
理央は静かに頷いた。
「使う予定はあります?」
「ない方がいいニャ」
レイニャが意識を向けると、治療道具を包んだ袋が靄に包まれた。
そのまま《収納》へ消える。
「使わないで帰ってくるのが一番ニャ」
「そうですね」
白魔道士へ戻るわけではない。
レイニャの仕事は、今も吟遊詩人である。
それでも、目の前で誰かが怪我をした時、何も持っていないよりはいい。
持てるようになったのなら、置いていく理由はなかった。
レイニャは紐を結び直すように両手を叩いた。
「じゃあ、残りも全部入れるニャ」
静かだった空気は、そこで終わった。
着替えが靄に包まれる。
雨具が消える。
毛布、水筒、保存食も続けて《収納》へ入っていく。
予備弦と手入れ布は、ハープと一緒にした。
「入るニャ〜」
レイニャは嬉しそうに外套へ手を伸ばした。
「ちょっと待ってください」
「まだあるニャ」
「全部入れないでください」
「どうしてニャ?」
「昨日のことを忘れました?」
頭の内側を押されたような重さと、最後に出したくても出せなくなった声を思い出す。
レイニャの手が止まった。
「覚えてるニャ」
「《収納》Lv2にも限界があります」
「でも、昨日よりいっぱい入るニャ」
「昨日よりは入ります」
「なら、大丈夫ニャ」
「帰りの荷物はどうするんです?」
「……帰り?」
「レヴァニアで、何も買わないんですか?」
レイニャの耳が、ぴんと立った。
海の向こうの国である。
知らない品物も、初めて見る食べ物もあるに違いない。
何も買わずに帰る自分は、まったく想像できなかった。
「買うニャ」
「最初から一杯にしたら、持って帰れませんよ」
「それは困るニャ」
レイニャは真剣な顔で、床の荷物を見直した。
入るから全部持っていくのでは、荷物を背負っていたころと考え方が違うだけで、結局は余裕がなくなる。
「水は、これだけでいいニャ」
水筒を一つ残し、予備にするつもりだった分を外へ戻す。
「減らすんですか?」
「飛行船で移動するニャ」
「徒歩の旅と同じ量はいらないニャ」
保存食も半分にした。
「向こうで買うニャ」
「口に合わなかったら?」
「それも旅ニャ」
知らない土地へ行って、知っている物だけを食べるのはもったいない。
雨具と外套は残した。
天気と寒さは、食事のように楽しむわけにはいかない。
予備弦と手入れ布も外さない。
仕事道具を削る旅人は長続きしない。
治療道具の袋も、そのまま《収納》へ置いておく。
「これでいいニャ」
「さっきより余裕ができました?」
「できたニャ」
「それなら、中も分けておきましょう」
「分けるニャ?」
「《収納》Lv2なら、簡単な分類ができます」
レイニャは目を閉じ、自分の《収納》へ意識を向けた。
入っている物が、ばらばらに浮かぶように感じられる。
まず、着替えと雨具、毛布を旅の道具としてまとめた。
ハープには予備弦と手入れ布を寄せる。
治療道具は、ほかの袋と間違えないよう別にする。
水と保存食も、一緒に取り出せるよう意識した。
「できたニャ」
「何をどこへ分けました?」
「旅の物と、演奏の物と、治療の物と、食べる物ニャ」
「大丈夫そうですね」
「財布は?」
理央に聞かれ、レイニャは腰の小袋を叩いた。
「これは外ニャ」
「入れないんですか?」
「店の前で毎回《収納》から出したら、目立つニャ」
「確かにそうですね」
「旅人は、便利な物を持ってるって見せびらかさないニャ」
理央は素直に頷いた。
今度は、本当にレイニャが教える側だった。
支度を終えたレイニャは、そのまま理央と領都へ出た。
空室を出る時、いつもの癖で肩紐を探す。
指は何もつかまなかった。
階段を下りても、背中で荷物が跳ねない。
孤児院の門を出て早足になっても、ハープが左右へ揺れない。
「……これ、本当に楽ニャ」
「昨日も言っていませんでした?」
「昨日は、鞄とハープを入れただけニャ」
今は違う。
着替えも、雨具も、毛布も、水も、食べ物も入っている。
古い治療道具まで持っている。
数日なら、そのまま旅へ出られるだけの荷物が一緒なのに、身体は手ぶらだった。
「旅そのものが変わるニャ」
通りでは、昼を前に店先へ品物が並び始めていた。
レイニャは歩きながら、露店の布や道具へ次々と目を向ける。
長く旅をしていると、欲しい物があっても、値段より先に重さを考える癖がつく。
買った品を、残りの旅のあいだ誰が運ぶのか。
答えは、いつも自分だった。
だから、気に入っても諦めた物は多い。
だが今は、《収納》へ意識を向ければ、わざと空けておいた余裕が分かる。
レイニャは露店の前で足を止めた。
「……持って帰れるニャ」
「何をです?」
「旅先で見つけた物ニャ」
レヴァニアには、この領都でさえ見たことのない品があるはずだ。
珍しい布も、知らない道具も、気に入れば自分で持ち帰れる。
「これ、すごいニャ」
「帰りの分を空けた意味がありましたね」
「理央、よく気づいたニャ」
「レイニャさんが全部入れようとしたからです」
「細かいことはいいニャ」
そう言いながら、レイニャは露店に並ぶ細い青色の組紐を手に取った。
ハープにつけた飾りとは色合いが違う。
値段を確かめ、財布から硬貨を出した。
「買うんですか?」
「《収納》の試験ニャ」
人通りの少ない路地へ移り、外套の陰で組紐を靄に包む。
小さな品は、何の抵抗もなく演奏道具のまとまりへ収まった。
「入ったニャ」
「それくらいなら入りますよ」
「実際にやるのが大事ニャ」
次の露店では、蓋のついた木の杯が目に留まった。
旅の途中でも中へ埃が入りにくそうである。
レイニャは手に取り、軽さを確かめ、また買った。
「レイニャさん」
「ニャ?」
「さっきから、買っていますよね」
「試してるだけニャ」
「何をです?」
「《収納》ニャ」
「買い物を?」
「実地訓練ニャ」
木の杯も、人目のないところで旅道具の側へ入れた。
さらに厚手の布を一枚見つける。
敷物にも、荷物を包むのにも使えそうだった。
値段も悪くない。
「これも旅で使うニャ」
「本当に必要ですか?」
「使い道が二つもあるニャ」
「使う予定ではなくて、使い道ですよね」
「理央は細かいニャ」
畳んでもらった布を受け取り、《収納》へ入れる。
その瞬間、頭の奥へ軽い圧迫感が返ってきた。
「……ニャ」
「どうしました?」
「ちょっとだけ、重くなったニャ」
「買いすぎです」
「まだ三つニャ」
「来週の旅へ行く前ですよ」
「《収納》が小さいニャ」
「原因を《収納》のせいにしないでください」
レイニャは、まだ並んでいる露店の先を見た。
欲しい物を持ち帰れると気づいた途端、今まで素通りしていた物までよく見える。
「《収納》があると危険ニャ」
「財布の方が危険だと思います」
「理央、急にリュシアさんみたいなこと言うニャ」
「リュシアさんなら、もっと先に止めると思います」
それは否定できなかった。
レイニャは厚手の布だけを《収納》から戻し、腕へ抱えた。
「出すんですか?」
「これを持って歩けば、買ったのを忘れないニャ」
「全部出した方がいいのでは?」
「それだと《収納》の意味がないニャ」
少なくとも、残りの余裕が分からなくなるほど買い込むのはやめた。
領都を一回りして孤児院へ戻る道で、レイニャは空いている方の手を見た。
《収納》の中には、旅の道具がある。
ハープがある。
昔の治療道具も、今日買った組紐と木の杯も入っている。
昨日までなら、その全部を同時に運ぼうとは考えなかった。
しかも、これはまだ《収納》Lv2でできることにすぎない。
育てば分類はもっと細かくなり、物を保つ力もつく。
分けたり、溶かしたり、形を整えたりできるようになるかもしれない。
自分の《収納》がどちらへ育つのかは、まだ誰にも分からない。
分からないからこそ、先を見てみたくなった。
「理央」
「はい?」
「やっぱり《収納》、もっと育てるニャ」
「昨日みたいに訓練します?」
レイニャの耳が、ぺたりと伏せた。
「……訓練は、ほどほどがいいニャ」
「では、普通に使いながら育てましょう」
「旅してたら、勝手に使うニャ」
「そうですね」
「なら、旅をすれば育つニャ」
「そこまで単純かは分かりませんけど」
レイニャは、来週飛ぶことになる空を見上げた。
「レヴァニアでいっぱい使うニャ」
「買い物で容量を埋めないでくださいね」
「それは約束できないニャ」