朝の地下ドックは、地上より少し冷えていた。
作業灯の白い光が、壁のように立つ貨物カーゴの側面を照らしている。
木箱を置く音、固定金具を締める音、荷札を読み上げる声が、広いドックに重なっていた。
レイニャは首を伸ばし、カーゴの向こう側を覗こうとした。
飛行船に乗るのは初めてだ。
何度も話を聞き、遠くから眺めてもいたのに、実物を前にすると、目の置き場所が決まらない。
「レイニャ、そっちはまだ通路だよ」
積荷一覧を手にしたリュシアが、帳面から目を上げずに言った。
「船が見えないニャ」
「目の前にあるのはカーゴ。ギャロップはあっちだよ」
リュシアの指の先、梁と配管の奥に、飛行船の推進部が収まっていた。
カーゴが大きすぎて、そちらはかえって小さく見える。
けれど、その船体も、レイニャが見たどの馬車よりずっと大きかった。
「乗る日に見ると、大きくなるニャ」
レイニャが尾を揺らす。
リュシアは商会の担当者と、荷札を一つずつ照らし合わせていた。
鉄と銅の箱は低い位置に左右へ分け、ニッケルや錫の箱も動かないよう固定されている。
少し離れた場所では、セルマ工房の高級ポーションを入れた箱に仕切りが足されていた。
透明な瓶がぶつからないよう、担当者が詰め物を指先で整える。
「これ、全部持っていくニャ?」
「持っていくんじゃないよ。売りに行くんだよ」
「同じに聞こえるニャ」
「商人には違うんだよ」
「売って、帰りは別の物を積んで帰るんですよね」
「そう。向こうは大麦や豆が強いからね」
「行きと帰りで船の中身が変わるニャ」
「それが交易です」
「理央、商人っぽいニャ」
「商人です」
理央は言い切ったが、目はまたカーゴへ戻った。
荷札を読む声が途切れず、何人もの手が一便を送り出そうと動いている。
箱の中身だけでなく、それを運ぶ人の仕事も飛行船の一部なのだと思えた。
「最後の箱、固定できました」
担当者の声に、リュシアが荷札と通路を見直す。
「よし。お願いします」
短い返事があちこちから返り、荷役の人々は次の仕事へ移った。
担当者は最後に荷札を撫でてから、カーゴの側面へ回った。
そこには、行き先と品目が一目で分かるよう、商会の印が貼られている。
リュシアはそれを見届けると、帳面を胸に抱え直した。
朝のドックに、いつもの流れが戻っていく。
レイニャはギャロップの真下で、長い尾を揺らしながら見上げた。
外殻の継ぎ目を走る金属の帯が、作業灯を鈍く返している。
船体は梁の間に収まりきらず、端が視界の外へ伸びていた。
「これに乗るんですね」
理央も、首が痛くなるまで見上げた。
「全長二百メートルほどあるからね」
「私たちが乗るのはギャロップの中」
「カーゴはあとでつなぐよ」
「飛ぶときは一緒ニャ?」
「そう。別々の役目を持ったものを、飛ぶ前につなぐんだ」
「つながないと、荷物だけ置いていくニャ」
「そうならないように、確かめるんだよ」
リュシアの声に笑いはなかったが、レイニャの耳は前を向いたままだった。
「早く中を見たいニャ」
「行こうか」
三人は乗降用の足場へ向かった。
ギャロップの入口は、外から見た大きさの割に落ち着いた造りだった。
理央が足場の揺れを確かめて乗り込むと、レイニャも続いて、床に一歩踏み出した。
そこで、ぴたりと止まる。
「……軽いニャ」
もう一歩。
体が思っていたより、すっと前へ出た。
理央も鞄の肩紐を持ち直す。
「私の鞄も軽く感じます」
「重力を少し軽くしてあるんだよ」
リュシアが説明した。
「重力まで軽くするニャ……すごいニャ」
レイニャはその場で、軽く踵を上げてみた。
尻尾がふわりと遅れて揺れる。
中へ入ると、外の作業音が扉の向こうへ遠ざかった。
船内には金属と油の匂いが薄く残り、外より空気が乾いている。
床と壁は頑丈で、前方と側面に窓がある。
座席と手すりの向こうに、航行状態を読む計器が並んでいた。
華やかな客室ではないが、窓の外を見渡せる席がちゃんとある。
レイニャは座席へ腰を下ろし、尻尾を座面の脇へ逃がした。
理央も隣に座り、鞄を膝の上へ置く。
「私も飛行船に乗るのは初めてです」
「理央もニャ?」
「はい。見たことはあっても、乗るのは初めてです」
「じゃあ、二人とも初めてニャ」
リュシアは手すりの留め具を確かめた。
「私は前のレヴァニア便で乗ったよ。初めてのときは、ずっと窓から外を見てた」
「今も見るニャ?」
「見るよ。でも、今日は二人の顔も見ていたいかな」
リュシアが笑う。
「真壁さんは来ないニャ?」
出航前の確認を待ちながら、レイニャが入口を見た。
「向こうに着いたら、私が《関門接続》で押入商会の事業所につないでくれって言われました」
理央が答える。
「飛行船に乗らないで、飛行船の試験を見るニャ?」
「そういうことです」
「遠い人ほど呼ぶのが簡単になるニャ」
リュシアが苦笑した。
理央は鞄からノートを取り出し、膝の上で開いた。
今日は《順風満帆》を初めて意識して使う。
「試験は、理央が一人でやるニャ」
「はい。澪さんも真壁さんも同じ技能を持っていますけど、意識して使うのは初めてです」
「名前しか分からないニャ?」
「使い方も、まだ」
レイニャは窓へ目をやった。
「じゃあ、風にお願いするニャ」
「そうですね」
乗員が座席と固定具を点検し、荷役側からカーゴの準備完了が伝えられた。
リュシアは外へ向けて手を上げる。
「全員、着席を確認しました」
返事が通路を渡った。
扉が閉じ、ドックの音が薄い壁の向こうへ沈む。
床の下から、ごく低い振動が伝わり始めた。
「動いたニャ?」
「接続と浮力の確認中だよ」
レイニャは座席の縁に手を置く。
理央も肘掛けを握っていた。
窓越しに、カーゴを支える架台が動き始める。
巨大な箱がゆっくり浮き、ギャロップの下部へ位置を合わせていった。
片側の接続部にわずかなずれが出ると、作業員が合図を送り、架台はその場で止まった。
角度が調整され、再びゆっくり進む。
金具の重なる音が、船内までかすかに届いた。
一つ、二つ、三つ。
確認灯が順に変わり、最後の留め具が固定される。
作業員が左右から揺れを確かめた。
「つながったニャ」
レイニャが息を吐いた。
「接続完了」
乗員の声が響く。
カーゴは、ギャロップの下で一つの船になっていた。
「荷物の箱ごと、船になるニャ」
「そう見えるね」
リュシアは窓の外に目を向けた。
「初めての便は、積み込むだけで皆が集まってたよ」
「今は、どこへ何を運ぶかが仕事になった」
「いつもの便になったんですね」
理央が言う。
「うん。そこがうれしいんだ」
カーゴを支えていた架台が離れていく。
外に残る作業員たちが合図を送り、乗員が応じた。
「出航許可、確認しました」
三人はベルトを締めた。
レイニャは尻尾が金具に挟まっていないことを確かめる。
ギャロップの底で、浮力を支える機構が低く唸った。
床が足裏を押し返すように感じた次の瞬間、ドックの床がゆっくり遠ざかった。
作業員の頭が窓の下へ沈み、梁と灯りが後ろへ流れていく。
カーゴは船体に確かにつながったまま、壁や足場から離れていった。
「地面が下がるニャ」
「私たちが上がってるんです」
理央は窓へ手をついた。
出入口の向こうに朝の白い光が広がり、新町の屋根と煙突、遠くの畑が見えた。
屋根の形が一つずつ小さくなり、道を進む荷車は豆粒のように見えてくる。
二百メートルの船体が、音もなく空へ出ていく様子は、窓から見るほど現実離れしていた。
船体が空へ出ても、大きく揺れなかった。
ただ、いつも足を支えていた地面が遠ざかる。
「ほんとに上がってる」
理央の声は、自分でも驚くほど小さかった。
「飛んでるニャ」
レイニャは窓へ近づきかけ、ベルトに止められた。
「立つのは許可が出てからね」
「分かってるニャ」
レイニャは座り直したが、目は窓から離れなかった。
リュシアは、そんな二人を少し離れた席から見て笑った。
所定の高度に達し、船体の傾きが落ち着くと、ギャロップは南へ向きを変えた。
「巡航へ移行します」
一定の推進音が続き、床からの振動も穏やかになる。
理央はノートを開いた。
時刻と通常巡航、風向き、揺れの具合を一度だけ書き留める。
「これが普通の状態なんですね」
「うん。前の便の記録と比べるための基準だね」
リュシアが頷いた。
理央はノートを閉じた。
窓の外を見たい気持ちの方が、もう勝っていた。
雲が薄くなり、黒い山並みが姿を現した。
ゼグルド火山の稜線から細い煙が立ち、灰色の裾には赤茶けた岩の筋が走っている。
緑の斜面が続く中、その一角だけが不自然に削られ、岩と土が広く露出していた。
「……あそこだけ変ニャ」
レイニャが窓を指さす。
「たぶん、澪さんが採ったところです」
理央が答えた。
自然に崩れた斜面とは違い、切り分けたような面が遠目にも分かる。
それでも山全体が崩れたわけではない。
採取跡は、大きな火山の一部に収まっていた。
レイニャは山の裾を走る街道に目を移した。
道は見えるのに、人も荷車もほとんどいない。
その代わり、黒い影がいくつも動いていた。
「あそこ、道の上にもいるニャ」
理央は《世界地図》を開いた。
赤い反応が街道沿いに点々と続いている。
一つの影が街道を横切ると、別の影が岩陰から出てきた。
荷車の姿はない。
人が歩く道でなくなっていることは、上からでもはっきり分かった。
レイニャは自分の地図を見た。
「こっちは出ないニャ」
「上を通っただけですから」
「帰り歩いて帰れないニャ」
「帰りも飛行船です」
「それを聞いて安心したニャ」
火山帯を抜けると、飛行船は雲の中へ入った。
窓いっぱいに、白い雲が流れてくる。
地上から見上げた雲より近く、手を伸ばせば届きそうなほど大きい。
雲の上端は陽を受けて白く光り、影の部分は青みを帯びていた。
雲の塊が窓の横を流れるたび、白い光が船内をすべっていく。
「雲が近いニャ」
レイニャが窓の前へ寄る。
理央も隣に並んだ。
「近いですね」
レイニャは手を窓に近づけ、冷たいガラスに触れる寸前で止めた。
「触れないニャ?」
「窓は開けませんよ」
「残念ニャ」
レイニャの耳は前を向き、尻尾は座席の脇で落ち着かず揺れている。
理央はノートのことを忘れて、白い雲の切れ間を待った。
そこがほどけるように開いた。
下には、緑と茶色の台地がどこまでも続いていた。
畑は細かな四角に分かれ、川は陽を受けて銀色に曲がる。
街道は細い糸のように伸び、村の屋根は点の集まりになっていた。
川は台地を縫うように枝分かれし、林の濃い緑が畑の境目をなぞっている。
遠くの町は屋根の色だけが集まり、壁の外へ道が幾筋も伸びていた。
その先にも、また大地が続いている。
見たことのない国の広さが、窓いっぱいに広がった。
理央とレイニャは並んだまま、しばらく何も言わなかった。
二人の目には、雲の白と遠い大地が映り、輝いていた。
理央の口元が、思わず緩む。
レイニャは窓から離れようとせず、尻尾の先だけをそわそわ動かしていた。
リュシアは少し離れた席から二人を見て、目元を和らげた。
「……あれ全部、レヴァニアニャ?」
レイニャが囁く。
「たぶん、そうです」
「広いニャ……」
「はい」
リュシアは窓の外から、船の下に積まれたカーゴへ目を移した。
「私たちが持ってきたものが、ちゃんと向こうへ届く。それがうれしい」
「リュシア、うれしそうニャ」
「うれしいよ。前に来たときは、売れるかどうかずっと考えてたから」
「今は、帰りに何を積むかも考えられるんですね」
「そう。商売が続いてるってことだからね」
リュシアは二人の目を見て笑った。
理央は窓枠へ手を置いた。
眼下の道を、こちらへ向かう荷車が進んでいる。
その道の先には火山帯があり、さらに向こうに街と畑がある。
自分たちは初めての飛行船で、初めての外国へ向かっている。
同じ船にはレイニャがいて、リュシアがいて、売りに行く商品が積まれている。
「みんなで無事に、レヴァニアまで行けますように」
理央は小さく願った。
ちゃんと着けますように。
理央は目を閉じた。
何かが光ったり、音を立てたりはしない。
ただ、胸の中の願いが船の進む先へ向いた。
数秒後、乗員が窓の外へ目をやった。
「追い風です」
進行方向の後ろから吹く風が、船体に沿うように整っていく。
横から押していた風が弱まり、細かな揺れが収まった。
「推進負荷、下がっています」
別の乗員が計器を確かめた。
「速度は上がっています」
レイニャは窓越しに流れる雲を見た。
「風が後ろから押してるニャ」
理央は発動前との違いを一行だけ書き留め、すぐ窓の外へ目を戻した。
「一度の結果だから、これで全部分かったわけじゃないです」
理央が言った。
「そうだね。でも、今は風が味方してくれてる」
リュシアは眼下の大地を眺めた。
「もうレヴァニア?」
レイニャが尋ねた。
「はい。王都の外にある試験ドックへ向かっています」
理央は、遠くに見える建物のまとまりを指した。
大きな船が入るための区画は、王都の中心から離れている。
飛行船は事前に決められた進路をたどり、誘導に合わせて高度を下げた。
「前回の三分の一くらいだね」
リュシアが言った。
「……そんなに?」
理央は窓から目を離した。
「うん。今日は驚いてばかりだね」
「まだ驚けるニャ」
レイニャはそう言うと、窓の外を見直した。
遠くの台地には、畑の色が何層にも重なり、町へ続く道がゆるやかに下っている。
理央は窓の外を見たまま、どこまでが一つの国なのか分からないほど広いと思った。
雲の切れ間から、低い塔と平たい建物が現れた。
その外側では係員が誘導灯を振り、停泊位置を示している。
飛行船は進路を合わせ、ゆっくりと高度を下げた。
試験ドックの係員が地上で誘導し、船体はゆっくり停止した。
固定具が掛かると、床からの振動が消える。
「着きました」
乗員の声に、理央はようやく息を吐いた。
レイニャは窓の外を見て、それから靴の下の床を確かめる。
「地面が戻ってきたニャ」
「ずっと下にはありましたよ」
「でも、今は近いニャ」
理央は、まだ空にいるような気がする足で立ち上がった。
安全確認を待つあいだ、理央はギャロップ内の人や荷物に触れない場所へ移った。
足元に靄が集まり、その中から扉が現れる。
扉が形を結ぶと、理央は取っ手に手をかけた。
開いた先には、押入商会の事業所が見えた。
「真壁さん、着きました」
帳面を見ていた真壁が顔を上げる。
「もう着いたのか」
真壁は扉をくぐり、窓の外に広がるレヴァニアのドックを眺めた。
「ふむ、楽だな」
「私たち、600km飛んできたんですけど」
理央が言う。
「貨物も飛んできただろう」
「真壁さんだけずるいニャ」
「合理的と言ってくれたまえ」
真壁は口元を緩めた。
安全確認が済むと、真壁、リュシア、理央、レイニャの四人は一緒に降船した。
レイニャは地面へ靴をつけ、足裏に力を入れる。
その隣で、理央は窓から見ていた大地を振り返った。
リュシアと真壁が積荷一覧を持ち、理央とレイニャはそばに残る。
係留区域の向こうから、帳面を手にしたナジム・アルタンがやってきた。
「今回は随分早かったですね」
「こっちも予定外でね」
リュシアが肩をすくめる。
「事前の申告を確認します」
ナジムの合図で、担当者が鉄材の箱を開けた。
中の品を数え、積荷一覧の数量と照らし合わせてから、箱を閉じる。
銅材の箱も同じように確認された。
セルマ工房の高級ポーションは、仕切りを外して瓶の本数を数える。
確認後、担当者が仕切りを戻し、箱を閉じた。
レイニャは帳面を見て、小さく何かを書き留めた。
「歌にするんですか?」
理央が聞いた。
「まだ耳ニャ」
「空にも関所があるニャ」
「外国ですから」
ナジムが積荷一覧へ印をつける。
「申告品は確認しました。販売後は、売却数量を記録してください」
「承知しました」
リュシアが答えた。
「王都へは、用意した馬車で向かってください。荷役はこちらで続けます」
ナジムは一礼し、担当者とともに作業へ戻った。
真壁は入港の手続きと試験結果の確認のため、ドック側に残ることになった。
リュシアが帳面をしまい、理央とレイニャへ向き直る。
「行こうか」
試験ドックの外には、箱馬車が待っていた。
栗毛に似た外装の機械馬が、御者の声に耳を向けている。
脚の関節は規則正しく動くが、胸は上下せず、鼻息もない。
レイニャは横へ回り、機械馬を見上げた。
「……馬ニャ?」
「機械馬です」
理央が答える。
レイニャはもう一度眺めた。
「馬じゃないニャ」
「機械馬です」
「そこは認めるニャ」
リュシアが先に乗り、理央とレイニャも続いた。
馬車が走り出すと、飛行船の窓とは違う高さから、道と人の暮らしが見えた。
畑の間を荷車が進み、村の屋根から煙が上がる。
王都へ近づくにつれて、土の道に石畳が増えていった。
「飛んでるときは、道が細かったニャ」
「地面だと広いですね」
理央は、空からは点にしか見えなかった荷車を目で追った。
道端の店から焼いたパンの匂いが流れてくる。
肉を煮る香りも混じり、レイニャの耳がそちらを向いた。
「おいしそうな匂いニャ」
「王都に着いたら、食べる時間はあるよ」
リュシアが笑った。
「その前に、理央が面白がるものを探すニャ」
「レイニャが歌いたくなるものも、ですよね」
「そうニャ」
リュシアは道を行く荷車や店先を見ていた。
通りの幅や荷台の大きさ、店先に積まれた品を、商人の目で拾っていく。
御者が荷台の紐を直し、店先では誰かが籠を運んでいる。
空から見たときは小さな点だった動きが、地上では一つずつ人の仕事に見えた。
前にこの道を通ったときは、商品が売れるかどうかばかり考えていた。
今は、次に仕入れるものと帰りの荷物を考えている。
「ちゃんと続いてるんだね」
「何がですか?」
「この道も、商売も」
理央は窓の外を見た。
飛行船の窓から小さく見えた土地には、声があり、匂いがあり、暮らしがあった。
王都の城壁が近づき、門へ向かう人と荷車が列をつくっている。
「レヴァニアニャ」
「はい」
「どこから見るニャ?」
「まず仕事です」
「分かってるニャ」
レイニャは窓の外へ顔を向けた。
「そのあと全部見るニャ」
理央の返事は、出発前より少し弾んでいた。
箱馬車は石畳を進み、三人を王都の門へ運んでいった。